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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
光を創り出す 手わざと先端技術

光を創り出す
手わざと先端技術

ミラノサローネ2019
インプレッション

取材・文/浦田 薫

©︎Takumi Ota

世相をいち早く反映するデザイントレンド。時によって、半歩先の未来のライフスタイルをも描き出す。社会動向や時代の空気に敏感なデザイナーたちが集結する今年のミラノサローネ国際家具見本市では、マテリアル(素材)に対する着目、環境への意識といったテーマが際立っていた。今回は「光」を生み出す透明素材の造形について現地で追った。

消費後も伴う責任

2019年4月9日〜14日まで「第58回ミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)」*1 がロー・フィエラミラノにて催された。

同時期にミラノ市内のショールームや展示会場では例年、プロダクツのコンセプトから新商品や体感型のインスタレーションなど、400件ほどのイベントが展示開催される。

若手デザイナーの世界への登竜門である「サローネサテリテ」に出展したデザイナーの松山祥樹は、アクリル素材とLEDを用いたコレクション「Cut Out the Sky」を展示。左が「Sky Lighthouse」、右が「twilight」。夕闇が迫る時刻の空が描くグラデーションのようだ
©︎Yoshiki Matsuyama

これらの全イベントを総称して「ミラノデザインウィーク(以下、MDW)」と呼ばれる期間には、家具やプロダクトのデザインにとどまらず、世界各国の家電メーカーやカーメーカーなども参加。近未来のライフスタイルを予見させる場として、多くの人々が訪れる。

澄みわたる青空や、夕焼けに淡く染まる茜空。空に現れる色彩のグラデーションを切り取ったかのような光のオブジェは、大気中の分子に太陽光が当たると「散乱」が起きて青く見える、といった自然界の光の見え方のメカニズムを応用しているという
©︎Yoshiki Matsuyama

デザインや設計をするという行為は、機能や性能、コストパフォーマンスなどを考慮した「総合的な観点を監修すること」に変わりはない。

しかし、現在の産業界では、生産過程における自然環境へのインパクト評価、天然資源の節約、省エネルギー、循環型経済モデル、さらには廃棄処分の方法、再生やアップサイクル*2 といった流れが重視されている。

つまりデザインが消費された「後」の過程までを見据えないと、責任あるデザインとしてみなされないのだ。こうした時代においてメーカーやデザイナーは、どんな考えと仕事環境を築いているのだろうか?

こうした疑問について、国際照明見本市「エウロルーチェ」に出展していたスワロフスキー(Swarovski)社に聞くことができた。

*1 ミラノサローネ

イタリア家具工業会社 が1961年から運営する、世界最大規模の家具見本市。今年の出展企業は1,868社で、6日間で181カ国から38万6,236人の来場を記録した。「サローネ国際家具見本市」「サローネ国際インテリア小物見本市」に加え、隔年開催する照明に特化した「エウロルーチェ」、オフィス家具の「Workplace 3.0」、今年から新しい試みでコントラクト業界(大規模な商用家具市場)に着眼した「S. Project」 、550人が展示した35歳未満のデザイナーを紹介する「サローネサテリテ」といった複数の見本市により構成される。

*2 アップサイクル

リサイクル(再循環)やリユース(再使用)と同じく、廃棄物を原料として循環させる考え方。その際に、元の素材よりも商品としての価値を高めるような加工を行う。代表的な事例には、トラックの幌を材料にしたバッグや雑貨を販売するスイスのFREITAG(フライターグ)社など。


角度によって変わる色

クリスタルガラスの製造で世界的に知られる、1895年創業のスワロフスキー。2019年の展示テーマは「大地、空気、火、水という自然界の4大要素からのインスピレーション」だった。

出展デザイナーのマリヤン・ファン・オーベルもまた、一瞬として同じ色を見せることのない空の色に魅了されたデザイナーの一人だ。彼女はスワロフスキーと2年の歳月をかけて、空の色を人工的な光で表現する「Cyanometer(シアン計)」という名のコレクション制作に挑戦した。

2017年にスワロフスキーが主催する「Designers of the future」で奨励されたオランダ人デザイナー、マリヤン・ファン・オーベル(Marjan Van Aubel)
©︎Swarovski AG

「シアン計とは、19世紀に空の色を測定した器具のことです。人々が空の色に憧れ続けるように、私は光を内に秘めるホワイト・オパール クリスタルに興味を惹かれました。反射効果のある透明クリスタルとは対照的で、まさに空が光を反射する現象と似ているのです」

朝、昼、夕焼けの3段階でプログラムされた光を選択できるCyanometerは、一般家庭からオフィス、商空間まで多岐にわたる場所での設置を考慮してデザイン
©︎Swarovski AG

