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超小型衛星をつなぎ、日々の世界を見守る 企業探訪③アクセルスペース

超小型衛星をつなぎ、
日々の世界を見守る

シリーズ企業探訪③アクセルスペース

インタビュー・文/鳥嶋 真也
写真/大竹ひかる(amana)

日本発の超小型衛星ベンチャー企業、アクセルスペース。2008年の設立以来、世界初の民間商用超小型衛星を開発したのを皮切りに、この分野のトップ・ランナーとしてひた走る。創業10年目の2018年には数十機の超小型衛星で世界のすべてを毎日撮影する、画期的な新時代のインフラ構築に乗り出した。超小型衛星による日本発の「衛星コンステレーション」の実現で世界はどう変わるのか。そして、同社が挑戦を続ける目的とは。

数十kg級の衛星に可能性を見た

アクセルスペースは2008年に、中村友哉さん(現同社CEO)ら3人が設立したベンチャー企業である。

起業のきっかけは、中村さんが東京大学在学中に「キューブサット」と呼ばれる超小型衛星に出会ったことに始まる。キューブサットとは1辺10cmの立方体の形をした衛星のことで、1999年に大学生などの教育用の教材として、米国で提唱された。

中村さんらが開発を手がけたキューブサットは2003年に打ち上げられ、初挑戦ながら見事に宇宙で機能。カメラで地球を撮影することに成功するなど、大きな成果を残した。

中村さんは大学院までこうした衛星の開発に取り組み、卒業。その後、「この技術を教育にしか使えないのはもったいない」と考え、超小型衛星のさらなる可能性を追い求めてアクセルスペースを立ち上げた。


お話を伺ったのは、アクセルスペース事業開発・営業グループの後藤綾児さん(左)と細沼有美さん

従来の衛星は、質量がトン単位の大きなものが主流で、開発費や打ち上げ費が数百億円と、莫大なものになっていた。しかし、質量が数十kg級の超小型衛星なら、1桁から2桁ほど少ない費用で開発や打ち上げができる。さらに、地上で生まれた新しい技術をすぐに衛星に搭載して打ち上げたり、また安価な分、多数の衛星を打ち上げて大型の衛星では実現不可能なシステムを構築したりと、今までにない衛星のシステム、利用法を生み出す ことも可能になる。


ベンチャー精神を忘れない集団

超小型衛星の実用化から、これまで宇宙とは縁もゆかりもなかった企業が衛星のデータを利用したり、衛星そのものを所有したりといった、宇宙ビジネスの新たな可能性も見えてくる。アクセルスペースの会社ビジョンである「Space within Your Reach ~宇宙を、普通の場所に~」は、まさにそうした考えや想いからきているという。

同社が初めて手がけたのは、気象情報会社ウェザーニューズの「WNISAT-1」という衛星だった。質量はわずか10kg ながら、北極海域の海氷や、温室効果ガスの濃度変化を観測することができる装置を搭載。2013年に打ち上げに成功し、世界で初めてとなる民間の商用超小型衛星となった。

世界初の民間商用超小型衛星「WNISAT-1」
北極海域の海氷および、温室効果ガスの濃度変化観測はすでに終了し、現在は「航空機の北極航路運行支援サービスに向けた太陽活動の影響による地場変動観測ミッション」を中心とした運用が行われている(写真提供:アクセルスペース)

その後、同衛星の後継機の開発や、東京大学と連携した新技術の試験衛星の開発、さらに宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星の開発も手がけるなど、着実に歩みを進めている。


アクセルスペースの人工衛星開発のあゆみ (図版提供:アクセルスペース)

 

アクセルスペースがJAXAから依頼を受けて設計・開発した小型実証衛星1号機「RAPIS-1(一番上の衛星)」のロケット搭載イメージ図。公募で選定された7テーマのミッション機器を搭載している。軌道上で動作させてデータを取得し、テーマ提案者に提供する。2019年1月18日に鹿児島県内之浦からイプシロンロケット4号機で打ち上げられた
©JAXA

