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天の川を見上げ、 銀河を考える

天の川を見上げ、
銀河を考える

文/中作 明彦

© Mark Wilson / EyeEm /amanaimages

七夕伝説で有名な天の川。しかし、7月7日は梅雨の季節で天気に恵まれず、天の川を見ることは簡単ではありません。その理由は、私たちの用いている「暦」が明治時代に変わったためです。そもそも、天の川とは何なのでしょう。なぜあのようなモヤモヤしたものが空に見えているのでしょうか。

2020年の七夕は8月25日

旧暦7月7日の七夕を今の暦になおした「伝統的七夕」は毎年日にちが変わり、2020年は8月25日です。

織姫と牽牛(けんぎゅう)の天の川・七夕伝説は、日本だけでなく東アジアの各地に伝わっています。
その物語の発祥をたどれば、古く後漢時代の中国にまでさかのぼるそうです。

天の川は英語で「Milky Way(ミルクの道)」。
こちらの由来はギリシャ神話にまでさかのぼりますが、夜空にモヤモヤと輝く天の川は、ミルクのようでもあります。

東洋では空を流れる川として、西洋では空にこぼれたミルクとして、伝説・神話の舞台となっている天の川ですが、その正体は無数の星たちです。
これは、1609年、初めて宇宙に望遠鏡を向けたといわれるガリレオ・ガリレイ*1 によって明らかにされました。
数えきれないくらいたくさんの星が集まり、それがモヤのようにぼんやりと輝いて見えているのです。

空を横切る天の川(Milky Way)。アメリカ合衆国オレゴン州、ダイアモンド湖で撮影 © Christian Heeb/awl images /amanaimages

空を横切る天の川(Milky Way)。アメリカ合衆国オレゴン州、ダイアモンド湖で撮影
© Christian Heeb/awl images /amanaimages

しかし、どうして川のように空を横切って星が集まっているのでしょう。

この答えのカギとなるのが「銀河」です。

*1 ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)

イタリアの物理学者・天文学者。自作の望遠鏡で宇宙を観測し、月面のクレーターや木星の衛星、金星の満ち欠けなど数多くの発見をするとともに、「地動説」を唱えるに至った。その功績から「天文学の父」とよばれる。物理学者としては、「振り子の等時性」やピサの斜塔で落下実験を行ったといわれる「落体の法則」の発見などがある。


天の川は輝く星の集まり

銀河は、簡単にいうとたくさんの星や星間物質*2 などが集まった天体です。

例えば、「アンドロメダ銀河(M31)」とよばれる銀河は、地球からアンドロメダ座の方向、およそ230万光年*3 の位置にあり、1兆個の恒星*4 が存在していると考えられています。

*2 星間物質

星間ガスと星間塵からなる。星間ガスは水素やヘリウムを主成分とする気体で、星間塵は、氷やケイ酸塩などからなる固体微粒子。

*3 光年

距離の単位の1つ。光(秒速30万km)が1年間で進む距離が1光年。1光年はおよそ9兆5,000億km。記号は「ly」。

*4 恒星

太陽のように、核融合によって自ら光を放つ星。


M31。銀河はその形態からいくつかのタイプに分かれるが、M31は「渦巻銀河」とよばれる銀河。中央部が膨らんだへん平な円盤状をしており、その直径は22万光年~26万光年ほど © SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages

M31。銀河はその形態からいくつかのタイプに分かれるが、M31は「渦巻銀河」とよばれる銀河。中央部が膨らんだへん平な円盤状をしており、その直径は22万光年~26万光年ほど
© SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages

渦巻銀河、M98の一部。かみのけ座の方向にあり、地球からの距離はおよそ4,500万光年。たくさんの星が集まっていることがわかる。その規模によって違いがあるが、1つの銀河には数百億個~1兆個ほどの恒星が集まっていると考えられている © UPI/amanaimages

渦巻銀河、M98の一部。かみのけ座の方向にあり、地球からの距離はおよそ4,500万光年。たくさんの星が集まっていることがわかる。その規模によって違いがあるが、1つの銀河には数百億個~1兆個ほどの恒星が集まっていると考えられている
© UPI/amanaimages

そして、宇宙にはこういった銀河が数えきれないほど存在しています。

ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope)がとらえた数多くの銀河たち。これまで、私たちが観測できる範囲にある銀河は2,000億個程度と考えられてきたが、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた新たな観測と解析に基づく2016年の発表で、銀河の数は2兆個と大幅に改められた © ZUMA Press/amanaimages

ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope)がとらえた数多くの銀河たち。これまで、私たちが観測できる範囲にある銀河は2,000億個程度と考えられてきたが、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた新たな観測と解析に基づく2016年の発表で、銀河の数は2兆個と大幅に改められた
© ZUMA Press/amanaimages

数えきれないくらい存在するとはいっても、銀河というのは地球からはるか彼方の宇宙の中にあって、私たちには遠い世界、そんな風に思うかもしれません。

実は、思っているよりもずっと近いところに、銀河はあります。

それが「天の川銀河」です。
私たちは、宇宙に無数に存在する銀河の1つ、天の川銀河の中で暮らしています。


天の川銀河と天の川

私たちは天の川銀河の “中” にいるので、その姿を外から眺めることはできません。
しかし、私たちのいる天の川銀河も、中央部が膨らんだへん平な円盤状で、渦を巻いていると考えられています。
正確には中心部に棒状の構造をもつ、「棒渦巻銀河」とよばれるタイプの銀河です。

天の川銀河の円盤の直径はおよそ10万光年。そしてその厚みは膨らんだ中央部で1万5,000光年、周辺部では1,000光年ほど。
2,000億個以上の恒星が存在していると考えられており、太陽はその中の1つです。

