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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
カワウソが遊ぶ自然に 思いをはせる水族館

カワウソが遊ぶ自然に
思いをはせる水族館

アクアマリンふくしまを訪ねて

写真・文/田中 いつき

日本に生息していた二ホンカワウソに近い種類であるユーラシアカワウソを展示する「アクアマリンふくしま」は、東京ドーム1.2個分の敷地面積を持つ東北最大の水族館です。今年の5月に赤ちゃんが生まれたばかりの同館を訪問。カワウソたちの生息環境を再現した展示スペースでは、本来の行動を引き出すことに成功していました。

かつては日本中の河川の中・下流域に生息していたと言われるニホンカワウソ。

1979年に生きた姿が目撃された記録を最後に観測されず、2012年には環境省によって、ニホンカワウソは(北海道亜種・本州以南亜種ともに)絶滅種に指定されました。

そんなニホンカワウソの近縁種であるユーラシアカワウソを展示しているのが「アクアマリンふくしま」(福島・いわき)です。現地を訪ねてきました。

開館20周年を迎える東北最大の水族館

開館20周年を迎える東北最大の水族館


野生の環境を再現した展示

ユーラシアカワウソとは名前の通り、ユーラシアに広く分布するカワウソで、体長は50 cmを超え、しっぽまで含めると1 m近くなります。

最近、多くの水族館で展示されているコツメカワウソよりだいぶ大きく迫力のあるサイズです。2018年に長崎県対馬で発見されニュースになったのも、この種類でした。

ユーラシアカワウソ(Lutra lutra ) 別名、ヨーロッパカワウソ。ヨーロッパでも生息数が減っている地域があるという

ユーラシアカワウソ(Lutra lutra )
別名、ヨーロッパカワウソ。ヨーロッパでも生息数が減っている地域があるという

アクアマリンふくしま内のユーラシアカワウソ展示スペース「カワウソのふち」は、野生での生息環境を再現し、本来の動物の生態や行動を引き出すことを目的に設計されていました。

見学スペースに屋根はあるものの、展示場は屋根を設けず、自然に近い姿に

見学スペースに屋根はあるものの、展示場は屋根を設けず、自然に近い姿に


陸上には草や木が生え、岩場には隠れ家スペースを設営。水草がゆらぐ水中には小魚が泳ぎまわり、流木が浮いています。

ユーラシアカワウソの主食は、もちろん魚です。小魚を食べつくしてしまうのでは? と心配になりますが、魚の隠れる場所をつくり、泳ぎの速いアユやウグイを入れることで、食べつくされる心配がない設計になっています。

カワウソがしっかり目を開け、エサを目がけ泳いでくる様子が見られる

カワウソがしっかり目を開け、エサを目がけ泳いでくる様子が見られる

給餌(きゅうじ)タイムには、ニジマスや鶏肉などを与えています。水中に投げ入れると、まずウグイたちが食いつき、それをカワウソが奪いにくるという光景が見られることも。


5月には赤ちゃんが誕生!

この「カワウソのふち」では、複数の隠れ家(巣穴)が設定されています。赤ちゃんが生まれると、成長に合わせて隠れ家を移動するという生態がわかりました。

岩場の隠れ家 ©︎ アクアマリンふくしま

岩場の隠れ家
©︎ アクアマリンふくしま

こうした生息環境の再現と動物本来の行動を引き出す展示を行っている点が評価され、2018年「エンリッチメント*1 大賞」を受賞しています。

*1 エンリッチメント

動物福祉の立場から、飼育動物の「幸福な暮らし」を実現するための具体的な方策のこと。飼育環境に工夫を加え、豊かで充実(enrich)したものにしようという試み。


 
飼育担当の中村千穂さんは、「水中に流木を置くレイアウトにすることで、景観的にはもちろん、カワウソがつかんだり遊んだりしている様子が見られることがあります。そうした行動も自然界でやっていることだと思うんですよ」と話してくれました。

飼育担当の中村さんが給餌する様子が、毎日15時30分ごろ見られる

飼育担当の中村さんが給餌する様子が、毎日15時30分ごろ見られる

「カワウソそれぞれに性格があって行動が違います。屋内の飼育室はありますが、台風の時でも退避しないで暴風雨に吹かれている個体もいます。そして、親世代は涼しいヨーロッパの動物園から来た個体なので、日本の夏がちょっと苦手みたいです。暑い日には水槽にダラっと浮いていることもあります(笑)」(中村さん)

