SDGsを人生の羅針盤に
ゼロから学ぶ、SDGsのこと①
ゼロから学ぶ、SDGsのこと①
2015年、国連本部で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。地球環境や人類社会が迎えかねない破滅的な危機から脱するため、国や企業、市民というレベルごとに、どんな行動を取るべきかを目標として据えている。「誰一人取り残さない」という理念のもと、より多くの人が現代文明やテクノロジーの豊かさを享受しながら、産業や社会のあり方を変えようという内容のさわりを、わかりやすくビジュアルの力でSDGsを啓蒙する取り組みをしている水野雅弘さんに聞きました。
自然や科学をテーマに取材をする私たちも、これまでは経済や金融の難しい話だと感じていたSDGs *1 について学んでおかなくては、と思う機会が増えました。ただ、やっぱり専門書をいきなり読むと難しいですね……。
SDGsにおいて重要なのは、従来の私たちの意識をどう変えていくかなんです。だから「難しいな」と感じさせたら、いきなり壁ができてしまう。そういうとき、動画やビジュアルが持っている力を使うと腑に落ちやすいんですよ。
国連の戦略上、SDGsのコミュニケーションをアイコン化したのは非常に良いことでした。あの「2030アジェンダ」という分厚いレポート*2 だけだったら、きっと普及はしなかったと思いますから。
水野さんが取り組まれている「SDGs.TV」というメディアについて教えてください。
SDGs.TVの前に「Green.TV」という環境映像専門グローバルメディアの日本代表を10年やってきたのですが、そこでわかった気づきがあります。それは一人で動画を観るよりも、教育の素材としてみんなが対話をするために観てもらった方が、多様な意見を引き出せるということでした。
その経験から、国家間にしても、地域内にしても、対話によってさまざまな意見を引き上げ、問題解決に動いていくというメディアをつくろうと思ったんですね。そのため、SDGs.TVは「対話を促すメディア」をコンセプトにしています。
おかげさまで、本当にいろんな方たちに観てもらえるメディアになりました。教材に使っていただいた高校の先生たちからは、感謝のお電話を何本もいただいたぐらいです。
その一方で、私は小学生向けの動画教材(EduTown SDGs)もつくっています。
以前よりもSDGsという単語が一般的になり、メディアを通じて目や耳に入ってくるようになりました。
そうは言っても、先日、朝日新聞が発表したSDGsという単語の認知度調査*3 では、まだ19%止まりです。都市部での調査なので、日本全国では知らない人のほうがまだまだ多いと思います。
中小企業の認知度に関しては、関東の経産局が調査した結果で17%ということでした。これは名前だけ知っているという回答も含めてですから、実質10%を切っているのでしょう。皆さん「途上国の話かな?」と思いがちなんですよね。
日本の地域について考えてもSDGsにつながる課題はたくさんあります。気候変動問題に限らず、人口が減少する未来がもたらしていく社会課題も盛り込まれています。
*1 SDGs
エスディージーズと読む。貧困や飢餓の撲滅、エネルギー問題、気候変動への対応、環境保全、平和的な社会の実現などの17ゴールと、それを達成するための行動計画を細分化した169のターゲットおよび232の指標からなる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略称。2015年9月、国連持続可能な開発サミットの成果として採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書の中で、2030年に向けた「人間、地球および繁栄のための行動計画」として掲げられた。
*2 2030アジェンダ
英語版
https://www.un.org/ga/search/view_doc.asp?symbol=A/70/L.1
日本語版(外務省仮訳)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
*3 朝日新聞の調査
SDGs認知度調査 第4回報告(2019/3/13)
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey04/
SDGsのメッセージをひと言にするなら、どんなフレーズになりますか?
