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私たちの星への想い②

私たちの星への想い②

篠原ともえさん、国立天文台に
小久保英一郎教授を訪ねる

構成・文/神吉 弘邦
写真/大竹 ひかる(amana)

惑星の成り立ちを研究する国立天文台の小久保英一郎教授を、篠原ともえさんが訪問。「4D2Uドームシアター」を鑑賞しながら交わされた対話をお届けします。第2回は、2018年の夏に地球へ大接近した火星の話題から。(全6回)

火星旅行を疑似体験しよう

(第1回 惑星と目が合うような感じ の続き)

小久保 まずは火星に行ってみましょう。火星は表面の地形が全部分かっているので、この「4D2U」の映像でも、火星にはちゃんと凸凹があるでしょう?

篠原 わぁ、本当ですね! 3Dメガネですごく立体的に見えます!

篠原 火星表面のクレーターは、衝突によるものですか?

小久保 ええ、衝突によってできたものです。今は20倍に誇張して高低差を際立たせるモードで見てもらっています。

国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトで開発している、 天文学のさまざまな観測データや理論的モデルを見るためのソフトウェアが「Mitaka」。実際よりも凹凸を強調したモードで火星を表示した様子 ©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトで開発している、 天文学のさまざまな観測データや理論的モデルを見るためのソフトウェアが「Mitaka」。実際よりも凹凸を強調したモードで火星を表示した様子
©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト


篠原 こうやって火星を旅行する体験がもうできるんですねぇ。

小久保 そうなんです。これが、太陽系最大の火山である「オリンポス山」。富士山のように綺麗な形をしている火山ですね。

Mitaka で表示した火星のオリンポス山。実際の標高より高さを強調して表示 ©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

Mitaka で表示した火星のオリンポス山。実際の標高より高さを強調して表示
©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 火星全体の大きさからすると高さは低いですが、それでもオリンポス山はエベレストの2倍以上の標高があります。

火星のオリンポス山(写真提供:NASA) ©Gakken /amanaimages

火星のオリンポス山(写真提供:NASA)
©Gakken /amanaimages

オリンポス山とエベレスト(手前)の大きさ比較イメージ ©MARK GARLICK/SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages

オリンポス山とエベレスト(手前)の大きさ比較イメージ
©MARK GARLICK/SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages


篠原 すごいなぁ。肉眼でよその星をこんな風に見られるなんて。私たちが住んでいる地球というのは、最高の環境じゃないですか(笑)

小久保 本当に恵まれていますよね(笑)。オリンポスの左側にポコッ、ポコッと3つあるのが「タルシス三山」です。それから、グランドキャニオンより何倍も大きい「マリネリス峡谷」という大峡谷が見えてきました。

篠原 えー、でっか〜い! アメリカくらいありますね!?

©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 ええ。グランドキャニオンとの比較どころではないです(笑)。火星には最近も「水の痕跡があった」という発表がありました。気の早い研究者の中には「マリネリス峡谷には生物の化石があるかもしれないから、早くここに行こう!」と言っている人がいます。

1970年代に火星探査機バイキングが撮影した火星の地表面(写真提供:NASA) ©Gakken /amanaimages

1970年代に火星探査機バイキングが撮影した火星の地表面(写真提供:NASA)
©Gakken /amanaimages

篠原 生き物の足跡が見つかるかもしれないなんて、ワクワクします。

小久保 もしかしたら、昔は本当に何かがいたかもしれないですよ。


小惑星「Shinohara」を探せ!

小久保 火星の外側には、たくさんの小惑星がありますよね。現在は70万個以上見つかっています。篠原さん、もしかして小惑星の名前になっていたりしますか?

篠原 私、なっています! 牡羊座の足下にある小惑星「Shinohara」*1です。

小久保 やっぱりあるんですね。僕も名前を付けてもらっていて「Kokubo」という小惑星があるんですよ。この4D2Uの中にも登録されているので、ほら、こうやって呼び出せるんです。篠原さんの小惑星は、まだ登録されていませんので表示できないのですが。

篠原 えっ、この4D2Uの映像に登録できるんですか? じゃあ、私の小惑星の住所をお送りします!

小久保 あっ、たぶん調べるとすぐ分かるので大丈夫ですよ。小惑星のデータが全部まとまっているサイトがあって、そこに行くと全部の小惑星の軌道、命名の理由まで書いてあるんです。ですから、小惑星「Shinohara」について見ると、篠原さんの紹介まで書いてあるはずです。

篠原 わぁ、うれしい!

小久保 ここに「リュウグウ」があります。今、日本の「はやぶさ2」がこの小惑星に行っていますね。

小惑星リュウグウ(距離約20kmから、探査機はやぶさ2による撮影) ©JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

小惑星リュウグウ(距離約20kmから、探査機はやぶさ2による撮影)
©JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

2018年9月21日、はやぶさ2から分離されリュウグウへの着陸に成功したローバーMINERVA-II1が撮影。 写真右下に写っているのがリュウグウの地表面 ©JAXA

2018年9月21日、はやぶさ2から分離されリュウグウへの着陸に成功したローバーMINERVA-II1が撮影。
写真右下に写っているのがリュウグウの地表面 ©JAXA

篠原 サンプルリターンですね!

小久保 そうです。火星の衛星に向けても探査機を上げるMMX*2という計画があります。火星には「フォボス」と「ダイモス」という二つの衛星があって、そこからサンプルを持ち帰る計画が考えられているんですよ。

篠原 このメガネを掛けて星たちを見ていると、本当に手でつかめそうです。

小久保 小惑星がたくさんあって見えにくいかもしれませんが、今度は土星に向かいますね。

>>第3回 土星の環の神秘に迫る へ続く


*1 小惑星「Shinohara」

2014年1月16日、「国際天文学連合(International Astronomical Union:IAU)の下部組織「小惑星センター(Minor Planet Center:MPC)」により、小惑星番号14555が「小惑星Shinohara(14555)」と正式に命名された。篠原さんの天文仲間が、「宙(そら)ガール」の証として日本のアマチュア小惑星探査チームに申請し、それをMPCが承諾したことにより実現した。

*2 火星衛星探査計画(MMX : Martian Moons eXploration)

火星衛星の起源や火星圏の進化の過程を明らかにすることを目的とした火星探査計画。2020年代前半の探査機打上げを目指し、JAXA で研究開発が進められている。これからの惑星や衛星探査に必要とされる技術の向上とともに、太陽系の惑星形成の謎を解く鍵を得ることが期待されている。

「STaR☆PaRTY 星と宇宙のデザイン展 TeNQ」

篠原ともえさんによる初の宇宙をテーマにした特別展が、東京ドームシティで開催中です。本展のためにデザイン・制作したオリジナルドレスを始め、原画や星空写真など、これまでの作品約50点を展示。篠原さんデザインのアクセサリーやステーショナリーなども販売されます。

期間:2018年11月8日(木)~2019年3月3日(日)11:00~21:00(土日祝は10:00~21:00、最終入館は20:00まで)
会場:宇宙ミュージアム「TeNQ(テンキュー)」

住所:東京都文京区後楽1-3-61 黄色いビル6F(JR・東京メトロ・都営地下鉄「水道橋」駅すぐ)
https://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/event/exhibition-15.html

Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「少年時代を過ごした北海道の情景、20代に日本の離島を旅して得た感覚。そんな素朴な経験をこのサイトに盛り込みたいです」

Photographer
大竹 ひかる Hikaru Otake

amanaフォトグラファー。人やもののストーリーを考察し写真を撮る。
http://amana-photographers.jp/detail/hikaru_otake

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