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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

花と自然の鎌倉さんぽ「5月 皐月」

新緑の空想旅行へ。
アユやトンボの命躍る

花と自然の鎌倉さんぽ
「5月・皐月」編

写真・文/村田 江里子

草木の芽吹きがまぶしい5月ごろ、新緑の鎌倉で見られる花や生きものたちをご紹介しましょう。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛期間中、自宅で心和む季節の自然の写真を眺めて楽しんでもらえるよう、鎌倉フラワー&ネイチャーガイドの村田江里子さんによる「バーチャルツアー(空想旅行)」としてご案内します。

風薫る5月……鎌倉の谷戸の山並みは、輝くような新緑に包まれます。森の緑は、いったい何色あるのだろう、と驚くほど。いきいきとした若葉の新緑に木々の花のクリーム色、日に日に濃くなる緑に、常緑樹のモスグリーン。そのさまざまな緑を構成する草木たちの、のびゆく命のエネルギーに、生きる力をいただける気がします。

初夏の谷戸の花々と出会い、森から流れ出た水の旅とともに川から海へ……新型コロナウィルスによる外出自粛、Stay at home のなかで、ご自宅で心和む季節の自然の写真を眺めて楽しんでいただくバーチャルツアー。写真を眺めながら、初夏の鎌倉の森・川・海を訪れた気分で、生きものたちを俯瞰していきましょう。

初夏を迎える鎌倉の谷戸の風景

初夏を迎える鎌倉の谷戸の風景


水を飲む音が聞こえる木

初夏の森に近づいてみると……白い花が多く見られ、鎌倉の森の斜面を明るく彩っています。

5月の鎌倉の谷戸の斜面でまず多くみられるのが、マルバウツギの白い花。ウツギは「空木」と書き、幹や枝の髄がストローのように中空になることからついた名です。清楚な白い花をつけ、卯の花とも呼ばれます。写真のように、丸い葉をつけるのがマルバウツギ。マルバウツギに続いて、細長い葉のウツギも、白い花をたっぷりとつけてのびやかに咲きます。

清楚な白い花を咲かせるマルバウツギ。葉が丸く、茎が中空になっているのが特徴。アジサイ科ウツギ属の落葉低木。本州の関東以西、四国、九州に分布

清楚な白い花を咲かせるマルバウツギ。葉が丸く、茎が中空になっているのが特徴。アジサイ科ウツギ属の落葉低木。本州の関東以西、四国、九州に分布


谷戸の斜面で、テーブルのように白い花を広げて咲いているのは、ミズキです。ミズキは水を良く吸い上げる木として知られ、昔から山仕事をされてきた土地の方に、「5月ごろ、ミズキの木を伐ると、切り株から水が、後から後からあふれるように出てくるんだ」とうかがったことがあります。

また、聴診器を木の幹に当てて水を吸い上げる音を聴くネイチャーゲームをご存知でしょうか? 5月ごろの一番水を良く吸う時期に、太いミズキの幹に聴診器を当てると水音が聞こえるんですよ、と聴診器を渡してもらったことがあり、「まさかね……」と半信半疑で聴診器を当てたところ、「コポ・コポッ」と音が本当に聞こえて、びっくりしたことがあります。伸びゆく木の力を、感じますね。

葉柄は繊維質で、少しちぎっては引っ張り伸ばすとビーズのネックレスのようにつながって葉がぶら下がり、「できた!」と楽しい草花遊びもできるんですよ。

テーブルのような白い花を広げて咲くミズキ。早春、水を地中からたくさん吸い上げることから「ミズキ」の名がついた。ミズキ科ミズキ属の落葉高木。各地の山地に生える。日本では、北海道、本州、四国、九州に分布し、各地で広く生育

テーブルのような白い花を広げて咲くミズキ。早春、水を地中からたくさん吸い上げることから「ミズキ」の名がついた。ミズキ科ミズキ属の落葉高木。各地の山地に生える。日本では、北海道、本州、四国、九州に分布し、各地で広く生育


想像力で五感を動かす

バーチャルツアーの “心の目”で、森を遠巻きに眺めると……初夏の新緑の山は、ところどころが薄紫色に彩られているのがわかります。これはフジの花。

実はフジには、つるが右巻きと左巻きの2種類があるのをご存知ですか?  フジ(ノダフジ)のつるは右巻き(上から見て時計回り)、ヤマフジ(ノフジ)は左巻き(上から見て半時計回り)なので区別がつきます。

