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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

宇宙構想会議 2050③前編

宇宙構想会議 2050 ③

ALE 岡島礼奈と描く青写真
 
ゲスト
佐宗邦威さん、高梨直紘さん
(前編)

構成・文/久保田 和子 写真/猪飼 ひより(amana)

将来、人類の活動が他の惑星や深宇宙へと及ぶ時代、必要になる哲学やテクノロジーとは。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションを掲げるALE(エール)代表の岡島礼奈さんが、各分野の識者に尋ねて未来の青写真を描くシリーズです。第3回は、共創型戦略デザインファーム BIOTOPE代表の佐宗邦威さん、東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任准教授の高梨直紘さんの3人が語り合う場にお邪魔しました。

会社の存在意義を確かめた

岡島 今日の座談会は佐宗邦威さんが代表を務める「BIOTOPE(ビオトープ)」のオフィスにお邪魔しています。以前、私たちALEのフィロソフィー(企業哲学)を再考しようとしたとき、社内の会議室で行うグループインタビューだけでは絶対に出てこない「新しい発見」を求めて相談した相手が、佐宗さんだったんです。

岡島 その時期、私はALEの代表として目の前のことをこなすだけで精一杯になっていて、遠くの未来を俯瞰して見ることを忘れていたんです。制約などをいったんすべてナシにして将来のことを考えたい、と思ったときに『ティール組織』(フレデリック・ラルー 著、英治出版)という本の帯に佐宗さんが書かれていた推薦文が目に留まって、連絡を取ったのがきっかけでした。

佐宗 一緒にALEのミッション・ビジョン・バリュー*1 を考えましょうというお話をいただいてから、まずはALEのみなさんの考えていることを吸い上げたんですよね。

*1 ミッション・ビジョン・バリュー

マネジメント論で知られる経営学者のピーター・ドラッカー(1909-2005)が、著書 Managing in the Next Society(邦題『ネクスト・ソサエティ』)で提唱した概念。組織の存在意義や社会的な立場を方向づける内容を3種類のシンプルな言葉に集約する。

ミッション…組織が世の中で果たす「使命や目的」
ビジョン……組織が実現を目指す「究極の将来像」
バリュー……組織の構成員に共通する「価値基準」

ALEのミッション
「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」
ALEのビジョン
「宇宙を、好奇心に動かされた人類の、進化の舞台にする」
ALEのバリュー
「好奇心:未知を楽しみ、周囲の人と共有する」
「開拓:既成概念を越え、共に新しい道を拓く」
「進化:科学の発展を助け、人類の持続的な発展に貢献する」

佐宗 邦威(さそう・くにたけ)/1980年東京生まれ。BIOTOPE代表、チーフストラテジックデザイナー。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gでファブリーズ、レノアなどヒット商品のマーケティングを手掛けた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ソニー クリエイティブセンターにてソニー全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、2015年に共創型戦略デザインファーム「BIOTOPE」を設立。大学院大学至善館准教授、多摩美術大学特任准教授 https://biotope.co.jp

佐宗 邦威(さそう・くにたけ)/1980年東京生まれ。BIOTOPE代表、チーフストラテジックデザイナー。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&Gでファブリーズ、レノアなどヒット商品のマーケティングを手掛けた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ソニー クリエイティブセンターにてソニー全社の新規事業創出プログラム(Sony Seed Acceleration Program)の立ち上げなどに携わった後、2015年に共創型戦略デザインファーム「BIOTOPE」を設立。大学院大学至善館准教授、多摩美術大学特任准教授
https://biotope.co.jp


佐宗 その結果、ALEの未来を描いていくうえで、客観的な視点が必要だなと思ったんです。第三者の目線も入れて「未来を一緒に語りたい」と企画したとき、岡島さんから、高梨くんの名前が真っ先に挙がりました。なぜ、彼だったのですか?

