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Series 連載
植物由来のインキで低炭素社会を彩る 企業探訪②東洋インキグループ
植物由来のインキで
低炭素社会を彩る

企業探訪②東洋インキグループ

文/箕輪 弥生

私たちがインキを使った製品と聞いて、まず思い浮かぶのは雑誌や書籍に使うオフセット印刷用インキでしょうか。しかし、インキは印刷物だけではなく、世の中のさまざまなものに使われています。創業から120年以上を誇る東洋インキグループで、インキの基本原理から植物由来のバイオマス原料など、環境対応技術を活かした最新の展開までを伺いました。

 

フロンティアスピリッツの系譜

東洋インキグループ(以下、東洋インキ)の製品は食品パッケージなどの各種容器や包装から、おもちゃ、クルマ、家電、家具にいたるまで、私たちの生活のあらゆるところに及び、いわば“色の着いたものほとんどすべて”に関わっています。

その中でも意外なのは、テレビや携帯電話の液晶ディスプレイ。同社グループの液晶カラーフィルター用のインキ(レジストインキ)によって、私たちはカラフルな画像を見ることができるのです。

液晶ディスプレイも実はインキ製品
©️Ingram Image /amanaimages

また、インキの成分である樹脂の技術を使って、紙おむつ用の粘着テープや医療用のテープなど接着剤の技術も開発し、それらは数多くの製品に使われています。

1896年創業と120年以上の歴史を持つ同社は、創業者の小林鎌太郎が手作りのインキを売っていた時代から始まり、今では国内インキシェアでトップに。海外でも50の製造拠点を有する企業にまで成長しました。その背景には、積極的に新しい海外の技術を導入し、それを国内向けにさらに進化させた製品開発に取り組むという、フロンティアスピリッツがありました。

創業当時、東京・京橋にあった本社(提供:東洋インキグループ)


こうしたチャレンジ精神から生まれた製品のひとつが樹脂型のインキです。戦後間もない時期、いち早く樹脂型インキの開発に取り組んで国産化に成功します。樹脂型インキは色鮮やかな色彩と光沢を持つほか、耐摩擦性にも優れ、その基本的な組成は現在のインキの元となっています。この樹脂開発で得た技術ノウハウは、接着剤や塗料を始めとする東洋インキのさまざまな製品群へと発展していきました。

時代の変化に応じて単に高性能化するだけではなく、環境への対応や、安心・安全なモノづくりへとマーケットのニーズは変遷していきました。いち早く新しいことを取り入れ、チャレンジする精神は、今も同社に脈々と流れています。


お話を伺ったみなさん(左から)
東洋インキ株式会社 技術センター テクニカルソリューションセンター センター長 細井 功さん
東洋インキ株式会社 グローバルビジネス本部 ITプロモーション課 武井 大介さん
東洋インキSCホールディングス株式会社 グループ広報室 水谷 真由美さん


技術力で植物由来のインキを主流へ

ところで、インキがどのようなもので構成されているかご存知でしょうか?

例えばチラシや雑誌に印刷されるオフセットインキでは、一般的に色を表現する「顔料」に、紙など色をつける側のモノにしっかりと定着させるための「樹脂」、空気中の酸素と重合しインキを固める「植物油」、インキの粘性をコントロールする「溶剤」などを加えて作ります。これらがインキ構成の4要素です。

使用する顔料は、無機顔料(鉱物を主成分とする顔料)から有機顔料(有機化合物を主成分とする顔料)に主流が変わりました。樹脂については、松から得られる天然成分(松ヤニなど)を利用しています。

©️VGL/a.collectionRF /amanaimages

そして今、インキを構成する4要素のうち最も注目されているのが、「溶剤」の環境対応です。インキ中の溶剤は、印刷中と印刷後に空気中へ揮発するため、環境調和の観点から石油系溶剤を含まないインキへの変革が求められてきました。

さらにアメリカで1989年にVOC(揮発性有機化合物)規制が始まったことで、東洋インキは環境調和の精神から、いち早く無溶剤型のNonVOCインキを世に送り出しました。

90年代には石油のように将来枯渇しない原料である大豆油を使ったインキを開発。日本でも一時期は大豆油インキで印刷された書籍が流通しましたが、その後、原料調達を非食用分野で多様化させる配慮から、さまざまな種類のベジタブルオイル(植物油)の活用に至っています。

ベジタブルオイルのひとつ、ヒマシ油は「トウゴマ」という植物の種から採取される©️anazawa/a.collectionRF /amanaimages

国内向けには日本で調達しやすいベジタブルオイルとして、精米時に出る「米ぬか油」を主原料とした「ライスインキ」を開発しました。

さらに、油を抽出した後に残った脱脂米ぬかを家畜の飼料として使う循環型の仕組みや、地産地消の仕組みも作り出しました。このライスインキは大手学習塾の印刷物でも採用され、子どもたちが学ぶ場で活用されています。

米どころの東北地方などで多く排出される、米ぬか。東洋インキでは地元東北の企業で「米ぬか油」を抽出してライスインキを作った。東日本大震災からの復興にも貢献したことから、第21回地球環境大賞「経済産業大臣賞」など、さまざまな賞を受賞
©️ Mitsushi Okada/orion /amanaimages

