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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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花と自然の鎌倉さんぽ「11月 霜月」

北鎌倉から鎌倉へ。
リンドウや紅葉をたずねる

花と自然の鎌倉さんぽ
「11月・霜月」編

写真・文/村田 江里子

鎌倉フラワー&ネイチャーガイド、村田江里子さんの新連載が始まります。深まる秋、リンドウやホトトギスの花、色づき始めた紅葉をたずねて鎌倉を歩いてみませんか? 北鎌倉から社寺をめぐり、亀谷坂切通を経て鎌倉へ向かうコースをご案内します。お寺さまですので、まずお賽銭をあげてお参りをしましょう。

11月の鎌倉は、秋のお花やカラフルな木や草の実と出会いながらの散策が楽しいころ。鎌倉で紅葉狩りをするなら、11月最終週~12月前半がおすすめです。

鎌倉は山に自生するモミジは少なく、紅葉狩りをするならたいてい、社寺に植えられたモミジやイチョウを愛でて歩く形になります。ここでは社寺の紅葉狩りを楽しみつつ、道端の自然にも目を向け歩いてみましょう。


青いリンドウが彩る東慶寺

まずはJR北鎌倉駅へ……横須賀線の車窓から眺めることもできる円覚寺のモミジは、「鎌倉もそろそろ紅葉が始まったな」と知るバロメーターになります。

JR横須賀線「北鎌倉」駅そばの円覚寺の紅葉。ここまで色づくのは11月第4週~12月第2週ごろ。鎌倉の紅葉の進み具合を車窓から確認できます

まずは東慶寺へ……茅葺の山門をくぐって、境内へ入りましょう。11月最終週~12月初めには、モミジの紅葉が彩ります。

趣ある茅葺屋根をモミジが彩る東慶寺の山門(11月第4週の撮影)

10~11月ごろなら、境内のあちこちに、青いリンドウの花が咲いていることでしょう。リンドウは鎌倉市の花。とはいえ、今では自生しているものはほとんど見られず、出会えるのはたいてい、こうしたお寺の境内など。

リンドウは、ときおり草刈りされる草地の環境に適応した植物。地元の方にお話をうかがうことがあったとき、「昔は農道の脇なんかにぽっ、ぽっ、と咲いて、それはきれいだったんだ」と、目を細めてお話しされていた様子が心に残っています。今では田んぼや畑が減って、そうした定期的に手入れされる環境も減り、自生するリンドウも貴重なものになってしまいました。

鎌倉市の花・リンドウ。東慶寺では山門前や本堂前に10月下旬~11月ごろ咲きます


丹精なたたずまいの本堂にお参りしましょう。東慶寺は「縁切り寺」ともいわれます。かつては男性とつらい仲にあっても、女性から離縁を言い出すことはできませんでしたが、鎌倉幕府 第八代執権の北条時宗の妻・覚山尼(かくさんに)は、このお寺に入り、一定期間修行をすると離縁が認められる「縁切り寺法」を定めました。多くの女性たちを、救ってきたお寺です。

東慶寺から見上げる谷戸の森。左手は植えられたイチョウ、右手は黄葉したコナラなどのほか、温暖な鎌倉らしい常緑樹も交じり色とりどり(11月第4週の撮影)

今は「花の寺」ともいわれ、北鎌倉駅のすぐそばで四季折々のお花に出会える、心安らぐお寺です。12月の紅葉も美しく、3月初めには約300本のウメが、ふくいくと花開きます。

境内の奥へ進むと、10~11月ごろなら、足元をカラフルなノブドウの実が彩っていることでしょう。

カラフルな宝石のようなノブドウの実。残念ながら食用にはなりません

鎌倉にも自生するつる植物で、緑、青、紫、赤紫と、色が変化しています。色とりどりの宝石のようで、思わず「わあ……!」と声を上げたくなります。


ジュウガツザクラが楚々と咲く道を抜けると、右手の斜面には、一面にイワタバコ*1 の群落が。タバコの葉に似たつややかな葉が、垂れ下がっています。

イワタバコは、6月に薄紫の星型の花を咲かせる、湿った岩壁に自生する植物です。谷戸あいの切通ややぐらなどでよく出会えるイワタバコは、鎌倉らしい植物の1つといえるでしょう。

すがすがしい谷戸あいの道。右手の岩壁にイワタバコが群生しています。6月中旬には紫色の花が一面に咲きます

木漏れ日の心地よい、すがすがしい道。石段を登れば、やぐらの中に開山の覚山尼や、後醍醐天皇の皇女・用堂尼(ようどうに)のお墓もあります。

谷戸奥のしっとりした精気に包まれて……私はここに来るといつも、自分に帰るような安らかさに包まれて、明日からの元気をいただけます。12月初めごろには、辺りはイチョウの落ち葉で埋め尽くされ、金色のじゅうたんになります。

*1 イワタバコ(岩煙草)

東北地方を北限とする日本全土の山地に分布し、日陰の岩壁や切り通し、石切場跡、湿った石垣などに生える多年草(学名:Conandron ramondioides )。鎌倉に自生するのはケイワタバコ(毛岩煙草)と呼ばれる変種で、無毛の基準種に対して、花茎やがく、葉の裏面に軟毛が生えている特徴がある。


