精確に、美しく
ビジュアル化する技術
写真/許 嘉珉(hue)
©︎Hydroid
企業が持っている技術には、人の目には見えないものの、大きな価値を生んでいるものが多数あります。Hydroid(ハイドロイド)は「ミエナイモノヲ可視化する」をテーマに、この
ハイドロイドは「ミエナイモノヲ可視化する」という切り口を事業の軸にし、超拡大撮影をしていますが、そのきっかけや経緯はどのようなものですか?
自分の中にある興味は幼い頃からあまり変わっておらず、仕事もしかり。これまで工業系ロボットのプログラムミングからニットのデザインまで、かなり分野の違うことをやってきましたが、「創る」ということではどの仕事も同じに感じていました。ビジュアル制作は3Dがまだ簡単に作れない時代からやってきました。ないものを創ること、ミエナイモノを魅せることをさらにしたくなったからでしょうか。
それにしても、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)まで導入している制作会社ってまれですよね。
科学も好きでしたから、ずっと電子顕微鏡を使いたかった。と言っても3Dをやっていた当時は何億円という価格で、雲の上の存在でした。それが今では、使いやすく、簡単に移動もできるし、サイエンス知見のあるスタッフも増えたので導入を進めたんです。
実際、どう使って事業に活用しているのですか。
たとえば、インクジェットプリンターでは、インクの出てくる穴をSEMを使ったビジュアルで可視化しました。1,500倍ですね。
でも、企業自体もSEMを保有していますよね。
そうなんですが、実際の現場では検査・計測のために使用しています。精度をビジュアルで訴求することはされていなかったんですね。
必要なのは、SEMを検査や研究のためだけでなく、ビジュアライゼーション(可視化)に使うという技術ですね。もちろんそういう視点があるだけでなく、それを美しく可視化するビジュアル化の技術があるというところが重要です。
ベネフィットも大切ですが、本質の部分、たとえば技術をきちんと訴求していく時代になってきている。その時に「ミエナイモノヲ可視化する」というのは非常に有効なのではと思います。
そういう案件はクライアントから依頼されるものなのですか。
依頼もありますが、提案することが多いですね。この技術をこのように見せるとよりわかりやすく伝わると思いますがいかがでしょう、と提案します。
「言葉ではなくて可視化していきましょう」ということですね。
そうです。そういえば高野さんは、変形菌に詳しいんですよね。著書(『美しい変形菌』)も出しているとか。この白金コーティングの機械は、変形菌のルリホコリみたいにきれいな色が出ますよ。そうだ、変形菌を光学顕微鏡とSEMで見てみましょうか。
ぜひお願いします!
すごい! この機材、いつかほしいです。
テクノロジーやミクロの可視化は楽しいうえに、それが企業と一緒に課題を解決することにつながっているんですよ。
SEMや光学顕微鏡は拡大して見せる手段ですが、ほかにもいろいろな手法を使って可視化していらっしゃいますね。
視覚だけでなく、聴覚、触覚、味覚、臭覚といった「五感の可視化」事業を進めています。これまでお話ししたSEMなどは目に替わるものです。聴覚は耳に替わるものなので、音が空間をどう伝わっているかを「音源探査カメラ」や「音圧センサー」で可視化する。臭いは「臭気センサー」、味は「味覚センサー」で表現できます。
視覚的な撮影も、拡大するだけでなく、いろいろありますね。
「レントゲンのX線やCT撮影」もあります。イカや服のような薄くて柔らかいものからエンジンのような金属製の工業製品まで、非破壊で内部構造を撮れるので、普段は見えないところにある訴求ポイントを、リアルな情報として伝えることができます。「CT」は点群でデータを収集するので、3Dデータ化することで、立体物として回転させたり、任意の角度でスライスして内部構造を見ることができるんです。
たとえば、ある薬の「胃で溶けなくて腸に届く」という特徴を、CTでデータ化することによって構造を解析するわけです。それから「サーモグラフィー」。地下の埋設構造によって表面温度がどれくらい変わるかなど、温度を視覚化するものもあります。
「ミエナイモノヲ可視化する」といっても、本当にさまざまな手法があるのですね。アウトプットしたビジュアルはどういう目的に使われることが多いのでしょうか。
私たちは企業のコアコンピタンス(競合他社に真似できない核となる技術・特色・独自性)を可視化しています。企業が事業を続けていく源になるものって大事じゃないですか。それを可視化していきましょう、と。ですから広告だけではなく、B to B(企業間のビジネス)やB to C(企業の消費者向けビジネス) などはもちろん、インナーコミュニケーションにも活用していただいていますね。
その際に重要なことは何ですか?
私たちは単に絵にするだけでなく、本質の部分を共有することから始めますが、まずは科学やテクノロジーを理解することでしょうか。
可視化の話の続きも、ぜひまた聞かせてください。
ええ。おもしろい事例をまた紹介したいですね。
※株式会社アマナが運営する、企業の課題を解決するビジュアルコミュニケーションの情報発信メディア「VISUAL SHIFT」からの転載記事です。元記事はこちら
環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。自然エネルギーや循環型ライフ
http://gogreen.hippy.jp
株式会社アマナ所属。サイエンスコミュニケーター。身近な自然とそこにすむ生きものの楽しさと大切さを、自然科学メディアと自然観察会、講演活動を通して伝えることがライフワーク。ホームフィールドは井の頭公園。得意分野は野鳥と変形菌。著書に『井の頭公園いきもの図鑑』『美しい変形菌』など。鳥取県立博物館「こんにちは変形菌!」展(会期:2020年7月18日〜8月30日)の関連企画として7月25日に開催される講演会に登壇予定。
https://www.pref.tottori.lg.jp/henkeikin/
hue(ヒュー)所属。「芸術は人類の普遍的な価値の中でも『美』を追求するテーマであり、現代科学と深く結びついていることを感じました」
https://amana-visual.jp/photographers/Kamin_Kyo