世界的な人口増加から、何十年後かには食糧危機が来ると言われています。サスティナブル(持続可能性)の観点から東洋インキが着目したのが、給食や外食産業から出る廃食油でした。捨てれば産業廃棄物ですが、精製してインキに使うことで資源を無駄にせず再利用できます。

米ぬか油も廃食油も、当初は「これまで使用してきた原料に比較すると印刷性能が低下するのでは?」という恐れもありましたが、東洋インキでは印刷性能を損なうことなくインキ原料として使うことに成功。この再生植物油が今では同社の油性インキのほとんどに使用されています。


バイオマス原料はCO2削減にも貢献

東洋インキでは、植物由来の資源である「バイオマス原料」が4割を超える製品も多く、ラインアップされたオフセット印刷用インキのほとんどがバイオマス製品になっています。

オフセット印刷用インキ製品(提供:東洋インキグループ)

植物由来のバイオマス原料では、植物が成長過程でCO2を吸収しているため、廃棄の際に焼却でCO2を排出した場合でも、全体のCO2排出量は差し引きゼロ(カーボンニュートラル)に近くなると計算しています。また、遠くの国で掘り出して輸送する石油を使うより、近くで入手できる植物や廃棄油を使った方が、原料を調達・運搬する際のCO2も大幅に削減できます。

同社ではオフセット印刷用インキのほかにも、包装用のグラビア印刷用インキ、フレキソ印刷用インキ、ラミネート接着剤、ホットメルト接着剤(熱を加えて接着する接着剤)などでもバイオマス製品を増やしています。

©️Cavan Images /amanaimages


クリエイター向けに環境調和型インキも開発

低炭素社会の実現を目指し、インキの環境配慮やCO2削減をあらゆる観点から追求する東洋インキ。同社の「UV硬化型インキ」シリーズは、紫外線に反応してほぼ瞬時に固まり、VOCも出さず、乾燥のために吹きかける熱風のエネルギーを削減します。

紫外線(UV)に反応して定着するUV硬化型インキ製品(提供:東洋インキグループ)

さらに、同社では電子線(EB)で固まる「EBインキ」も開発しています。こちらは食への安全性がより高いため、食品パッケージなどでの用途に期待がかけられています。

電子線(EB)に反応して定着するEBオフセットインキの印刷サンプル(提供:東洋インキグループ)

デザイナーやカメラマンといった色を表現するプロフェッショナルに好評なのが「カレイドシリーズ」と呼ぶ環境調和型の広色域インキです。

一般インキの基本4色に比べて再現できる色域が広いのが特徴で、同社の持つインキ色1,050色のうち900色までを「色材の3原色」*1に黒を足した4色だけで表現できます。

通常はこの数の色を再現するには6色以上の基本色が必要ですが、カレイドシリーズの開発により省資材・省エネルギーを実現しただけでなく、クリエイターが求める鮮やかな色を表現することが可能になったといいます。

従来インキ(写真左)に比べ、よりカラフルな色彩表現が可能なカレイドシリーズ(同中央と右)(提供:東洋インキグループ)


東洋インキは持ち前のフロンティアスピリッツを発揮し、環境調和型のインキのほとんどを他社に先駆けて製品化しています。基礎研究や製品開発を行う技術本部に加えて、全国3カ所の「テクニカルソリューションセンター」がマーケットからの要望を製品に活かす役割を担うほか、大学などの教育機関とも協働して研究開発に力を入れているのも特徴です。

低炭素社会の実現へ向けた「パリ協定」*2の発効後、自社のパッケージや製品包装などに独自の厳しい環境規定を設ける先進的な企業も出てきました。身の周りの製品に数多く使われるインキの環境負荷を抑える東洋インキの取り組みは、さまざまな産業分野にとって、そして私たちの暮らしにとって、非常に大きな影響と意義があるものです。

©️Saha Entertainment/a.collectionRF /amanaimages


*1 色材の3原色

割合を変えて混合することで、さまざまな色を表すことができる基本となる3つの色。青緑(シアン)・赤紫(マゼンタ)・黄(イエロー)からなる。

*2 パリ協定

2015年12月に第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開催されたパリで採択、16年11月に発効した地球温暖化防止に関する多国間の国際協定。長期目標として「産業革命前からの気温上昇を摂氏2度未満に抑えるため、今世紀後半に世界全体で排出を実質ゼロにすること」を掲げ、すべての参加国が5年ごとに削減目標を提出・更新する仕組みなどを規定している。約180カ国が批准、アメリカは離脱を表明している。

Profile
Writer
箕輪 弥生 Yayoi Minowa

環境ライター・NPO法人「そらべあ基金」理事。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に『エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123』『環境生活のススメ』(共に飛鳥新社)ほか。谷中近くでシェアカフェ「フロマエプラスカフェ」も運営。
http://gogreen.petit.cc/

Editor
荒井 正 Tadashi Arai

自然・科学のメカニズムを解明するテクノロジーと、そのテクノロジーを使って研究・開発に携わる人々に興味があります。Webマガジン「NATURE & SCIENCE」での取材を通じて、1人でも多くの方からお話を伺い、彼らの自然・科学に対する思いを読者に伝えられたらと考えています。

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