これは2030アジェンダの冒頭で掲げられているのですが、「経済も、環境も、社会も、すべて統合させて調和を図ろう」という言葉に集約できます。つまりSDGsというのは、私たちの暮らしを変えて、地球全体を大変革(transforming)するためのゴール、目標なんです。
先にゴールを定めておいて、そこにどうやってたどり着けるかを逆算したアクションプランをたくさん設けている。
その通りです。また、弱者を含めて「誰一人取り残さない(leaving no one behind)」という理念があります。世界中で加速度的に、格差、不平等、人権の蹂躙(じゅうりん)といった問題が増えています。それを全世界が一つになって是正に動こうということです。
そもそも、SDGsには国や企業への拘束力があるのですか?
いいえ、SDGsの内容は国連で3年という時間をかけて詰めた一定のルールや目標ですが、「しなくちゃいけない」という義務みたいなものではないんです。ゴールまでのアクションは、各国や各地域に委ねられているのが特徴です。
今までは「気候変動に関する国際連合枠組条約*4」にしても、「生物の多様性に関する条約*5」にしても、国連で合意された一定のルール、いわゆる義務でした。調印した国々が、ある意味でトップダウンのもと、政府主導でそれを達成するためにやらなくちゃいけない。でも、すべての条約はなかなか達成に動いていない現状がありますよね。
選挙で大統領が変わったら離脱を表明してしまう*6など、国際政治の舞台で駆け引きの道具になった感があります。
最近は「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界点)」という言葉が使われますが、それを超えたところでは、もはや事業や社会そのものの継続があり得ないわけです。
2030アジェンダのパラグラフ50に「私たちがこの地球を守れる最後の世代かもしれない(We may be the last to have a chance of saving the planet.)」という強烈な文句が書いてあるんですね。それぐらい、もはや危機的な状態です。
そこまでの危機感や、これまでの反省のもとに生まれたのがSDGsなんですね。本気で行動変革をうながすため、非常にわかりやすくコミュニケーションを心がけている。
そうですね。SDGsでは169のターゲットを設けていて、それをわかりやすくシンプルにしたものが、17のゴール(目標)です。
各目標は調和して、球体のように全部がつながっている密接不可分な関係性です。すべてをポジティブな連鎖に変えなくてはいけない、と。
それらの解決すべき課題を経済的な指標で見ると、97兆ドルのファイナンス・ギャップ(財政の不均衡)があると言われています。言いかえれば、この大変革をビジネスチャンスにも置き換えられるということです。
本当にゴールを達成するとなれば、経済を動かしている血流である「お金の流れ」をどのように変えるかを考えなくてはいけません。
*4 気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change)
1992年6月にリオ・デ・ジャネイロの地球サミットで採択された、地球温暖化問題に関する国際的な枠組みを設定した環境条約。1994年3月に発効、6月に公布。1995年から毎年、締約国会議(COP)が開催されている。1997年に採択された同条約の京都議定書では、2008年から2012年の約束期間に先進国における削減目標が定められた。
*5 生物の多様性に関する条約(CBD:Convention on Biological Diversity)
1992年3月にナイロビで採択された、生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な枠組み。同年の地球サミットで調印、1993年12月に発効。1)生物多様性の保全、2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用、3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分 を目的とする。
*6 アメリカの「パリ協定」離脱宣言
2015年12月にパリのCOP21で採択された、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定。気候変動枠組条約に加盟する196カ国すべてが参加。しかし、2017年にアメリカは2020年以降の離脱を表明した。
17という数は、人間が一度に把握するには多いですよね。SDGsの各ゴールの並びには、やはり意味が?