かまくら石の石段と浄智寺

車道に戻り、浄智寺へ向かいましょう。入口には、鎌倉十井(じっせい)の1つ・甘露の井があります。海が近いこともあってか水の悪かった鎌倉の井戸の中で、おいしく、伝説やいわれのある良い水が出る貴重な十の井戸が、江戸時代に鎌倉十井として選定されました。

左手に甘露の井があります。源氏山公園につながる、背後の森の保水力をほうふつとさせます(2019年11月中旬現在、台風による倒木の影響で源氏山ハイキングコースは通行禁止です)

甘露の井というほどですから、きっとまろやかでおいしい水だったのでしょうね。

参道を進むと、たおやかに風化した美しい「かまくら石」の石段が迎えてくれます。

歴史の趣を感じる、浄智寺参道のかまくら石の石段

かまくら石は、「鎌倉アルプス」の南斜面や衣張山(きぬばりやま)などを中心とする地層から切り出された石。火山灰や砂が積もってできた堆積岩で、加工しやすい割に耐久性があり、石段や石塔、やぐらなどに用いられました。風化したやわらかな風合いは、歴史の趣を感じさせてくれます。


ご本堂へ……過去・現在・未来を表すご本尊、阿弥陀さま・お釈迦さま・弥勒さまの三世仏にお参りしましょう。12月に入れば、ご本堂の前にイチョウの落ち葉が散り敷きます。

浄智寺本堂の前に散り敷くイチョウ(12月第1週の撮影)

境内の奥へ回って。10月終わり~11月初めごろなら、茅葺の書院のお庭に、赤いシュウメイギクの花が咲き乱れているかもしれません。シュウメイギクは秋明菊と書き、中国原産の植物。菊と名前はつきますが、実はアネモネの仲間です。

10月下旬~11月初め、シュウメイギクが彩る浄智寺書院の庭


谷戸の緑の中をさらに奥へ……山すそに「やぐら」といわれる横穴がぽっかりと口を開けています。やぐらは、山すその岩盤をうがってつくられた横穴で、中世の武士や僧侶のお墓です。

山がちで平地が貴重だった鎌倉では、鎌倉幕府 第三代執権・北条泰時のころ平地にお墓をつくることが禁じられ、こうしたやぐらがつくられたといわれます。やぐらは中世の鎌倉特有のお墓のスタイルで、今も鎌倉のあちこちで見られます。このあたりのやぐらは、時代の移り変わりとともに、炭の貯蔵庫や防空壕としても使われたそう。

奥のやぐらには、鎌倉・江ノ島七福神の1つに数えられる布袋尊が。

やぐらの中にまつられた布袋尊。お腹をなでて元気をいただきましょう

楽しそうな笑顔の布袋さま、お腹をさすると元気がいただけるそうですよ。

境内では、ナンテンのような葉で紫色のハギのお花をつけるナンテンハギやホトトギス、黄色いツワブキの花など、鎌倉に自生する植物たちとも出会えます。

葉がナンテンに、花がハギに似た深い紫が美しいナンテンハギの花。ときおり草刈りされるような里山の草地や道端で出会えます


亀谷坂切通を歩き、古道の趣を感じて

浄智寺を出たら、また車道を進み、長寿寺の前へ。ここは期間・曜日限定で特別公開され、12月には見事な紅葉が見られるお寺です。長寿寺の角を曲がって、亀谷坂切通(かめがやつざかきりどおし)に入りましょう。

鎌倉七口の1つに数えられる切通。切通とは、三方を山に囲まれた鎌倉で、その山並みの一部を掘り割ってつくられた交通路のこと。交通や防衛の要所となり、特に重要なものが「鎌倉七口」に選定されました。

鎌倉七口の1つ・亀谷坂切通。11月終わり~12月ごろには民家の塀のイワカタヒバが赤く色づき壮観

この亀谷坂切通は、かつて建長寺の大覚池に済んでいたカメが、「たまにはこの世を見てみたい」と坂を登ってみたものの、頂上まで行くことができず引き返してきたことから「亀返坂(かめかえりざか)」といわれたことにちなむそう。

ちょっと頑張って、登っていきましょう。秋なら斜面で、イワカタヒバが赤く色づいているかもしれません。

峠を越えたら、今度は急坂を下って。岩船地蔵堂に着くと、ここはもう鎌倉側の扇ガ谷(おうぎがやつ)です。山と谷が入り組んで、扇のような地形であることから、扇ガ谷の名がついたともいわれるところ。

右折し、扇川に沿って、ゆるやかな坂を登っていきましょう。やがて奥座敷・海蔵寺に着きます。

海蔵寺へ至る静かな道を彩るモミジ。日陰がちなところなので、ここまで色づくのは12月に入ってから


海蔵寺、心静まる「水の寺」

鎌倉の奥座敷・海蔵寺へ。モミジが彩る山門……9月下旬には、しだれるハギの花で見事なトンネルとなるところです。11月ごろなら、リンドウやホトトギスの花が、境内のそこかしこに咲いていることでしょう。

