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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Feature

特集

コーヒー&チョコレート④

コーヒー&
チョコレート④

発酵食品としての共通点

構成・文/神吉 弘邦
写真/大竹 ひかる(amana)

©︎David Beatty/robertharding /amanaimages

コーヒーとチョコレートの製造過程で、その後の風味や香りの決定に重要な役割を果たすのが、微生物による発酵プロセスです。コーヒーマイスターの中川亮太さんと、チョコレート技師・珈琲焙煎師の蕪木祐介さんによるカフェトーク第4回では、発酵のプロセスを工夫したコーヒーの新しい流行から話題が始まります。(全5回)

“ハニーコーヒー”とは?

コーヒー&チョコレート③   からの続き

中川 コーヒーの発酵についてはおさらいですが、実を収穫した瞬間から酵素反応が始まるので、大まかにはそのまま実ごとドライにするか、中のコーヒー豆を取り出してドライにします。

中川亮太さんは、日本スペシャルティコーヒー協会認定の「アドバンスドコーヒーマイスター」資格を持つ。アマナ天王洲オフィス amana square内ギャラリーに併設の「IMA cafe」を拠点に活動している
http://ima-cafe.com

中川 コーヒー豆を取り出しても、カカオと同じく周りにはミューシレージ(ペクチン、糖を含んだもの)が残っていますから、そのヌルヌルが付いたままだと均一に乾燥させづらいし、引っ付くからコントロールしづらいので、ヌルヌルを取り除く必要があります。

蕪木 今まではそうでしたよね。

中川 だからいったん水槽に入れて、10時間ぐらい水中の微生物発酵によって、ミューシレージを分解させる方法が取られていました。コーヒー豆からヌルヌルをはぎ取った状態にして、キュッキュッと水洗。豆の表面がサラサラになるのでコントロールしやすいし、そこからドライにしていくんですね。味わいもスッキリすると。

コーヒーの果実
(写真提供:中川亮太氏)

パルパー(果肉を除去する機械)から出てきたコーヒー豆
(写真提供:中川亮太氏)

果肉を除去したコーヒー豆を発酵槽に流し込む様子。ウォッシュドの精選方法では、水中の微生物発酵を利用して滑(ぬめ)りの部分を取る
(写真提供:中川亮太氏)


中川 最近、流行っているのはファーメンテッド(発酵)をコントロールする手法。コスタリカの生産者などが自分たちのコーヒー豆に付加価値を付けるため、そのヌルヌルをあえて残した状態で乾燥させているんです。これって、たぶんカカオの発酵に近いと思ったんですね。

蕪木 まったくそうです。

中川 そのヌルヌルを付けて乾燥させた豆は、ハチミツのようなニュアンスを感じるというところから「ハニーコーヒー」と呼ばれているんですね。ヌルヌルを最大限に残した状態で発酵させると、豆のパーチメント*1の周りが黒くなる。それをブラックハニーと呼んでいます。もうちょっとヌルヌルを取ればレッドハニー、ギリギリまで残すとイエローハニー。

左上から時計回りに、ナチュラル、レッドハニー、イエローハニー、ウォッシュド(ホワイトハニー)
(写真提供:中川亮太氏)

中川 さらにコスタリカで面白いのは、完全にウォッシュドにしてヌルヌルがついてない状態にしたコーヒーをホワイトハニーと呼ぶと……おいおい、ハニーどこ行ったんだ?という(笑)

蕪木 (笑)

中川 それくらい面白さがある世界ですね。これまでもミューシレージの残し具合や、発酵の仕方で味が変わるんだというのは、体感的に知られていたと思うんです。でも生産国のシステム上、実践するのはなかなか難しいものでした。

*1 パーチメント

コーヒー豆(コーヒーの実の種子)を包んでいる、周りの薄茶色の皮部分。内果皮(ないかひ)。


今も発展し続けるコーヒーの味

中川 例えば、地面にばらまいて乾燥させようと思ったとき、ハニーコーヒーの場合は太陽にあたる上面は乾燥しても、下のほうは乾燥しづらい。だから攪拌しなきゃいけないんですが、ヌルヌルで固まっていると均一に攪拌できないから、腐敗臭が出ている豆が混じってしまう恐れがある。中米は地面がパティオになっていますが、アフリカの場合には土なので、今度は土壌菌にやられて臭くなったりします。

エチオピア高原のカッファ地方で、コーヒー豆をアフリカンベッドを使って乾燥させている様子
©︎David Beatty/robertharding /amanaimages

中川 それを防ぐためにあるのが、「アフリカンベッド」と言われる干し棚ですね。これがあるからこそ、エチオピアは果肉ごと乾燥させるナチュラル、つまりアンウォッシュドの方式が可能なわけです。今なぜコスタリカなどの中米でハニーコーヒーができるようになったかというと、このアフリカンベッドが取り入れられるようになったからです。

蕪木 不思議ですよね、エチオピアって。もともとコーヒーがそこにあり、外からやって来た人がコーヒーに注目して、イエメンやいろんなところに豆が伝わって、植民地時代は消費国が自分たちの植民地で栽培し始めた。そういった過程でコーヒーの味が研ぎ澄まされていったと思うのですが、それでもエチオピアのコーヒーは変わらずに美味しい、っていうのがあって。