現在、アクセルスペースの従業員数は約60人。衛星のエンジニアだけでなく、ソフトウェアーエンジニア、そして、商社や証券会社出身のビジネスのプロまで、さまざまなバックグラウンドをもつ人々が国内外から集まっている。これまでの実績や、設立から10年が経ったということもあって、すでにベンチャーとは呼べないほどの企業となったが、「ベンチャー精神を忘れず、フレッシュな気持ちで日々取り組んでいます」(細沼さん)という。

細沼 有美(ほそぬま・ゆみ)
2009年東京大学経済学部卒業。総合商社において国内外インフラ事業やシェールガス投資に携わった後、IT系スタートアップでの勤務を経て、2017年よりアクセルスペースに参画


世界を“面”で観測する

そして、設立から10年を迎えたアクセルスペースが今、新たに取り組んでいるのが、「AxelGlobe(アクセルグローブ)」という衛星コンステレーション*1 の計画である。

AxelGlobeの要となるのは、「GRUS」と名づけられた質量100kgの超小型衛星である。衛星には高性能なカメラが搭載されており、地上を分解能2.5m、撮影幅57kmで撮影することができる。

分解能2.5mというのはコストと性能のバランスがよく、これまで衛星画像が高額なため活用できなかった、宇宙業界とは関係ない一般の民間企業に活用してもらえると、アクセルスペースでは考えている。

「GRUS 1号機」
撮影幅57kmで、1日あたり約85万㎢の面積を撮影可能(写真提供:アクセルスペース)

GRUS 1号機の出荷風景(写真提供:アクセルスペース)


もうひとつの特長は、このGRUSを数十機打ち上げ、地球を取り囲むように配備することで、地球のすべてを毎日撮影できるところ。これまでの地球観測衛星は、何日おきかに特定の場所を撮影する、いわば世界を”点”で観測するものがほとんどだった。

AxelGlobeのシステム概念図(図版提供:アクセルスペース)

しかしAxelGlobeは、多数の衛星により世界のすべてを”面”で観測し、毎日データが積み重ねられていく。たとえるなら、毎日最新の画像に更新されるGoogle Earthのようなもので、今までにない視点、そして価値をもつ、まったく新しいビッグ・データのひとつ、そしてインフラにもなりえる。

GRUS衛星撮影イメージ(左:トゥルーカラー、右:NDREカラー・植生の活性度別に色分けしたもの)
©European Space Agency – ESA produced from ESA remote sensing data 

さらに、衛星のデータが低コストという特長は、これまで衛星データを利用したくても高価で難しかった分野での活用が見込める。とくに、全世界を毎日観測できるため、これまでのような現状の把握だけでなく、将来的な変化の予測のような、これまで難しかった分野への活用も見込める。

*1 衛星コンステレーション

多数の人工衛星を協調して動作させる運用方式。人工衛星の一群を、互いに通信範囲が重ならないよう低軌道または中軌道に投入し、全地表面を網羅する。GPSなどの衛星測位システム、イリジウムなどの衛星電話サービスの例がある。英語でコンステレーション(constellation)は「星座」の意。


金融機関や化粧品会社も関心を示す

AxelGlobeには、競合他社にはない強みもある。GRUSのような分解能数mのカメラをもつ衛星を多数打ち上げて地球を観測しようとする計画は、他の企業も進めており、一部はすでにサービスを始めている。しかし、そうした衛星は各衛星の軌道がばらばらだったり、すぐに運用を終えることを前提にしていたりと、サービスやデータの品質という点ではやや難があるという。

その点GRUSは、すべての衛星が同じ、地球を南北に回る軌道に乗るため、いつでもどこでも、つねに同じ条件下で撮影できる。また衛星の設計寿命も5年以上で造られている。これにより、データの品質や信頼性が高まり、利用価値もより高まる。後藤さんは冗談めかしつつ、「GRUSは『まじめ』な衛星なんです」と、その価値をアピールする。

後藤 綾児(ごとう・りょうじ)
2007年学習院大学大学院修了。アジア航測株式会社、日本スペースイメージング株式会社等を経て、2018年より現職


すでにさまざまな分野から、アクセルスペースに対して「データを買いたい、使いたい」という引き合いや共同研究の依頼が多数きているという。

金融機関との間では、経済統計への活用を探る研究を進めている。たとえば鉄鉱石の輸出入量の統計は公表が遅く、また実態と合わないケースが多々あるが、GRUSの衛星データを使うことで、早く、正確な統計が作れる可能性があるという。