そうです。まずは、ゴール①「貧困をなくそう」から ⑥「安全な水とトイレを世界中に」までが大きなくくりです。SDGsの前身だったMDGs*7 の続きとも言えますが、これらの課題はいまだ途上国にとっては大きいわけです。
そして、ゴール⑦がエネルギー問題。再生可能なグリーンエネルギーの普及といった先進国の課題も含めています。その後、雇用の話が続きます。
⑧「働きがいも 経済成長も」⑨「産業と技術革新の基盤をつくろう」というゴールが据えられているのは、意外に思いました。
やはりSDGsは建前ではなく、産業や経済に対して目を配り、それを具体的に変えていこうという開発目標だからです。しかし、それが行き過ぎたことで格差が生まれました。
その不平等を是正していく点で、ゴール⑩「人や国の不平等をなくそう」があるんですね。
⑪「住み続けられるまちづくりを」と ⑫「つくる責任 つかう責任」が、社会の目標と自然環境の目標の中間位置にあります。これらは各国の文化を受け継ぎながら、ローカルで本当に豊かな暮らしをするための目標です。
それぞれのゴールはアイコン上だと短いテキストですが、2030アジェンダを見るともっと長いんですね。例えば、⑪は「包摂的で安全、強靱(レジリエント)で持続可能な都市・人間居住を実現する」といった具合です。
日本は特に災害国なので、この「強靱な街」を経済的にどうつくれるかが社会課題です。ただ、地方では融資先が先細って、地域ごとの金融がもう地域経済を支えられない状態ですから、ゴール⑪を達成するには、すでに20世紀型金融では立ち行かない事態になっています。
⑫は、まさに経済や資源の問題です。環境負荷の高まりに加え、資源枯渇が激しくなる一方の世界で、私たちのライフスタイルを究極的に変えるためのゴールと言えます。
日本語ではリサイクルの観点から「つくる責任 つかう責任」となっていますが、⑫のもとに設定された11のターゲットを見ると、天然資源からフードロス、途上国に対する科学的・技術的能力の強化、持続可能な観光業など、非常に幅広いことがわかります。
*7 MDGs(Millennium Development Goals)
2000年9月にニューヨークの国連ミレニアム・サミットで採択された、ミレニアム開発目標。極度の貧困と飢餓の撲滅など、8つの目標を掲げた。93の全国連加盟国と23の国際機関が、2015年までにこれらの目標を達成することに合意した。一定の成果を挙げ、一部の内容はSDGsへ引き継がれている。
ゴールの⑬〜⑮は、わかりやすく「環境」に関する内容です。
⑬「気候変動に具体的な対策を」は、明確に気候変動に対応するための施策になります。⑭「海の豊かさを守ろう」は、例えば「海洋プラスチックごみ」の問題もあるので、⑫にもつながるわけですね。
⑫と⑭の関係性でいくと、乱獲の問題で漁獲量が減るだけではなく、気候変動が影響をもたらす水産資源の減少もあるので、持続可能な漁業をどうするかという問題は、非常に多面的な要素を含みます。
⑮「陸の豊かさを守ろう」も、生物多様性や陸地の保全、生態系の保護だけではないのですね。この中には、例えば「森林」という大きなターゲットがあるので、持続可能な林業をどうするかというテーマが含まれます。
そして、最後の⑯と⑰は、すべてをまとめるようなゴールです。
ここまでの目標を縦に串刺しにして考えると、自然という資本によって社会が成り立ち、その上に経済が成り立っているという構造です。その図式をすべて横串でつなぐための目標です。
⑯「平和と公正をすべての人に」とは、少し専門的な用語を使うと「金融包摂*8」の世界です。SDGsのテーマはインクルーシブ(包摂的)な社会であり、不変的な目標であるという考えがすべてのベースになっています。「誰一人取り残さない」という理念があるので、⑯はとても重要なんですよ。
⑰「パートナーシップで目標を達成しよう」に関しては、国家間だけでなく、多様な人たちが協働を進めていこう、という宣言です。複雑で多様化した問題を解決するためには、研究者の知見など、さまざまなリソースをフルに協働させる必要があるからです。