ヤマフジは主に関西以西に自生しており、鎌倉あたりの山では、上から見て時計回り・右巻きのフジが多く見られます。

私も子どものころ、鎌倉の裏山で大きなつるを見つけてターザン遊びをしたのを思い出します。また、秋から冬には、つるでリースやかごをつくったものです。

初夏の鎌倉の谷戸の斜面を、淡い紫に彩るフジ。マメ科フジ属のつる性落葉木本。 本州、四国、九州の山地、丘陵地に分布。芳醇な甘い香りをふりまく

初夏の鎌倉の谷戸の斜面を、淡い紫に彩るフジ。マメ科フジ属のつる性落葉木本。
本州、四国、九州の山地、丘陵地に分布。芳醇な甘い香りをふりまく

かつて鎌倉の地で山仕事をしていた方にお話をうかがったところ、「昔は生活のためにつるも刈り払って使っていたから、山にこんなにフジがあったことはなかったなあ」とおっしゃっていました。鎌倉には今も斜面林が多く残っているので、昔から森はこうした風景だったのかなと思ってしまいがちですが、今よりもっと、明るい光の差す雑木林が広がっていたのでしょうね。


今度は、薄暗い森で足元に目をやると、釣鐘型のホウチャクソウの花が咲いていることでしょう。淡いグリーンと白のグラデーションを描く、やさしい色合い。「ホウチャク」の名は、お寺の建物の軒先の四隅に吊り下げられた飾り「宝鐸(ほうちゃく、ほうたく)」にちなむもの。花が垂れ下がって咲く姿が、この宝鐸に似ていることからついた名です。お寺の多い鎌倉らしい、ゆかしいお花です。

ホウチャクソウ。イヌサフラン科チゴユリ属。北海道~九州の山地や丘陵の林内に生える

ホウチャクソウ。イヌサフラン科チゴユリ属。北海道~九州の山地や丘陵の林内に生える

じっと耳をすませてみると……初夏の深い木立の奥からは、ピール―リー・ジジッと、高原を思わせる涼やかなオオルリの声が響いてくることもあります。

また、少し光が差すような森の道端などでは、オカタツナミソウが、寄せ来る波のようなたたずまいで、足元を薄紫に彩ってくれます。漢字で書くと、「丘立浪草」。花の形を、立ち上がった浪頭(なみがしら)に見立ててついた名で、丘陵に生えることからオカタツナミソウと呼ばれます。

寄せ来る波のようなたたずまいのオカタツナミソウ。林床などを可憐に彩る。 シソ科タツナミソウ属。本州~四国の丘陵の林縁に生える多年草

寄せ来る波のようなたたずまいのオカタツナミソウ。林床などを可憐に彩る。
シソ科タツナミソウ属。本州~四国の丘陵の林縁に生える多年草

雑木林を彩る花たち

あまり出会うことはありませんが、白いチョウのような形をしたヤブデマリの花が、森に咲いていることもあります。まるで木にたくさんのチョウが舞い降りたようなまぶしい光景を、バーチャルツアーで思い描いてみてください。

黄色味を帯びた、小さな粟粒のような両性花が集まる花序の周りを、白い大きな装飾花が縁どって。装飾花は花弁だけが広がった無性花で、その5枚の花弁のうち、花の中心に近い1枚が極端に小さいことから、チョウのような形に見えるのです。

純白のチョウが舞うように咲くヤブデマリ。スイカズラ科ガマズミ属の落葉低木。本州(太平洋側)、四国、九州の山地の谷筋など、湿りがちな林内に生える

純白のチョウが舞うように咲くヤブデマリ。スイカズラ科ガマズミ属の落葉低木。本州(太平洋側)、四国、九州の山地の谷筋など、湿りがちな林内に生える

海辺で温暖な鎌倉では、近代化が進んで山の手入れが放棄され、遷移が進んだこともあり、常緑樹が多く生える薄暗い森が多く見られます。そんな中、ボランティアの方などが手入れをしてくださり、明るい光の差し込む、昔ながらの雑木林の環境が維持された環境も、ところどころで見ることができます。

そうした場所では、野草も多く花開き、森は輝く新緑をまとった季節感のある表情をしています。バーチャルツアーで環境ごとに異なる森の表情をイメージしてみるのも、想いの翼が広がっていきそうですね。


そんな雑木林の風情を残す場所でときおり見られるのが、ヤマツツジ。明るい朱色の、やさしい色合いのツツジです。今鎌倉に自生するヤマツツジはそれほど多くなく、見つけると、人と自然が共生していた里山の歴史がまぶたに浮かぶようで、嬉しくなります。ときに、かまくらちょうとも呼ばれる、黒いアゲハたちが蜜を吸いに来る様子も見られます。

