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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
自然界に学ぶデザインの潮流

自然界に学ぶ
デザインの潮流

仏サンテティエンヌ
国際デザインビエンナーレより

取材・文/浦田 薫

©B. Graindorge / YMER&MALTA

フランス中南東部のサンテティエンヌは、19世紀から炭鉱都市として栄えた歴史がある。産業構造が変化した21世紀の今、デザインを核にした文化政策で注目を浴びている。隔年で開催する国際デザインビエンナーレもその一環で、世界のトレンドをいち早く反映したテーマが光る。ここ数年、自然物やサイエンスの知見に着想を得たデザインが増えている背景とは? フランス在住ジャーナリストによるフォトレポートをお届けします。

新しい生産システムに着目

第11回目を迎えたサンテティエンヌ国際デザインビエンナーレが、2019年4月22日まで「ME/YOU/NOUS: Designing common ground(私/あなた/われわれ:共有基盤をデザインする)」をテーマに、フランス・サンテティエンヌ市内の各所で開催されている。

メイン会場の「Manufacture(マニファクチュール)」は、19世紀までフランスの産業を支えた工場跡。ここにデザインセンター「Cité du Design(シテ・デュ・デザイン)」とデザイン教育施設、スタートアップ企業やアトリエが併設されている。会場には、それぞれタイトルが付けられた9つの展示空間が並んだ。

©Pierre Grasset

ビエンナーレ総合キュレーターのリザ・ホワイトは「Systems, not stuff(ものではなくシステム)」展を監修。テクノロジーとデザイン、自然とサイエンスがシンクロしながら、「今日の状況を改善して明日の社会と環境を考える、新しい生産システムやコラボレーションの提案」に着眼している。展覧会場でホワイトに話を聞いた。

リザ・ホワイト(Lisa White)/第11回サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレ総合キュレーター。1998年ロンドンに創業したトレンド企業WGSN のLifestyle and Interiors/vision部長。Le Bon Marché、LG、Rolexなどのブランドアドバイザーとして実績も豊富。シャネルでの経験も積む。リー・エデルコートのパリ事務所に勤務中にView on Color、IN view、Bloomなどトレンド業界を代表する出版も手がける
©Pierre Grasset


色が語りかける意味

ビエンナーレのコミュニケーションツールやインスタレーションのキーワードに「色」を採用された理由は?

色は万国共通の言語だからです。複数のキュレーターによる展示を紹介する国際ビエンナーレと、そこに集う来場者を結束させる意味があるのと同時に、色は心情を表現する指標でもあります。

ホワイト氏がインスピレーションを得た「色の語彙」を収集したコーナー
©Kaoru Urata

デザインは見て、考えるだけではなく、「感じる」ことも大切です。感動を喚起させるという点からも、色は重要だと思います。このビエンナーレでは、リボンが一つのガイドラインになっています。サンテティエンヌの地元繊維企業が協賛してくれたことで、インスタレーションにも使われています。

メイン会場の正面玄関に設置されたトンネルのカラーリボン。ビエンナーレのために10色がデザインされた
©Pierre Grasset

光沢と象徴的な表現を担う“外交的”な5色と、土着性を持った“内向的”な5色から構成される10色を、今回のビエンナーレのために創りました。外交的な色の一つである「赤」は、今年の招聘国である中国をイメージしています。内向的な「緑」は、サンテティエンヌのサッカーチーム(ASサンテティエンヌ)を意識したものです。


ご自身で監修された「Systems, not stuff」展では、自然科学とデザインが、色とどのような関連性を持って語られているのでしょうか?

色の歴史、革新的な研究によって創出される色は、トレンドセッターとして常に観察しています。それに加え、今日まで私がデザインを考察・収集した中から抽出したテーマが5つあります。それらは「カラースペクトル」「インクルージョン・オフィス」「バイオファクトリー」「未来の機械式店舗」「プラスチック劇場」という幅広い観点です。

「Systems, not stuff」展の会場風景
©Pierre Grasset

つまりここでは、色、オフィス、バイオデザイン、機械、プラスチックなどの「機能性」について着眼してみたということです。

他にも、会場内でジョン・マエダが監修した「Design in Tech」展や、同じくアレクサンドラ・デイジー・ギンスベルグによる「The past and the future are present」展からも読み取れるように、現代は広義な観点からわかりやすくデザインを発信していく時代です。

「The past and the future are present」展では、すでに絶滅してしまった植物の香りが再現された
©Pierre Grasset


産業界へのメッセージ

昨今、以前にも増してデザインが自然科学に歩み寄っているように思われます。世の中の政治や経済、社会が安定しない時代だからなのでしょうか。

そうした社会現象の影響は無視できないでしょう。なにしろ“フェイクニュース”が出回る時代ですから。こうした個人が根拠のない情報を勝手に発信できるような状況に比べ、サイエンスの成果は通常、複数の研究者による検証と認証のフィルターを介して開示されるので、より真実性がある分野です。