ホトトギスは、鎌倉の山でも、日陰気味のところに自生する植物です。近年は、茎の上部にだけ花をつけるタイワンホトトギスも多く見られるようになりました。

花びらにある斑点を、6月ごろ「特許許可局」と聞きなしされる声で鳴く鳥・ホトトギスの胸の模様になぞらえて「ホトトギス」の名がついたとか

龍護殿ともいわれる、青銅の屋根の本堂へ。海蔵寺は、鎌倉幕府 第六代将軍・宗尊親王(むねたかしんのう)の命で建てられたお寺。4月にはカイドウ、7月にはノウゼンカズラの花が見事に咲きます。四季の花に彩られ、ほっと心落ち着く静かなお寺です。

海蔵寺を包むのは、源氏山公園をはじめとする緑の山並み。こんこんと湧く井戸の保水力の源


晩秋には、鐘楼の近くで赤いサネカズラの実がルビーのように輝きます。鎌倉の山にも自生する、つる植物です。

ビナンカズラ(美男葛)とも呼ばれ、この茎から出る汁は整髪料として使われたそう

サネカズラは、百人一首の歌にも詠まれています。

「名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがな」

「逢う」という文字をもつ逢坂山のサネカズラのつるをたぐっていくように、あなたのもとに行く方法があったらいいのになあ…という恋の歌です。


境内奥の、禅の心が表れたお庭を眺めて。

谷戸の緑に包まれた、禅の心が表れたお庭。しっとりとした苔の緑や波紋の広がる水面を眺めるうち、水のように心が静まっていきます

自然を尊ぶ禅宗では、自然の地形や石、木のあり方にしたがって、その縮図ともいえる庭園をつくったといいます。禅の心を表し、水をたたえる心字池……心がふっと、静まっていきます。

海蔵寺は水の寺ともいわれ、鎌倉十井の1つである底脱ノ井、神秘的な澄んだ水をたたえる十六ノ井、2つの井戸があります。

源氏山に連なる山を背負った海蔵寺。山の保水力が、今も水をたたえ続けるこれらの井戸の源となっているのでしょう。

神秘的な水をたたえる十六ノ井。弘法大師 空海がこの水で薬を煎じたところ人々の病気が治り、金剛功徳水と呼ばれ大切にされたそう

ここから生まれた小さな流れは扇川となって、やがて滑川に合流し、由比ヶ浜の海に注ぎます。人をはじめ、生きものたちの命を支える水。こうして森から染み出す小さな一滴が井戸となり、川が生まれてくるところを目にすると、保水力を支える森の大きな力を、改めて感じます。

扇川に沿って、お寺を出て下っていきましょう。英勝寺や寿福寺に立ち寄ったり、小町通りでお土産を探したりしながら鎌倉駅へ向かうのもいいですね。

深まる秋、花々や実り・切通の趣を味わう鎌倉さんぽ。にぎやかな紅葉シーズンに入る前、しみじみと味わい深い秋の風情に会いに、どうぞ訪れてみてくださいね。


今回のさんぽ道

東慶寺
所在地:神奈川県鎌倉市山ノ内1367
アクセス:JR横須賀線 「北鎌倉」駅から徒歩4分
拝観時間:8:30~16:30(10月~3月は16:00まで)
拝観料:大人(高校生以上)200円、小・中学生100円
TEL:0467-22-1663
https://tokeiji.com
 
浄智寺
所在地:神奈川県鎌倉市山ノ内1402
アクセス:JR「北鎌倉」駅から徒歩6分
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:大人(高校生以上)200円、小・中学生100円
TEL:0467-22-3943
 
海蔵寺
所在地:神奈川県鎌倉市扇ガ谷4-18-8
アクセス:JR「鎌倉」駅から徒歩20分
拝観時間:9:30~16:00
拝観料:100円(十六ノ井)
TEL:0467-22-3175


Profile
Writer
村田 江里子 Eriko Murata

鎌倉フラワー&ネイチャーガイド。鎌倉の自然と遊び育つ。日本生態系協会職員・鎌倉市広報課編集嘱託員を経てフリー。環境省環境カウンセラー・森林インストラクター。鎌倉市環境審議会委員。著書に『花をたずねて鎌倉歩き』(学習研究社)がある。「人は自然に生かされている生きものの一員。「楽しい」「好き」「大切にしたい」の想いをはぐくむことで、自然あふれるすてきなまちを未来に引き継ぐいしづえとしたい」と、鎌倉の花や自然、歴史を楽しむ講座「花をたずねて鎌倉歩き」を主宰し13年を迎える。「チン、チン……とひそやかに鳴くカネタタキなど虫の音や、やさしい秋の花々と出会う鎌倉散歩……にぎやかな紅葉シーズンが始まる前、静かな情趣を味わう秋の散策は、心がほっと和んでしまいます。鎌倉観光に訪れたら、どうぞ道端の自然にも目を向けてみてくださいね」
https://ameblo.jp/ecohanablog

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