水かき状になっている前足。水中の岩や木をキックしていくことが多いよう

水かき状になっている前足。水中の岩や木をキックしていくことが多いよう


「かわいい」だけでなく、カワウソ本来の生態を引き出すことができる展示は、工夫のかたまり。こうした配慮は、国内では最多となる8回の繁殖に成功という結果に結びついています。

2020年5月にも赤ちゃんが誕生したばかり。タイミングが良ければ、赤ちゃんに出会えるかもしれませんよ。

ユーラシアカワウソの赤ちゃん アクアマリンふくしま


福島の川を源流から海まで再現

屋内展示施設でも、一貫して生き物の環境を再現する展示を行っています。

例えば、「ふくしまの川と沿岸」コーナーは、明るい自然光が入る展示室に、ゆるやかな坂でふくしまの川を表現しています。

植物園と間違えそうなほどたくさんの植物が生えている「ふくしまの川と沿岸」コーナー

植物園と間違えそうなほどたくさんの植物が生えている「ふくしまの川と沿岸」コーナー

いろいろな生き物が入り混じった展示は、宝探しのように生き物を探す楽しみがあります。生き物が好きな人なら、通り抜けるのにとても時間がかかってしまうコーナーになっています。

福島の湖沼(こしょう)の魚たち

福島の湖沼(こしょう)の魚たち

自然環境が変化する以前なら、こんな場所にニホンカワウソが遊び暮らしていたのかもしれません。日本のどこかでわずかに生き残っていて、二ホンカワウソが遊び暮らせる水辺が復活したら……と願わずにいられませんでした。


現在の日本では、遊びに行くスポットとして認識されている水族館。そのため、あまり意識されてはいませんが、法律上の水族館は「博物館相当・類似施設」と定義されています。

アクアマリンふくしまは、東京ドーム1.2個分の敷地面積を持つ巨大水族館

アクアマリンふくしまは、東京ドーム1.2個分の敷地面積を持つ巨大水族館

ちなみに、博物館法の定める博物館の役割とは、「資料の収集、保存、展示、調査研究」を果たすこと。その資料とは、水族館であれば魚やカワウソなどの生き物のことを指します。

生き物の本来の生息環境を再現し、生態を引き出しているアクアマリンふくしま。正式名称は「ふくしま海洋科学館」なのだそう。アクアリウム(水族館)+マリンミュージアム(海洋博物館・科学館)を足して「アクアマリン」という愛称で親しまれています。

その名の通り、水族館と海洋博物館の機能を併せ持つ、高度な教育施設だと現地で感じました。

売店では、生まれたてのユーラシアカワウソの赤ちゃんと同じサイズのかわいいぬいぐるみが販売されていました! 

売店では、生まれたてのユーラシアカワウソの赤ちゃんと同じサイズのかわいいぬいぐるみが販売されていました! 

メイン水槽である「潮目の海」や、世界最大級のタッチプールである「蛇の目ビーチ」など見どころがたくさん。現在は開館20周年記念企画展として、「卵から育てる水族館」(2020年11月3日まで)や「シーラカンスからメダカまで」(終期未定)も開催されています。お出かけの際には、たっぷりと時間を取ってくださいね。

また、TwitterやYouTubeなどで積極的に情報発信が行われています。離れたところからも、アクアマリンふくしまの今を知ることができます。
公式Twitter
公式YouTube


環境水族館「アクアマリンふくしま」
住所:福島県いわき市小名浜字辰巳町50
開館時間:年中無休
3月21日~11月30日(通常期)9:00~17:30(入館締切 16:30)、
12月1日~3月20日(冬期)9:00~17:00(入館締切 16:00)
入館料:大人 1,850円/小~高校生 900円/未就学児無料
TEL:0246-73-2525
https://www.aquamarine.or.jp

※2020年8月中旬現在、一部の体験プログラムを休止しています。また、園内の入場者数が多い場合は入場制限することがあります。公式サイトおよびSNSをご確認ください。

Profile
Writer
田中 いつき Itsuki Tanaka

フリーランスライター。東京農業大学卒業後、自然体験活動に従事。2014年よりフリーランスライターに。ライフスタイル、エンタメ、レシピ作成記事などを執筆。ペーパー自然観察指導員(日本自然保護協会)。「オープンエアも多いので、密になりくいですが、とにかく広いので、頑張りすぎて熱中症にならないようお気をつけください。休憩のお供にはレストランで販売されている『アクアマリンシェイク』がおすすめです。ヨーグルトシェイクにクラゲのシロップ漬けがトッピングされているんですよ」

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