バイオマテリアルを実験するコーナー
©Pierre Grasset

多くのテクノロジーが目覚ましい発展を遂げることで、今日の社会を大きく動かしています。例えば、農芸化学は土壌の改良や、人間にとって有用な生物の発見に繋がっています。こうした成果を産業が世に出すときには、デザインの側にも信ぴょう性が求められるのだと思います。

Data Gardenの作品は、Twitterで ビエンナーレのキャッチフレーズ「terrain(土壌)」や「entente(合意)」の単語がツイートされる度に種子が土に落下し、今度は「systèmes(システム)」の単語がツイートされると灌漑システムが作動する。人間、デジタルデータ、自然。それぞれがコントロールされずに呼応する様を可視化した
デザイン:Florent Aisslinger
©Kaoru Urata

サンテティエンヌ出身のデザイナー、ジャン・セバスチャン・ポンセとモンラヴェル高校の生徒たちによる「Le Jardin des citernes(タンカーの庭)」は、メイン会場の中庭に各種の苗木を植えるプロジェクト。サンテティエンヌ銘菓であるチョコレート工場からカカオ豆の殻を回収し、新たな土壌に使用。地元からの廃棄物の還元を試みる。会期中、市内各所には地元の人々が苗木や種を植えられるコーナーが設けられている
©Pierre Grasset

サンテティエンヌ炭鉱博物館に設置されたアートワーク「La Révolution Lignivore(木材穿孔革命)」は、堆肥を生産する木造マシーン。過去の炭鉱時代を背景に、将来の都市環境を示唆する
アーティスト:Boris Raux
©Kaoru Urata


デザインと再生の関連については、どうお考えですか?

国際的なデザイナーの仕事からは、世界各国の潮流や素材への取り組みを考察することができます。それらからわかるのは、既存素材の再使用、もしくは異質な素材への再生という流れです。しかし、これからは再生だけに頼らず、最初から少量の素材で生産していくことにも着手しないといけません。

柳を接ぎ木して成長させていき、椅子やテーブル、照明器具などを森林で製作。この椅子は7年の歳月をかけて完成した
デザイン:Gavin Munro
©Kaoru Urata

テキスタイル産業が注目する生物分解素材である「菌糸」を使ってテキスタイルに描かれたモチーフ。菌糸をプリーツ(常温)、エンボス、刺繍(低速度成長)、染め、編みなどの手法で加工する実験がされている
デザイン:Carole Collet Design&Living Systems Lab – Central Saint Martins UAL –
©Kaoru Urata


逆説的にも、再生作業にはCO2の排出など多くの課題が残されています。その点を今回の展示からどのように伝えようと試みましたか?

そのために、一般に向けて理解されやすいプラスチックの再生を強調しています。小麦粉やゼラチン質などからもプラスチックは生産できますし、今日ではバイオプラスチックもありますから、産業界ではこれらを駆使して、質の高い生産に繋げていくことが可能だと確信しています。

海藻とトウキビを原材料にするバイオポリマーを混合して3Dプリンターで制作されたバイオプラスチック
デザイン:Studio Klarenbeek & Dros、Atelier Luma
©Kaoru Urata

寒天や昆布などの食用材料を使って、家庭でもバイオプラスチックが製造できることを紹介。将来的には、循環型経済システムの一環として活用することを提唱している
デザイン:Materiom
©Kaoru Urata

ホワイトさんは、トレンドセッターとして産業界にもメッセージを伝えていく立場ですね。

まさにそうです。今日の生活者は「再生」に関する知識も年々深めていて、そうしたプロセスを経た商品を求める時代です。産業界も生産体制を変化させていかないと、マーケットを失うことでしょう。生物分解性のパッケージングが当然の時代に移行しないとなりませんね。


メタリックカラーを帯びたフラボバクテリュウム菌の遺伝子を変容させることで、色の変更や強弱を調整できる。将来的には、自動車や建築に使える生物分解性ペンキの開発も期待される。Hoekmine BV 、Vignolini’s Group 、Kate Feller and Villads Egede Johansen 、University of Cambridgeによる協働開発
©Kaoru Urata

Fallen tree, Collection Morning Mist(2011)
倒木を加工したベンチ作品。自然から装飾がインスパイアされるプロセスを、3D技術やデジタル加工で制作したプロダクトのセレクトで紹介する「Design et Merveilleux」展(ビエンナーレ期間中、サンテティエンヌ近代美術館で開催)より
エディター:YMER&MALTA 、デザイン:Benjamin Graindorge
Centre Pompidou, Paris – Musée national d’art moderne-Centre de création industrielle ©B. Graindorge / YMER&MALTA


Profile
Writer
浦田 薫 Kaoru Urata

ジャーナリスト。翻訳・通訳家。東京生まれのパリ育ち。インテリア、プロダクト、環境デザインEcole Camondo卒業。建築、デザイン、アート、産業、工芸などの「ものづくり」の現場を横断的に考察し、日本とフランスの専門誌に寄稿。教育・文化プログラムの企画、プロデュース、コンサルタント業も行う。共著『リージョナル・デザイン』では日仏の大学ワークショップ体験を綴る。フランス人間国宝の特殊技術を日本市場に普及させるプロジェクト・マネージングも手掛ける。

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