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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
仲むつまじい新種の魚、ヒメタツのひみつ

仲むつまじい新種の魚、
ヒメタツのひみつ

写真/尾﨑 たまき
文/神吉 弘邦

つい2年前、日本近海で発見された新種の魚。その名は、小さなタツノオトシゴという意味の「姫竜(ヒメタツ)」です。本の出版にあわせて、写真展を開催している写真家の尾﨑たまきさんに、その魅力をうかがいました。

2017年の秋。熊本県・水俣(みなまた)の海に生息するタツノオトシゴが、新種の「ヒメタツ」と認定されました。尾﨑さん、ヒメタツってどんな生きものなんですか?

尾﨑 たまき(おざき・たまき)/1970年熊本市生まれ。写真家。19歳でダイビングを始め、海の持つ力強さや生きものたちの健気な生きざまに感動。撮影スタジオで広告写真を撮影する傍ら、独学で水中写真に取り組む。本格的に水中写真に取り組むため上京し、水中写真家・中村征夫氏の弟子として研鑽を積む。2011年よりフリーランス。ライフワークである水俣、三陸、動物愛護センターなど、命をテーマに取り組んでいる。著書に写真絵本『みな また、よみがえる』、写真集『水俣物語』(ともに新日本出版社)、フォトエッセイ『お家に、帰ろう ー殺処分ゼロへの願いー』(自由国民社)など。
http://www.ozakitamaki.com/
(撮影:神吉 弘邦)

尾﨑さん「人間っぽいところが魅力ですね。例えば、オスとメスの絆がすごく深いんです。1年に3〜4回くらい、メスからオスが卵をもらって出産するのですが、それを同じペアで続けることが多いんですよ」


体長10cmほどのヒメタツ。左のカサゴと比べると、その可愛らしいサイズは歴然。擬態をして海藻に近い体色をしています。体の突起も効果的ですね。みなさんは、見つけられましたか?
©︎尾﨑たまき

メスがオスの体内に卵を託すんですね。魚類の中ではたぶん一度に産卵する数も少ないほうだから、こういう生存戦略を選んだんだなぁ。


まるでハートの形をつくっているような、ヒメタツのつがい。アツアツです。左のメスが、右のオスのお腹の袋(育児のう)に輸卵管を入れ、50〜80個の卵を受け渡し。オスは、すぐにお腹の中で卵を受精させます
©︎尾﨑たまき

尾﨑さん「ヒメタツの繁殖は、冬から始まります。1回目の卵の受け渡しが毎年2月くらいから。そのときは水温が低いので、オスが卵を抱えている時間は2ヶ月くらいです。初夏の時期になると、1ヶ月前後ですね」


少しずつ大きくなっていく、オス(写真中央にいます)のお腹。メスから受け取った卵を「育児のう」の中で育てているところ。ふ化までの期間は、水温によって異なり、1〜2ヶ月。その間、メスは自分のお腹の中で新たな卵を作り出して、次の産卵に備えます
©︎尾﨑たまき


これは新種の魚かも!

ある日、さかなクンと一緒に尾﨑さんが水俣の海に潜ったときのこと。さかなクンは「水俣で見たタツノオトシゴとされていた魚が、これまで見たタツノオトシゴと明らかに違う」と感じて、魚類学者の瀬能 宏さん(神奈川県立生命の星・地球博物館 主任学芸員)に疑問を投げかけました。

小さな(ヒメ)タツノオトシゴ(タツ)の名の通り、とても小さなヒメタツは、生まれたばかりでは体長1cmほどです。どこにでもつかまれる長い尾も、すでに備えています
©︎尾﨑たまき

瀬能さんは、韓国・釜慶大学と京都大学の先生とともに論文を発表。2017年11月には、ヒメタツがタツノオトシゴ種群に属する新種と認定されました。こうして、水俣に生息しているタツノオトシゴの多くが、新種のヒメタツだとわかったのです。


ヒメタツの学名は、Hippocampus haema。韓国と本州の日本海沿岸と東シナ海の一部に分布しているヒメタツの特徴は、タツノオトシゴよりも小さな体と、頭にある突起の短さです
©︎尾﨑たまき

海藻や海底、アオリイカの卵など、周囲に合わせて体色を変えるヒメタツ。体長10cmほどの “かくれんぼの名人”を見つけるのは、至難の業です。尾﨑さんは、水俣で5年間をかけてヒメタツを追い続けました。


フシギなさかな ヒメタツのひみつ』(新日本出版社)
さかなクンがヒメタツの一生を描いた素敵なイラストの帯付きです!

水俣はかつて水銀で汚染され、たくさんの命がうばわれた場所です。一度は人間の手によってよごされた海ですが、いまは多くの生きものたちが息づく命あふれる海です。
(『フシギなさかな ヒメタツのひみつ』あとがき より)


夜通しの撮影を終えて、水俣の海から上がったときに射し込んだ朝の光
©︎尾﨑たまき

尾﨑さん「水俣の海は、おだやかな内湾の不知火(しらぬい)海に面しています。だから小さなヒメタツも流されることなく、棲みやすいんでしょうね。順調に数が増えてきているし、パートナー同士の愛情を感じさせる魚として、ひそかな人気を集めているんですよ」

2019年6月3日(月)まで、リコーイメージングスクエア新宿 で開催されている「姫竜が織りなす愛の物語」では、約40点の写真を鑑賞できます。

尾﨑たまき 写真展「姫竜が織りなす愛の物語」

会期:2019年6月3日(月)まで
会場:リコーイメージングスクエア新宿ギャラリーI
住所:新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービルMB(中地下1階)
時間:10:30~18:30(最終日16:00終了)
入場:無料


Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「水俣の海に潜って撮影するのをライフワークにする尾﨑さんは、動物愛護センターや、東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島にも通っています。すべての生きものたちへ向ける、あたたかな視線が作品から伝わってきます」

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