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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

花と自然の鎌倉さんぽ「4月 卯月」

ヤマザクラにツツジ。
里の情景を思いながら

花と自然の鎌倉さんぽ
「4月・卯月」編

写真・文/村田 江里子

鎌倉がサクラの花で包まれる4月初め。有名な鎌倉山の桜並木のほど近くでは、しっとりとした谷戸の緑や静かな池の水面と出会えます。夫婦池公園ではヤマザクラが。4月末ごろにはツツジ咲く仏行寺に向かう、のどかな里の道がおすすめです。鎌倉フラワー&ネイチャーガイドの村田江里子さんがご案内します。

この連載では、自然の移り変わりや野の花の姿にふれながら、毎月の季節を感じられる鎌倉のまち歩きをご案内しています。しかし、2020年4月上旬現在、国内における新型コロナウイルスの流行にともない、お出かけ(特に週末)を控えることが求められている状況です。

この記事を家で読み、自然の写真を眺めることで、多くの人の心が少しでも晴れる一助になればと考えて掲載します。医療従事者、研究者、すべての関連業務に携わる人々に敬意を表すとともに、読者の皆さんのご健康とウイルス流行の収束を願っています。(編集部)


ソメイヨシノが咲き誇る鎌倉山

花咲く春……鎌倉山は桜の花に包まれます。

有名な桜並木から少し歩いたところに、ヤマザクラ咲く萌黄色の山並み、静かな池とも出会える夫婦池公園があります。5月ならフジの花とも出会え、のどかな里の道を歩いてツツジ咲く仏行寺へも足を延ばして。思い切り深呼吸がしたくなる、花・森・池をめぐるさんぽ道です。

まずは鎌倉駅からバスに乗り、見晴バス停へ。鎌倉山の坂を登る車窓からも、もう桜並木のサクラたちが迎えてくれます。見晴バス停で下車しましょう。

鎌倉山の桜並木(4月1週撮影)

鎌倉山の桜並木(4月1週撮影)

目の前に雲海のように広がる萌黄色の緑は、鎌倉広町緑地の谷戸の草木です。谷戸の自然が一体的に保全された、豊かな森。

そしてその緑と、遠くに海も望む特等席の場所に「ルミリュウ」というカフェ併設のケーキ屋さんがあります。

上質なケーキがいただける絶景カフェ「ルミリュウ」のテラス席。鎌倉三大緑地の1つ、鎌倉広町緑地の豊かな緑が望めます

上質なケーキがいただける絶景カフェ「ルミリュウ」のテラス席。鎌倉三大緑地の1つ、鎌倉広町緑地の豊かな緑が望めます

ガラス張りの店内の窓からも、緑を望むことができます。春らしく、イチゴのスイーツなどをいただくのもいいですね。人気ナンバーワンは、香ばしいサクサクのパイ生地と濃厚なカスタードクリームが絶妙なミルフィーユだそう。テイクアウトもでき、お土産に焼き菓子など購入するのもおすすめです。

美しく上質なルミリュウのケーキ。店内のカフェでいただいても、お土産にテイクアウトしても

美しく上質なルミリュウのケーキ。店内のカフェでいただいても、お土産にテイクアウトしても

繊細で上質なケーキを、豊かな緑を眺めながらいただく……コースの最初から、思わず寄り道したくなってしまいそう。テイクアウト用のケーキや焼き菓子もありますし、これからご案内する夫婦池公園を散策したら、ここに戻ってほっと一息、お茶をするのもいいかもしれません。


サクラをめぐる豆知識を

道を少し戻る方向に、美しくサクラ咲く鎌倉山の桜並木を歩いていきましょう。この並木に植えられているのは、ソメイヨシノ。この時期に咲くヤマザクラなどとの違いは、葉が出る前に花が咲くこと。サクラの花の美しさそのものを楽しめる、園芸種のサクラです。

鎌倉山のソメイヨシノ。葉が出る前に花が咲くのが特徴

鎌倉山のソメイヨシノ。葉が出る前に花が咲くのが特徴

道がカーブするところに、鎌倉山の碑があります。鎌倉山は、ドイツ人の貿易商クルト・マイスナーによって日本で初めての丘陵式住宅地として造成され、1928年に分譲が開始されました。

