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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
アマミホシゾラフグが描く不思議なサークル

アマミホシゾラフグが
描く不思議なサークル

海底のミステリーに迫る!

文/中作 明彦
監修/松浦 啓一

© okata yoji/nature pro. /amanaimages

鹿児島市からおよそ400 km南にある奄美大島。この沖合の海底に、直径2 mほどの “ミステリーサークル” が出現することが、以前からダイバーたちに知られていました。誰が何のためにつくったのか、長い間正体不明だった謎の幾何学模様でしたが、2011年の発見によって新種のフグによるものだということが判明します。2015年、日本の生きものとしてはじめて「世界の新種10種」にも選ばれた、とてもユニークなアマミホシゾラフグの生態に迫ります。

きっと新種のフグに違いない

奄美大島は亜熱帯海洋性のあたたかな気候で、その海にはゆたかなサンゴ礁が広がり、ダイバーたちにも人気のスポットです。

謎の幾何学模様はこの島の沖合、水深およそ10 m~30 mの海底に出現します。
「海底のミステリーサークル」として、20年以上前から知られていましたが、誰がどんな目的でつくったものなのか、その正体はずっとわからないままでした。

奄美大島南部の風景。年間を通じて暖かな気候で海にはサンゴ礁が広がる。アマミホシゾラフグは嘉鉄(かてつ)湾沖合で発見された © okata yoji/nature pro. /amanaimages

奄美大島南部の風景。年間を通じて暖かな気候で海にはサンゴ礁が広がる。アマミホシゾラフグは嘉鉄(かてつ)湾沖合で発見された
© okata yoji/nature pro. /amanaimages

ところが、そんな正体不明のミステリーサークルをめぐる展開に転機が訪れます。
2011年に水中写真家の大方洋二氏が、このミステリーサークルをつくる小さなフグの撮影に成功したのです。
ミステリーサークルで世間をにぎわす「真犯人」がわかった瞬間でした。

大方さんが撮影した写真をきっかけに、詳しい調査が行われることになりました。
そして2014年、国立科学博物館の松浦啓一名誉研究員らによって、新種のフグであることが確認されたのです。

松浦先生に詳しくお話をうかがいました。

松浦 啓一(まつうら・けいいち)/1948年生まれ。北海道大学大学院 水産学研究科 博士課程修了。博士(水産学)。1979年より国立科学博物館動物研究部。主任研究官、研究室長を経て、2006年より国立科学博物館標本資料センターのコレクションディレクターおよびセンター長、2011年より動物研究部長。2003年から東京大学大学院理学系研究科教授も兼任し、また、日本魚類学会会長や日本分類学会連合代表などを歴任。2013年に定年退職し、現在は国立科学博物館名誉研究員

松浦 啓一(まつうら・けいいち)/1948年生まれ。北海道大学大学院 水産学研究科 博士課程修了。博士(水産学)。1979年より国立科学博物館動物研究部。主任研究官、研究室長を経て、2006年より国立科学博物館標本資料センターのコレクションディレクターおよびセンター長、2011年より動物研究部長。2003年から東京大学大学院理学系研究科教授も兼任し、また、日本魚類学会会長や日本分類学会連合代表などを歴任。2013年に定年退職し、現在は国立科学博物館名誉研究員


「写真を見て、すぐに『どうもこれは新種じゃないかな』と思ったんです」と松浦先生。

そのフグは、背中にたくさんの白色・銀白色のスポット模様をもつことから、その星を散りばめたような姿を奄美大島の星空にたとえて「アマミホシゾラフグ」と命名され、同年9月に正式に新種として発表されました。

アマミホシゾラフグ(Torquigener albomaculosus)。シッポウフグ属に分類される。全長はおよそ10 cm~15 cm。背側は淡い褐色、腹側は白色で、背側には白色や銀白色の斑点が細かく分布する。当初は奄美大島の付近だけで見られていたが、2016年には沖縄本島近海でも確認された。さらに広範囲に分布している可能性も考えられる © okata yoji/nature pro. /amanaimages

アマミホシゾラフグ(Torquigener albomaculosus)。シッポウフグ属に分類される。全長はおよそ10 cm~15 cm。背側は淡い褐色、腹側は白色で、背側には白色や銀白色の斑点が細かく分布する。当初は奄美大島の付近だけで見られていたが、2016年には沖縄本島近海でも確認された。さらに広範囲に分布している可能性も考えられる
© okata yoji/nature pro. /amanaimages