チョコレート技師、珈琲焙煎師の蕪木祐介さん。珈琲とチョコレートの工房兼喫茶室「蕪木」は移転休業中で、今夏から今秋の再開に向けて準備している
http://kabukiyusuke.com

蕪木 じゃあ、なんで美味しいのか。実は、発酵に秘密があるんじゃないか。美味しさのためにいろいろ試行錯誤されてきた中米に情報が伝わって、さらにレベルが上がって来ています。そこで生まれた技術の一部がまたエチオピアに行ったりして、コーヒー業界はどんどん発展しているんだろうなって。


生産者の付加価値を上げる

蕪木 この前、エチオピアへ行ったときに「スペシャルファーメンテーションコーヒー」の現場を見せてもらったんです。そのボックスではタンクにチェリーごと入れてしまって、炭酸ガスで置換して中の酸素を抜くんですよ。そのまま嫌気性発酵をさせる。

中川 そういう情報だけは聞いたことがあったんだけど、実際どうやってやっていたかは知らなかった。

蕪木 こんなシンプルなタンクなんですけど。ボルドーワインの「マセラシオンカルボニック」という手法をコーヒーに転用したものと聞いています。

スペシャルファーメンテーションボックス
(写真提供:蕪木祐介氏)

中川 へぇ!

蕪木 アウトプットでどういう味になるか。正直、まだまだな面はあるかもしれません。でも、消費国の人たちのコーヒーに対する嗜好性が増えてくると、生産国でも発酵を含めた新しい取り組みが生まれ、それがちゃんとお店にまで繋がるかたちになってきたのは感じます。

中川 ミュージレージを多く残して乾燥させると、ハニーコーヒー独特の風味が強く出るんです。でも、手間が非常にかかる。ミューシレージはなるべくないほうが乾燥させやすいし、ハニーコーヒーにするぐらいだったら、ナチュラル、ウォッシュドのほうが絶対コントロールはしやすいはずなので、そこはあえて付加価値を付けるための手間です。

中川 これまで生産者は、腐らないように、均一な味になるようにと、精選を一生懸命に頑張ってきました。でも、よほどスペシャルな風味などない限りは、均質的な味になる分、かえって商品価値が低いんですよ。そして安く買い叩かれちゃうんです。だから生産者にとって、コーヒーの付加価値を上げるためのファーメンテッドがすごく重要視されているということです。


2020年問題に直面するカカオ


蕪木
 カカオの場合は生産国でチョコレートができないんですね。コーヒーなら焙煎機があって、抽出できれば味をみることができる。カカオはチョコレートの製造工程が複雑ゆえに、生産国で風味を判断しかねるんです。それがすごく難しい。

蕪木さんの著書『チョコレートの手引』(雷鳥社)。現在はコーヒーに関する書籍を執筆中という

中川 コーヒーの生産国によっては植民地の歴史があるので、「こうやれって言われたから、そうやってる」という土地もある。美味しさのための努力をすることが、いつ、どこで報われているのかまったく見えないと、ただ手間が増えるだけなっちゃう。いかに自分たちが楽に仕事を終えられるかという方法でやられてしまうと……実際、コーヒーを飲まない生産者も多いですから。

蕪木 チョコレートも生産国の人が味を知らないので、やりにくいところがあります。だから、発酵が不十分な場面もたくさんあるんですね。彼らが発酵をより綺麗にしてどんなメリットがあるかと言えば、やっぱりお金なんですね。しかも、世界的にはこれからカカオが足りなくなると言われています。2020年問題というのがあって。

中川 2020年って、もう来年じゃない。

蕪木 はい。カカオの需要と供給がずれると言われていましたが、いよいよ足りなくなります。そうなればカカオの値段が上がり、結局はまた生産が減って、という繰り返しなんですね。生産者を守るにしても、消費国の人が美味しいものを作って、それを適正価格で売って、そのプレミアムをちゃんと農園に還元する、という流れをつくらないと。

中川 本当にそうですね。

蕪木 全世界でできるかはわかりませんが、狭いコミュニティなら完結できるかもしれません。そのあたりはコーヒーに見習うべきところが多くあると思っています。

中川 コーヒーもこんなに世界中で求められているにも関わらず、気候変動や病害虫被害エリアの拡大もあって生産面積が年々減っています。ベトナムなど標高が低いところで近代農業的に生産効率を上げる方法もあって、いかに少ない単位面積で収穫量を得られるかという農法も進んではいるんですが、カネフォラ種がメインなので、アラビカ種にとってはまだ厳しい状況が続いています。

>>近日公開 コーヒー & チョコレート⑤(最終回) へ続く


Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「一杯のコーヒー、一片のチョコレート。そこから広がった植物学や化学、文化史や経済までの対話に思わず惹き込まれました。増ボリュームでお届けします!」

Photographer
大竹 ひかる Hikaru Otake

amana フォトグラファー。人やもののストーリーを考察し写真を撮る。「製造工程の発酵の部分が奥深く、そのことを聞きながらいただいたコーヒーとチョコレートは格別でした。」
http://amana-photographers.jp/detail/hikaru_otake

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