a

Nature & Science

アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Feature 特集
創造性で宇宙廃棄物に挑め ダーン・ローズガールデが描くスペーススケープのデザイン
創造性で宇宙廃棄物に挑め

ダーン・ローズガールデが描く
スペーススケープのデザイン

インタビュー・文/中島 恭子

大気汚染の解決策で注目を集めたオランダのダーン・ローズガールデは今、宇宙空間を漂うおびただしい数の人工廃棄物に関心を向けている。研究者ではない畑違いのクリエイターがESA(欧州宇宙機関)やNASA(アメリカ航空宇宙局)とも連携してどんなアプローチを構想しているのか。専門分野の外から宇宙へ向ける彼のまなざしを知るために独自インタビューを行った。

世界の諸問題への解決策を示す

気鋭のオランダ人アーティストであり、イノベーターでもあるダーン・ローズガールデ。彼は生涯の目標に「より良い世界のために未来のランドスケープをつくる」ことを掲げて、次々と斬新なプロジェクトを輩出してきた。

ダーン・ローズガールデ(Daan Roosegaarde)/1979年オランダ生まれ。エーンスケのアカデミー・オブ・ファイン・アーツ卒業後、ロッテルダムのベラージ・インスチチュート(現デルフト工科大学建築学部)で建築と都市計画を学ぶ。レム・コールハース、MVRDVといった有名建築事務所で働いた後、2007年スタジオ・ローズガールデを設立。オランダ・デザイン・アワード、ロンドン・デザイン・イノベーション・メダルなど受賞多数
©Studio Roosegaarde

テクノロジーと光が融合した幻想的なインスタレーションを得意としているローズガールデだが、都市そのものを対象にしたアーバンデザインの作品も数多く手がける。2014年にはアムステルダム市内で自然にマッチした自転車道「ヴァン・ゴッホの路」を発表。暗闇になると光る蓄光型の石材(フォトルミネッセンス)を採用することで、電気を使うことなく交通の安全性を高めた。

ゴッホの絵画『星月夜』に着想を得たという無電化の自転車道「ヴァン・ゴッホの路」
©Studio Roosegaarde

近年は汚染された都市の大気を清浄する巨大なタワー「スモッグ・フリー・タワー」で世界中の注目を集めている。このタワーは2017年にアムステルダム、ワルシャワ、北京や大連といった都市を巡回。ヨーロッパやアジアだけでなく、大気汚染問題に悩む南米などの国々からも要請が絶えない。

クラウドファンディングを通じて製作した「スモッグ・フリー・タワー」は、目標額の倍を超える11万3,000ユーロ(約 1,500万円)が集まった
©Studio Roosegaarde

クラウドファンディング支援者へのリターン品には、タワーで集塵したスモッグ粒子を固めて宝石代わりにしたリングやカフスボタンを用意。リングを結婚指輪に用いたカップルが現れるほどの反響があった
©Studio Roosegaarde

そんなローズガールデだが、現在の興味は「スペース・ウェイスト(宇宙廃棄物)」にあるという。地球の大気圏外には、期限切れの人工衛星や過去のミッションの遺物が大量に浮遊しているだけでなく、その衝突により無数の破片が散乱している状態だ。このままでは事故は免れないと言われるなか、解決策はまだ見いだせていない状況だ。

この解決にローズガールデも寄与しようと立ち上がった。その先駆けとして今年10月初旬から3ヶ月限定で、オランダのアルメー(Almere)で「スペース・ウェイスト・ラボ*1」の名で体感型展示やレクチャー、ワークショップを含めたエキシビションを行う。その準備に追われるローズガールデ本人へのインタビューに成功した。

*1 スペース・ウェイスト・ラボ

2018年10月5日〜2019年1月中旬まで、宇宙飛行士アンドレ・カイパースらを迎え入れ、オランダ・アルメーのコンベンション施設「クンストリーニ・アルメーレ・フレホランド(KAF:Kunstlinie Almere Flevoland)」にて開催。https://kaf.nl/expo/space-waste-lab/