岡島 私自身が自由に、開放的に、将来のことを好きなだけ「妄想」できる相手を考えたとき、もともと天文学専攻の同級生だった高梨くんが真っ先に思い浮かびました。高梨くんは今、東京大学の特任准教授をしていることもあって最先端の研究者や学術トレンドもたくさん知っているから、普段からなにかある度に頼らせてもらっています。

高梨 そんな風に紹介していただくのは恐縮です。僕は東京大学の天文学専攻を卒業したのですが、大学院では岡島さんの隣の席で5年くらい一緒でした。

高梨 直紘(たかなし・なおひろ)/1979年広島生まれ。東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム室(東大EMP)特任准教授。東京大学理学部 天文学科卒業。東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 博士課程修了。国立天文台 天文情報センター広報普及員、同 ハワイ観測所研究員を経て、2009年東京大学生産技術研究所 特任助教、2014年より現職。天文学普及プロジェクト「天プラ」代表も務める http://www.emp.u-tokyo.ac.jp https://www.tenpla.net

高梨 直紘(たかなし・なおひろ)/1979年広島生まれ。東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム室(東大EMP)特任准教授。東京大学理学部 天文学科卒業。東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻 博士課程修了。国立天文台 天文情報センター広報普及員、同 ハワイ観測所研究員を経て、2009年東京大学生産技術研究所 特任助教、2014年より現職。天文学普及プロジェクト「天プラ」代表も務める
http://www.emp.u-tokyo.ac.jp
https://www.tenpla.net

高梨 大学院の頃は「宇宙の加速膨張」ということを、超新星*2  を使って調べる研究をしていました。岡島さんも同じような研究でしたよね。

岡島 そうですね。私は活動銀河核*3 を使って研究していました。懐かしいです!

高梨 それから僕は国立天文台に就職し、「社会と宇宙をつなぐ役目」として働いていました。その後、東京大学で「社会人向けのプログラムを作ったけど、興味ない?」とお誘いをいただいたのがきっかけで今に至ります。

*2 超新星

大質量の恒星が一生を終えるときに起こす大規模な爆発現象。突如、夜空に明るい星が輝き出し、まるで星が新しく生まれたように見えることから「新星」と呼ばれたが、その正体はまったく逆。爆発後、中心部に中性子星やブラックホールが残る場合もある。超新星爆発、スーパーノバ。

*3 活動銀河核

銀河の中心部で観測される異常に明るい天体。電磁波(電波、可視光、X線、γ線)の放出やジェット(高エネルギーの噴出)を伴う。活動銀河中心核、AGN(Active Galactic Nucleus)。


天文学は難しい局面にある

岡島 高梨くんは今、エグゼクティブ・マネジメント・プログラムの特任准教授なんですよね?

高梨 はい。主に40代を中心とする、さまざまな企業や中央省庁のリーダー候補の方たちにプログラムを提供しています。東大に移ってからは「社会と天文学」だけではなく、「社会と学術」をどう結びつけていくのかに注力していますね。

佐宗 そんな現在の高梨くんの立ち位置から、「社会と宇宙のつながり」はどのように見えていますか?

高梨 うーん……そうねぇ。実は今、宇宙と人間の関係性、つまり「宇宙への距離感」がよくわからなくなってきているんですよ。

佐宗 と言うと?

高梨 例えば、「宇宙」とひと言で表しても、とても広い意味がありますよね。勘違いされがちですが、同じ宇宙の絡みであっても「宇宙開発」と「天文学」は違うものです。宇宙開発というのは、ロケットに象徴されるように、宇宙を手の届く場所にしていく試みだと思います。現代の社会に直接関わるものと言えるでしょう。

2020年5月30日15時22分(現地時間)米フロリダ州ケープカナベラルのジョン・F・ケネディ宇宙センターから、スペースX社の商業有人宇宙船「クルー・ドラゴン(エンデバー号)」が、同社の「ファルコン9」ロケットにより打ち上げに成功 ©︎ UPI/amanaimages

2020年5月30日15時22分(現地時間)米フロリダ州ケープカナベラルのジョン・F・ケネディ宇宙センターから、スペースX社の商業有人宇宙船「クルー・ドラゴン(エンデバー号)」が、同社の「ファルコン9」ロケットにより打ち上げに成功
©︎ UPI/amanaimages

翌31日、ロケットから分離されたカプセルがISS(国際宇宙ステーション)とドッキングし、ロバート・ベンケン宇宙飛行士とダグラス・ハーリー宇宙飛行士を無事に輸送した。アメリカの宇宙船がISSに到達するのは、2011に終了したスペースシャトル計画後、初となる ©︎ UPI/amanaimages