淡い朱色のヤマツツジ。鎌倉に自生するツツジは本種。ツツジ科ツツジ属の半落葉低木。日本の野生ツツジの代表種。 北海道南部、本州、四国、九州に分布し、低山地の疎林内、林縁、日当たりのよい尾根筋、草原などに生育する

淡い朱色のヤマツツジ。鎌倉に自生するツツジは本種。ツツジ科ツツジ属の半落葉低木。日本の野生ツツジの代表種。
北海道南部、本州、四国、九州に分布し、低山地の疎林内、林縁、日当たりのよい尾根筋、草原などに生育する

こういった明るい雑木林の林床では、ホタルカズラが小さな青い花を咲かせていることも。青い花の中央に白い星形の筋をつけ、草むらの中に点々と咲くさまを、ホタルの光にたとえたことに由来する名と言われます。つぼみや咲き始めの花はピンク色をしていて、次第にコバルトブルーに変化するかわいらしい花。これも人と自然がともにあった、里山の歴史をほうふつとさせてくれるお花です。

足元に、青い小さな花を咲かせるホタルカズラ。ムラサキ科ムラサキ属の多年草。 北海道、本州、四国、九州の山地や野原の日当たりの良い乾燥地、林中の半日陰の草地に生育

足元に、青い小さな花を咲かせるホタルカズラ。ムラサキ科ムラサキ属の多年草。
北海道、本州、四国、九州の山地や野原の日当たりの良い乾燥地、林中の半日陰の草地に生育

そして5月末の森のお楽しみが、クワの実。鎌倉の谷戸の、少し開けた場所には、鳥が実を食べて運ぶためもあってか、クワの木が多く自生しています。甘くて美味しいのは、黒く熟した実です。赤い実はまだすっぱいので、ご注意を。私も子どものころ、学校帰りに手や口を真っ黒に染めて、夢中で食べたのを思い出します。

ヤマグワの実。黒く熟したものが食べごろ。クワの名の由来は、カイコの「食う葉」が縮まったとも、「蚕葉(こは)」が転訛(てんか)したともいわれる。北海道から本州、四国、九州の森林に見られるクワ科クワ属の落葉小高木

ヤマグワの実。黒く熟したものが食べごろ。クワの名の由来は、カイコの「食う葉」が縮まったとも、「蚕葉(こは)」が転訛(てんか)したともいわれる。北海道から本州、四国、九州の森林に見られるクワ科クワ属の落葉小高木


自然を想像することの効力

バーチャルツアーで、今度は谷戸あいから流れ出た、水の流れを取り巻く環境をイメージしてみましょう。谷戸のしぼり水が流れる小川の周りでは、5月ごろ、カワトンボが葉っぱで羽を休めたり、ふわっと飛び回ったりしています。

イトトンボが少し大きくなったような姿の、体長5センチほどのトンボ。カワトンボのヤゴは流れのある水辺でみられ、池などの止水域では見られません。一方、シオカラトンボなどは小川などでは見られず、ちょっとした環境の違いでも、それぞれに生きものたちがすみわけていること、多様な環境が多様な生物をはぐくむことを実感できます。

カワトンボ。トンボ目カワトンボ科。谷戸あいの小川のそばなどでよく見られる。平地や丘陵地の中流域・緩やかな流れの清流に生息する

カワトンボ。トンボ目カワトンボ科。谷戸あいの小川のそばなどでよく見られる。平地や丘陵地の中流域・緩やかな流れの清流に生息する

谷戸から流れ下った水を追って、広い川へ。5月ごろなら、海から川をさかのぼってきたアユが、水底のコケをはんでいるかもしれません。鎌倉の川は、水底の自然、そして海と川との自然のつながりが残されているところが多く、こうした海と川とを行き来する生きものたちにも出会うことができます。

鎌倉の川も昔は汚れていた時期がありましたが、下水道の整備が進み、こうして清流にすむアユが見られる川も増えてきました。最初相模川などで放流されたものが、この辺りにも上ってくるようになったといわれています。

