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毒・毒・毒キノコ

毒・毒・毒キノコ

文/室橋 織江


©MIEKO SUGAWARA/SEBUN PHOTO /amanaimages

秋といえばキノコの季節。そしてキノコのなかでも、毎年世間を賑わせている毒キノコの面々。「うっかり手を出さないように気をつけましょう!」の意味も込めて、個性的な毒キノコたちをご紹介します。

※食用にできるか否かの判断を、本記事の写真から行うのは避けてください。野生のキノコを口にする場合は、専門家の判断を必ず仰ぐようにお願いします(編集部)

☠️1 夜ふかし毒キノコ

©osaku koichi/nature pro. /amanaimages

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ツキヨタケ
真夜中に淡い光を放つツキヨタケ。傘のヒダの間に発光成分があるのだそう。古くから知られている毒キノコで、『今昔物語集』に登場する「和太利(わたり)」という名前の毒キノコがツキヨタケだとも。よく似たヒラタケと偽って和太利を食べさせ毒殺しようとする話だ。昼の姿はいかにもおいしく食べられそうで、そのせいか日本でもっとも中毒例が多いキノコのひとつ。食べると1時間ほどで腹痛や嘔吐などの胃腸系の症状が出てくる。


☠️2 神秘的な毒キノコ

©izawa masana/Nature Production /amanaimages

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ベニテングタケ
言わずと知れた毒キノコ界のアイドル。赤に白いスポット模様の配色、丸みのあるフォルム、なんだかピュアな感じ。かわいい、とってもかわいい。こんなにかわいいけれど、ご存知のとおり毒持ち。腹痛、嘔吐、下痢などの胃腸系と、幻覚やけいれんなどの神経系の症状が現れる。この見目のよさと幻覚作用から、ヨーロッパでは幸せのシンボルとされていて、またバイキングが戦い前の興奮剤に使ったり、シャーマンが祈祷に使ったりと、昔から世界各地でいろいろな意味合いをもって利用されてきた。


☠️3 茹でると毒の湯気が出る

©izawa masana/nature pro. /amanaimages

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シャグマアミガサタケ
得体の知れない不気味な見た目に違わず、強い毒持ち。中毒を起こすと胃腸系の症状や肝障害を起こして死に至ることも。しかし、学名 Gyromitra esculenta には「esculenta=食べられる」とついている。なぜか。それは毒抜き処理をすると食べられるから。シャグマアミガサタケの毒は、煮沸すると気化して抜けるのだ。ヨーロッパでは、何度も茹でこぼし毒抜き処理をして食べる習慣がある。でも、茹でるのにもけっこう命がけ。茹でている最中に気化した毒が出てしまい、それを吸うと中毒を起こしてキケン。茹で汁にも毒が出ていてキケン。こうまでして食べるこの感じ、日本人のフグに対する思いに似ている。


☠️4 悪酔い毒キノコ

©hany ciabou/Nature Production /amanaimages

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ヒトヨタケ
成熟すると一夜で墨のように黒く溶けてしまうことから「ヒトヨタケ」。英語での呼び名は「インクス・キャップ(インクの傘)」。幼菌のうちは食べられるけれど、お酒と一緒に食べると頭痛や嘔吐、呼吸困難などの悪酔い状態に。キノコの毒成分が、アルコールを飲むと体内で生成されるアセトアルデヒド(二日酔いなどを起こす物質)の分解を阻害して、超二日酔い状態になるということらしい。酒飲みにとってはこわい毒キノコ。写真は胞子が飛んでいるところ。


☠️5 キラキラネーム毒キノコ

©yanagisawa makiyoshi/Nature Production /amanaimages

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キララタケ
おとなしめの見かけにして、このキラキラネーム。キララとは「雲母」というキラキラ輝く鉱物のこと。小さいときは、傘に鱗片(りんぺん)という粉っぽいものがついていて、これがキラキラしているように見えることからついた名前。毒は弱めだけど、ヒトヨタケと同じように、お酒と一緒に食べると中毒症状が出る。