翌31日、ロケットから分離されたカプセルがISS(国際宇宙ステーション)とドッキングし、ロバート・ベンケン宇宙飛行士とダグラス・ハーリー宇宙飛行士を無事に輸送した。アメリカの宇宙船がISSに到達するのは、2011に終了したスペースシャトル計画後、初となる
©︎ UPI/amanaimages


高梨 それに対して「天文学」は、宇宙の有り様を探究する学問です。これはまぁ、直接的に社会に役立つことはあんまりないでしょうね。ですから、「何のために宇宙のことを知るのか?」を説明することが難しい時代になってきていると思うんです。

岡島 じゃあ、昔は説明できていた?

高梨 例えば江戸時代以前、「暦」を作ることは江戸幕府の天文方(てんもんがた)の非常に大きな役割でした。暦というのは、権力者が時間を支配するための基盤であり、権力の象徴でもあったんです。

岡島 権力の象徴?!

高梨 そう。西洋における王権神授説*4  のように、権力者の正統性を示すために天文現象を利用することは一般的に行われていたと思います。例えば、古代中国では天の命を受けている天子(てんし)、すなわち皇帝の側には天文官が控え「日食や月食はいつ起こるのか」を “予言” することで、皇帝が天意を受けていることの証としました。

*4 王権神授説

王の権力は神から授けられたものであり、不可侵なものであるとする政治思想。中世のヨーロッパにおいては、統治者が教会の影響力から独立し、国民を支配する「絶対王政」の理論的根拠になった。

古来より近代まで、「暦」を司ることは権力の象徴でもあった。写真は15世紀にさかのぼる歴史を持つチェコ・プラハの天文時計。2つの文字盤には、黄道上の太陽の位置を示す十二宮環、日没から始まる古チェコ時間などが表示される ©︎ Alamy Stock Photo/amanaimages

古来より近代まで、「暦」を司ることは権力の象徴でもあった。写真は15世紀にさかのぼる歴史を持つチェコ・プラハの天文時計。2つの文字盤には、黄道上の太陽の位置を示す十二宮環、日没から始まる古チェコ時間などが表示される
©︎ Alamy Stock Photo/amanaimages

高梨 でも、それは近代よりずっと前の話。暦作りの権威性は、今ではそこまで重要視されません。もちろん今日でも大事な仕事として、国立天文台では暦作りをしていますけどね。

佐宗 うーむ。なるほどねぇ。

高梨 では、明治以降はどんな文脈で天文学をやったかというと、「富国強兵」のためという一面があった。今でもアメリカに「海軍天文台」があるのは、軍事と天文学が深く関係していたからです。正確な時間、そして正確な場所を把握することは、戦略上重要なことです。GPSがなかった当時、それを知るための有力な方法が星の位置を見て測地することでした。その精度を上げるためには、正確な星の位置を知る必要があります。明治時代には日本でも星を使った測地観測が盛んに行われましたが、宮沢賢治の作品(短編『風の又三郎』)に出てくることでも有名な水沢緯度観測所(岩手県奥州市)もそういった施設のひとつです。

天文学者の木村 榮(ひさし)(1870-1943)は、水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)の初代所長。1899年から1941年まで在職した。水沢での緯度観測データが他国のデータと整合しない原因を検証、1902年に緯度変化の計算式における第3項「z項(木村項)」を発見した功績で知られる。1911年第1回学士院恩賜賞、1937年第1回文化勲章受章

天文学者の木村 榮(ひさし)(1870-1943)は、水沢緯度観測所(現・国立天文台水沢VLBI観測所)の初代所長。1899年から1941年まで在職した。水沢での緯度観測データが他国のデータと整合しない原因を検証、1902年に緯度変化の計算式における第3項「z項(木村項)」を発見した功績で知られる。1911年第1回学士院恩賜賞、1937年第1回文化勲章受章


