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世界の言葉で「ラブバード!」

世界の言葉で
「ラブバード!」

コザクラ、ボタンをめぐる
甘美な名前のおはなし

文/木村 悦子

私たち人間に寄りそってくれる “コンパニオンバード” として人気のコザクラインコやボタンインコ。「ラブバード」と総称されるこのロマンチックな鳥たちの名前のヒミツと、世界の愛鳥家事情に迫ります。

愛情豊かなコザクラ&ボタン

コザクラインコはボタンインコ属に属し、コザクラインコとボタンインコは親戚のような関係。どちらも、ペアで飼うと羽づくろいし合ったりしながら寄り添って暮らし、1羽を大切に飼うと、飼い主にも愛情を示してくれます。このようすから、「ラブバード」と呼ばれます。


コザクラインコとボタンインコはどちらもコロンとしたプロポーションですが、わかりやすい見分け方は、目の周りの「裸眼輪(らがんりん)」という白い輪の模様。通称アイリング。ボタンインコにはこのアイリングがあり、コザクラインコにはありません。

上がボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)、下がコザクラインコ。ずいぶん雰囲気が違います
上がボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)、下がコザクラインコ。ずいぶん雰囲気が違います

上がボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)、下がコザクラインコ。ずいぶん雰囲気が違います

ボタンインコはアイリングのため目の表情が豊かで、どこかユーモラス。コザクラインコは黒目が強調されて、ぬいぐるみのようにチャーミング。どちらも世界中で人気があります。

その人気ぶりとラブラブぶりは、各国での呼び名やネットスラングによく表れています。


呼び名にまであふれる、愛!

まず、英名から。コザクラインコは Rosy-faced Lovebird など。ボタンインコの中でもよく見かける2種だと、英語名 Yellow-collared Lovebird(キエリボタンインコ)、Fischer’s Lovebird(ルリゴシボタンインコ)など。コザクラもボタンも「Lovebird」が共通です。

上はキエリボタンインコ、下はルリゴシボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)
上はキエリボタンインコ、下はルリゴシボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)

上はキエリボタンインコ、下はルリゴシボタンインコ(写真提供:きょおと @nora_kyoto さん)

次に学名。コザクラインコは Agapornis roseicollis 、ボタンインコは Agapornis lilianae 。「Agapornis」はギリシャ語に由来。「アガペ」は愛を、「オーニス」は鳥を意味します。まさに、愛の鳥。

ちなみに、ルリゴシボタンインコは Agapornis fischeri 、キエリボタンインコは Agapornis personatus 。「roseicollis」はバラ色の丘、「fischeri」は人名由来、「personatus」は仮面という意味。


台湾では、英名のLovebirdから学術的には「情侶鸚鵡」となりますが、親しみを込めて「愛情鳥」(愛情の深い鳥)とも。顔が赤い品種のコザクラインコは、かつての英名 Peach-faced Lovebird から、「桃面愛情鳥」(ピンク色の顔をした愛情深い鳥)の呼び名が人気。

ちなみに、キエリボタンインコは「黃領情侶鸚鵡」、ルリゴシボタンインコは「費氏情侶鸚鵡」となります。コザクラインコとボタンインコは特に区別せず、まとめて「最大的愛情鳥」(最大の愛の鳥)と讃えるそうです。

つがいになるとほとんどの時間を寄り添って過ごします(写真提供:あしげ @cbcross929 さん)

つがいになるとほとんどの時間を寄り添って過ごします(写真提供:あしげ @cbcross929 さん)


韓国の愛鳥事情もユニーク。韓国語では、セキセイインコが  사랑앵무  となります。「サランセ」と読み、「サラン」は愛という意味。つまり、韓国ではセキセイインコが愛の鳥。ですが、「英名がLovebirdなら、セキセイインコよりコザクラインコこそ 사랑앵무(愛の鳥)だよね?」と思っている愛鳥家は少なくないとか。

コザクラインコは 모란앵무(モランエンム)。「モラン」は牡丹という意味なので、コザクラインコとボタンインコは同じ扱いということに。コザクラインコを「벚꽃모란앵무」(サクラボタンオウム)と呼ぶ語はあっても、あまり広まっていないそう。

