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Nature & Science

アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Series 連載
私たちの星への想い③
私たちの星への想い③

篠原ともえさん、国立天文台に
小久保英一郎教授を訪ねる

構成・文/神吉 弘邦
写真/大竹 ひかる(amanaphotography/parade)

惑星の成り立ちを研究する国立天文台の小久保英一郎教授を、篠原ともえさんが訪問。「4D2Uドームシアター」を鑑賞しながら交わされた対話をお届けします。第3回は、いよいよ二人が一番好きだという土星と、その他に環のある天体に迫ります。(全6回)

土星の環の神秘に迫る

(第2回 火星旅行を疑似体験しよう の続き)

小久保 土星に近付いていくと、環がいくつも連なっているのが見えますか?

篠原 わぁ、来ました! この下から見上げる角度も迫力があります。土星って、いつ見ても本当にフォトジェニックですよね。上から見ても、下から見ても、横から見ても良しで。

ボイジャー2号が撮影した土星
©CROSS WAVE/orion/amanaimages

惑星探査機ボイジャー(写真提供:NASA)
©Gakken /amanaimages

小久保 本当に絵になりますよ。土星の環がすごいのは、半径はおよそ10万kmもあってとても大きいのに、厚さはわずか数十m以下だということです。だから、ある時期に土星を見ても環が見えなくなるんです。だんだん傾いていって、今はちょうど見えやすい時期です。

篠原 土星の環は、どうしてそんなに薄いんでしょうか。

小久保 氷の粒同士がぶつかって、一つの面に集まってくるからなんです。

篠原 ぶつかって、あちこち弾け合うんじゃなくてですか?

小久保 ぶつかることで運動エネルギーが失われるので、あまり弾けないのです。こういう土星の環が薄くなっていく過程も、シミュレーションだと一目瞭然です。

篠原 そうなんですね。

小久保 土星の影がちゃんと環に映るようになっているでしょう? 「環をくぐる」というのはこんな感じです。とても細かい模様が見えるかと思うんですけれど、なぜこうなっているか、私たちも正確なところはまだ分からないんですよね。

©Stocktrek Images /amanaimages

篠原 土星の環は氷の集まりだというのを知ったのも、以前見たこの4D2Uの映像でした。

小久保 それは大変ありがたい言葉です。土星の環って不思議なんです。望遠鏡でも「カッシーニの空隙(くうげき)」*1といって、一つの筋が見えるじゃないですか。

篠原 濃くなっているところですよね。

小久保 そう。濃い、黒くなったところです。それ以外にも、実はたくさん模様が見えていますが、なぜそうなっているかは判明していないんですよ。

篠原 まだまだ、未知の世界なんですね。

小久保 そうなんです。カッシーニの空隙があるのは、環の外側にある「ミマス」という衛星の重力の影響ではないかと言われています。それ以外にも、見れば見るほどいろいろな模様がありますが、その理由がまだ明かされていません。

篠原 それを解き明かすのが、小久保先生たちのお仕事なんですね。

小久保 ええ、知らないことを知りたいですから。どうにかできないかと思ってたどり着いた方法として、コンピュータの中に土星と環を作って、土星の回りに無数の氷の粒を回してどんな構造になっていくのかをシミュレートして調べる、つまりコンピュータを使った実験です。

土星リングの力学(II. プロペラ構造)
対称な長いしずくのような二つの模様からなるのが、土星の環の中に見られるプロペラ構造。動画の1分29秒あたりからプロペラ構造の解説映像がある
©道越秀吾・小久保英一郎(シミュレーション), 武田隆顕(可視化), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 土星の周りをずっと飛びながら土星を調べていたカッシーニ*2という探査機が見つけた「プロペラ」という、小さい飛行機のプロペラのようなかわいい構造が環の中にあります。どうやってできるかというと、環の中に小衛星が埋め込まれていて、その重力の影響で氷の粒がない場所ができるんですね。それがちょうどきれいなプロペラのような模様になるんです。

土星を周回する探査機カッシーニ(イメージ)
©Steven Hobbs/Stocktrek Images /amanaimages

*1 カッシーニの空隙(くうげき)

土星の環のうち、A環とB環の間にある隙間のこと。1675年にフランスの天文学者、ジョヴァンニ・カッシーニによって発見されたことからこの名がある。地球から見た土星の向きや観測条件などが良ければ、市販の天体望遠鏡でも観測できる。A環とB環に比べればごく少量だが、カッシーニの空隙にも環を構成する物質が公転していることがボイジャー2号によって判明した。カッシーニの間隙(かんげき)、カッシーニの隙間(すきま)とも呼ぶ。

*2 カッシーニ探査機

1997年10月15日にケープカナベラルから発射されたNASAの土星探査機。調査によって生命存在の可能性が指摘された土星の2つの衛星「タイタン」「エンケラドゥス」への将来的な衝突による汚染を避けるため、2017年9月に最後のミッション「グランドフィナーレ」で土星の大気圏に突入して燃え尽きた。

宇宙には「羊飼い」がいる?

小久保 太陽から見て木星よりも外側で、海王星よりも内側にある小惑星のような天体を「ケンタウルス天体」*3と呼んでいます。

国立天文台「4D2Uドームシアター」で。4D2Uの映像を手元で操作しながら篠原さんに解説する小久保教授

小久保 太土星の外側、天王星の内側くらいにある「カリクロー」*4というケンタウルス天体を見てみましょう。

篠原 わぁ! 思わず声が出ちゃうくらい小さくてかわいいです!

