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AIとロボットが 農業を担う日 企業探訪⑤inaho

AIとロボットが
農業を担う日

シリーズ・企業探訪⑤inaho

インタビュー・文/長谷川 敦
編集/箱田 高樹(カデナクリエイト)
写真/高橋 郁子

アスパラガスやキュウリといった野菜の生産者は、農作業全体の約6割もの時間を収穫作業に奪われることをご存知でしょうか? それは、一つひとつの大きさや成熟度などを目で見て、収穫の適期かを判断して穫る手間があるからです。「人の代わりにロボットが収穫を担うことで、農業の課題を解決できる」とアスパラ収穫ロボットの実用化を目指すスタートアップ企業「inaho(イナホ)」の菱木 豊さんは言います。ロボット開発に至った意外な経緯とは? またinahoが拓(ひら)こうとする農業の未来像とは?

キツい収穫作業からの解放

日本の産業で最も高齢化が進んでいるのが、農業だ。

農業従事者の平均年齢は現在、約67歳。新規就農者が入ってこないかぎり、農業の将来は“じり貧”になるばかり。状況を打破するには、農業を「自分もやってみたい!」と多くの人から思ってもらえる魅力的な産業にしていくしかない。

その有効な解決策として期待されているのが、これまで人の力で収穫していた野菜やくだものを、AI搭載のロボットが自動で獲ってくれる「収穫ロボット」である。

2〜3年かけて大きく育てられたアスパラガスの株の間を縫い、試験走行するinahoの自動野菜収穫ロボット

仕組みはこうだ。

キャタピラを持つロボットが、圃場(ほじょう)*1 を自走。まず内蔵の装着されたカメラが圃場に無数に生えているアスパラガス*2 を捉える。捉えたアスパラの画像は、ディープラーニング(AIの深層学習)による画像処理技術によって、正確な位置や現在の長さが測定される。

それだけでなく、収穫適期を迎えているかで選別され、収穫に適したアスパラを赤外線センサーで位置情報もとりながら、前上部に付属するロボットアームで摘み取ってカゴに入れていく、というわけだ。

*1 圃場(ほじょう)

農産物を育てる場所。田、畑、果樹園、牧草地などを指す。

*2 アスパラガス

単子葉植物に属するユリ科(もしくはクサスギカズラ科)多年生草本植物。食用と観賞用に栽培される品種がある。食用のAsparagus officinalisは、ギリシャ語の「非常に分枝する(Asparagus)」と「薬用になる(officinalis)」が語源。和名ではオランダキジカクシとも言い、成長すると細かく切れた葉に見える茎(本来の葉は鱗片状に退化している)が、雉が隠れられるほど生い茂ることに由来する。原産は地中海東部。江戸時代にオランダ船から鑑賞用として日本にもたらされ、明治になってから食用に導入された。収穫できる株に仕上げるまでには2〜3年かかり、株の根元から新たに長さ25cmくらいまで伸びてきた柔らかい茎を食用にする。土寄せして軟白栽培(暗黒下または弱光下で生育)した白いものをホワイトアスパラガス、土寄せせずに育てた緑色のものをグリーンアスパラガスと呼び分ける。


農作物の中でも、稲やジャガイモなどはすでに機械による自動化が進んでいる。一括収穫できるので自動化技術を導入しやすかっためだ。

しかし、ナスやピーマン、キュウリ、アスパラガス、トマトなどは違う。長さや大きさ、形、実の成熟度などから収穫適期かどうかを目で見て判断する必要がある。そのため自動化が難しく、これまでは生産者が手作業で一つひとつ摘むしかなかった。

「この収穫作業が本当に大変なんです。アスパラガスの場合、全体の作業時間の約6割を収穫作業に充てなくてはならない。しかも、ひたすらしゃがんでアスパラガスを摘むだけと単調で、足腰への負担は半端ではありませんから」

こう語るのは、神奈川県鎌倉市に本社を持つinaho株式会社CEOの菱木 豊氏だ。

菱木 豊(ひしき・ゆたか)/1983年神奈川県生まれ。inaho代表取締役CEO。不動産コンサルタント会社に入社し、4年後に独立。2014年に大山宗哉(現COO)らと株式会社omoroを設立。不動産Webサービスを開発運営後、事業を売却。2017年にinaho株式会社を設立し、人工知能による野菜収穫ロボットの開発に取り組む。富士通アクセラレータプログラム「第7期ピッチコンテスト」最優秀賞、ICCサミット「スタートアップ・カタパルト」優勝など受賞歴多数

inahoは2019年9月、アスパラガスの収穫ロボットをサービスイン(提供開始)する見通し。さらに19年度内には、他の野菜の収穫ロボットについても、同様にサービスを開始する予定だ。

