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編み物が鳥を助け、世界を広げる

編み物が鳥を助け、
世界を広げる

心が整い、人と動物を救う物語

文・写真/木村 悦子

東日本大震災後、全国で編み物ボランティアが立ち上がったのは象徴的な現象でした。編み物は、編む人、受け取る人の心を癒やしますが、人だけでなく傷ついた野鳥も救います。このお話は、編み物をめぐる温かな物語であり、豊かな編み物趣味へのお誘いです。

手編みの巣で野鳥のヒナを守る

早水悠登(はやみずゆうと)さんは、東京大学生産技術研究所の特任助教。情報理工学の博士号を持ち、ビッグデータを対象とするデータベース技術やストレージ技術の研究に従事……と、並べるとものものしい肩書きですが、趣味は編み物。一気に親しみやすくなりましたよね?

ブローチなどの手編み作品を、早水さんは上手にファッションに取り入れていますが、おしゃれよりも大きな目標があります。それは「野鳥を助けること」。

編み物をはじめた数か月後、早水さんはアメリカの動物レスキュー団体「Carolina Waterfowl Rescue」の存在を知り、日本から手編みの巣を集めて現地に送る活動を開始しました。

愛情いっぱいの手編みの巣は、このように「Carolina Waterfowl Rescue」に届けられます(人物写真提供:早水悠登さん)
愛情いっぱいの手編みの巣は、このように「Carolina Waterfowl Rescue」に届けられます(人物写真提供:早水悠登さん)

愛情いっぱいの手編みの巣は、このように「Carolina Waterfowl Rescue」に届けられます(人物写真提供:早水悠登さん)

こちらのレスキュー団体では、ケガをしたり親からはぐれたりしたヒナのために手編みの巣を必要とし、編み物ができる人に呼びかけています。保護したヒナは「人工育雛*1」で育て、自分でえさを取れるようになったら自然にかえします。保護期間、ヒナは各地の編み手さんから寄せられた手編みの巣で暮らすというわけです。

*1 人工育雛(いくすう)

卵からかえった雛(ヒナ)を人の手で育てること。


編み物が変える「世界の見え方」

早水さんが編み物をはじめたのが2018年12月。翌年4月には「編み物で野鳥を救おう」プロジェクトをスタートしたというから、集中力とスピード感がすごい。現在は、ネットで寄贈を呼びかけるだけでなく、ワークショップ形式の「みんなで鳥の巣を編む会」も主宰しています。

「みんなで鳥の巣を編む会」の様子(写真提供:早水悠登さん)

「みんなで鳥の巣を編む会」の様子(写真提供:早水悠登さん)

早水さんはアメリカの団体(Bev’s Country Cottage)が公開している巣の編み図を、日本人にわかりやすい編み図にリメイクする作業も完了!

会に参加すれば、初心者でも3~4時間で1つは完成できます。編むのが早い方なら、2ついけるかも!(編み図提供:早水悠登さん)

会に参加すれば、初心者でも3~4時間で1つは完成できます。編むのが早い方なら、2ついけるかも!(編み図提供:早水悠登さん)


こんなに器用なのは、もともと手芸の素養があったのですか?  とたずねると、「電子工作が好きでキーボード自作に熱中したことはありますが、手芸にはまったく縁がありませんでした」とのこと。鳥や動物愛護についてもほぼ関心がなかったのに、それも一変。

「野鳥レスキューの支援をはじめて、鳥がよく目に入るようになりました。色の見え方も変わってきました。以前は白なら白、茶色なら茶色でしかありませんでしたが、編み物をするようになってからは、同じ白や茶色にもさまざまな段階、ニュアンスの色があることを知りました」

アメリカの施設をたずね、こんなかわいいヒナに挿し餌(さしえ)をすれば、人生変わりますよね。

手編みの巣で元気に成長中。編み物をするだけで里親気分が味わえるなんて(写真提供:早水悠登さん)

手編みの巣で元気に成長中。編み物をするだけで里親気分が味わえるなんて(写真提供:早水悠登さん)

「毛糸は色だけでなく、太さや触り心地なども多種多様。ずっと使っている銘柄以外は、必ずお店に行って、自分で触って選びます。売り場に男性がいないのと、ときどき高価な毛糸を買うこともあり、よく行く手芸店には面が割れてしまいました(笑)」


参加は気軽に。身一つでいらっしゃい

編み物のいいところは、編み針と毛糸を用意するだけですぐはじめられ、黙々と取り組めること。ミシンや手縫いだと、端の始末などの細かい作業や道具が必要ですが、その点、編み物はシンプル。

早水さんの活動に賛同してくれるスポンサーもつき、毛糸は内藤商事株式会社が、かぎ針はチューリップ株式会社が協力を申し出てくれました。「みんなで鳥の巣を編む会」には、参加を表明すれば身一つで参加できるのです。

提供された毛糸(写真上)と、編み針(写真提供:早水悠登さん)
提供された毛糸(写真上)と、編み針(写真提供:早水悠登さん)

提供された毛糸(写真上)と、編み針(写真提供:早水悠登さん)

「一度参加すれば、その後は一人でもできるようになります。『気に入って衝動買いした毛糸の出番がなくて』という毛糸愛好家もどうぞ。どれぐらいの数がヒナたちのために必要かといえば、多すぎて困ることはないほど大量に必要です。Carolina Waterfowl Rescue 単体でも、1年に数千羽のヒナを保護するほどです」

つまり、誰かが編めば、編んだだけ野鳥の命が救われるということ。早水さんは、「編み物ができる方に動物保護活動を知り参加してもらうこと」「編み物はできないけど動物保護に興味がある方に技術を伝えること」を自らの使命と考えています。


心を整え、人をつなぐ編み物の効用

このインタビューは、新型コロナウイルス流行のため、外出自粛の動きが続くさなかに行いました。2020年3月に予定していた「みんなで鳥の巣を編む会」も残念ながら延期になりましたが、編み物愛好家は心が強い!

「会は延期になっても、仲間はみんなケロッとして自宅で編み物を続けているんです。編み物をしているときは、心配事もすべて忘れて手元だけに集中し、心が整います。瞑想やマインドフルネスのような効果があるのかもしれません。今のような不安定な時期こそ、編み物をして過ごすのがぴったりです」

しっかりめに編むと安定感が増すそうです。とはいえ、多少不格好でも問題なし!

しっかりめに編むと安定感が増すそうです。とはいえ、多少不格好でも問題なし!

そういえば、2011年の東日本大震災後にも、編み物に関する動きが多数ありました。被災者を雇用する編み物会社が誕生したり、編み物を送るボランティアや編み物で義援金を集める活動などです。

「編み物作品をつけていると、知らない人から話しかけられることも増えました」と、早水さん。こんなにいいことずくめなら、これはもうやるしかありませんね!

編み物仲間から技術を教わり、早水さんが制作した編みぐるみ

編み物仲間から技術を教わり、早水さんが制作した編みぐるみ


■編み物で野鳥を救おう
https://twitter.com/knitforbirds

Profile
Writer
木村 悦子 Etsuko Kimura

出版社3社の勤務を経て、編集プロダクション「ミトシロ書房」を創業。雑誌・書籍・Webの編集・執筆を行う。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。「数ある手芸の中でも、編み物って特別ですね。編み物ができるようになることは、魔法を覚えることなのかもしれないと思いました」

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