この一帯は、南に相模湾、西に富士山が眺められる景色のよいところで、「散歩するのによい鎌倉の山道」を略して「鎌倉山」と名付けられたと言われ、閑静な住宅地が広がっています。サクラや緑、遠くに海を眺めて……のびやかな気持ちで、お花見さんぽを楽しめます。

ここでちょっぴり、サクラの豆知識を。鎌倉市の木は「ヤマザクラ」ですが、これは、鎌倉の山に自生する、ヤマザクラとオオシマザクラの総称です。

このうちヤマザクラは、花と一緒に赤い葉が出るのが特徴。

花と一緒に赤い葉が出るヤマザクラ

花と一緒に赤い葉が出るヤマザクラ

一方のオオシマザクラは、花と一緒に緑の葉が出ます。

オオシマザクラはその名の通り、大島をはじめとする伊豆諸島を原産とするサクラ。その葉を塩漬けにして、桜餅を包む材料ともされます。古くから薪炭用に植えられたため、タキギザクラの別名もあります。

花と一緒に緑の葉が出るオオシマザクラ

花と一緒に緑の葉が出るオオシマザクラ

鎌倉の山も、昔はその多くが、人々がサクラやコナラなどの木を伐っては、薪や炭として利用し暮らしていた里山の雑木林だったと言われます。近代化が進んだ今は、山の手入れも放棄され、遷移*1 が進んで常緑樹も多く見られるようになっていますが……春になるとヤマザクラやオオシマザクラが咲く萌黄色の森は、かつて人と森とが共に暮らしていた時代のことを、思い起こさせてくれます。

*1 遷移(せんい)

ある土地に植物が生育することで、その場所の環境が変化していく現象。まったく生物を含まない土地(裸地)から始まる遷移を「一次遷移」と呼び、すでに何らかの植物で構成されている状態が、時間の経過とともに別の植生(集まって生育している植物の集団)へ移り変わる遷移を「二次遷移」と呼ぶ。

 
そしてもう1つ。サクラの花びらはハラハラと一枚ずつ散るものなのに、ポトリと花ごと落ちているのを見かけることはありませんか……?

これは、実はスズメの仕業。スズメは花を根元からくちばしでちぎって、花の蜜を吸います。ポトポトと花の形のままサクラが落ちているところに出会うと、スズメがお食事していたんだな、と推理できるんですよ。

こんな豆知識があると、お花見さんぽが、もっと楽しくなりますね。


ヤマザクラ咲く萌黄色の山並み

鎌倉山の碑のそばに、夫婦池公園の入口があります。

鎌倉山の見晴バス停そばにある、夫婦池公園鎌倉山口。ここから山道を下っていきます

鎌倉山の見晴バス停そばにある、夫婦池公園鎌倉山口。ここから山道を下っていきます

木の階段を、下っていきましょう。日の当たる道のわきには、ぺんぺん草として親しまれるナズナやタンポポなど……春の野の花がうれし気に咲いて。

次第に下っていくにつれ、森の中へと入っていきます。しっとりとした森の木陰の道端には、春、ツルカノコソウの白い花が咲きます。

しっとりとした山道の道端などで見られるツルカノコソウ。小さな花が集まって咲く様子を、小鹿の背中の白い点に見立ててこの名がついたそう

しっとりとした山道の道端などで見られるツルカノコソウ。小さな花が集まって咲く様子を、小鹿の背中の白い点に見立ててこの名がついたそう

小花を散らしたように咲く様が、まるで小鹿の背中の白い点のように見えることから「鹿の子」、そして花が咲き終わるとつるのように茎が長くのびて「つる」のようになることから、「ツルカノコソウ」と呼ばれています。