「もし、この辛い収穫作業をロボットによって自動化できれば、農家の方は負担と時間が大幅に減らせます。余裕ができた時間を販路の開拓や、おいしくて付加価値の高いアスパラガスの開発といった、より創造的な時間に充てられるようになる。ひいては、農業がもっと面白い仕事になるわけです。それにしても、まさか自分が農業にかかわるようになるとは思ってもいなかったのですが(笑)」


「今ならAI」。テクノロジーから手探り

inahoは、代表取締役CEOの菱木氏と、COOを務める元チームラボで事業開発を担当していた大山 宗哉氏が、2017年に設立したスタートアップ企業だ。

菱木氏は調理師専門学校を卒業後、不動産コンサルティング会社に入社。その後、不動産Webサービスの会社を立ち上げる(現在は売却)といった経歴をもち、農業とは無縁のフィールドを歩み続けていた。

そんな菱木氏が、日本の農業の未来を切り拓く可能性を秘めた自動野菜収穫ロボットの開発に、なぜ踏み出すことになったのだろうか。

「次にくる時流はなにか? ざっくりとしたところから始まったんですよ」

坂本龍馬から孫 正義まで、歴史、ビジネス、政治を問わず、過去の偉人の本を読むのが好きだった。すると1つの共通点が見えた。一人ひとりのアイデアや個性、成果はバラバラでも偉人たちは皆、必ずタイミングよく「時代の潮流」に乗っていた。

「坂本龍馬があと50年早く生まれていたら、あそこまで活躍できなかったはず。時代の波にあわないと、どんな能力があっても意味がない。じゃあ、今のるべき波は、次にくる時流はなにか? と考えると……」

それが、AI(人工知能)だった。PC、モバイル、インターネット、スマホ。テクノロジーのスピーディーな進化は、今や見逃せない時流なのは間違いない。では、少し先の未来にもっともインパクトを残すテクノロジーといえば、あきらかにAIと確信したわけだ。

そこでITジャーナリストの湯川鶴章氏が運営していた勉強会「湯川塾」の事務局に関わるなどして、まずAIの最先端の専門家たちから話を聴く機会を得た。AIに関する最新の知識を得るうち、その可能性に確信を抱いたという。だが、「では自分はAIを使って何がしたいのか? 何ができるのか?」については、なかなか着想を得られずにいた。

そんなとき、農業と出会った。

「地元の鎌倉で、鎌倉野菜を作っている農家の友人と一緒に飲む機会がありました。話し込むうちに『AIで何ができるかを探しているって? だったら、うちの畑の雑草をAIで抜いてくれるロボットがほしいなあ』と反応が返ってきた。『そうか、雑草か』とピンときて」

思ったらすぐに行動に踏み出すのが、菱木氏の最大の強みだ。さっそくその友人に頼んで、畑の雑草抜きの作業の手伝いをさせてもらった。これが予想以上に重労働。「確かにこの作業を人がやるのは大変だ」と実感した。AIの画像認識技術を用いれば、画像で野菜と雑草を判別したうえで、アームで雑草だけを抜くロボットを作ることは十分に可能なはずだ。

ただ、その後すぐに「雑草とり」は「アスパラ穫り」へと方向を変えた。

「アスパラ農家の方と出会い、『雑草を抜くロボットを作ろうとしている』と話すと、その方から言われたんです。『菱木さん、雑草を抜く技術が可能なら、うちのアスパラのほうをぜひ穫ってくれ』と」

農家にとって雑草を抜く作業が発生するのは、数か月に1回程度。一方でアスパラガスはシーズンの8か月間、ほぼ毎日収獲作業が行われる。アスパラの栽培では、農作業全体の6割近くの時間を収穫作業が占めるのもこのとき知った。だからこそ「雑草を抜くことよりもアスパラガスの収穫作業のほうが、はるかに大変だ」とその生産者は言ったのだ。