☠️6 ある日突然、毒キノコ

©maruk /amanaimages

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スギヒラタケ
北陸・東北・中部を中心に、昔からおいしいキノコとして食べられてきたスギヒラタケ。けれどある日突然、チーム毒キノコのルーキーに。それは2004年の秋のこと、突然、スギヒラタケが原因と考えれる急性脳症などが報告され、死亡例も……。これには食用にしていた地域住民一同びっくり。なぜ急にそんなことが起こったのか? じつは、前年に感染症法が改正されて、急性脳炎が発生した場合は届出が必要になった。それで原因を調べていくうちに、関係が浮かび上がってきた、という説がある。スギヒラタケは、ある日突然毒キノコになったのではなく、もとから毒持ちだったけれど、みんな気づかずに食べていた、ということなのか? そして今はもう、食べれらない。


☠️7 殺しの天使

©izawa masana/Nature Production /amanaimages

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ドクツルタケ
森に映える真っ白なキノコ。こんな美しい佇まいだけど、もっとも危険なキノコのひとつで、別名は「殺しの天使」。1本(約8g)食べただけでも命を落とす。食後6~24時間程で胃腸系の中毒症状が出て、しかも一旦収まったかのように装い油断させておいて、数日後には肝臓、腎臓を破壊していく。適切な処置をしないと、1週間後には死に至る。


☠️8 猛烈に危険! 近づいちゃダメ

©izawa masana/Nature Production /amanaimages

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カエンタケ
カエンタケもドクツルタケと同じく超恐ろしいキノコ。見目の美しいドクツルタケとはちがい、赤くてニョキニョキしていていかにも不気味。以前はそれほど見ないキノコだったけれど、最近は増えてきているらしい。カエンタケの恐ろしいところは、ほんの3gで致死量になり、しかも触っただけでも汁で皮膚がただれる。近づいちゃダメ、絶対。


☠️9 苦しいほどの大騒ぎ

©yanagisawa makiyoshi/Nature Production /amanaimages

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ワライタケ
馬や牛のフンなど、養分たっぷりなところに生えるわりには、ヒョロヒョロと線が細くて頼りなさそうな風貌。おいしそうには見えないので誤食の例は少ない。しかし口にしたら中枢神経系の中毒を起こし、大騒ぎしたり笑ったり異常な興奮状態に。この大騒ぎは1日程で回復するとのことだけれど、かなり苦しいという話もある。これだけ興奮するのにはわけがあり、なんと幻覚症状を起こす麻薬成分を含むらしい。そのため法令で採集、所持、販売などが禁止されているとのこと。


☠️10 鑑賞にはうってつけ

©yanagisawa makiyoshi/Nature Production /amanaimages

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ニカワホウキタケ
なんだか海のサンゴみたいで、かわいらしい和み系毒キノコ。小さいけど鮮やかな黄色で、薄暗い森でも目立った存在。弱いけどちゃんと毒があり、頭痛やめまいなどの中毒症状がある。

 


主な参考・引用文献
毒きのこ 世にもかわいい危険な生きもの』(新井文彦 写真、白水 貴 監修、ネイチャー&サイエンス 構成・文/幻冬舎)
おいしいきのこ毒きのこハンディ図鑑 』(大作晃一、吹春俊光 著/主婦の友社)
Gakkenフィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ』(長沢栄史 監修/学研)

Profile
Writer
室橋 織江 Orie Murohashi

NATURE & SCIENCE 副編集長。「山菜採りがさかんな山間で育ったので、キノコは身近な存在でした。子どもの頃、山で採ったキノコに見慣れないものがあると、父は図鑑で入念に調べ詳しい人に聞き、そして食用と判断できると、自分が一番先に食べて大丈夫だと確認してから家族に食べさせていました。そうまでして食べたい、それがキノコなのです」

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