高梨 戦後、高度経済成長期になると、もはや富国強兵では通じません。じゃあ「天文学は何の役に立つのか?」と問われると、その答えのひとつは人材の輩出である、と。日本には資源がないから、科学・技術人材を生み出していかないといけない。総合理学である天文学は、最先端の科学・技術を押し進める駆動力のひとつであり、それが優秀な人材の育成に繋がるんだ、という言い方もできた。しかし、その高度経済成長期も終わってしまい、国としてそういったことに投資できる余裕がなくなってきた今、「次はどういう理由で天文学をやるのか?」という話になると、かなり難しい局面に来ているんじゃないかな、と思ってます。

岡島 わかりますよ。天文学をやる理由をちゃんと説明すると、どんどん哲学的なほうにいっちゃいますからね。

高梨 そうだよね。でも、僕はもう完全に、哲学に乗っかるほうがいいと思う。「楽しいからやる! それで何が悪いの?」と。これをちゃんと社会に理解される言い方で正々堂々と言うのが、これからの天文学にとって大切だと思います。もちろん、技術のスピンオフで経済的利益を出せることもあると思いますが、それはオマケだなぁ、と。

佐宗 それは「人間が知りたいことを知る」ということが、人間が人間たる、一番の本質だからということでしょうか?

高梨 その通りですね。そして、天文学は「宇宙を知ること」自体が目的なのではなく、宇宙を知ることを通じて「人間というものを知ること」が、最も根源的かつ本質的な天文学の意味だと信じています。

岡島 いやぁ、まったく同感ですね。

高梨 ただ、それを社会の中で通用する見せ方にできるかどうかは、かなりテクニカルな(戦術的な工夫を要する)課題になってくる。だから、ALEのように「科学を社会につなぐ」という難しいことを言葉にし、ミッションとして掲げる方法はとてもいいと思っています。

佐宗 ズバリ、どう「いい」んですか?

高梨 みんなが消費できるかたちに「宇宙」を “加工してあげる人” が必要だと思うんですよね。そう考えると、ALEのように「人工流れ星」を通じて宇宙へ意識を向けさせることができるのは、とても「いい」加工の仕方だと思います。星を流す以外にもこれから加工法はたくさん考えられるので、それが第2弾、第3弾のビジネスの柱になっていくのでしょう。

岡島 そうです。まずは、人工流れ星の実証実験を成功させることからですね。


「宇宙」が文化圏になったら?

佐宗 ALEのミッション・ビジョン・バリューを作るときにも、「そもそも、どうして宇宙のことをやっているんだっけ?」という話が論点になりました。そのときも「見せ方、伝え方」についての話になりましたよね。

岡島 そうでした。天文学を始めとする基礎科学を「なぜ、人間がやるのか」「どうやって人間に伝えていけばいいのか」ということは、学生のときから未だに考えていて、伝え方は悩みの種です。サイエンスカフェ*5 を開催しても、科学に興味のある人にしか届かない。でも「流れ星」だと、たとえ科学に対する純粋な興味がない人にとっても入りやすい窓口になると思ったんです。

岡島 そのうえで「どうして基礎科学を多くの人に学んでもらいたいのか?」を考えると、やっぱり文明が進化するときには、基礎科学が必ず必要になってくるからです。科学がまるでない状況でエンジニアリング(工業)だけ進化させても、きっと生活は「大きく」は変わらない。基礎科学がないと、本当の意味でのイノベーティブな生活は生まれないと思います。そう思うと、天文学は単に好奇心だけの問題ではなくて、もしかしたら100年、200年後、天文学が地球を救っているかもしれないと思うんです。

佐宗 地球を救う?

岡島 前回、小野雅裕さん(NASA JPL)との対談 でも話題にしたんですが、アインシュタインは「GPSを作るために相対性理論を考えた」わけではないじゃないですよね。彼の純粋な探求心、物理学から生まれた理論です。他にも、サイクロトロン*6 の原理からMRIができたり、X線を研究していたらレントゲンが生まれたり、当初は思っていなかったけど、「こんな風に使えるものだった!」というものが生まれる可能性があるのが、基礎科学だと思います。

高梨 そうですよね。そのためにも、天文学の必要性をどうやって社会に認識してもらうのか、そのために僕らがどう動いていくのかは考えていかなくては。

*5 サイエンスカフェ

科学に関連する話題について、市民と科学者がカフェのように気軽な雰囲気で語り合う場。1997年から1998年にかけ、イギリスとフランスで同時発生的に始まったのが起源とされる。