菱木氏はここでも持ち前の行動力を発揮。さっそくその農家を訪ねてアスパラガスの収穫作業を手伝わせてもらった。「確かにこれを毎日続けるのは大変だ」と実感した。

「こうして『AI×アスパラ収穫』が重なり合いました。僕の目指す時流はここだと」


トライ&エラーで精度向上

まずはいつもの“現場でのヒアリング”から詰めていった。

アスパラガス農家の間で収穫ロボットに対するニーズがどの程度あるかを把握するため、ネットや雑誌記事、ハローワークの求人情報などで生産者を調べ、電話でアポイントをとって訪問した。全部で40~50軒程度の農家を訪ねたという。

「実績はまったくないし、そもそも農業のこともよく知らない状態。ところが、そんな僕が突然電話をかけても、断る農家はほとんどなく、快く迎え入れてくれました。そしてアスパラガスの収穫がどのようなもので、どんな課題を抱えているかを丁寧に教えてくれたんです。つまり、それだけ農家のみなさんが、収穫作業の負荷を軽減してくれる技術を切実に求めていた。それをひしひしと感じました」


現場でのヒアリングをもとにして、inahoの自動野菜収穫ロボットには大きく3つのテクノロジーが搭載された。

まずは「自律運転」だ。

アスパラ農場内を自動で動いてくれなければ、人に変わって収穫するのもままならない。そこで、まずボディーはビニールハウス農場の畝間(うねま)を安定走行できるようコンパクトなサイズのロボットを作り上げた。

試験走行するinahoの自動野菜収穫ロボット。前方のカゴに収穫したアスパラを入れる

アスパラが生えた畝の間を自動的に走らせるため、当初はGPSなどでの誘導も考えたが、幅の狭いアスパラ農場では精緻なコントロールは難しい。そこで、畝間のルートにあらかじめ白いラインを敷いて、ボディ底部のカメラがラインを読み取って走るシンプルな仕組みにした。


2つ目のテクノロジーが、前出の「AIによる収穫対象の見極め技術」だ。

あらためて、アスパラガスの収穫タイミングは地域や農家によってさまざま。圃場の中で、無数に、不規則に生えているアスパラの中でも、この収穫対象となったアスパラのみを見つけ出し、選別する必要があるわけだ。

「この選別をディープラーニングによる画像認識でおこないます。『収穫どきのアスパラ』か『まだ収穫すべきではないアスパラ』か、区別するわけです。自動運転のクルマが採用している仕組みに近いです。自動運転車の場合は人、これは電柱、あちらは空……といった具合にAIが探知して、走るべき道、避けるべき対象を見つけて走る。ただ、アスパラガスは人や電柱に比べて、ずっと小さいですからね。技術的にはとても大変で、今もブラッシュアップを続けています」

AIによる画像認識、狭い農場内を走る自律運転、それにロボットアームなどのテクノロジーを連携させるため、いまも日々、細かなチューニングを重ねている


3つめのテクノロジーが、アスパラを収穫するための「ロボットアーム」だ。

画像センシングで収穫タイミングのアスパラを見つけたら、今度は赤外線センサーと併用させながら、そのアスパラの位置を測定。ロボットに取り付けられたロボットアームが、正確にそこまで伸びて、対象(アスパラ)をつかむ。そしてハンドの下部についた「カッター」がアスパラを根元から伐採して、ロボットの後ろにあるカゴに運び込んで、収穫終了となる。

このロボットアームは、当初、医療用ロボットアームを手掛ける大学研究室と組み、開発を進めていた。ところが、空気圧で動いていたため、農地で使うと土煙が上がってしまい、アスパラを認識するセンサーに悪影響を与えることがわかった。

「そこで急遽、内製することにしました。むしろ、モーターで制御するシンプルなカタチに変更したのです。アスパラという硬い野菜の収穫なので、空気圧で制御するような“柔らかさ”は必要なかったことが幸いしました。センシングした情報とアームの制御の連動性は、やはり日々、現場で精度を上げているところです」

inahoで内製したロボットアーム


こうした自律型ロボットによる代替作業は、今やさまざまな工場などで進んでいることを考えると、「そんなに難しい技術ではないのでは?」と思われる方もいるかもしれない。

ところが、屋内で環境が一定となる工場とは大違いの難しさがあった。

「農作業は太陽の下で行いますからね。太陽の光や雲の厚さは、30分もしないうちに刻々と変わる。センシングするためのカメラレンズを通したときの畑やアスパラガスの見え方も、それに伴って短時間でまったく変わります。そんな中で安定的にアスパラガスの位置や長さを測定し、収穫適期のアスパラガスを選別するのは、とても大変なんです」

