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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

ペルーの砂漠と、南米の果実と①

ペルーの砂漠と、
南米の果実と①

地球、旅、ジュエリー。

写真・文/白木 夏子

ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」代表の白木夏子さんが、鉱物や宝石をめぐる旅の途上でよぎった想いを写真とともに綴る連載。全6回のパキスタン編「パキスタン辺境の村で出会った女性たち」に続いて、金の採掘現場を訪ねるために南米を旅する新章がスタートします。

ジュエリーブランドHASUNAでは、使用されている金の一部に、南米のペルーやボリビア、コロンビアなどの小規模鉱山で採掘された「フェアマインド認証ゴールド」を使用している。

フェアマインド認証ゴールドとは、フェア(公正)なマイニング(採掘)がなされた金のことで、南米にある国際非営利団体ARM(Alliance for Responsibility Mining:公正な採掘のための連盟)が認証ラベルを付与している。

フェアマインドゴールド認証ラベル

フェアマインドゴールド認証ラベル

今回から数回に渡って、このフェアマインド認証ゴールドを使用するに至った経緯に沿うかたちで、南米への旅のことを書こうと思う。


天然資源の見えない流通

2008年からHASUNAを準備し始めてぶつかったのが、素材調達の難しさである。

ジュエリー業界の流通はブラックボックス化していて、特にアクアマリンやトパーズ、ルビーなどの“カラーストーン”と呼ばれる色石の流通経路は謎に包まれているものが多い。前回の連載まで書いていたパキスタンを例に取っても、山奥で採掘された原石が、密輸業者によって買い叩かれ別の国に運ばれていくこともある。

カラーストーンに関してはさまざまな協力者のもと、パキスタンやスリランカなどで安全な取引のできる取引先が比較的すぐに見つかり始めたのだが、取引が難しかったのはジュエリーの素材として欠かせない金属類であった。

金やプラチナなどの金属類も、流通がブラックボックス化している天然資源の一つなのである。

©︎HASUNA

©︎HASUNA


“安全な金”を求めて旅へ

学生時代、鉱山労働の調査をしている際には、インドネシアやフィリピンなどの金鉱山近辺で、水銀による健康被害を受けている住民たちのことを国連や世界銀行の調査報告書でよく読んでいた。

また、健康被害だけでなく、児童労働や強制労働、鉱山の採掘における原住民の強制移住や土壌汚染が問題視されている地域もある。

昨今では国際機関の調査報告書だけでなく、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの調査報告書や動画がSNSでも拡散され、途上国金鉱山での人権問題が明るみに出てきているため、金鉱山の様子を見聞きしたことのある読者もいるかもしれない。

国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチの調査報告書

「フィリピン:手掘り金採掘で死の危険に直面する子どもたち」
https://www.hrw.org/ja/news/2015/09/30/281785
「マリ共和国:金鉱山 子どもが手掘り採掘 過酷な労働、水銀中毒、そして疾病」
https://www.hrw.org/ja/news/2011/12/06/244730

ジュエリーブランドとして、このような問題に対して何ができるのか。まずは「トレーサビリティ*1 を確保した取引をしたい」とジュエリー業界の関係者に聞いてまわった。

しかし、皆が「日本で使われている金属のほとんどがリサイクルされたものだから安全だ」と言うだけで、新たに日本に入ってくる金属について知っている人は皆無だった。


確かに、現在日本で流通している金属は、既存のジュエリーや電化製品からリサイクルされた金属であることに間違いはないのかもしれない。では、私が読んでいた調査報告書や手掘り鉱山で採掘されている金はどこに流れているんだろう? それが日本にも入ってきている可能性も否定できないのではないか。

金の原石

金の原石

トレーサビリティが確保された、安全な金はないのだろうか? 安全に運営されている金鉱山から、フェアトレードで金が輸入できないのだろうか? 同じ金を使うのならば、一部だけでもフェアトレードの金を使うことができないのだろうか? 金鉱山で苦しい思いをしている人がいるのであれば、少しでも地域住民の助けになるような金を使いたい。

こんな想いから私の金探しが始まり、いままで一度も足を運んだことのなかった南米へ渡ることになる。

©︎HASUNA

©︎HASUNA

(第2回へつづく)

*1 トレーサビリティ

一つの商品の流通経路に関して、生産段階から最終消費段階(あるいは廃棄段階)までの履歴を追える状態が保証されていること。追跡可能性。


Profile
Writer
白木 夏子 Natsuko Shiraki

1981年鹿児島生まれ。起業家。ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」ファウンダー、CEO。英国ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て、2009年4月株式会社HASUNA設立。パキスタン、スリランカ、ベリーズほか世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人とともにジュエリーを制作している。13年世界経済フォーラム(ダボス会議)にGlobal Shaperとして参加。14年内閣府「選択する未来」委員会委員を務め、Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に、17年にはCNNが選んだ日本人女性「リーディング・ウーマン・ジャパン」に選ばれるなど多方面で活躍。
http://www.natsukoshiraki.com/

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