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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
コケは、植物の仲間?

コケは、植物の仲間?

『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ

編集・構成/田中 いつき

©MASAHIRO MORIGAKI/a.collectionRF /amanaimages

梅雨の時期に生き生きとしだすコケ。タンポポのような草花や、サクラ、マツなどの樹木とはちょっと様子が違うようです。コケは植物なのでしょうか? どんな暮らしをしているのでしょうか? NATURE & SCIENCE が手がける『PETiT PEDiA にほんの植物』(アマナイメージズ)の掲載記事から再構成してお届けします。

湿った日陰が好きなわけ

コケは、立派な植物です。

ただし、タンポポのような草花や、サクラ、マツなどの樹木とは生活の仕方が大きく異なります。コケ植物は花を咲かせず、種子をつくる代わりに、胞子をつくって増えます。

日陰で水分の多いところを好むため、日本中で見かける © Michael Runkel / Alamy /amanaimages

日陰で水分の多いところを好むため、日本中で見かける
© Michael Runkel / Alamy /amanaimages

また、水や養分を運ぶ管である維管束(いかんそく)*1 を持っておらず、根もありません。根のように見えるのは仮根(かこん)と呼ばれるもので、体を地面に固定する機能を持ちますが、維管束がないため、水を体まで送ることができないのです。

そのため、水分を身体の表面から取り入れる必要があり、日陰の湿ったところに生えるのです。

*1 維管束(いかんそく)

植物の体にある水の通り道である道管と、養分の通り道である師管からなる組織。


 
維管束のある種子植物と比べると、コケ植物の体のつくりは簡単で、原始的であると言えます。

コケの体は「配偶体」と呼ばれ、雌株と雄株に分かれています(ただし、雌雄同株もあります)。

ゼニゴケ 木の芽のように立ち上がっているのが生殖器。背が高く切れ込みがあるのが雌株の生殖器である雌器、背が低く丸いのが雄株の生殖器である雄器(写真右下の3つなど) © Gakken /amanaimages

ゼニゴケ 木の芽のように立ち上がっているのが生殖器。背が高く切れ込みがあるのが雌株の生殖器である雌器、背が低く丸いのが雄株の生殖器である雄器(写真右下の3つなど)
© Gakken /amanaimages

雄株の配偶体から伸びる生殖器の雄器では精子がつくられます。精子が雌株の配偶体から伸びる生殖器の雌器にある卵細胞まで届くと受精します。受精すると受精卵は成長して「胞子体」になります。胞子体から胞子が出てきて、その胞子がまた配偶体へと成長していきます。

ゼニゴケの雌器の裏側。胞子は蒴(さく)と呼ばれるカプセル状の器官に収められており、蒴が裂けることで外に飛び出す © Gakken /amanaimages

ゼニゴケの雌器の裏側。胞子は蒴(さく)と呼ばれるカプセル状の器官に収められており、蒴が裂けることで外に飛び出す
© Gakken /amanaimages


種子は一般的に内部の胚乳に発芽のための栄養を蓄えていますが、コケの胞子に栄養分は含まれていません。このことからも、コケ植物が原始的な植物であることがわかります。

そうは言っても、コケ植物が種子植物より劣っているわけではありません。種子植物は乾燥してしまったら枯れるしかありませんが、コケ植物は休眠してやり過ごし、次の雨のシーズンを待ちます。

また、質より量とばかりに、大量の胞子を飛ばし、その勢力を広げていくのです。特にゼニゴケは生え方のしつこさから、ガーデニング愛好家からは厄介者扱いされることも。

その理由の一つとして、ゼニゴケは無性生殖*2 をすることも可能だからということがあります。

*2 ゼニゴケの無性生殖

体の表面に杯状体(はいじょうたい)という器官をつくり、その中に無性芽(親の体と同じ遺伝子情報を持つクローン繁殖体)を形成し、早いスピードで繁殖する。2019年に神戸大学等の研究グループにより、ゼニゴケの無性芽の発生を開始するために重要な KARAPPO 遺伝子が発見されている。
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2019_10_11_01.html


コケを愛でる文化

京都三千院の庭 コケは日本庭園の重要な要素 © Robertharding/Masterfile /amanaimages

京都三千院の庭 コケは日本庭園の重要な要素
© Robertharding/Masterfile /amanaimages

「水があるところならどこへでも!」とばかりに勢力を広げるコケ。日本の温暖多湿な気候はコケの生育にぴったりで、全国で見かけるため、コケを愛でる文化が生まれました。日本庭園や盆栽ではコケを含めて栽培することもあります。