薄暗い杉林の下には、たくさんのシダ植物が葉を広げています。早春、毛むくじゃらの若芽を出す様が、イノシシの手のように見えるシダ植物の仲間「イノデ」も。

早春、毛におおわれた若芽を出す様がイノシシの手のように見える「イノデ」。鎌倉でよく見られるシダの仲間

早春、毛におおわれた若芽を出す様がイノシシの手のように見える「イノデ」。鎌倉でよく見られるシダの仲間

イノデたちがうっそうと茂る森は、まるで太古の世界に迷い込んだかのよう。鎌倉は、こうした谷戸底の湿った環境も多く、シダ好きにはたまらない、シダの宝庫なのだとか。

谷戸底へ降りてくるにつれ日陰がちとなり、薄暗く湿った場所に生えるシダ植物などが見られる「森のさんぽみち」

谷戸底へ降りてくるにつれ日陰がちとなり、薄暗く湿った場所に生えるシダ植物などが見られる「森のさんぽみち」

この山道「森のさんぽみち」は、2019年9月の台風による倒木で、一時通行止めとなっていましたが、夫婦池公園を管理する鎌倉市公園協会の方々のご尽力で、再び通れるようになりました。すてきな森の小径(こみち)を歩けるのも、地域の皆さまのお心とご努力のおかげ……感謝の想いを胸に、歩かせていただきたいと思います。


フジが美しく咲く夫婦池

谷戸の底に出ると、左手に、みずみずしい新緑の若葉が彩るハンノキ林があります。木道を歩いて、輝く緑に包まれて。

鎌倉では今や貴重となった湿地環境に見られるハンノキ林。木道を歩いて、輝く芽吹きの新緑を味わって

鎌倉では今や貴重となった湿地環境に見られるハンノキ林。木道を歩いて、輝く芽吹きの新緑を味わって

ハンノキは「畔の木」と書きます。田んぼの畔(あぜ)などに植えられてきた、湿地に生える樹木。幹がまっすぐ伸びることから、かつてはその枝から枝に「はさ木」と呼ばれる横棒をかけて、そこに稲をかけて干す「はさかけ」をするのに使われた木です。かつての里山風景をほうふつとさせるいわれですね。

鎌倉では、湿地や水辺が多く見られる谷戸底の平地は早くから開発され、そうした環境にみられるハンノキ林は、この夫婦池公園と台峯(だいみね)緑地など数えるほどしかなくなっており、貴重な林となっています。

右手のパークセンターにはトイレがあり、園内の地図も確認できます。

管理棟そばの歩道には、カキドオシの薄紫の花……垣根を通すように、ひょろりと長く茎が伸びるのが特徴。少し湿り気のある、しっとりとした環境でよく見られます。

垣根を通すように、細長く茎が伸びるカキドオシ。しっとり湿ったところで多く見られる

垣根を通すように、細長く茎が伸びるカキドオシ。しっとり湿ったところで多く見られる


そして、左手に広がるのびやかな池。ウグイスの声が響き、萌黄色の山並みのそこかしこに、ヤマザクラの白やピンクの淡い花が咲いて……おもわずため息が出るような、やさしい春の風景が広がっています。

春の山には、いったいいくつの色があるのでしょう。まるで東山魁夷画伯の日本画のような、やさしい色合いに染め分けられた山並みを眺めているうちに、心もやわらかな春色に染まっていくようです。

上の池・下の池が夫婦のように並ぶ夫婦池は、昔の田んぼの「ため池」の跡。谷戸の斜面には、ヤマザクラが美しく咲く(4月1週撮影)

上の池・下の池が夫婦のように並ぶ夫婦池は、昔の田んぼの「ため池」の跡。谷戸の斜面には、ヤマザクラが美しく咲く(4月1週撮影)

夫婦池は、江戸時代に代官の成瀬五左衛門重治が、田畑をうるおすための「かんがい用水」としてこの地に掘らせた池だと言われます。現在は鎌倉市の公園として整備され、ときにコバルトブルーのカワセミが姿を見せることもある、静かな池です。

2つの池の間の道を、通っていきましょう。池のほとりでミシシッピアカミミガメが、甲羅干しをしているかもしれません。ミシシッピアカミミガメは、よく縁日などで売られていた「ミドリガメ」が成長したもので、耳の位置のところに、赤い模様があるのが特徴。

カメがのんびり甲羅干しする姿も。外来種のミシシッピアカミミガメが多く見られる

カメがのんびり甲羅干しする姿も。外来種のミシシッピアカミミガメが多く見られる

このカメは、北米原産の外来種。飼いきれずに放されたものが野生化・帰化してしまったと言われます。地域の生態系を守るためにも、ペットは最後まで、責任をもって飼ってあげましょうね。


木道を進んでいきましょう。左手の方へ上っていくと……山裾にぽっかり口を開けた横穴・水源と防空壕の跡があります。太平洋戦争時代の歴史の記憶が、この鎌倉山の地にも刻まれています。

