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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
セミの幼虫は 土の中に何年いる?

セミの幼虫は
土の中に何年いる?

『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ

編集・構成/草柳 佳昭

©︎ MANABU/Nature Production /amanaimages

セミの幼虫は地中で7年過ごし、成虫として生きられるのは1週間……などという話はよく聞かれますが、それは本当のことでしょうか? そして地面の下では幼虫はどのように過ごしているのでしょうか。NATURE & SCIENCEが手がける『PETiT PEDiA にほんの昆虫』(アマナイメージズ)の掲載記事から再構成してお届けします。

卵から1年がかりで誕生

梅雨が明けると、本格的な夏の到来。セミたちの声がいっせいに賑やかになってきます。この時期になると、公園や街路樹などでセミの抜け殻などを目にすることも多いでしょう。

アブラゼミの抜け殻。身近な場所でもおなじみ ©︎ unno kazuo/Nature Production /amanaimages

アブラゼミの抜け殻。身近な場所でもおなじみ
©︎ unno kazuo/Nature Production /amanaimages


さなぎにならない昆虫は、基本的に幼虫と成虫が同じような姿をしています。バッタやコオロギ、カマキリなどがそうですね。

しかし、同じようにさなぎにならないセミ(やトンボ)は、幼虫と成虫で生活スタイルが大きく異なるためでしょうか、あまり姿が似た印象を受けないかもしれません。

セミは夏の間に枯れ木などに産卵管を突き刺して卵を産み付けますが、卵は1年近く孵化(ふか)しません。すぐに孵化して幼虫になるのかと思いきや、意外ですよね。

広葉樹の枯れ枝の中に産み込まれたアブラゼミの卵 ©︎ suzuki tomoyuki/Nature Production /amanaimages

広葉樹の枯れ枝の中に産み込まれたアブラゼミの卵
©︎ suzuki tomoyuki/Nature Production /amanaimages

そして翌年の初夏に孵化した幼虫は、地上に降りると土を掘って潜っていきます。

セミの成虫は口吻(こうふん)を樹皮に突き刺して樹液を吸いますが、幼虫は木の根にとりついて汁を吸います。

卵から生まれたばかりのアブラゼミの幼虫。孵化した後、木を降りていく ©︎MANABU/nature pro. /amanaimages

卵から生まれたばかりのアブラゼミの幼虫。孵化した後、木を降りていく
©︎MANABU/nature pro. /amanaimages

木の根の汁は栄養が少ないため、幼虫はあまり動かずに、長い時間をかけて成長していくのです。


幼虫は地中で7年過ごす?

「セミの幼虫は土の中で7年を過ごし、地上に出てくるとわずか1週間で死ぬ……」という話を聞いたことのある人は多いかもしれません。

しかし、実際に土の中で7年も過ごすセミは日本にはおらず、ツクツクボウシで1〜2年、アブラゼミで3〜4年、クマゼミで4〜5年くらいのようです。

地中から出てきたアブラゼミの幼虫 ©︎ MANABU/Nature Production /amanaimages

地中から出てきたアブラゼミの幼虫
©︎ MANABU/Nature Production /amanaimages

ただしセミは飼育するのが難しいため、生活史が完全には解明されておらず、生息環境によっても幼虫期間が変わることが知られています。謎の多い昆虫でもあるのですね。

いずれにしても、地中で幼虫として過ごす期間のほうが圧倒的に長いのは確かと言えそうです。


土壌生物としてのセミの幼虫

セミが幼虫として過ごす期間は成虫よりもずっと長く、その間は土の中で過ごしています。セミの幼虫を土壌生物としてとらえると、根食者(Root grazer)というグループに分けることができます。

地中のアブラゼミ。羽化の前に地上に出ようとしている ©︎ shinkai takashi/Nature Production /amanaimages

地中のアブラゼミ。羽化の前に地上に出ようとしている
©︎ shinkai takashi/Nature Production /amanaimages

この根食者は、植物の根を食べたり汁を吸ったりする者を指し、他にはケラやコガネムシなどの甲虫類の幼虫などがいます。植物の根は、地中に多く存在する有機物であると言えるのです。

これら根食者の中には、セミの幼虫のように汁を吸うのではなく、根を切り取ってしまう昆虫も多く、植物にも大きな影響を与えています。植物を枯死させることもあるため、農業害虫とされるものもいます。

地中でくらすアブラゼミの若齢幼虫。終齢幼虫よりも土壌生物らしい外見に感じられる ©︎ MANABU/Nature Production /amanaimages

地中でくらすアブラゼミの若齢幼虫。終齢幼虫よりも土壌生物らしい外見に感じられる
©︎ MANABU/Nature Production /amanaimages

またセミの幼虫も汁を吸うタイプとはいえ、過去には地中にアブラゼミの幼虫が多くなり、リンゴ園で果樹の生育に影響を与えた例もあります。

わたしたちの目に見えないところで、セミたちと植物の攻防が日夜繰り広げられているのかもしれません。


地中には想像以上の世界が

これら根食者のバイオマス量*1 は、土壌の中においてかなり多いと考えられています。

*1 バイオマス量

特定の地域に生息する生物の総量を指す、生態学の用語。動植物を、乾燥重量で計測あるいは推計して数値化したり、総エネルギー量で換算したりする。バイオマス、生物現存量、生物量。

 
セミの幼虫は、その多くがモグラなどをはじめとした捕食者によって食べられたり、地上に出てからも鳥に食べられたりするなどして、成虫になることができるのは、地中にいる幼虫のうちのごく一部。

地上に出てからもたくさんの捕食者に狙われるセミ。羽化するまでにたくさんの関門が待ち受ける ©︎ masuda modoki/Nature Production /amanaimages

地上に出てからもたくさんの捕食者に狙われるセミ。羽化するまでにたくさんの関門が待ち受ける
©︎ masuda modoki/Nature Production /amanaimages

夏のシーズンになると地上でもたくさんのセミを目にすることができますが、地中にはそれよりもはるかに多くの幼虫が潜んでいるのですね。


そう考えると、土の中にはもう一つの世界が広がっているような気がしてきませんか。そして、そこは観察のしづらさから研究が進んでいない、未知の世界とも言えるのです。

羽化したばかりのアブラゼミ。成虫になることができた幸運な個体 ©︎ yanagisawa makiyoshi/Nature Production /amanaimages

羽化したばかりのアブラゼミ。成虫になることができた幸運な個体
©︎ yanagisawa makiyoshi/Nature Production /amanaimages

この夏は成虫の鳴き声に耳を傾けると同時に、足下にある世界の大きさにも、思いを馳(は)せてみてはいかがでしょうか。

©︎ yasuda mamoru/Nature Production /amanaimages

©︎ yasuda mamoru/Nature Production /amanaimages


Profile
Editor
草柳 佳昭 Yoshiaki Kusayanagi

編集者。1989年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。出版社で書籍編集担当、カメラマンとして勤務した後、フリーランスに。図鑑や実用書、Web媒体などの編集を行う。実家は横浜の鰻屋さん。

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