海底につくる幾何学模様

海底に現れるミステリーサークルは、直径およそ2 mにもなります。

「こんなに巨大で精巧な産卵巣 *1 をつくる魚というのははじめてですね。海底あるいは川底や湖の底に、こんなに精巧な巣をつくるものはいませんから」(松浦先生)

全長わずか10 cm~15 cmほどのアマミホシゾラフグが、自分の大きさの10倍以上になる見事な幾何学構造をつくりあげるというのは、本当に不思議です。

しかし、何のためにこのような巨大な幾何学模様を海底に描いているのでしょうか?
実は、この巨大建築はメスにアピールするための産卵巣(産卵床)なのです。

*1 産卵巣

生物が産卵するための場所。例えば、ウミガメのメスは砂浜に上陸して、深さ50 cm〜60 cm穴を掘って産卵する。サケは川底にくぼみを掘ってメスが卵を産み、オスが精子をかけて受精させた後、砂や小石をかけて天敵から隠す。産卵床。

 
こうしたミステリーサークルをつくるのは、アマミホシゾラフグのオスだけです。
1週間ほどかけて、オスはメスのために休むことなくサークルを築き上げます。


地道な工事によって建築

アマミホシゾラフグのオスは、どのようにして、複雑で巨大な円形の幾何学模様をつくりあげるのでしょう。
道具を用いることはなく、使うのは自分のからだと「ひれ」だけでした。

巣づくりのはじめに、オスは海底へ腹部を押し付け、サークルの中心となる部分にまず目印をつくります。
目印ができると、オスはひたすら海底を「掘削」するようにして、内側と外側を行ったり来たりし、これを繰り返します。

産卵床をつくるアマミホシゾラフグのオス。両方の胸びれと尾びれを素早く動かし、煙のように砂を巻き上げながら海底を這うように進んでいく © okata yoji/nature pro. /amanaimages

産卵床をつくるアマミホシゾラフグのオス。両方の胸びれと尾びれを素早く動かし、煙のように砂を巻き上げながら海底を這うように進んでいく
© okata yoji/nature pro. /amanaimages

わずか10 cm~15 cmの小さな魚が、道具も使わずに巨大な産卵床をつくりあげることも大きな謎に包まれていましたが、実は、このように単純な行動の繰り返しで可能であることが、大阪大学 生命機能研究科 パターン形成研究室 の近藤 滋教授らによる行動解析とシミュレーションによって明らかにされました*2

*2 アマミホシゾラフグのオスの行動解析

"Simple rules for construction of a geometric nest structure by pufferfish" Nature Scientific Reports Article number: 12366(Published: 17 August 2018)
Ryo Mizuuchi, Hiroshi Kawase, Hirofumi Shin, Daisuke Iwai & Shigeru Kondo

https://www.nature.com/articles/s41598-018-30857-0


 
「フグがでたらめに巣の外側から真ん中に向かって泳いでいるように見えるんだけれども、そういうことを繰り返していくと、ああいう見事な図形ができることが証明されました」(松浦先生)

外側の二重の土手構造は、サークルの外側から内側へ、中心位置に向かって海底を掘り進むことでつくられます。
からだを海底に押し付け、胸びれや尾びれを使って砂を掘りながら進むことで溝がつくられ、角度を変えながら行ったり来たりを何回も繰り返すことで、次第に放射状の構造がつくられていきます。
行ったり来たりを繰り返し、せっせと巣づくりに励むその姿はなんとも健気(けなげ)です。

貝殻を運ぶオス。オスは、海底の貝殻を拾ってきてサークルの土手部分の飾り付けも行う © okata yoji/nature pro. /amanaimages

貝殻を運ぶオス。オスは、海底の貝殻を拾ってきてサークルの土手部分の飾り付けも行う
© okata yoji/nature pro. /amanaimages


出来栄えが子孫繁栄に直結

こうしてアマミホシゾラフグのオスが何度も同じ動きを繰り返すことでだんだんと溝は深くなり、また、巻き上げられた砂がその両側に降り積もって、盛り上がった土手ができます。

ゆっくりと進むことでたくさんの砂が降り積もって土手が高くなり、逆に速く進むことであまり砂が降り積もらず土手が低くなる、といった具合に、進むスピードを変えることで盛り上がった部分の高さを調節しており、その巧みな巣づくりは実に見事です。