水底の石についた藻をはむアユ。北海道中部以南に分布。海の水温と川の水温が大体同じになる春先に海から川にそ上し、秋の産卵期に川を下る、川と海を回遊する魚

水底の石についた藻をはむアユ。北海道中部以南に分布。海の水温と川の水温が大体同じになる春先に海から川にそ上し、秋の産卵期に川を下る、川と海を回遊する魚

川の水は、やがてキラキラと青く光る、広い海へと流れ出ます。5月の鎌倉・稲村ヶ崎あたりの浜辺では、ハマヒルガオが、ピンクのラッパ型の花を咲かせているかもしれません。つやつやとした肉厚の葉をつけて、塩分を洗い流したり、砂地の乾燥や強い日光などにも耐えることができる海浜植物です。

10年以上前にはたくさん見られましたが、砂の流出や観光客の踏圧により、ハマヒルガオをはじめ海浜植物も、貴重なものになってきました。コロンとかわいらしいピンクのラッパが一面に転がっているような、かつての初夏の浜辺の風景が戻ってくることを、願ってやみません。

5月ごろ、砂浜でピンク色のラッパ型の花を咲かせるハマヒルガオ。典型的な海浜植物。 日本では北海道から南西諸島の海岸の砂浜に生えるヒルガオ科ヒルガオ属の多年草

5月ごろ、砂浜でピンク色のラッパ型の花を咲かせるハマヒルガオ。典型的な海浜植物。
日本では北海道から南西諸島の海岸の砂浜に生えるヒルガオ科ヒルガオ属の多年草


5月の鎌倉バーチャルツアーは、これでフィナーレ……今回は、新緑の山から川・海までの生きものたちを、写真を通じて俯瞰してみました。写真からもあふれ出す、伸びゆく草木の輝き・生きものたちの息吹に、明るくすこやかな、命の力をいただけそうです。

自然がもつ、さまざまな力の科学的な検証がなされている『NATURE FIX』という本があります。その中の一説では、自然の風景写真を見ることにより、快感・共感・のびのびとした思考などに関連がある、脳の島皮質(とうひしつ)や前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)などに血流が流れると説かれています。さらに認知機能や注意力にも、大きな改善が見られるといいます。

外出自粛による環境の変化などで、ストレスを感じておられる方も……ときに自然の写真を見ながら、のびやかに心を解放させ、ほっと一息ついてみてはいかがでしょうか。

『NATURE FIX  自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』フローレンス・ウィリアムズ 著、栗木 さつき・森嶋 マリ 訳(NHK出版)

『NATURE FIX  自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』フローレンス・ウィリアムズ 著、栗木 さつき・森嶋 マリ 訳(NHK出版)

また、このバーチャルツアーでご紹介した生きものたちの中には、ほかの地域にも広く分布しているものが多くいます。もし、あなたの身近な場所に自然や緑があったら、「これはうちのそばにもいるな」「ここは鎌倉と違うな」など、違いを見つけてみてください。それぞれの地域の自然は、かけがえのない宝物。Stay at home の今、あらためて身近な自然や緑・道花の花たちに目を向けて、幸せの青い鳥のように、すてきな宝物を見つけていけたらいいですね。


「今回のさんぽ道」は、おやすみです 写真:衣張山(浄明寺緑地付近)から鎌倉の三方を望む山並みや相模湾を望む(2019年5月撮影)

「今回のさんぽ道」は、おやすみです
写真:衣張山(浄明寺緑地付近)から鎌倉の三方を望む山並みや相模湾を望む(2019年5月撮影)


Profile
Writer
村田 江里子 Eriko Murata

鎌倉フラワー&ネイチャーガイド。鎌倉の自然と遊び育つ。日本生態系協会職員・鎌倉市広報課編集嘱託員を経てフリー。環境省環境カウンセラー・森林インストラクター。鎌倉市環境審議会委員。著書に『花をたずねて鎌倉歩き』(学習研究社)がある。「人は自然に生かされている生きものの一員。「楽しい」「好き」「大切にしたい」の想いをはぐくむことで、自然あふれるすてきなまちを未来に引き継ぐいしづえとしたい」と、鎌倉の花や自然、歴史を楽しむ講座「花をたずねて鎌倉歩き」を主宰し14年を迎える。「輝く新緑の5月、2020年は Stay at home の日々……私も、こうして写真を整理したり、人に会わずに歩いていける身近なおさんぽの中で、輝く新緑や道端の野の花に出会って、元気をいただいています。今回ご紹介したような森や川、海の動植物は、来年も変わらず、私たちを待ってくれているはず。おうち時間を大切に心豊かに過ごしつつ、生きものたちとのびやかな気持ちで再会できる日を待ちたいと思います」
https://ameblo.jp/ecohanablog

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