「同じ一定のLEDの光源でありながら、角度によってブルーに見える部分と、オレンジに見える部分があるのが特徴です。クリスタルガラスをカットする微妙な角度で、光が反射する方向や屈折度も変化します。このようにクリスタルという素材は、光の持つ美しさをさらに演出する力を持ち合わせています。私はクリスタルと光が戯れ、透過する様に関心を抱いてきました」

マリアンが提案する直径60cm と90cmの2サイズの円形型照明が、ペンダント、ブラケット、スタンド式の3パターンに応用される
©︎Swarovski AG


スワロフスキー照明部門の最高執行責任者、アレクサンダー・ウェルホーファー(Alexander Wellhoefer)は、同社のクリスタルは非常にサスティナブルな環境下で生産されていると解説した。現在、スワロフスキーは「100%カーボンニュートラル」をゴール地点に掲げる。

同社の創業者は、オーストリアの山々から湧き流れる川を早くから水力発電に利用。また、生産過程で使用した水を浄化して再び川に戻す活動にも尽力し、現在では60%ほどの再生率となった。

このような自然の力を味方にする工房で、手工芸と機械を併用させた物づくりを刷新し続けている。特注ベースの商品は大半が手作業で制作されるが、現在では複雑なガラスの構造をカッティングできる同社独自のガラス用3Dプリンターも使われるという。

空の色を意識したのは、自然な光を再現するため。都心の華やかで過激なネオン、強烈な照明から離れ、自然の一部を身近な環境に取り入れさせてくれるかのようだ
©︎Swarovski AG

「クリスタルの可能性を掘り下げて行くのであれば、ソーラーシステムやレンズの考案を今後のデザイン課題にしたいと思っています」とマリアン。

「一般にクリスタルと言えば『ラグジュアリーな商品』と思われがちですが、Cyanometerは光源も、支柱やフレームに使用したアルミニウムも、非常にサスティナブルな(持続可能性のある)素材です。良い商品を選択して長く付き合うことも、サスティナブルなデザインの一環だと思います」

品質や透明度、生産や加工に用いる一連の工程を考察してきた彼女は、光の方向に向かって成長する植物のようにスーッと自然体で素材と向き合う。その眼差しは、果てしない空に向けられる。


職人の手と、重力から

イタリア・ムラノ島は「ヴェネチアンガラス」の産地として知られる。2013年に同地のガラス工房が創設したワンダーグラス(WonderGlass)は、世界中のアーティスト、デザイナーや建築家たちと協働している。新興ブランドながら、シャンデリアなどの照明器具を吹きガラス手法で制作することで名高い。

そのワンダーグラスと、佐藤オオキ率いるデザインオフィスnendoによる「Shape of gravity(重力の形)」と題した展示会では、ガラス素材の可能性を導き出すデザインプロセスに人々の関心が寄せられた。

市街地にある「istituto dei Ciechi(ミラノ盲人協会)」での展示風景
©︎Takumi Ota

nendoは、ムラノ島でガラス職人の作業風景を観察しながら、素材の可能性とデザインプロセスを一体化させることに挑戦した。曲線を描いた鉄板に溶解ガラスを板状に流し、その自重によって形状を作り出すという発想である。

ガラスの自重と粘性によって自らの形状を生み出していることから、家具とアクセサリーのコレクションを「melt」と命名。nendoは、型から取り出した後のガラスの粘性をできるだけ生かしたデザインを手がけた
©︎Akihiro Yoshida

そもそもガラスは逆説的なマテリアルで、熱から誕生するが冷たく、硬いが脆い。そもそも構造について未だ判明していない*3 という、とても不思議な素材である。

佐藤のショートコメント(英語)と製造工程を紹介するモノクローム映像。ワンダーグラスは溶解したガラスを型に流し込んで成型する「鋳造ガラス」を得意とする。ガラスが柔らかいうちに型から取り出し、さらに手作業で造形を施す
©︎Davide Calafa’/ WonderGlass

欧州の建築では、ガラスは中世時代から信仰の場において手厚く扱われてきた。そのようなガラスは、「光」なくして存在しえない。

©︎Akihiro Yoshida

テーブルや椅子、パーティションや花器など、コレクション「melt」の一点一点は、非常にシンプルな形状やラインだが、デザイナーとガラス職人の呼吸が合わなければ実現できないものだった。

*3 ガラスの構造

ガラスの構造については「不規則網目構造説」と「微結晶説」という2つの説があり、今でも論争がある。熱力学的には非平衡な準安定状態にあり、言うなれば「動きの止まった液体」。結晶構造を持たない物質の状態(アモルファス)である。非晶体。


産業ガラスの限界に挑む

職人による手わざと、最新テクノロジー。双方がともに透明素材に活かされることで、魅力的な光や輝きのデザインが生み出されると言えるだろう。

©︎AGC Inc.