小惑星カリクローのイメージ
©道越秀吾・小久保英一郎(シミュレーション), 中山弘敬(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 このカリクローに環があることが分かったんです。

篠原 へぇ、こんな小さくてジャガイモみたいな星に。お野菜みたいにボコボコしているのはどうしてですか?

小久保 ひしゃげた形は「掩蔽(えんぺい)観測」から見積もることができています。パンケーキというかジャガイモみたいな形をしているだろうというのは、科学的に想像しているんですね。

篠原 エンペイ観測ですか?

小久保 遠くにある天体を何かが隠した。そういう現象の観測を、掩蔽観測と言います。カリクローが通っていくと、ちょうど遠くにある星が隠れて見えなくなる。隠している間、何秒くらい見えなくなるかを観測するとカリクローの大きさが分かるんですね。

篠原 なるほど!

小久保 そうしたら、カリクローが星を隠す前と後の時間にも、遠くの星が暗くなった。つまりカリクローの両脇にも何かがあったんです。しかも、星を2回隠していた。だから二重の環があるということが分かりました。

篠原 二重の環!?

小久保 どれくらい暗くしたかで、どれくらい環の粒が詰まっているのかが分かりますから、コンピュータで計算して調べました。その結果がこの映像です。よく見ると内側は濃いんですが、外側は少し細めで、薄いんです。

小惑星カリクローを取り巻くさざ波の環
スーパーコンピュータ「アテルイ」を使ってカリクローの環全体を計算の対象にして、粒子の自己重力も考慮した、実スケールのシミュレーション映像
©道越秀吾・小久保英一郎(シミュレーション), 中山弘敬(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

篠原 これが二重の環ですか。近付いてくると粒々が分かりますね。氷の川みたい!

小久保 まさに川ですね。

篠原 手でつかめそう! 1個1個の大きさはどれくらいなんですか?

小久保 数メートルくらいですね。本当はもっと小さい粒々もあるはずですが。そこまで計算に入れると氷の粒の数が多すぎるので入れていません。これでも1億体以上の粒々です。内側の方の濃い環は、重力で集まっているんですね。塊のような不思議な構造を専門用語でウェイクと呼んでいます。

篠原 いつまでも見ていられますね。雲のようで。花のようで。

篠原さんが4D2Uドームシアターで見た映像より、静止画で抜粋
©道越秀吾・小久保英一郎(シミュレーション), 中山弘敬(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 行ってみてみたら多分こういうふうになっていると思います。行って本物を見てみたいですけどね。木星、土星、天王星、海王星以外の小さい天体にも実は環があるんだということが、ごく最近になって分かってきました。確実なのは、カリクローとハウメア。この2つの天体には環があります。

篠原 天体に比べてリングがずいぶん大きいんですね。土星ではすぐ近くにリングがあるじゃないですか。カリクローはなぜ遠くにリングが?

小久保 不思議ですよね。これも想像なんですが、環の両側にまだ見つかっていない小さな衛星があって、その重力の影響ではないかと。こうした構造は放っておくと、篠原さんが言うように広がっていくんですよ。でも、それがまとまったままになっています。そんな天体を「羊飼い衛星」と言うんですね。

篠原 宇宙に羊飼いがいるなんて、面白いですね!

小久保 天文学はこういう面白い呼び名を付けますよね。環の中の1個1個の粒々を羊だと捉えて、それらがバラバラにならないよう、きっと「羊飼いの犬」役が両脇から押さえているんだと。カリクローの環も、広がらずに細いままでいられるのは、きっと両側に発見されていない衛星があるはずだと推測できるんですね。

>>第4回 どうやって惑星は生まれるか へ続く

*3 ケンタウルス天体

木星と海王星の間の軌道を公転する、氷で覆われた天体の分類名。最初に発見された「キロン」がギリシャ神話のケンタウルス族の名前で命名されたため、ケンタウルス族の名前をつける慣習になった。

*4 カリクロー(10199 Chariklo)

土星と天王星の間の軌道を公転する、環を持つことが確認された天体。2018年11月中旬現在、知られているケンタウルス天体の中で最大。

「STaR☆PaRTY 星と宇宙のデザイン展 TeNQ」

篠原ともえさんによる初の宇宙をテーマにした特別展が、東京ドームシティで開催中です。本展のためにデザイン・制作したオリジナルドレスを始め、原画や星空写真など、これまでの作品約50点を展示。篠原さんデザインのアクセサリーやステーショナリーなども販売されます。

期間:2018年11月8日(木)~2019年3月3日(日)11:00~21:00(土日祝は10:00~21:00、最終入館は20:00まで)
会場:宇宙ミュージアム「TeNQ(テンキュー)」

住所:東京都文京区後楽1-3-61 黄色いビル6F(JR・東京メトロ・都営地下鉄「水道橋」駅すぐ)
https://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/event/exhibition-15.html
 
期間中、星や宇宙に関係するアイテムを身につけてくると当日入館券が200円引きになる「ドレスコード割引」を実施中です!(
TeNQチケットカウンターで当日券購入時のみ、他の割引サービスとの併用不可)

Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「少年時代を過ごした北海道の情景、20代に日本の離島を旅して得た感覚。そんな素朴な経験をこのサイトに盛り込みたいです」

Photographer
大竹 ひかる Hikaru Otake

amanaphotography/paradeフォトグラファー。人やもののストーリーを考察し写真を撮る。
http://amana-photographers.jp/detail/hikaru_otake

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