太陽系は、無数の星が集まるこの円盤の中心からおよそ2万6,000光年ほどはなれた位置にあると考えられており、私たちは太陽系にある惑星、地球に暮らしています。

NGC1300。銀河を真上方向から捉えている。エリダヌス座の方向6,900万光年の位置にあり、天の川銀河と同じ、棒渦巻銀河とよばれるタイプの銀河。円盤状の構造をしているのは渦巻銀河と同じ。中央部分に棒状の構造があるのが特徴 © Science Photo Library /amanaimages

NGC1300。銀河を真上方向から捉えている。エリダヌス座の方向6,900万光年の位置にあり、天の川銀河と同じ、棒渦巻銀河とよばれるタイプの銀河。円盤状の構造をしているのは渦巻銀河と同じ。中央部分に棒状の構造があるのが特徴
© Science Photo Library /amanaimages


天の川銀河の“中”にいる私たちに、天の川銀河はどのように見えるでしょうか。

ちょっと想像を膨らませてみましょう。

私たちは、天の川銀河の平べったい円盤の中、その中心から2万6,000光年離れた位置にいます。
円盤の半径は5万光年なので、ちょうど外側までの中間あたりです。

天の川銀河の中にいる私たちは、自分たちが暮らすこの銀河を上から見下ろすことはできませんね。
私たちは、天の川銀河の中から、“横向き” に円盤を見ることになります。

横向きに見た銀河の円盤は、どのような姿をしているのでしょうか。

NGC4565。かみのけ座の方向にあり、地球からの距離はおよそ3,000万光年~5,000万光年。銀河をほぼ真横から見ており、その平べったいようすや、中央部の膨らみがよくわかる。帯状の黒っぽい部分は「暗黒星雲」。高密度にガスや塵が分布しており、光がさえぎられているため黒っぽく見えている © Science Photo Library/amanaimages

NGC4565。かみのけ座の方向にあり、地球からの距離はおよそ3,000万光年~5,000万光年。銀河をほぼ真横から見ており、その平べったいようすや、中央部の膨らみがよくわかる。帯状の黒っぽい部分は「暗黒星雲」。高密度にガスや塵が分布しており、光がさえぎられているため黒っぽく見えている
© Science Photo Library/amanaimages

上から眺めると大きなうずまき状であった銀河も、横から見るととても “平べったい” ことがわかります。
そしてこの姿、見覚えはありませんか。

私たちが天の川銀河の中からその円盤を横向きに見ると、平べったく集まった星たちが空を横切っているように見えるはず。

そうです。それこそが、空を横切る星たちの集まり、天の川です。

夜空に浮かぶ天の川。天の川の真ん中が帯状に黒っぽいのは暗黒星雲。また、写真の真ん中あたり、天の川がやや広がっているところは、銀河の中央にある膨らんだ部分 © Mark Wilson / EyeEm /amanaimages

夜空に浮かぶ天の川。天の川の真ん中が帯状に黒っぽいのは暗黒星雲。また、写真の真ん中あたり、天の川がやや広がっているところは、銀河の中央にある膨らんだ部分
© Mark Wilson / EyeEm /amanaimages

天の川は、私たちが、自分たちのいる天の川銀河を横から見ている姿なのです。


天の川を見るベストシーズン

天の川は1年中観測することができますが、1番きれいに見える季節は夏です。
これはなぜなのでしょうか。

その理由は、地球が公転していることと関係があります。

夏の夜、空を見上げる私たちが向いているのは天の川銀河の中心方向です。
中心方向には星がたくさん集まっているので、明るくきれいな天の川を観測することができます。

しかし、季節が変わると状況が変わってしまいます。
地球が公転しているため、夏の時期と見る方向が変わってしまうのです。

たとえば冬になると、天の川銀河の “ふち” の方向、つまり、中心と反対側を見ることになります。

ふちの方向は、中心方向ほど星が集まっていません。
そのため、夏に比べると冬の天の川は暗く、きれいに観測することが難しくなってしまいます。

地球から見た天の川の360° パノラマ画像。2013年、欧州宇宙機関(ESA)によって打ち上げられた位置天文観測専用の宇宙望遠鏡ガイア(Gaia)は、天の川銀河の恒星をはじめ、さまざまな天体の位置とその運動を測定し続けた。2018年に発表されたこの画像は、17億個の恒星の観測データをもとに作成されている。地球の位置から360°、ぐるっと一周天の川銀河の円盤を見渡した姿。明るく輝いているのが天の川銀河の中心方向
(パノラマ画像で見られない方は、こちらから)
https://youtu.be/8cXURHmtf3I

宇宙には2兆個の銀河があって、それぞれの銀河には数多の星の海が広がっている……。
途方もないスケールで、私たちの日常からかけ離れた、遠い世界の話のように思うかもしれません。

しかし、私たち自身も天の川銀河という銀河の中にあり、数千億の星たちとともに暮らしています。
天の川は、私たちも広大な宇宙の中にあることを思い出させてくれます。

晴れ渡った夏の夜空。
1年で1番きれいな天の川を眺め、銀河や宇宙に思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。


Profile
Writer
中作 明彦 Nakasaku Akihiko

サイエンスライター。中学校・高等学校の理科教員として10年間勤務したのち、世界に散らばる不思議やワクワクを科学の目で伝えるべくライターへ。「天の川は、銀河や宇宙をすごく身近に感じることができる存在だと思います。天の川の360°ビューに感動し、画面をグリグリしながら1人でずっと見ていました」
Twitter: @yuruyuruscience

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