*8 金融包摂(Financial inclusion)
世界中で一般的な金融サービスにアクセスできない成人は多い。金融サービスへのアクセスの提供によって貧困層の生活を改善することに取り組む、世界銀行グループの貧困層支援協議グループ(CGAP)は「すべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できる状況」を、金融包摂という概念で定義している。
NATURE & SCIENCEの読者の中にいる研究者の方々にも、大きな出番があるということだと理解しました。
もちろんです。ただ、専門性が邪魔する場合もあるので注意が必要です。例えば、SDGsに関するフォーラムなどに参加すると、皆さんすごく掘り下げた報告をされるんですね。「ミャンマーで電気の課題に取り組んでいます」とか。すると、一般からの他の参加者は「SDGsはやっぱり途上国の事業なんだ」と遠いものに感じられてしまう。
また、大学の先生が気候変動の話ばかりすると、「SDGsは環境問題についての話なのか。それなら自分たちのビジネスには関係ないな」と考えてしまう人もいて、そこで話が終わってしまうわけです。つまり、説明する人によって機会ロスがかなり生じるのがSDGsだと思っています。
17のゴールが独立してあるのではなく、ゆるやかにつながるのがわかりました。ただし「あちらを立てれば、こちらが立たず」のことわざではないですが、場合によって相反するものがあるとも感じます。
そういうトレードオフの話は付きものです。よく言われるのが、風力発電用の風車を建てれば、野鳥の問題、騒音、低周波の問題などが出てくるという例です。道路をつくれば、その近くの住民には騒音の問題が生じます。これまで途上国で行ってきた開発には、すべてそうした性格がありました。このようなインパクト(効果)の評価をするわけですよね。
インパクトに関しては、ポジティブなものもあれば、ニュートラルなものも、ネガティブなものもあります。そこをどう捉えるか。基本的な概念として「ポジティブ・インパクト」を優先していくというかたちを取ります。すべてのターゲットのつながりとゴールの関連性、不可分性を理解しながら、いかにポジティブなものを長期的にもたらせるかを考えるのがSDGsの考え方です。
人類や社会は、果たしてこれ以上の成長や進歩が必要なのか?という疑問は、一部の主張として聞かれます。でも、SDGsでは開発によって良い世界をつくろうとしている。
おそらく「もう成長は必要ない」というのは、先進国の考え方です。2050年には人口がほぼ100億人近くまで膨らむのは間違いありません。インドや中国を含めたこれからの中間層が今の先進国と同じ暮らしに入ったら、地球資源はフットプリント上でもう圧倒的に足りなくなります。
このままでは、現在6割近くの生物種が絶滅の危機に瀕しているのと同じく、人間世界も維持できなくなる状況が訪れるでしょう。
ヒトという種がレッドリスト*9 に載る可能性さえあると。
しかし、不便だった昔の暮らしに戻るという世界観ではなく、AIにしても、ブロックチェーンにしても、技術の進展も使いながら「新しい未来を創る」という姿勢が大事です。
それと同時に、それぞれの国において文化を継承しつつ、豊かな暮らしを送れる社会を考えるべきでしょう。便利さを追うより、いわゆる「地球文明社会」をつくる時代にしないといけませんよね。
*9 レッドリスト
正式名称は「IUCN(国際自然保護連合)絶滅のおそれのある生物種のレッドリスト」。生物学的観点から絶滅の危険度を評価し、すでに絶滅したと考えられる種や絶滅の危機にある種を「絶滅」「野生絶滅」「絶滅危惧」「準絶滅危惧」などのカテゴリーに分類して記載。
SDGsが注目されているのは、これからの企業活動に大きな影響を与えるからだと言われていますが、それはなぜですか?