木道を下って、のびやかな芝生広場へ。お日さまの光を浴びて、谷戸のやさしい緑に包まれて……サクラの花々を愛でながら、座ってのんびり、一休みしましょう。ベンチもあり、お弁当を広げるのに、もってこいの場所です。

池を望む芝生広場の、のんびり草地。お弁当を広げるのもいいですね

池を望む芝生広場の、のんびり草地。お弁当を広げるのもいいですね

夫婦池公園の谷戸の斜面には、5月には、薄紫のフジの花が美しく咲きます。かつて土地で山仕事をしていた方にうかがったところ、人々が森の手入れをしていたころは、フジなどのつる植物は皆刈り取って、物を結ぶのなどに使っていたそう。こうしてフジの花が谷戸の斜面のあちこちに見られるのは、現代ならではの風景なのかもしれませんね。

藤棚のあるベンチの奥に、谷戸の斜面に咲く野生のフジも。新緑がまぶしい、5月に出会える風景

藤棚のあるベンチの奥に、谷戸の斜面に咲く野生のフジも。新緑がまぶしい、5月に出会える風景

芝生広場から池に向かって下ると、この左手にも、チョロチョロと澄んだ水が流れ出続ける、「しぼり水」の水源があります。

しぼり水とは、谷戸あいからしみ出てくる水のこと。三方を山に囲まれた鎌倉では、丘陵にひだのように刻まれた谷間一体の空間を指す「谷戸」が典型的な地形となっており、丘陵に降った雨は地面にしみこみ、流れ下って、しぼり水となって流れ出ます。かつては鎌倉の谷戸あいではどこでも、このしぼり水を使って、田畑を耕作していたと言います。

鎌倉山・夫婦池の山の保水力により、今も水がしたたり続ける「しぼり水」の水源

鎌倉山・夫婦池の山の保水力により、今も水がしたたり続ける「しぼり水」の水源

今も豊かに水をたたえ続ける、夫婦池。鎌倉山の緑の山並みが、その豊かな保水力の源となり、この土地に広がる田畑を潤してきたのでしょう。現在は住宅地となっているまちなみも……昔の景色に想いを馳せると、奥行きをもって見えてきますね。


鮮やかなツツジが彩る仏行寺

先ほどの木道を歩いて、上池・下池の間の入口へと戻りましょう。

ゴールデンウィークのあたりなら、舗装路を登らず左手に下って仏行寺を目指しましょう。住宅地の道ですが道標などはないので、地図を見ながらのまち歩きが好きな方におすすめの道です。

ゴールデンウィークのころなら、池の入口からさらに左手に道を下って(写真右方向)…ツツジ咲く仏行寺へ足を延ばしてはいかが?

ゴールデンウィークのころなら、池の入口からさらに左手に道を下って(写真右方向)…ツツジ咲く仏行寺へ足を延ばしてはいかが?

のんびり、道端の春の花を見ながら下り、曲がり角を右へ……道なりに曲がりながら、進んでいきましょう。

このあたりの土地は、笛田(ふえだ)と呼ばれています。この地を流れる小川のほとりのアシの葉が風に吹かれて鳴る様子から名づけられたとか、笛のような形の田んぼが並んでいたことから名づけられたと伝わっています。今でも田んぼの名残のように、道の脇に水が染み出し、田んぼのあぜなどで見られるキツネノボタンが咲く様子も見られます。

コンペイトウのような実が特徴のキツネノボタン。鎌倉でも、田んぼのあぜなどに自生する

コンペイトウのような実が特徴のキツネノボタン。鎌倉でも、田んぼのあぜなどに自生する


やがて、右手に三嶋神社の石段が現れます。この三嶋神社は、笛田のまちの鎮守(ちんじゅ)さまです。

源 頼朝挙兵の際に平氏の大将をつとめた武将・大庭景親(おおばかげちか)が再建したとされます。村のそばに湧く泉が田を潤したことから、人々に篤く信仰されてきた神社だそう。もとは、谷ひとつ隔てたところにありましたが、「水上に祀(まつ)れ」との神託があり、現在の地に遷座されたと言われています。

笛田の鎮守・三嶋神社

笛田の鎮守・三嶋神社

急な石段を登ると、途中に狛犬が鎮座しています。左手の狛犬が抑えている石造りの毬(まり)をよく見ると……中にコロンと丸い、石の玉が。石をくりぬいてつくった石工さんの匠の技に、感じ入ります。