解決のヒントは、やはり現場にあった。

inahoの自動野菜収穫ロボットは、導入実験をしている畑にパソコンを持って出かけて行き、トライ&エラーを繰り返す中でセンシングと収穫の精度を向上させている。さらに正確なデータを取るために、ソフトウェアの改善を図っただけでなく、カメラやセンサーについてもこの1年間で7~8種類は変えてきたという。

もっとも、菱木氏自身はエンジニアではない。だから当初は大学の研究者などの協力を得ながら開発を進めていたわけだが、やがてソフトウェア、ハードウェアの両方のエンジニアがinahoに集ってきた。自動野菜収穫ロボットの普及が、日本の農業を変えるかもしれないことに魅力を感じてのことだった。

「当社のエンジニアの中には大企業出身者も少なくありません。僕らは小さなスタートアップですが、まだ世の中に存在しないことをやろうとしている。確実に喜んでもらえる人がいるサービスです。そこにやりがいを見出して、飛び込んできてくれる人が多いんです」

鎌倉にある築100年の古民家を改装したinahoのオフィスに集うスタッフたち。ハードウェア、ソフトウェアのエンジニアを中心に、精鋭が揃う

結果、当初と比べ、ロボットの精度は大きく向上した。2018年10月、最初にデモンストレーションを行ったときには、収穫適期になったアスパラガスのうち、5割程度しか収穫できなかった。それが現在では、約8割にまで改善している。収穫にかかるスピードも、以前は30秒間で1本程度だったが、現在では15秒間で1本程度にまで短縮された。

もちろん精度は今後も高めていく必要がある。inahoの自動野菜収穫ロボットは収穫成功率100%に達していない。だが、菱木氏は、あえてこの製品を市場に投入することを決断した。

なぜか――? その理由は、同社の収益化のモデルとも関係していた。


ロボットは販売しない

自動野菜収穫ロボットの研究開発を手掛けているのは、何もinahoだけではない。大学を中心に、20年以上前から研究開発を進めている研究室は多かった。ただし、膨大な開発コストが、実用化を阻む大きな壁としてあった。

「つい数年前までロボット1台あたり2,000万円~3,000万円はかかりました。開発コストが高ければ、当然販売価格も高額になる。これでは一般の農家に普及するはずがありませんよね」

ところがinahoが収穫ロボットの開発に着手し始めたころから、ロボット製造に必要な部品の値段が大きく下がり始めた。例えばセンサーは、つい2年前まで1台25万円程度していたものが、今や1台5万円にまで下がった。しかも2年前のものより性能が良くなっている。結果、inahoでは1台数百万円程度の販売価格で収穫ロボットを農家に提供できる目処がついた。

「これこそタイミングですよね。少し前ならロボットそのものが高すぎて、ビジネスとして成り立つ道筋が見えなかったはず。2年で5分の1程度まで下がったのは大きい。ただ……」

菱木氏には「それでも高い」と感じていた。アスパラガス農家に収穫ロボットをプレゼンすると、8割が「ぜひほしい」と答えてくれた。気になったのは、残り2割。彼らはロボットに関心がないわけではなかった。菱木氏は、ある65歳を超えた農家の人が呟(つぶや)いた言葉が耳に残っていた。――俺もこのロボットを使ってみたい。けれど、この歳になって、今からそんなにお金をかけて購入するのは厳しいんだよ……。

「農業を続けるのはもうあと数年」と考えている農家にとって、600万円は実に高額だった。投資を回収するだけの時間があまり少ない。

「超えなきゃいけない壁、でしたね」

また、収益化のモデルを組み立てるにあたり、もう一つ考えなくてはいけないことがあった。収穫ロボットを数百万円で販売すると、当然、農家は「少なくとも10年程度は、たいした故障もせずに使い続けられるものであること」を求めてくる。大手農機具メーカーから農機具を購入するときと、同レベルの保証を要求してくるからだ。

しかしinahoにとっては、これが初めての製品開発。大手農機具メーカーとは、蓄積された知見が違う。「10年後も故障せずに動き続けているか?」と問われても、自分たち自身だってよくわからない。

ではどうするか。


答えはいつも、現場で見つかる

半年以上モヤモヤと考えて続けていた菱木氏が、ある日思いついたのが、売り切り型をやめて「サービス型にしよう」ということだった。

「そしてRaaS(ラース)というモデルを思いつきました」

inahoが採用した「RaaS(Robot as a Service)」というビジネスモデル。ヒントとしたのは「SaaS(Softwear as a Service)」*3だ。

*3 SaaS(Softwear as a Service)