「苔寺」として有名な京都の西芳寺では、120種類ものコケが生えているといわれています。

西芳寺(苔寺)  © MASANOBU HIROSE/SEBUN PHOTO/amanaimages

西芳寺(苔寺) 
© MASANOBU HIROSE/SEBUN PHOTO/amanaimages


寺院やお屋敷の庭園は訪問する場所ですが、自宅で日常的にかつ、手軽にコケを楽しむ方法として、苔玉やコケテラリウムがあります。

苔玉 © SOURCENEXT CORPORATION /amanaimages

苔玉
© SOURCENEXT CORPORATION /amanaimages

苔玉は泥団子に木や草を植え込み、コケを巻き付けます。たっぷりと水やりしていくうちに、全体が調和していき、風情のある観葉植物となります。

コケテラリウムはコケを水槽やガラス容器など、透明な容器の中で育てます。コケそのものの生態を楽しんだり、ミニチュアの庭園を造って楽しんだりします。


これはコケ? コケじゃない?

ところで、これはコケでしょうか?

地衣類がこびりつく桜の幹 © yonehara keitaro /a.collectionRF /amanaimages

地衣類がこびりつく桜の幹
© yonehara keitaro /a.collectionRF /amanaimages

コケが生えているように見えますが、これはコケの仲間ではなく、植物でもありません。これは、実は菌類と藻類が共生した「地衣類(ちいるい)*3」です。

地衣類には「○○ゴケ」と名がついていることも多く、紛らわしいのですが、まったく異なる生き物です。コケ植物は自力で光合成をしますが、地衣類は菌類と藻類が協力しあって生活します。菌類は藻類に生活の場と水分を与え、藻類は光合成をして菌類に栄養を与えます。

*3 地衣類(ちいるい)

藻類と共生し、特殊な栄養獲得形式を確立した菌類。家にあたる構造を菌類が作り、菌類ができない光合成を藻類が行うことで、お互いに補いあった生活をしている。


 
では、こちらはどうでしょう?

クラマゴケ © Yutaka Isayama/a.collectionRF /amanaimages

クラマゴケ
© Yutaka Isayama/a.collectionRF /amanaimages

こちらも名前に「クラマゴケ」とコケが入っていますが、実はシダ植物です。シダ植物はコケ同様に胞子で増えますが、根も維管束も持った構造をしています。


最後に、こちらはどうでしょうか?

スギゴケの仲間 © arc image gallery /amanaimages

スギゴケの仲間
© arc image gallery /amanaimages

これはスギゴケの仲間で、正真正銘のコケです。樹木のスギの稚樹(ちじゅ)*4 のように見えるので名付けられたスギゴケですが、似すぎてスギに間違えられることもあるようです。その美しさから苔庭やテラリウムに人気のコケです。

日の当たる場所が好きというちょっと意外なコケですが、やはり水分が大好きで、乾燥すると葉を閉じ、水が来るのを待っています。

*4 稚樹(ちじゅ)

木の赤ちゃんのこと。植物は生えたては成木と異なる特徴を持つことが多いので、何の樹木かを見分けるのが難しい。


 
雨で憂鬱になることも多い梅雨時期ですが、コケにとってはベストシーズン。生き生きと暮らしています。足元で元気に暮らすコケたちの姿を観察してみてくださいね。


この記事の元になった本は……
プチペディアブック「にほんの植物」(アマナイメージズ)
植物のステージであるたねや実、発芽、生長、開花、枯れの5つの章に分けて、さまざまな疑問と解答を紹介しています。取り上げた疑問はトリビア的なものではなく、植物の全体像を知るための近道となるものです。ぜひ、お子さんと一緒にコミュニケーションしながら読んでみてください。好奇心を育み、植物に興味を持つきっかけとなるはずです。 
http://petitpedia.jp

[企画・編集]ネイチャー&サイエンス
[監修]小林正明(元飯田女子短期大学教授)[文]大地佳子
[判型]B6変 
[ページ数]152ページ
本体価格 ¥1,400(+税)

Profile
Editor
田中 いつき Itsuki Tanaka

フリーランスライター。東京農業大学卒業後、自然体験活動に従事。2014年よりフリーランスライターに。ライフスタイル、エンタメ、レシピ作成記事などを執筆。ペーパー自然観察指導員(日本自然保護協会)。「目で眺めるのもいいですが、コケはぜひ触って、チクチク、フワフワ、ホワホワなどの感触を楽しんでください。汚れた手は洗えば大丈夫ですよ」

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