外から触るとコロリと転がせる石の玉が入った毬を踏む狛犬。昭和6年(1931年)建立、石工名:笛田 岩崎金太郎 刻 との記録がある

外から触るとコロリと転がせる石の玉が入った毬を踏む狛犬。昭和6年(1931年)建立、石工名:笛田 岩崎金太郎 刻 との記録がある

ゆるやかにカーブする道や、昔ながらの石垣、道端の野の花など……昔の農村風景がまぶたにうかぶ、どこかぬくもりある里の風景です。


さらに道を下って右手に曲がると、仏行寺に到着します。仏行寺の開山は、戦国時代の1495年(明応4年)に亡くなった仏性院日秀(ぶっしょういんにっしゅう)と伝えられ、日蓮上人(しょうにん)像をご本尊としています。

仏行寺のご本堂裏手の庭園に、ツツジ咲く斜面が広がっている

仏行寺のご本堂裏手の庭園に、ツツジ咲く斜面が広がっている

「笛田山」の山号をもつ仏行寺のご本堂にお参りをして、いよいよお庭へ……ゴールデンウィークのころなら、斜面一面に、ツツジの花が色鮮やかに咲き誇っていることでしょう。

オオムラサキツツジや、5月に入るとサツキツツジなど……目も覚めるような赤やピンク、白の花々、風薫る5月のみずみずしい緑が、色鮮やかに、胸に迫ります。

色鮮やかにツツジが彩る斜面を登って

色鮮やかにツツジが彩る斜面を登って

さあ、ツツジを愛でながら、斜面を登っていきましょう。ぐんぐん高度が上がって、山からツツジやお寺の屋根を見晴らして……爽快な気分になれる、お寺の山歩きを楽しんで。道の脇には舟形の石碑が並び、シランの深紅の花も彩りを添えます。

足元を紅色に彩るシランの花

足元を紅色に彩るシランの花

頂上に立つ、小山のように盛られた円形の土の塚は、源太塚。この塚は、鎌倉時代の武将・梶原源太景季(かじわらげんたかげすえ)の片腕が埋められていると言われます。

景季は、父・梶原景時とともに早くから源 頼朝に仕え、源 義仲追討のとき、宇治川で佐々木高綱と先陣を争うなど数々の武功を立てた人です。頼朝の死後、父とともに鎌倉を追われた景季が駿河で戦死した後、妻の信夫(しのぶ)はたいそう悲しみ、この地で自害しました。その後、この山から信夫の夫を慕う悲しみの声が聞こえてきたので、村人がその魂を慰めるために仏行寺を建てたと言われています。

ツツジ咲く山道を登った頂上にある源太塚。鎌倉時代の武将・梶原源太景季をまつる

ツツジ咲く山道を登った頂上にある源太塚。鎌倉時代の武将・梶原源太景季をまつる

天にも届きそうな高みから景色を見晴らして、あたたかな日の光を浴びて……いつしか心も安らかになっていきそうです。

風薫る新緑の山や花々を眺めながら道を下って、池のほとりに戻って。見納めに、ツツジの道を見上げましょう。

ツツジ咲く斜面のふもとの庭園の池。モリアオガエルの合唱が響いていることも

ツツジ咲く斜面のふもとの庭園の池。モリアオガエルの合唱が響いていることも

池からは、クルルル、クルルル、とモリアオガエルの合唱が、にぎやかに響いているかもしれません。泡に包まれた卵を木の枝などに産みつけ、中からオタマジャクシが産まれると、池の水にぽとりと落ちて泳ぎ出す……そんな興味深い生態のカエルです。もとは鎌倉で見られることはほとんどなかったのですが、近年は、鎌倉の各地のお寺の池や水鉢などでも、繁殖している様子が見られます。

ツツジ咲く山歩きとのびやかな展望、しとやかな池……晴れやかな気持ちをいただける、春の仏行寺です。温暖化の影響もあるのか、お寺の方によると、ツツジの開花は年々早まってきているとのこと。鎌倉の開花状況をチェックしてから訪れるのが安心ですね。