意外なところでは、大手化粧品メーカーも興味を示す。宇宙から降り注ぐ紫外線が私たちの肌に悪影響を与えることはよく知られ、すでに紫外線マップのような情報提供サービスもある。一方、近赤外線も同じように肌に悪影響があることがわかっており、その研究や情報提供に、GRUSがもつ近赤外の画像撮影機能が活用できるのではないかと期待されている。

このほか、測量や物流の追跡、森林の違法伐採の監視、災害対応など、データ利用の可能性は多岐にわたるという。AxelGlobeの実現によって、どんな新たな需要や利用価値が創出されるのか、そしてその可能性がどこまで広がっていくのか、まだ未知数である。


誰もが衛星を持つ「マイ衛星」の時代へ

2018年12月27日、GRUSの1号機がロシアのロケットで打ち上げられた。今後、アクセルスペースでは2020年に追加で2機、さらに2022年までに数十機を打ち上げ、AxelGlobeを完成させたいとしている。

GRUSが搭載されたロシアのソユーズ2.1aロケット
©GK Launch Services, an operator of Soyuz-2 commercial launches from Russian spaceports

ロケットに搭載されたGRUS
©GK Launch Services, an operator of Soyuz-2 commercial launches from Russian spaceports

GRUSを搭載したロシアのソユーズ2.1aロケットの打ち上げ
©Roskosmos


この1号機の出荷と打ち上げは、同社にとって大きな節目になったという。これまで同社は、ウェザーニューズのような顧客のために衛星を開発してきたが、初めてアクセルスペース自身のために衛星を開発。ついに自社衛星が宇宙に行ったことで、実際の撮影データの分析や、その利用、販売の段階に入る。細沼さんも「私たち事業開発・営業グループにとってはこれからが本番です」と意気込む。

設立から10年を迎え、いよいよAxelGlobeも本格的な始まりを迎えたが、これからも当初からの理念に変わりはなく、その上でさらに、「今後も小型衛星の開発において最先端に居続けること」を目指すという。

後藤さんは「アクセルスペースの特長は、高品質な衛星を低コストで造れるところ。その理由は、自社で設計、製造をしており、スピード感や柔軟性をもって衛星を造れるからです。この強みは今後も大事にし、そしてさらに高めていきたいと思います」と語る。


各企業が自分たちで衛星を所有して運用できるようになれば、今まで以上に見たいデータを見たいときに得ることができる。最初はカー・シェアリングのように、衛星の所有や使用の権利を買うような形を想定しているものの、究極的にはマイ衛星の名前のとおり、農家が自分の畑の様子を見るために使ったり、一般の人クルーザーや自家用車のような感覚で保有したりと、「衛星を持つ」ということのハードルを大きく引き下げるのが目標だという。

実現までには、コストや納期、法律などの問題が残っている。それでも、後藤さんは「より多くの人が衛星に触れられるようになれば、さらに多くの使い方の可能性が出てくる」と期待を寄せる。

「Space within Your Reach」という理念を、文字どおり実現するべく、アクセルスペースはさらなる高みに向かって加速し続ける。


Profile
Writer
鳥嶋 真也 Shinya Torishima

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

Photographer
大竹 ひかる Hikaru Otake

衛星写真、いろいろな使い道があるんですね!

http://amana-photographers.jp/detail/hikaru_otake

Editor
荒井 正 Tadashi Arai

2018年末のGRUS 1号機の打ち上げ成功に続き、2019年が明けてまもないタイミングでの小型実証衛星1号機「RAPIS-1」の打ち上げ成功と、アクセルスペースの快進撃に目を見張る思いです。2020年、さらにGRUSを2機、そして2022年までに数十機のGRUSを打ち上げる予定の同社。これらの衛星が打ちあがるたびに、どんな画像・映像世界が広がるのか興味は尽きません。今後も同社の動きを追い続けたいと思います。

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