a
アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Feature

特集

意外と知らない?ツバメの1年

意外と知らない?
ツバメの1年

文/中作 明彦


©︎matsuki hiroshi/Nature Production/amanaimages

少しずつ暖かくなり、ツバメの姿を見かけるようになってきました。ツバメはいわゆる「渡り鳥」です。春になると日本にやってきて子育てをし、秋になると日本を離れます。ツバメは古くから人々の生活と深い関わりをもって生きてきました。身近な存在でありながら、知っているようで知らないことも多いツバメ。そんなツバメのこと、ちょっとご紹介します。

ツバメはどこからやってくる?

ツバメは夏の時期を日本で過ごす「夏鳥」といわれる渡り鳥です。

春になると、フィリピンやベトナム、マレーシア、インドネシアなど遠く南の方からはるばる日本へとやってきます。
これは、距離にしておよそ2,000km~5,000kmにもなります。

ツバメ(Hirundo rustica)全長17cmほどで、体重は20g弱。背側は濃い青色で黒っぽく、お腹は白色で、額とのどの周辺は赤色をしている。小柄だが翼開長(広げた翼の端から端までの長さ)は32cmほどになる。尾羽は二股に分かれ、その長さはオスでは10cm以上。この長い翼と尾羽によって卓越した飛行能力をもつ。「ツバメ返し」とよばれる急旋回はそのよい例。平均時速40km~60kmで飛行する ©︎DeA Picture Library/amanaimages

ツバメ(Hirundo rustica)全長17cmほどで、体重は20g弱。背側は濃い青色で黒っぽく、お腹は白色で、額とのどの周辺は赤色をしている。小柄だが翼開長(広げた翼の端から端までの長さ)は32cmほどになる。尾羽は二股に分かれ、その長さはオスでは10cm以上。この長い翼と尾羽によって卓越した飛行能力をもつ。「ツバメ返し」とよばれる急旋回はそのよい例。平均時速40km~60kmで飛行する
©︎DeA Picture Library/amanaimages

くわしいことは分かっていませんが、ツバメは太陽の位置を目印にして方角を把握していると考えられていて、道に迷う心配もありません。

東南アジアから海を越えてやってきたツバメは、沖縄を経て、3月ごろ九州に姿を見せます。
そして、暖かくなるのにともなって北上し、各地で子育てを行います。

滑空するツバメ。最高速度は、時速200kmに達するともいわれる ©︎matsuki hiroshi/Nature Production/amanaimages

滑空するツバメ。最高速度は、時速200kmに達するともいわれる
©︎matsuki hiroshi/Nature Production/amanaimages


泥とワラ、枯れ草の巣づくり

ツバメは、人家や納屋など、かならず屋根のある人工物に巣をつくります。
あえて人のいる場所に巣づくりをするのは、外敵から身を守るためだと考えられています。

人の存在によって外敵を遠ざけるというのは、なかなかの知恵者ではないでしょうか。

屋根の下のツバメ。ツバメは、生存戦略として人と近い場所で生活する選択をした ©︎officek/a.collectionRF /amanaimages

屋根の下のツバメ。ツバメは、生存戦略として人と近い場所で生活する選択をした
©︎officek/a.collectionRF /amanaimages

親鳥は、泥やワラ、枯れた草を口にくわえて運びこみ、それを粘着性のある唾液で固めて巣をつくっていきます。
これらの材料は、田んぼや水辺で容易に手に入るものです。

巣の材料となる枯れた草を咥えるツバメ。田んぼや水辺の泥、ワラ、枯れ草などを巣の材料とする。田んぼや水辺はツバメの餌場としても重要。人家や納屋に巣をつくり、田んぼや水辺が営巣・採餌の大切な場となるなど、人との関わりが非常に強い ©︎NPL/amanaimages

巣の材料となる枯れた草を咥えるツバメ。田んぼや水辺の泥、ワラ、枯れ草などを巣の材料とする。田んぼや水辺はツバメの餌場としても重要。人家や納屋に巣をつくり、田んぼや水辺が営巣・採餌の大切な場となるなど、人との関わりが非常に強い
©︎NPL/amanaimages