完成した産卵床。外側は二重の土手状構造で、内側は砂粒が小さく浅い波状模様がある。オスは、外側にある土手の真ん中あたりに着底し、ひれを使って砂を巻き上げ、細かい砂を内側に降り積もらせる。これによって、サークルの内側に細かな砂が集まる。また、内側部分の波状の模様は、その本数が24本~32本とサークルごとに異なるのも特徴 © okata yoji/nature pro. /amanaimages

完成した産卵床。外側は二重の土手状構造で、内側は砂粒が小さく浅い波状模様がある。オスは、外側にある土手の真ん中あたりに着底し、ひれを使って砂を巻き上げ、細かい砂を内側に降り積もらせる。これによって、サークルの内側に細かな砂が集まる。また、内側部分の波状の模様は、その本数が24本~32本とサークルごとに異なるのも特徴
© okata yoji/nature pro. /amanaimages

完成した産卵床で、オスはメスがやってくるのを待ちます。
観察していると、たくさんのメスが訪れる産卵床と、メスが全然訪れない産卵床があることがわかります。
メスに「モテる」産卵床をつくったオスには順番待ちができるほど。

アマミホシゾラフグは、メスを巡ってオスどうしがケンカし争うことはありません。
しかし、その代わりにこの産卵床の出来栄えに子孫を残せるかがかかっており、オスにとっては死活問題です。

ただ、メスにとってどのような産卵床が魅力的なのか、詳しいことはわかっていません。
産卵床の大きさはどれも直径2 mほどで、サークルの大きさは関係がなさそうです。

ひょっとすると、サークルによって違いがある産卵床中央の溝の本数や、二重になっている土手部分に施された貝殻の飾り付けなどに意味があるのかもしれません。


卵を世話する珍しい魚

カップルが成立したサークルでは、その中央で産卵が行われます。

オスはメスのほほのあたりを噛み、産卵を促します。その間わずか数秒ほど。
産卵が終わると、メスは産卵床を離れてどこかへ行ってしまいます。
ところが、オスはサークルに残り、孵化(ふか)するまで卵を守るのです。

アマミホシゾラフグのカップル。左側がオスで、右側がメス。オスがメスを噛むことが合図となり、産卵する © okata yoji/nature pro. /amanaimages

アマミホシゾラフグのカップル。左側がオスで、右側がメス。オスがメスを噛むことが合図となり、産卵する
© okata yoji/nature pro. /amanaimages

オスは産卵床の中央で卵を守り続けます。
ほかの魚がやって来ると追い払い、また、ひれを使って水の流れをつくり、卵に新鮮な海水がいきわたるようにします。

「魚類の繁殖行動を見ると、基本的に卵を産みっぱなしにします。卵の世話をする魚というのは、魚類全体の中では割合は非常に小さいんです」(松浦先生)


そして、産卵から数日後、卵は孵化します。
孵化を見届けたオスは、すっかり崩れた産卵床を後にし、また新たなミステリーサークルづくりへと旅立っていくのです

海底の産卵床。外側の土手、内側の波状の模様もきれいなことから、完成直後のものとわかる。アマミホシゾラフグのオスによるサークルづくりは、春から夏にかけての繁殖期間中を通して行われる © okata yoji/nature pro. /amanaimages

海底の産卵床。外側の土手、内側の波状の模様もきれいなことから、完成直後のものとわかる。アマミホシゾラフグのオスによるサークルづくりは、春から夏にかけての繁殖期間中を通して行われる
© okata yoji/nature pro. /amanaimages

不思議がいっぱいのアマミホシゾラフグ。
この小さな魚は、私たちにはまだまだ知らない世界があることを教えてくれます。
こんな不思議な生きものがいることもまた、地球の豊かさではないでしょうか。

主な参考文献など
魚類学雑誌 65(1):81–84(2018)「沖縄島東岸の浜比嘉島から得られたアマミホシゾラフグの記載と飼育下での行動

ダーウィンが来た!生きもの新伝説「世紀の発見!海底のミステリーサークル」2012年9月9日放送(NHK)

「海底のミステリーサークル」近藤 滋(Kondo Labo Frontier Bioscience, Osaka Univ.)
https://www.fbs-osaka-kondolabo.net/post/_fugu

Profile
Writer
中作 明彦 Akihiko Nakasaku

サイエンスライター。中学校・高等学校の理科教員として10年間勤務したのち、世界に散らばる不思議やワクワクを科学の目で伝えるべくライターへ。「せっせとサークルづくりに励むオスの姿が健気でたまりませんでした。ヤンバルクイナと同じく、いつか会いに行きたい……」
Twitter: @yuruyuruscience

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