仏行寺を出たら、左手の道を登っていきましょう。脇の斜面には、白いマルバウツギの花が咲いているかもしれません。

マルバウツギは、卯の花とも呼ばれるウツギの仲間。ウツギは漢字で「空木」とも書き、枝の中が中空になっていることにちなみます。丸みを帯びた葉のウツギがマルバウツギで、鎌倉では多く見られます。葉がより細長いウツギは、マルバウツギより少し遅れて、花穂にたっぷりと白い花を咲かせます。

鎌倉では多く見られるマルバウツギ。卯の花とも呼ばれるウツギの仲間

鎌倉では多く見られるマルバウツギ。卯の花とも呼ばれるウツギの仲間

ちょっときつい坂を登りきったら……左手に折れて、道なりに坂を下っていきましょう。住宅地をずうっと15分ほど下っていくと、やがてバス通りに出ます。梶原口バス停からバスに乗り、鎌倉駅や大船駅、藤沢駅などへ出て帰途に就きましょう。

春のサクラやフジ・ツツジを楽しむ、鎌倉山からの花さんぽ。うららかな春の日差しを浴びて、命を輝かせて咲くお花たちに出会うと……ほっと自分に帰れるような、心和むひとときを過ごせるかもしれませんね。


今回のさんぽ道

今回のさんぽ道

コースタイム:2〜3時間
鎌倉駅~見晴バス停(約40分)
見晴バス停~夫婦池公園鎌倉山口(約5分)
夫婦池公園園内散策(約1時間)→2つのコースへ

→4月のおすすめコース
夫婦池公園から山道を戻り、見晴バス停へ。
または夫婦池から舗装路を登り、若松バス停へ(ともに約20分)
※夫婦池公園を一周して桜並木に戻るこのコースは、休憩を入れて、徒歩で2時間ほどの、のんびりコース。

→5月のおすすめコース
夫婦池公園~三嶋神社(約20分)
三嶋神社~仏行寺(約10分)
仏行寺散策(約20分)
仏行寺~梶原口バス停(約15分)
※三嶋神社経由で仏行寺まで行くこのコースは、徒歩で3時間ほど、健脚向きのロングコース。道標があまりないので、地図を見てのまち歩きが好きな人向きです。

ル・ミリュウ 鎌倉山 (le milieu)
住所:鎌倉市鎌倉山3-2-31
アクセス:鎌倉駅からバスに乗り、見晴バス停下車すぐ
TEL:0467-50-0226
定休日:不定休、予約不可
http://www.lemilieu-kamakurayama.com
 
夫婦池公園
住所:鎌倉市鎌倉山2-2-2
アクセス:鎌倉駅よりバス見晴バス停下車→鎌倉山口まで徒歩約5分、若松バス停下車→パークセンターまで徒歩約5分
TEL:0467-38-1183(夫婦池公園パークセンター)または 0467-45-2750(鎌倉中央公園)
開園時間:8:30~17:15
休園日:12月29日~1月3日
http://kamakura-park.com/go/meotoike_park/map.html
 
仏行寺(ぶつぎょうじ)
住所:鎌倉市笛田3-29-22
アクセス:鎌倉駅からバスに乗り、梶原口バス停下車 徒歩約15分
TEL:0467-32-2032


Profile
Writer
村田 江里子 Eriko Murata

鎌倉フラワー&ネイチャーガイド。鎌倉の自然と遊び育つ。日本生態系協会職員・鎌倉市広報課編集嘱託員を経てフリー。環境省環境カウンセラー・森林インストラクター。鎌倉市環境審議会委員。著書に『花をたずねて鎌倉歩き』(学習研究社)がある。「人は自然に生かされている生きものの一員。「楽しい」「好き」「大切にしたい」の想いをはぐくむことで、自然あふれるすてきなまちを未来に引き継ぐいしづえとしたい」と、鎌倉の花や自然、歴史を楽しむ講座「花をたずねて鎌倉歩き」を主宰し14年を迎える。「ウグイスの声が響く谷戸の春……ピンクや白のヤマザクラや萌黄色の芽吹きで、淡くやさしい色合いに染め分けられた鎌倉の春の山は、私の大好きな風景。静かにヤマザクラのお花見を楽しめるこのコースは、私のお気に入りの春のさんぽ道です。今年はコロナウイルスの影響で出かけるのが難しい状況ですが……来年以降のご参考に、心和む春のおたよりとしてご覧いただければ幸いです」
https://ameblo.jp/ecohanablog

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