まだ表面化していない危機

インタビュー前に少し調べていたのですが、普通、この問題って「スペース・デブリ(破片)」とか「スペース・ジャンク(ゴミ)」と呼ばれています。あなたが「スペース・ウェイスト(廃棄物)」とあえて呼んでいるのには、特別な意味があるように感じたのですが。

良いところに気がついたね。宇宙関連の専門家は「デブリ」という言葉を使いたがるけれど、一般の人にはピンとこない。打ち上げ後のロケットの一部や故障した人工衛星の部品など、さらにそれらの衝突で発生した破片を総称するのがデブリではあるものの、とても狭義に感じた。破片とはとても言えない、無用の人工衛星自体が無数漂っているからね。

一方で「ジャンク」と呼んでしまうと、非常にネガティブな印象を与えてしまう。「ウェイスト(廃棄物)」とあえて呼ぶことでニュートラルな印象になるだけでなく、皆の問題であることに気づかせようという意図もある。

スタジオ・ローズガールデの事務所建物は「ドリームファクトリー」と呼ばれ、スタートアップ企業が集まるロッテルダムのベイエリアにある。古いインダストリアルな建物を活かしたリノベーションが特徴。建物の前はヘリコプターの発着所になっている
©Studio Roosegaarde

今回、スペース・ウェイストに挑もうとしたのには、「スモッグ・フリー・タワー」での経験が活かされていますか?

そうさ。スモッグ・フリーのプロジェクトでは、スモッグを除去することを超えて「天候自体を技術的に変えることはできないか?」という、もっと大規模なランドスケープのデザインも検討していたんだ。

そんなある日、事務所のPCを覗いていたら、地球を囲んで無数の白い点が存在する暗黒の宇宙の画像を発見した。思わず「何だ、こりゃ?」と、叫んだほどだった。

宇宙空間を漂うスペース・ウェイスト。その数は微小サイズのものも含めると数兆個と言われ、NASAを始めとした国際的な監視体制が敷かれている
©Studio Roosegaarde

宇宙廃棄物の問題を調べて行くうちに、それらと大気汚染の灰を重ねてしまった。「地球は新たな問題に直面してしまった」という愕然とした気持ちと同時に、「何とかしなきゃいけない問題だぞ!」と、ムクムクとやる気が湧いてきた。

現在、地球の温暖化や大気汚染の問題は人々の関心も高いですが、宇宙廃棄物に関しては、まだ認知度は低いように感じます。

ヨーロピアン・スペース・エージェンシー(ESA:欧州宇宙機関)では、8〜10年ほど前から「クリーン・スペース・プロジェクト」というプログラムを施行しているけれど、確かに知っている人は少ない。ただ、僕が「スモッグ・フリー・プロジェクト」をリサーチしていた5〜6年前も、同じように大気汚染を語る人は少なかったからね。そう考えると、宇宙の廃棄物の問題もこれから注目されるのだと思う。

科学者だけに任せておけない

宇宙廃棄物の問題で一番厄介なのは、きちんとした国際法がないことだと聞いています。

その通り。日本の宇宙廃棄物がオランダの衛星にぶつかっても、障害保険すらない(笑)。まぁ、こういう冗談はさておき、これから衛星を打ち上げる場合、寿命や故障をして停止したら、打ち上げた人が責任を持って地球に戻さなければならないという決まりはできている。つまり、衛星を打ち上げる前に、安全に帰還させる計画を練らなきゃならないということだけど、これだと現存するスペース・ウェイストの解決策にはならない。

毎年10月初旬にオランダ全土で開催されるサイエンス・ウィークで、ローズガールデは2018年のアンバサダー役に任命されている。同じくオランダ人宇宙飛行士のアンドレ・カルパース(Andre Kuipers、写真右)、科学者のエヴァリン・クローン(Eveline Crone、同中央)もアンバサダーとなった。彼らの初顔合わせは、ESA(欧州宇宙機関)のオランダにおける本拠地、ノーディヴィック(Noordwijk)で行われた
©Studio Roosegaarde

ドナルド・ケスラーというNASAの科学者が唱えたケスラーシンドローム*2という説によると、宇宙廃棄物同士が衝突すると、新たな廃棄物を生む。これを繰り返し続けると、その空間密度は臨界値に達するという。こんなことが続いたら、衛星放送やカーナビに使うための衛星を将来打ち上げる必要に迫られても、そのスペースが宇宙空間に残っていない状態になってしまう。

