a

Nature & Science

アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Series 連載
気象×スポーツで考える2020年の東京(前編) 企業探訪①ウェザーニューズ
気象×スポーツで考える
2020年の東京(後編)

企業探訪①ウェザーニューズ

インタビュー・文/神吉 弘邦

気象情報をスポーツの成績向上に役立てることを目指す民間の気象情報会社「ウェザーニューズ」では、これまでオリンピックやパラリンピックなど数々のスポーツ大会の舞台裏で活躍してきた(前編)。予測や観測をさらに高度化して、2020年以降のスポーツ界を見すえた取り組みとは。同社スポーツ気象チームの浅田 佳津雄チームリーダーに聞きました。

明確なシミュレーションのためにサポート

東京オリンピック・パラリンピックに向けて公表できるクライアントに、今のところはどんなチームがありますか?

守秘義務を結んでいる競技については申し上げられないのですが、オリンピックではセーリング。オリンピックとパラリンピックの両方でトライアスロンがあります。

トライアスロン日本代表チームに対して今からできる取り組みとして競技会場の観測データを提供していますが、オリンピックでは予測が重要になります。

コースはお台場、最初にスイム(泳ぎ)で、次がバイク(自転車)、最後にラン。ところどころでポイントを決めて「何時台には何℃だった」というデータを3年分貯めようと、2017年から基礎データを集めています。

ウェザーニューズ スポーツ気象チーム 浅田 佳津雄チームリーダー
2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、トライアスロン競技が行われるお台場で気象データを観測する様子
©Hirokuni Kanki

トライアスロンは2時間かかる競技なので、その間に天気も変化します。最初のスイムでは潮の流れや波の高さによって、泳ぐコースや泳ぎ方を変える。地上に上がってからは、風の変化が重要です。これらの気象データを戦略的に組み込むための情報提供をします。

スイムでは水温が重要ですが、バイクはやはり風。周回コースの両端に観測機を置き、監督やコーチがスマホで風の情報を見られるようにします。

自転車ではどれくらいのスピードでコーナーに入れるかのが勝負で、そこで減速を極力少なくしたい。折り返して9周するうちにコーナーを約20回曲がるとして、そこで1秒ずつ縮められたら、20秒タイムが早まります。

コーナーの風向き、風の強さがわかると「次のコーナーは風は弱いからトップスピードで入って良いぞ」と背中を押せるし、転ぶのが最悪ですから「風向きが悪いからちょっとスピード落として」などと沿道のスタッフからアドバイスできるんです。

数値データだけでなく、映像でも残しておきます。実際にコースをクルマで走って撮るんです。「どこを曲がったら眩しくなるか」「日向と日陰がどこにあるか」といった情報を選手に伝えられる。選手がどういうサングラスを付けるか。どこで給水するのが良いか。シミュレーションをするのに役立ててもらえるわけです。

こうした取り組みを評価いただき、今年から公益社団法人日本トライアスロン連合の情報戦略医科学委員会に召集され、トライアスロン代表チームが2020年に結果が出せるよう、気象をより深く活用するための情報戦略スタッフの一員になりました。

データをビジュアライズする大切さ

セーリングの代表チームもクライアントということですが、マリンスポーツは、以前から気象情報を積極的に活用している印象があります。

ええ。セーリングの選手の皆さんは他の競技に比べて、もともと気象に関するリテラシーが高いです。こういう場合には細かい気象のデータを渡して、選手やチームたち自身で解析できるようにします。

つい先日、公益財団法人日本セーリング連盟の中にある、2020選手強化委員会のパートナーとして私たちが加わりで、会場となる江ノ島の海域を徹底的に調べつくすことを計画中です。たとえば1分に1回、地上のライブカメラから遠くの海までをずっと撮影したデータを用意し、時間軸で見られるようにします。

©Hirokuni Kanki

「何月何日の何時にどう見えるか」という映像はなかなか手に入らないから貴重ですよね。漠然とした気象条件のイメージ、をビジュアルで捉えられるようにする手法がキモだとわかってきました。

先ほどお話しした「スタジアムの上に風向きを乗せて見せる」という例(前編参照)がまさにそうです。エクセルのような表に風向きが文字で書いてあっても、イメージがいまいちつきません。でも、図で出てきたら途端にわかるというアイデアです。「データの見せ方を変えるだけで、こんなに活用してもらえるんだ!」と日々実感しています。

データを可視化するというのは、私たちアマナが表現するところの「ビジュアル・コミュニケーション」に通じる例だと思います。

東京オリンピックのマラソンもそうです。このコースは都市を巡るレースになりますので、細かいエリアごとの気象条件を予報したいと、筑波大の日下研究室と一緒に研究しているところです。

都心の温度分布予報には特に力を入れる予定です。「東京の現在気温は30℃」といっても、この道路の、この辺りだと28℃。この先は30℃を超えるといった細かい予測です。

筑波大の日下研と共同研究中の都市における風と気温の予報画面。温度分布はビルの影なども換算して出すという。「5m間隔の細かいメッシュで算出エンジンを走らせ、それを実際の観測データと照らして合っているかの検証を今年の夏に行っています」(浅田さん)