*6 サイクロトロン

原子物理学や素粒子物理学で標準的に使用される、イオンを加速するための円形加速器の一種。1930年にカリフォルニア大学のアーネスト・ローレンスらが基礎理論を発表した。


 
佐宗 
なるほど、よくわかりました。ちなみに今、テーブルにある資料は、ALEのミッションを考えるときに出た課題や妄想を描いた「マインドマップ」です。

ポストイットにキーワードを記入していき、ビジュアルも使いながら、頭の中の “妄想の声” を整理していくマインドマップ

ポストイットにキーワードを記入していき、ビジュアルも使いながら、頭の中の “妄想の声” を整理していくマインドマップ

佐宗 そこでは、ALEの現在の事業内容にも近い宇宙エンタメ分野で「人工彗星」などの案が出ています。社会問題としては、「デブリ(宇宙ゴミ)問題」や「太陽光活用」、科学の未解決領域と言われる「ダークマター(暗黒物質)」や「生命の起源」などにも関わっていきたいという声も上がりました。こうした “妄想の声” をひと言にまとめて「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションになったんですよね。こうやって言語化したことによって、ALEで何らかの変化はありましたか?

岡島 広報チームの努力もあってですが、このミッションやバリューを表へ出し始めてからは、メディアがALEを扱うトーンが、それまでは「宇宙エンタメの会社」だったのが「科学事業を扱う会社」という認識になったと実感しました。「基礎科学の研究に繋げるために、人工流れ星を飛ばしているんだ!」ということを、以前よりもアピールできていると感じています。

佐宗 それは何よりですね。今、宇宙ビジネス系は「宇宙に行くこと」をすごく頑張っている会社が多いなか、ALEは「宇宙へ行ってからのこと」をより考えている会社なんだなぁ、とミッションを作るときに僕自身は感じました。

岡島 そうなんですよ、この連載のタイトル通りです!(笑)

佐宗 実際に「宇宙」が文化圏になったら、どんな活動が宇宙で行われていると岡島さんは想像していますか?

岡島 衣食住だけでない、嗜好品の充実です。地球上における現代の生活は「衣食住」だけじゃなくなってきましたよね。同じように、宇宙空間でも「最低限の衣食住だけではない生活」ができたらいいなと思います。「宇宙だから」と我慢することなく、レクリエーションやスポーツ、グルメなどが楽しめる空間になっていてほしいです。何かを我慢することも面白い体験ではあるんですけどね。


科学の起源は「哲学」にある

佐宗 岡島さんが言った「宇宙で生活する」といった主観的なことに、ある種、宇宙を社会目線から客観的に捉えている高梨くんは、どのような視点を持ち込むと面白くなっていくと思いますか?

高梨 まず、科学というものが「客観的に物事を捉える」という構造ですよね。それに対して、私たちが生きているのは、常に「主観」の世界です。ですから、この「主観と客観」をどう繋げていくかは、科学自体の面白さにもなると思います。それと言うのも、多くの日本人は明治時代に西洋から入ってきた「科学」を、ずっと勘違いしてきていたんじゃないかと思うんですよね。

佐宗 どういうことですか?

高梨 ずっと科学のことを「技術」だと思ってきたんです。日本人は「何かの役に立つもの」という発想で「科学」を使っている。科学にそうした側面があることは間違いないのですが、本質はそうではないと私は思います。

高梨 科学の起源は「哲学」です。つまり、「真・善・美*7」の追求こそが科学の本来あるべき姿であって、西洋ではずっとそう扱われてきました。これは、一神教的な「神」のあり方と常にセットであったと思います。そういったこともあって、日本では科学の持つ「超越的視点」というものに対して理解しにくかったのだと思います。だから、私も含めてですが、日本人はいまだに「客観性」というものに対して、本質的に理解できないのかな、と。

岡島 だとすると、量子論のような「どっちもある」という考え方は、日本人にとっては受け入れやすいということですか?