ここ数年、メッセージ性が高く注目を集めるインスタレーションが集結するミラノ中央駅高架下のアーチ型空間を利用した「ヴェントゥーラ・チェントラーレ(Ventura Centrale)」。

この場所で2018年に旭硝子から改名したAGC社は、5回目のMDW出展となる「Emergence of Form(うまれるかたち)」展を披露した。

5枚の大型ガラスインスタレーションの左右両脇に、水面の波紋を演出する176枚のガラスタイルが置かれた
©︎AGC Inc.

インスタレーションのクリエーションパートナーとして、プロダクトデザイナーの鈴木啓太が起用された。鉄道車両のデザインも経験している鈴木は「大型のガラスを三次元曲面成形技術と自重成形を用いて極限まで曲げ、シャボン玉が生まれゆく様を表現した」と言う。

ガラスの自重成形とは、加熱して柔らかくなったガラスを、ガラス自体の重量による力で曲げて成形する手法。変形させる際に歪みやシワが生じないよう、加熱位置や温度、変形速度を調整する。

縦置きに置かれた5枚のガラス。1枚あたりの大きさは2,600mm x 1,943mm 、重さ120kg。そこに、直径約1,600mmの円を描き、それぞれ100mm、200mm、400mm、600mm、800mmの曲げ重量を与えた
©︎AGC Inc.


建築用途のみならず、スマートフォンの極薄保護シートなどの最先端技術を搭載した高機能ガラスで知られるAGCグループ。

今回の展示では、三次元曲面成形加工技術に加え、ガラスを焼成するために使用されるセラミック技術から開発された、AGCセラミックス社の3Dプリンター用造形材「Brightorb®(ブライトーブ)」にも焦点を当てた。

人工セラミックスのBrightorb®は0.5µmほどの均一な球状粒子のため、0.1mmピッチの精度で滑らかな表面を制作できる。3Dプリンターによる出力で、継ぎ目がない高難易度の複雑な形状も可能になる。熱変形が少ないため、焼成後や釉薬の焼き付けをした後も保持されるなど利点も多い。

1枚あたり250mm x 250mmのガラスタイルに、人工セラミックスBrightorb®で水面の波紋を3Dプリンティングした後、釉薬をかけて焼成。収縮率を最大限に抑える再現性が高い特徴を生かし、困難とも言える静止状態の水面の波紋を緻密に再現している
©︎AGC Inc.

ガラスの生産過程では、原料が熔解温度1,600℃を超えるため、釜の中は耐火レンガが使用される。そうしたノウハウを生かして開発されたBrightorb®は、機能性の特徴として焼成の際にガスを発生せず、精密な造形を制作できるというメリットが挙げられる。

ワンダーグラスの例と同じく地球の重力を用いながらも、工芸的な取り組みとは対照的に、産業ガラスの限界に挑んだ展示だった。


プロセス自体のデザイン

同じくヴェントゥーラ・チェントラーレを会場にしたのは、5年連続でMDWに出展してきた、吉泉 聡が率いるデザインスタジオTakt Project。彼らは初の個展「glow ⇄ grow」展を開催した。

©︎Takumi Ota

普段は閉め切られたままの250mほどのアーチ型空間は、ひんやりと湿った空気が残る。暗がりを凝視すると、あたかもずっと前からそこに存在した鍾乳洞が出現してくるかのようだ。光りながら滴る、無数の「氷柱」に目を奪われる 。

©︎Takumi Ota

その正体は、光で硬化する樹脂。プログラミングされたLEDにより、それ自体も会期中に成長を止めずに、姿を変えながら光り続けていく。

©︎Takumi Ota

「姿形を完成させるデザインではなく、機能が新たな機能を生んでいく、そのプロセス自体をデザインした」と吉泉。

Takt Projectの吉泉 聡(写真左)
©︎Takumi Ota

この得体の知れないデザインは、プロセスのデザインであると同時に、素材の新たな表現や可能性も導き出している。

©︎Takumi Ota

以前の取材で吉泉が語っていた、伝統技術と先端技術を組み合わせる意の「先端工芸」と言う言葉が蘇ってきた。

©︎Takumi Ota

伝統技術にしか表現し得ない、未完成が生む高い表現力。目視するには不可能なほど、均一で緻密な先端技術。

自然と人工、未完と完成、自立と制御、そして光と闇。相反する対の概念が、新しい創造性を切り開いていく 。


Profile
Writer
浦田 薫 Kaoru Urata

ジャーナリスト。翻訳・通訳家。東京生まれのパリ育ち。インテリア、プロダクト、環境デザインEcole Camondo卒業。建築、デザイン、アート、産業、工芸などの「ものづくり」の現場を横断的に考察し、日本とフランスの専門誌に寄稿。教育・文化プログラムの企画、プロデュース、コンサルタント業も行う。共著『リージョナル・デザイン』では日仏の大学ワークショップ体験を綴る。フランス人間国宝の特殊技術を日本市場に普及させるプロジェクト・マネージングも手掛ける。

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