実際、韓国ではコザクラもボタンも同じケージで飼うことが多いという話。2種を分けるより、「顔が桃色の 모란앵무(ボタンオウム)」、「アイリングが白い 모란앵무(ボタンオウム)」など、ボタンインコベースに見た目の特徴で分けています。


愛の国ヨーロッパではこう呼ぶ

ヨーロッパにも Lovebird に当たる語があり ます。

ドイツ語では die Unzertrennlichen
フランス語では les Inséparables

となり、どちらも「分離しがたいもの」「恋人たち」といった意味になるそうです。なんと甘美な言葉でしょう。

分離できないどころか、そろそろ一体化しそう(写真提供:あしげ @cbcross929 さん)

分離できないどころか、そろそろ一体化しそう(写真提供:あしげ @cbcross929 さん)

ドイツでは「die Unzertrennlichen(ラブバード)」の先の細かな呼び分けとして、顔が赤いコザクラインコを「Rosenköpfchen(バラ頭)」、ボタンインコを「Erdbeerköpfchen(イチゴ頭)」などと呼ぶそうです。花やフルーツにたとえる豊かな言語感覚がステキ。


「小桜」「牡丹」って誰がつけたの?

日本語ではコザクラインコとボタンインコは別の種としますが、「『ラブバード』として同じ扱いをし、見た目や色で分ける」国は少なくないようです。むしろ、「愛情・ラブ」関連の語が名に入らず、コザクラやボタンと呼び分ける日本が珍しいのかも。おそらく、小桜、牡丹と花にたとえたのでしょう。真相は不明ですが……。「戦前はボタンインコ属を相思鸚哥(さうしいんこ)属と呼んでいた」という話を聞き、こっちのほうがいいかもなんて!

そういえば、韓国では「目がボタンに似ているので日本では釦(ボタン)の意味だけど、韓国には花の牡丹(모란)として伝わった」という説もあるそうです。そういえば、フチが盛り上がった昭和レトロなボタンがありましたね!

ボタンインコの名前は釦(ボタン)由来かもしれない!?

ボタンインコの名前は釦(ボタン)由来かもしれない!?


世界の愛鳥家とつながる魔法の言葉

日本の愛鳥家はTwitterやInstagramなどのSNSが大好きですが、海外も同様。覚えておくと、世界の愛鳥家ネットユーザーと楽しくコミュニケーションできそうな「愛鳥ワード」を集めました!

<まずは、定番>
#愛情鳥 :ラブバード
#birdstagram :鳥+Instagram
#鸚鵡日常 :インコのいる生活
#網美鳥 :ネットの美しい鳥

網はネット。「網美鳥」は「SNS映え抜群の鳥」のような意味(写真提供:いお @nollanolla さん)

網はネット。「網美鳥」は「SNS映え抜群の鳥」のような意味(写真提供:いお @nollanolla さん)


<おもしろたとえ系だと>
#情侶鸚鵡 :カップルオウム
#虎皮 :セキセイインコ

セキセイインコを虎皮と呼ぶのは、顔や羽にトラみたいな縞柄があるから!(写真提供:やよい @ppp_20141101 さん)

セキセイインコを虎皮と呼ぶのは、顔や羽にトラみたいな縞柄があるから!(写真提供:やよい @ppp_20141101 さん)


<色や品種による呼び分け>
#土小鸚 :ノーマル
#紅目小鸚 :ルチノー
#紫羅蘭小鸚 :バイオレット
#藍小鸚 :ブルー

最後にとっておきのハッシュタグをみなさまへ。

#birb

「bird」からわざとスペルミスして、どこか間抜けでかわいらしい語感にしたスラング。「とりちゃん!」のようなニュアンスですね。#birb で世界のインコ好きや鳥好きとつながりましょう。

鳥を愛する気持ちで、世界を平和に!

※分類や種名は最新のものに従いました。鳥の名前の語源や英名などについては諸説があります。


Profile
Writer
木村 悦子 Etsuko Kimura

出版社3社の勤務を経て、編集プロダクション「ミトシロ書房」を創業。雑誌・書籍・Webの編集・執筆を行う。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。

※この企画は、愛鳥家のきみちゃんとの雑談から生まれました。特記なき写真はすべてきみちゃんご提供。
ブログ:「たまごのなかみ」、Twitter:きみちゃん @mii_kimicyan

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