日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)では、廃棄物を大気圏まで引っ張ってくる方法を研究中だそうです。

ネット(網)、レーザー、ロボットアームなど、他にもさまざまな解決策が考案されているけど、どれも実用性は立証されていない。そもそも、国際法もないというのは、遠い宇宙の話ではなく、今の社会問題だと考えるべきだと思う。だから、スペース・ウェイストの問題は、科学者だけに任せる話ではないね。NASAやJAXAといった宇宙の専門家でもない僕だけど、クリエイターとして新しい展望を加えたいと考えているんだ。

©Studio Roosegaarde

すでに自身で考えている案はありますか?

スモッグ・フリー・プロジェクトのときに、灰を使ってジュエリーを作ったような発想の転換を考えている。たとえば、3Dプリンターを使って、宇宙上でこの廃棄物から何かを製作してはどうだろう? 衛星の部品を作ったり、火星に家を作ったり。もしくは、廃棄物の衝突から生まれるエネルギーを何かに再利用できないかなど、宇宙でのアップサイクルを考えている。

もちろん、このような壮大なプロジェクトには莫大な時間とお金がかかる。ファンディングもそうだが、実現には10年くらいかかるだろうと覚悟しているよ。

*2 ケスラーシンドローム

宇宙廃棄物の危険性を端的に訴えるためのシミュレーションモデル。衛星軌道上の廃棄物が一定量の限界を超えると、衝突と破壊が連鎖的に生じて宇宙開発が不可能になるという理論。

誰もが最初はアマチュアなんだ

この10月に3ヶ月間オープンする「スペース・ウェイスト・ラボ」について、少し解説してください。

まず、展示は屋内と屋外で行うことにしている。屋外では、宇宙に漂っている実際の廃棄物をトラッキングするんだ。2つのパワフルなLED光線を重ね、廃棄物を発見するというパフォーマンスをすることで、来場者にスペース・ウェイストの存在を身近に感じさせたいと考えた。

オランダのアルメーにあるコンベンション施設KAFからの依頼を受けて実施されるエキシビション「スペース・ウェイスト・ラボ」は、Schoonheid(オランダ語で『美』と『クリーン』を表す)というローズガールデの生涯理念を反映している。KAFの屋外では、強い光線を使用することで宇宙廃棄物(スペース・ウェイスト)を来場者とともに見つける「ライブ・トラッキング・パフォーマンス」を行う予定
©Studio Roosegaarde

重要なのは、パフォーマンスに美しさを加えること。その理由は、この問題に対して無闇に人々が必要以上の恐れを抱かないようにしたいと思っているから。ちなみにこの展示は、すでにヒューストンのNASAで巡回展示が決まっている。

屋内の展示では、実際のスペース・ウェイストを展示するなど、この問題に多くの人が関心を持てるようにするだけでなく、最後には皆が自由に解決法を挙げられるようなコーナーを設ける予定だ。すでに1400名のティーンエイジャーたちが、ワークショップの参加を申し込んできている。

エキシビションを通じて人々の関心を高めることも大切だが、レクチャーやワークショップを通じて、専門家とアマチュアが共にスペース・ウェイストの解決法を考える機会を設けたいと真剣に考えているんだ。

自身がその分野のアマチュアからエキスパートへと成長していくのは、スモッグ・フリー・プロジェクトでも同様でしたね。

その通り。僕はこのスペース・ウェイストの問題については、まだアマチュアだと自分で認めているけど、数年後にはエキスパートになれると信じている。だいたい、誰もが最初はアマチュアだ。知りたいことは悪いことではない。バカな質問をしたっていいじゃないか? 知らないことを認めることこそが、人をゴールに導くと思う。

こういう考え方は、もしかしたらアジアの文化では受け入れられないのかもしれない。「門外漢は口出しするな」と言われるとも聞くし。ポジティブでリスクを冒すことを恐れないという姿勢は、オランダ人的な考え方かもしれないね。

最近、人々は未来を悲観し過ぎているきらいがあると思う。誰かを責めたり、文句ばかり言ったりするのは不毛なことだよ。僕は、未来をもっと信じている。

©Studio Roosegaarde

「地球という宇宙船では、乗客はいない。宇宙船地球号*3では全員がクルーだ」という言葉が好きなんだ。スペース・ウェイストの問題も、政府や誰かの許可を待っているのではなく、皆で解決策を考えるべきだと思っている。このスピリットこそ、スペース・ウェイスト・ラボの発端だよ。

ところで、日本の宇宙開発やデザイン一般についてどう思われていますか?