ツバメは新しく巣をつくることもあれば、空いている巣を直して使うこともあります。
前の年に子育てに使った巣と同じ巣に戻ってきて、そこでまた子育てを行う親鳥もいます。


餌やりが大変! ツバメの子育て

1度の子育てで、ツバメは5個前後産卵します。
卵はおもに雌の親鳥があたため、産卵から孵化まではおよそ2週間です。

孵化から巣立ちまでは3週間ほど、ひなはたくさんの餌を食べてどんどん大きくなります。

ひなが大きく口を開けて餌をねだる「餌乞い(えごい)」。お腹がいっぱいになったひなは餌乞いを行わなくなって後ろに下がり、お腹がすいているひなは前に出てくるので、偏りなく餌を与えることができる ©︎James Hager/robertharding /amanaimages

ひなが大きく口を開けて餌をねだる「餌乞い(えごい)」。お腹がいっぱいになったひなは餌乞いを行わなくなって後ろに下がり、お腹がすいているひなは前に出てくるので、偏りなく餌を与えることができる
©︎James Hager/robertharding /amanaimages

ツバメの餌はウンカやハエ、ガ、アブなどの小さな虫です。ひなは1日あたり1羽で100匹以上の虫を食べているという報告もあります。

給餌は雌雄の親鳥が協力して行っていますが、親鳥はかなり大変そうです。


日本を離れ、再び戻る

子育てが終わると、巣立ったひな鳥と子育てを終えた親鳥は、巣を離れて集団となって過ごします。

その規模は数千羽から数万羽。水辺のヨシ原などにねぐらをつくり、たくさんの餌を食べて渡りに備えるのです。

巣立ちしたひな鳥たち。巣立ち後もしばらくは巣の近くにいて、親鳥は餌を与え続ける。だんだんと飛べる距離も伸び、自分で餌をとる力もついてくると、巣から旅立っていく ©︎kameda ryukichi/nature pro./amanaimages

巣立ちしたひな鳥たち。巣立ち後もしばらくは巣の近くにいて、親鳥は餌を与え続ける。だんだんと飛べる距離も伸び、自分で餌をとる力もついてくると、巣から旅立っていく
©︎kameda ryukichi/nature pro./amanaimages

そして、秋が近づき、9月~10月になると、ツバメたちは日本を離れます。
九州、沖縄を経て海を越え、南方へと渡っていきます。

そこで冬を過ごし、次の春、再び日本にやってくるのです。

ツバメは、人や農作物に被害をもたらす虫をたくさん捕まえてくれる存在でもあり、農家から大変ありがたがられた ©︎matsuki hiroshi/Nature Production/amanaimages

ツバメは、人や農作物に被害をもたらす虫をたくさん捕まえてくれる存在でもあり、農家から大変ありがたがられた
©︎matsuki hiroshi/Nature Production/amanaimages


参考文献・サイト
『ツバメの謎: ツバメの繁殖行動は進化する!?』北村 亘 著(誠文堂新光社)
『ツバメのひみつ  Secret of Swallow』長谷川 克 著、森本 元 監修(緑書房)
『鳥ってすごい!』樋口広芳 著(ヤマケイ新書)
環境省 山階鳥類研究所 鳥類標識調査 鳥類アトラス
公益財団法人 日本野鳥の会
八王子・日野カワセミ会

Profile
Writer
中作 明彦 Akihiko Nakasaku

サイエンスライター。中学校・高等学校の理科教員として10年間勤務したのち、世界に散らばる不思議やワクワクを科学の目で伝えるべくライターへ。「自分が小学生のころ、自室にツバメがやってきて、電灯のかさに巣をつくろうとしたことを思い出しました。2日ほどで来なくなってしまいましたが、あのまま部屋の中に巣をつくっていたらどうなっていたのだろう……」
Twitter: @yuruyuruscience

`
Page top