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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

地球、旅、ジュエリー。パキスタン辺境の村で出会った女性たち⑥

パキスタン辺境の村で
出会った女性たち⑥

地球、旅、ジュエリー。

写真・文/白木 夏子

地球や宇宙の歴史に想いをはせるのが好きで、かつては自然科学者の道を志したこともあるという、ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」代表の白木夏子さん。鉱物や宝石をめぐる旅の途上でよぎった想いを綴ります。いよいよパキスタン編は最終回。大きな自然と悠久の時に触れ、あらためて「人が宝石を身につけることの意味」を考えました。

悠久の時の流れを身につける

第5回 からの続き)

フンザ渓谷の滞在中、5,000m級の高い山に登った。遠くにそびえる山脈と、日本のものとは異なる力強い真っ青な空に心が震えた。

何千万年も昔から変わらない風景がここにあることを感じ、自分自身の存在の小ささに気付かされる。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki


ふと足もとを見ると、白い貝殻が落ちている。5,000m級の山の頂であるにもかかわらず、岩の形状は丸く、穴が空いているものが多い。

海辺で波に削られた形跡のある岩。そして貝殻。それは、太古の昔、この頂上の地層が海辺にあったことを意味している。

©Natsuko Shiraki
©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki


カラコルム山脈とヒマラヤ山脈は、数千万年以上前に異なる2つの大陸プレートが地殻変動により衝突し、隆起したことによって構築された*1。もともとはインド・オーストラリアプレートとユーラシアプレートという別の大陸プレートだったものが、白亜紀後半のおよそ今から7,000万〜5,000万年前に衝突が始まったと言われている。

山脈は一夜にしてできたのではなく、衝突が始まってから年に数センチから数十センチずつ大陸プレートが近づきあい、何千万年という時間をかけて形成されていった。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki

この近辺で採掘される宝石類も、そのゆっくりと行われた地殻変動の圧力によって形成されていったものたちだ。宝石を身につけるということは、このような大きな大陸の動きと、悠久の時の流れを感じ、その出来事とともに生きることでもある。

©HASUNA

©HASUNA

*1 ヒマラヤの造山運動

かつて南極を中心としたゴンドアナ大陸の一部だったインド亜大陸は、インドプレートの動きによって1年間に20cmずつ北へ移動していく。やがて、はるか遠くにあったユーラシア大陸と衝突。ユーラシア大陸を持ち上げるように、インド亜大陸は下へ潜り込んで行った。その結果、両者の間にあった海底が隆起して高い山になる。エベレスト山頂の少し下には、変成した石灰岩による「イエローバンド」という斜めに入った黄色い地層があり、三葉虫やウミユリなど、海の生き物の化石が多数発見されている。
参考文献:『地形・地質・地層で読み解くビジュアル地球史 世界自然遺産でたどる 美しい地球』高木秀雄(早稲田大学教授)監修 


自分の心に向き合いながら

経営の悩み、人間関係、子育て、生きるということ、挑戦するということは乗り越える壁と選択の連続で、一筋縄ではいかない。自問自答しながら解決しなくてはならない問題も多い。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki

でも、そんな悩みなどはこんな自然の大きさに比べたら、そして宝石が生成された時の流れを考えたら、どれほどの価値のあるものなのだろうか。

自分という存在は小さすぎて、吹けば飛んでしまうぐらいに儚い。この大きな自然を目の前にしたら、一人の人間の存在、そして自分の抱えている悩み事など無に近い存在なのだ。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki


この旅は、大きな自然の中で生かされていることに感謝し、毎日をしっかりと自分の心に向き合いながら生きていくことが大切なのだと、謙虚な気持ちにもさせてくれた。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki


フンザ渓谷に数日間滞在したのち、首都のイスラマバードに向けて車で走る。

すぐには受け入れられないほどの壮大な自然の景色と、あの山奥で出会った女性たちの、はにかんだ笑顔を心の中で交錯させながら。

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki

その後日本に戻り、商品開発に1年以上の時間がかかったが、今でもこのパキスタン辺境の村から運ばれてくる石たちは、東京の表参道にあるHASUNAの店舗で小さく光輝いている。

©︎HASUNA
©︎HASUNA

©︎HASUNA

(「パキスタン辺境の村で出会った女性たち」おわり)
 

©Natsuko Shiraki

©Natsuko Shiraki


パキスタン編に続いて、次回からは「金」の採掘現場を訪ねるため、白木さんがペルーを旅する新章がスタートします。おたのしみに!

(→過去の回の一覧はこちらから

Profile
Writer
白木 夏子 Natsuko Shiraki

1981年鹿児島生まれ。起業家。ジュエリーブランド「HASUNA(ハスナ)」ファウンダー、CEO。英国ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て、2009年4月株式会社HASUNA設立。パキスタン、スリランカ、ベリーズほか世界約10カ国の宝石鉱山労働者や職人とともにジュエリーを制作している。13年世界経済フォーラム(ダボス会議)にGlobal Shaperとして参加。14年内閣府「選択する未来」委員会委員を務め、Forbes誌「未来を創る日本の女性10人」に、17年にはCNNが選んだ日本人女性「リーディング・ウーマン・ジャパン」に選ばれるなど多方面で活躍。
http://www.natsukoshiraki.com/

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