高梨 個人的にはそう思います。近代科学は、インド出身の科学者が活躍するなど一神教的じゃない文化圏の人たちが入ってきたことで、より発展したように思えますから。

佐宗 1つじゃないからこそ見える考え方は、僕もこれから「量子論的な世界」になったときの新しいOS(オペレーションシステム)になっていくのではないかと感じています。

佐宗さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)の終章(妄想を「社会の文脈」から問い直してみる)にも「真・善・美」が重要なキーワードとして登場する

佐宗さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)の終章(妄想を「社会の文脈」から問い直してみる)にも「真・善・美」が重要なキーワードとして登場する


高梨 価値観が多様化している昨今、世界のさまざまな人々と対話を通じて共生していくことを考えたとき、共通となる土台は「天・地・人*8」だと思うのです。この「宇宙(天)」も「地球(地)」も「生命(人)」は、誰にとっても共通の土台であるという考え方ですね。

最新の研究や観測に基づく宇宙の姿を、人間を中心に描いた「宇宙図」の企画制作は、高梨さんが代表を務める天文学普及プロジェクト(天プラ)の取り組みの1つ。文科省の科学技術週間のページ からポスターのPDFデータがダウンロード可能 ©︎ 公益財団法人 科学技術広報財団

最新の研究や観測に基づく宇宙の姿を、人間を中心に描いた「宇宙図」の企画制作は、高梨さんが代表を務める天文学普及プロジェクト(天プラ)の取り組みの1つ。文科省の科学技術週間のページ からポスターのPDFデータがダウンロード可能
©︎ 公益財団法人 科学技術広報財団

岡島 深いですねぇ。

高梨 バリエーションはあるかもしれませんが、誰にとっても語り合える「土台」は、この3つかもしれない。それを教える教育がしっかりあるのかと言えば、実は、あんまりやってないんですね。ですから、ALEのように「流れ星」を通じて宇宙や基礎科学に意識を向かせる活動は、こうした面で意義があると思います。

*7 真・善・美

認識上の「真」(学問や知性)、倫理上の「善」(道徳や意思)、審美上の「美」(芸術や感性)という、普遍的な人間の理想や目標を示した用語。ギリシャの哲学者、プラトン(B.C. 427-B.C. 347)のイデア論が初出とされる。

*8 天・地・人

世界を形成する三要素。宇宙間に存在する万物。中国の儒学者、孟子(B.C. 372-B.C. 289)の教えにこの言葉が登場する。三才。

>>宇宙構想会議③(後編)に続く


Profile
Interviewer
岡島 礼奈 Lena Okajima

1979年鳥取県生まれ。株式会社ALE 代表取締役社長/CEO。東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻、理学博士(天文学)。卒業後、ゴールドマン・サックス証券戦略投資部で債券投資事業、PE業務などに従事。2009年より新興国ビジネスコンサルティング会社を設立、取締役。2011年9月に株式会社ALE設立。世界初となる「人工流れ星」プロジェクトに挑戦している。
http://star-ale.com

Writer
久保田 和子 Kazuko Kubota

バリスタ。フリーライター。「地球を眺めながらコーヒーが飲める場所にカフェを作りたい」その夢を実現するために、STARBUCKS RESERVE ROASTERY TOKYOでバリスタをしている。本サイトで「バリスタの徒然草」を連載中。「人は良くないことを考えるときに下を向き、いいことを想像するとき、上を向くのだそうだ。未来を想像し、上を向き、語り合う3人の姿を見て、知識を詰め込むために机にしがみつき、下ばかりを向かせてきた今までの教育から、この日のディスカッションのように、直接向き合って語り合い、上を向いて、想像し続けられる力をつけられる教育になっていてほしいと、心の中で熱く願った」
http://bykubotakazuko.com

Photographer
猪飼 ひより Hiyori Ikai

amanaフォトグラファー。「3人のどんどん弾んで宇宙のように広がっていく会話に、私も気づいたら引き込まれていました。この先の可能性に期待しながら、将来に向けて自分にできることを精一杯やろうと思います」
https://amana-visual.jp/photographers/Hiyori_Ikai

Editor
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「座談会が収録されたのは2月頭。終了後の打ち上げの席では、さらに話が広がりました。そうした気軽な場を持つことが難しい日常になりましたが、オンラインで読者のみなさんとも共有できると楽しいだろうなと “妄想” する今日この頃です」

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