これがわかると、選手は「道路の右端と左端、どちらを走った方がいいか?」「ここまでスタミナを温存して、ここからスパートをかけよう!」といった判断ができます。観客の皆さんも利用できる予報にしようと準備しています。

2020年以降のスポーツ界を見すえて

スポーツ気象チームでは2020年より先にどういった展開を描いているのでしょうか。

私たちがスポーツという事業で今ターゲットにしているのは、国際大会に出る代表選手やプロの選手です。ただ、将来的に「気象情報を活用し、良い準備をして、最高のパフォーマンスを発揮する」という文化を根付かせていきたいのは、むしろアマチュア選手のほうです。私が監督を務める大学ラグビー部もそうですし、町の少年野球団もそうです。

彼らに気象情報への興味や関心を持ってもらうため、2020年まではとにかく代表チームを支援してノウハウを蓄積し、また露出度を上げ、スポーツ気象サービスの認知度を向上させます。アマチュア向けのサービスはすでにリリースしているので「自分たちでもこんな深い気象情報を手軽に使えるんだ」と知ってもらいたいですね。

アマチュアスポーツユーザー向けのサービスより。「競技場の風向きはマークで出します。南西の風はどっちから吹く、ということを絵で見せるサービスはあまりないんですね。代表やプロをサポートして培ったノウハウを、アマチュア向けにカスタマイズして提供します」(浅田さん)

ウェザーニューズのようにB to B(企業向け)ビジネスをメインとする企業が、B to C(一般消費者向け)に向けたサービスをやる場合には困難な部分もあると想像しましたが、どうですか。

おっしゃる通り、今まで私たちの会社では「スポーツ」という分野にはなかなか手を出せなかったんですね。プロや代表も決して潤沢な予算があるわけではありません。

同サービスのチーム運営機能より。「掲示板でコミュニケーションできたり、OB会で名簿の管理があったり、会費や寄付の決済機能があったり。お金が集まったらチーム強化に使ってもらっても良いですし、気象情報会社と契約してもらうことに使っていただいても良いですね」(浅田さん)

それなら「お金を集めることも手伝おう」と考えて、クラウドファンディングのような仕組みもチーム運営の機能と一緒に提供しています。スポーツをする人は気象情報を味方に付けてほしい、という願いからです。

観測と分析で、さらなる高度化を目指す

今後、ウェザーニューズ全体でスポーツ気象チームのサービスがどんな位置づけになるのかを知りたいです。

ウェザーニューズには全世界76億人に何らかの気象情報を提供したいというビジョンが元々あって、それをテレビやスマホといったメディアを介してやってきました。

今度はスポーツという分野からウェザーニューズのサービスを知ってもらい、活用していただく。売上の貢献は少ないかもしれませんが、企業ビジョンに寄与できる目論見はあります。お陰様で3年やっているとスポーツと気象という掛け合わせには珍しい部分もあり、会社の知名度自体を上げるキッカケになっていると自負しています。

©Hirokuni Kanki

もちろん、爆発的に売上が伸びる市場ではないと考えています。スポーツメーカーのグッズビジネスなどは何かのきっかけで大ブレークする可能性はありますが、それ以外だとスポーツのバックヤード側というのは、そんなに予算がある環境ではありません。

ただし、たとえ小さな金額であっても、たくさんの方に情報を提供する、ユーザーを増やすということを目指せます。なにしろ「スポーツマン」というのは、アマチュアも含めれば全世界にたくさんいますから。次のステップは多言語展開になる予定です。

最後にこれからの目標を教えてください。

まずは、観測のさらなる高度化を考えています。リオオリンピックのときに使った簡易観測機なども自社で開発を続けていて、今ではもっと高性能なものになっています。

また、新たな観測方法の1つとして、海上の気象を観測するドローン観測船をアメリカで開発しています。

©Hirokuni Kanki

分析の面では、さまざまなデータを科学する取り組みをさらに進めたいです。最近ではラグビーやサッカーの選手にGPSセンサー*1を付けてパフォーマンスをトラッキングするチームも増えました。

それらの情報と気象条件には相関があるのではないかという仮説を立てています。湿度が70%を超えると途端に走れなくなる選手とか、晴れの日は良いけど雨の日は全然ダメという選手がいますから。

得られたデータを科学的に分析することで「明日のゲームはこういう気象条件だから、いつも60分使っている選手を50分で交代させよう」といった戦略的な選手起用ができるのでないかと、これからいろいろチャレンジしていきます。

*1 GPSセンサー

GPS受信機のほかに、加速度計や心拍計などを備えて、選手の運動量をリアルタイムで記録するトラッキングシステム。ラグビー日本代表チーム「エディーJAPAN」でも、オーストラリアGPSports社の製品がトレーニングに導入されていた。

Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「少年時代を過ごした北海道の情景、20代に日本の離島を旅して得た感覚。そんな素朴な経験をこのサイトに盛り込みたいです」

Page top