小型ソーラー電子セイルの「IKAROS*4」を見た瞬間、これこそ『折り紙衛星』だと思ったよ。まるで花が咲くような動きを見て、日本独自の宇宙開発の確固たるフィロソフィーを感じただけでなく、個人的にその詩的な美しさに感心した。

僕は日本のクオリティへの固執と独特な美への感覚に、かねてから興味を持っている。実際に「ヴァン・ゴッホの路」の光のパターンは、京都にある禅寺の石庭もモチーフになっているんだ。日本の繊細さにオランダ人のダイナミックさがうまく組み合わさると、面白い結果が生まれるのではないか?と期待している。

最近、自然科学分野に興味を持ち、協業を図るクリエイターが増えてきていますが、ご自身はこれについて意見はありますか?

サイエンティストの会議にクリエイターが加わるということは、本来、異なる訓練を受けてきた人たちが、共に同じゴールを目指して突き進むことであるはずだ。でも、多くのクリエイターが描くのは、実現もしないsuggestion(ご提案)に留まっている。これでは協業と言えないだけでなく、社会に何のインパクトも生まない。

スタジオ・ローズガールデの「ドリームファクトリー」はさまざまな設備を備え、多分野の才能が集結して難しい問題へのソリューションを日々探求している
©Studio Roosegaarde

クリエイターは、協業の結果をproposal(計画)の域まで高め、実現するところまで持っていくことで、初めてイノベーションになり得ると僕は思っている。

これまで「未来のランドスケープをつくる」ことがご自身のテーマでしたが、今日のお話を伺っていると、新たにそこへ「スペーススケープ(宇宙景観)」が加わった感じがしました。

なるほど、スペーススケープとは良い言葉だね! ぜひ、これから使わせていただくよ(笑)

*3 宇宙船地球号

アメリカの思想家・建築家・発明家・デザイナーであるバックミンスター・フラー(1895-1983)が提唱した概念。1963年の著書『宇宙船地球号操縦マニュアル』において、地球を有限な資源を持つ閉じたシステム(宇宙船)であるとし、宇宙の視点から地球経済を説いた。

*4 IKAROS(イカロス)

JAXAの小型ソーラー電子セイル実証機。本体は直径1.6m×高さ0.8mの円筒形。約14mの正方形をした超薄膜(厚さ0.0075mm)のソーラーセイル(太陽帆)を広げ、太陽光圧を受けて進む。帆の一部に薄膜の太陽電池を貼り付けて発電を同時に行い、イオンエンジンを駆動することでハイブリッド推進を実現している。

ダーン・ローズガールデ氏 講演
日時:2018年10月18日(木)18:30〜20:00(カクテルパーティー 20:00〜21:00)
会場:amana square(東京都品川区東品川2-2-43)
定員:72名(先着順)
※詳細やお申し込み方法は、下記サイトより後日ご案内します
https://h-media.jp

Profile
Writer
中島 恭子 Kyoko Nakajima

日本女子大学文学部英米文学学科卒業。セントラル・セントマーチンズ・カレッジ・オブ・アート・デザインで修士取得以来、在英。趣味は週1度のパフォーマンス鑑賞と旅行。今年行って面白かった旅は、ナミビア、ボツワナ、ジンバブエの3カ国を四駆で周遊したことと、2度目の「バーニングマン」参加。最近、興味のあるテーマはテクノロジーの行方。

Editor
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「少年時代を過ごした北海道の情景、20代に日本の離島を旅して得た感覚。そんな素朴な経験をこのサイトに盛り込みたいです」

Page top