SDGsに集約される世界中の課題を解決するには、産業構造の変革を伴わないと達成できないからです。例えば、企業活動が与える気候変動リスクというのは、やはり大きなものです。
実際、企業活動がもう変革せざるを得ない事態になってきています。従来のものが使えなくなる状況というのがそうでしょう。最近の話題で言えば、プラスチックの使用が当てはまりますよね。
そうしたものを使い続けると、今は企業そのものの評判に直結しますから。
そうです。結果として資金調達リスクが出てくるし、従来のレピュテーション(企業評価)の方法自体が当てはまらなくなります。単に「CSRをやっています」「アニュアル(年次)レポートも出しています」ということでは済まない。企業が「本業」を通じて、本気になって社会変革をしていく必要があるということです。
ちゃんとした理念を持って、従来のようなCSR活動だけでなく、本業を大きくシフトする。プラスチックも使えない、ガソリン車もつくれない、石炭火力発電もできないという前提が、もう目の前に来ています。このまま行けば、携帯やパソコン、クルマに使われるレアメタルのような希少金属は使えなくなりますが「そんな時代に会社をどうしますか?」という話です。
投資家の要請に対してやらざるを得ないなら、逆にそれをチャンスとして捉えるべきです。ヨーロッパの場合などは、むしろ「ビジネスを変革しながら新たな市場を獲得していく」ということでSDGsが認識され、リーディングカンパニーはもう動いているという流れが起きています。
自動車でも、建築でも、運輸でも、都市のインフラでも、すべての産業において課題を解決するところに新しいチャンスがあります。金融がそこに注目していく時代になってきています。具体的なのは、ESG金融*10 ですね。
そのほかにも、ダイベストメント*11 と呼ばれる投資家の動きとか、TCFD*12 という気候変動枠組みに関わる情報の開示などにも企業は対応しなくてはいけないので、いかに素早くSDGsを基点に事業変革を伴うプロジェクトを立ち上げるかという方向へ、ものすごいスピードで動いています。
*10 ESG金融
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う融資。 ESGの各項目の評価が高い企業は、事業の社会的意義、成長の持続性など優れた企業特性を持つとされる。ESG投資。
*11 ダイベストメント(divestment)
投資家が、非倫理的または道徳的に不確かだと思われる株、債券、投資信託などを手放すこと。投資撤退。
*12 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
気候関連財務情報開示タスクフォース。2016年に金融システムの安定化を図る国際的組織「金融安定理事会(FSB)」により設置された。
自治体単位でSDGsに熱心に取り組むところも増えていると聞きました。
やはり、ゴール⑪「住み続けられるまちづくりを」に関連してくるという話で、地域の環境や社会の問題から具体的なアクションが起きています。
私は鎌倉市と道東(北海道東部)でSDGsのアドバイザーをやっているのですが、道東では酪農家や地元企業といった方々が民間ベースで「道東SDGs推進協議会」を広域連携で立ち上げています。
例えば、AIを使ってロボット制御をする酪農で、牛乳の鮮度を測るといったことを導入しています。SDGsを意識してというよりも、地域経済の安定が地域の雇用と安心した暮らしをつくり、将来的にはちゃんと地球に貢献していくといった活動です。
単なる目標に終わらせず、実際のアクションプランに繋げるまでがSDGsの正しいあり方だということなので、それは特徴的な例ですね。
アクションを起こすことが、地域の認知度を上げることにもなります。同じく北海道の下川町では、ゴール⑮「陸の豊かさを守ろう」に関連して、持続可能な林業に取り組んでいます。こうした活動が、これからは世界から見ても地域のサステナブル・ブランドとしてかなり貢献することになります。
一つの自治体だけでやることも決して否定しませんけれど、やはり広域連携のほうが、水資源の問題、森林の話、生態系の話、さまざまな観点でメリットが大きいと思います。
国や企業のほか、SDGsは一般市民の行動変革も促すものなんですよね。
大人に対して意識変革するわけですが、これからは若い人たちへの教育がカギだと思っているんです。
小学校高学年ぐらいから高校、大学にいたるまで、来年の学習指導要領には「持続可能な社会の創り手を育てる」という大きなミッションが入ってきます。理科や社会だけでなく、家庭科から何から、すべての学科に対してSDGsが入ってくるんですね。