クラウドコンピューティングサービスを使い、これまで個々に販売していたソフトウェアをサービスとして提供するモデル。月々の定額料金や使った分だけのマージンを払えばサービスを活用できるため、初期投資を抑えられるのが特徴。ビジネスチャットの「Slack」やオフィスソフトの「Office365」、定額動画配信の「Netflix」などがその代表。

「農家は収穫ロボットを購入するのではなく、レンタルする。僕らinahoは、アスパラガスの収穫量に応じて農家からマージンを受け取るわけです」

これにより農家は、ロボット導入の初期費用を低く抑えられる。「今からそんなにお金をかけて購入するのは厳しい」と呟いていた農家の人でも、導入が可能になるわけだ。

inahoが実践するビジネスモデル「Raas(Robot as a Service)」の概要図

一方、inahoにとっては、ロボットを販売するのとは違って、長期保障をする必要はない。故障をしたときに交換すればいいし、ハードもソフトもテクノロジーの進化に伴ってバージョンアップして切り換えていくことも可能だ。

「しかも完成品である必要もない」と菱木氏は言う。

農家の人たちは、今すぐにでも収穫ロボットがほしいと思っている。ならばまずは現場で使ってもらい、改善点が出てきたらその都度対処していけばいい。そのほうがPDCAサイクルを早く回すことができる分、開発のスピードアップにもつながる。確実に品質も向上する。

「そのためにも導入先から連絡があれば30分以内に『アグリコミュニケーター』という社員が現場にかけつけ、故障したロボットの交換や修理をすぐに手掛けるしくみを構築します。予定では2022年までに全国に数十支店までは増やしたい」


その先に掲げる夢

菱木氏は自動野菜収穫ロボットの今後に対して、どのような展望を抱いているのだろうか。

まず構想しているのはアスパラガスのみならず、キュウリ、トマト、イチゴなど人が目で見て収穫適期を判断している野菜やくだものを、すべてロボットで収穫できるようにしていくこと。ロボットによる収穫が、当たり前になる時代を作りたいと考えている。

「人手不足が深刻なため、規模を拡大したくてもできない農家が多い現状があります。でもロボットを導入すれば、少人数で農作業できるようになる。つまり、より多くの作付けができるようになるわけです。農家の方々の所得増に貢献できます」

また自動野菜収穫ロボットは、日々、農作物の成長過程をデジタルデータ化することになる。このデータが収穫の簡便化以外にも、大きな価値を生むかもしれない。

例えば野菜が病気になったとき。その野菜をセンシングすることで積み上げられたデータをさかのぼれば「病気になる予兆がどのように現れるか」が見えてくるに違いない。それをAIでさらに解析していけば、病気の予防策が見えそうだ。これがイノベーションへの種になる。

そして菱木氏には、実はもう一つ大きな夢があるという。

「僕の理想は、多くの人が仕事の苦役から解放される社会を作ることです。AIやロボットによる自動化によって生まれた時間で、人はより創造力を発揮できる。人の選択肢や可能性が拡がると考えています。人々を単純労働や重労働から解放する自動野菜収穫ロボットが、そういう社会を作り出すための第一歩になればいいと思っています」

農業をよりクリエイティブで楽しい仕事にしていくこと。

さらに世の中をもっと楽しく、クリエイティブにしていくこと。

それこそが菱木氏が目指す、実り多き未来だ。


Profile
Writer
長谷川 敦 Atsushi Hasegawa

編集プロダクション勤務を経て、フリーライターになってから約25年。著書に『日本と世界の今がわかるさかのぼり現代史』(朝日新聞出版)。「ライターとしての主戦場は歴史、ビジネス、教育などの分野ですが、農業関係の雑誌の取材で生産者さんの方のところにお邪魔する機会も多く、inahoさんの取り組みには注目しています」

Photographer
高橋 郁子 Ikuko Takahashi

暮らしやアウトドアの分野を中心に撮影するフリーランスフォトグラファー。「足腰に負担のかかる山岳写真もそのうちAI搭載ロボットが撮影してくれるようになるのかなあ」
http://www.ikukotakahashi.com

Editor
箱田 高樹 Koki Hakoda

株式会社カデナクリエイト所属。ビジネスマン向けの媒体を中心にライティング・編集を手掛けている。著書に『カジュアル起業~”好き”を究めて自分らしく稼ぐ~』、共著に『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』など。「inahoがユニークな起業家を多く排出する“鎌倉“発なことも興味深いところでした」
http://www.cadena-c.com

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