これから日本では子どもの数が激減していくので、世界から見た優秀な人材をどう大学が集めていくかという経営視点でも大学の変革が求められています。したたかな話ですが、私立の中高一貫校などは、もう9割がたSDGsの教育をやっています。
先日は大学図書館で附属中学のボランティア部の生徒たちが17のゴールごとに書棚を分けて本を陳列し、それぞれに解説を付けているのを見て、実に頼もしいというか、かなり勉強させてもらいました(笑)
若い世代の力ですね。私も実行委員長として今年初めて「SDGsクリエイティブアワード」という動画コンテストを開催したところ、157の応募作品が集まったんです。
当初はプロフェッショナルからの応募が多いと予想していたんですね。もちろん海外の広告祭で受賞したクリエイターなどからも応募があり、実際に今回も賞を獲りました。
でも、そのうちの100本近くは中高生からの応募だったんです。彼らはiPhoneで映像を撮り、音楽を付けて、自らアプリで編集してしまうんです。
まさに、デジタル・ネイティブ世代。
みんなで地球上の課題を調べ、それをどう伝えるかというストーリーを考える。情報のインプットだけではなくて、アウトプットを動画でやった。それ自体、学習プロセスの効果がすごくあるんです。しかも、送ってきた作品の3分の1には英語の字幕が入っていました。もうすごい時代になったんだな、と驚きで。
第1回は、どういったテーマだったんでしょう。
SDGsの17ゴールのうち、①、④、⑪、⑫、⑬、⑮の6つをテーマにしました。
募集したのは60秒と180秒の2形式。60秒はゴールを普及する映像です。それに対して、180秒ではメンタリティーも含めて、どういったアクションを起こすかという映像を募りました。
若い世代のクリエイターにSDGsのような活動を認識してもらう、彼らのクリエイティビティーを社会課題解決に向けてもらうのが第一の目的でした。そして、でき上がったアウトプットを公共財として、高校や大学の教育に使えるものにしていこうというのが、第二の目的です。
手応えはどうでしたか?
やってみて分かったのは、応募者たち自体に「学びのプロセス」を生んだということです。自分が調べ、チームで考えて、一生懸命クリエイティブを考える。そこで写真や動画、インフォグラフィクスというビジュアルの持つ力を意識することになります。
このWebマガジンを運営するアマナも「ビジュアルコミュニケーションで世界を豊かにする」というビジョンを掲げる企業ですから、そうした表現が持っている力はよくわかります。
ぜひ、来年の第2回ではご一緒できたらいいですね。今回とは別の6テーマで募集をする予定です。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
これからの希望を託せるのは、やはり若い世代です。中学生や高校生たちの意識が今、以前とすごく変わっているんですね。そんなミレニアル世代、あるいは「ジェネレーションZ」と呼ばれる彼らが、これから働き、暮らしをしていく世界にSDGsの学習を通じて、さまざまな課題があることがわかる。
10年ほど前には、社会起業家を目指すとか、なにかボランティアをやるという世代が増えましたよね。最近では「パーパス(purpose)」という言葉を使いますが、自分がこの世界で「生きていくことの意味」を若い人たちが求める傾向が出てきました。そんなときSDGsで一回勉強すると、共通の目標がエンジンになるんです。
例えば、「私はフェアトレードやエシカルファッションに興味がある」という話をすると、「私も」「私も」とつながって、共通目標が一つの軸になる。それらをあぶり出すものとして、SDGsというものがとても使いやすいんですね。
SNSの普及によって、嘘の話も本当の話も交えて、ありとあらゆる情報が瞬時に手に入るようになりました。「大きな地球」だったかつての時代から、今のように「小さな地球」になったことで、かえって自分たちの未来におけるリスクを本能的に感じる世代が増えていると思うんです。
そんな彼らが、これから自分たちが生きていく道を調べるための「道しるべ」や「羅針盤」としてSDGsが使えるようになると、生きていく希望を持ってもらえるというか、彼ら自身に「魂」が入るんだな、と日々感じています。
NATURE & SCIENCE 編集長。「シリーズ『ゼロから学ぶ、SDGsのこと』では水野雅弘さんを監修者にお迎えして、一歩ずつSDGsへの理解を読者のみなさんと深めたいと考えています。自然のフィールドで感じたこと、ビジネスの現場における課題、暮らしのなにげない疑問など、SDGsにちなんだ質問やご意見を編集部までお寄せください」