世界の言葉で
「ラブバード!」
コザクラ、ボタンをめぐる
甘美な名前のおはなし
コザクラ、ボタンをめぐる
甘美な名前のおはなし
私たち人間に寄りそってくれる “コンパニオンバード” として人気のコザクラインコやボタンインコ。「ラブバード」と総称されるこのロマンチックな鳥たちの名前のヒミツと、世界の愛鳥家事情に迫ります。
コザクラインコはボタンインコ属に属し、コザクラインコとボタンインコは親戚のような関係。どちらも、ペアで飼うと羽づくろいし合ったりしながら寄り添って暮らし、1羽を大切に飼うと、飼い主にも愛情を示してくれます。このようすから、「ラブバード」と呼ばれます。
コザクラインコとボタンインコはどちらもコロンとしたプロポーションですが、わかりやすい見分け方は、目の周りの「裸眼輪(らがんりん)」という白い輪の模様。通称アイリング。ボタンインコにはこのアイリングがあり、コザクラインコにはありません。
ボタンインコはアイリングのため目の表情が豊かで、どこかユーモラス。コザクラインコは黒目が強調されて、ぬいぐるみのようにチャーミング。どちらも世界中で人気があります。
その人気ぶりとラブラブぶりは、各国での呼び名やネットスラングによく表れています。
まず、英名から。コザクラインコは Rosy-faced Lovebird など。ボタンインコの中でもよく見かける2種だと、英語名 Yellow-collared Lovebird(キエリボタンインコ)、Fischer’s Lovebird(ルリゴシボタンインコ)など。コザクラもボタンも「Lovebird」が共通です。
次に学名。コザクラインコは Agapornis roseicollis 、ボタンインコは Agapornis lilianae 。「Agapornis」はギリシャ語に由来。「アガペ」は愛を、「オーニス」は鳥を意味します。まさに、愛の鳥。
ちなみに、ルリゴシボタンインコは Agapornis fischeri 、キエリボタンインコは Agapornis personatus 。「roseicollis」はバラ色の丘、「fischeri」は人名由来、「personatus」は仮面という意味。
台湾では、英名のLovebirdから学術的には「情侶鸚鵡」となりますが、親しみを込めて「愛情鳥」(愛情の深い鳥)とも。顔が赤い品種のコザクラインコは、かつての英名 Peach-faced Lovebird から、「桃面愛情鳥」(ピンク色の顔をした愛情深い鳥)の呼び名が人気。
ちなみに、キエリボタンインコは「黃領情侶鸚鵡」、ルリゴシボタンインコは「費氏情侶鸚鵡」となります。コザクラインコとボタンインコは特に区別せず、まとめて「最大的愛情鳥」(最大の愛の鳥)と讃えるそうです。
韓国の愛鳥事情もユニーク。韓国語では、セキセイインコが 사랑앵무 となります。「サランセ」と読み、「サラン」は愛という意味。つまり、韓国ではセキセイインコが愛の鳥。ですが、「英名がLovebirdなら、セキセイインコよりコザクラインコこそ 사랑앵무(愛の鳥)だよね?」と思っている愛鳥家は少なくないとか。
コザクラインコは 모란앵무(モランエンム)。「モラン」は牡丹という意味なので、コザクラインコとボタンインコは同じ扱いということに。コザクラインコを「벚꽃모란앵무」(サクラボタンオウム)と呼ぶ語はあっても、あまり広まっていないそう。
実際、韓国ではコザクラもボタンも同じケージで飼うことが多いという話。2種を分けるより、「顔が桃色の 모란앵무(ボタンオウム)」、「アイリングが白い 모란앵무(ボタンオウム)」など、ボタンインコベースに見た目の特徴で分けています。
ヨーロッパにも Lovebird に当たる語があり ます。
ドイツ語では die Unzertrennlichen
フランス語では les Inséparables
となり、どちらも「分離しがたいもの」「恋人たち」といった意味になるそうです。なんと甘美な言葉でしょう。
ドイツでは「die Unzertrennlichen(ラブバード)」の先の細かな呼び分けとして、顔が赤いコザクラインコを「Rosenköpfchen(バラ頭)」、ボタンインコを「Erdbeerköpfchen(イチゴ頭)」などと呼ぶそうです。花やフルーツにたとえる豊かな言語感覚がステキ。
日本語ではコザクラインコとボタンインコは別の種としますが、「『ラブバード』として同じ扱いをし、見た目や色で分ける」国は少なくないようです。むしろ、「愛情・ラブ」関連の語が名に入らず、コザクラやボタンと呼び分ける日本が珍しいのかも。おそらく、小桜、牡丹と花にたとえたのでしょう。真相は不明ですが……。「戦前はボタンインコ属を相思鸚哥(さうしいんこ)属と呼んでいた」という話を聞き、こっちのほうがいいかもなんて!
そういえば、韓国では「目がボタンに似ているので日本では釦(ボタン)の意味だけど、韓国には花の牡丹(모란)として伝わった」という説もあるそうです。そういえば、フチが盛り上がった昭和レトロなボタンがありましたね!
日本の愛鳥家はTwitterやInstagramなどのSNSが大好きですが、海外も同様。覚えておくと、世界の愛鳥家ネットユーザーと楽しくコミュニケーションできそうな「愛鳥ワード」を集めました!
<まずは、定番>
#愛情鳥 :ラブバード
#birdstagram :鳥+Instagram
#鸚鵡日常 :インコのいる生活
#網美鳥 :ネットの美しい鳥
<おもしろたとえ系だと>
#情侶鸚鵡 :カップルオウム
#虎皮 :セキセイインコ
<色や品種による呼び分け>
#土小鸚 :ノーマル
#紅目小鸚 :ルチノー
#紫羅蘭小鸚 :バイオレット
#藍小鸚 :ブルー
最後にとっておきのハッシュタグをみなさまへ。
#birb
「bird」からわざとスペルミスして、どこか間抜けでかわいらしい語感にしたスラング。「とりちゃん!」のようなニュアンスですね。#birb で世界のインコ好きや鳥好きとつながりましょう。
鳥を愛する気持ちで、世界を平和に!
※分類や種名は最新のものに従いました。鳥の名前の語源や英名などについては諸説があります。
出版社3社の勤務を経て、編集プロダクション「ミトシロ書房」を創業。雑誌・書籍・Webの編集・執筆を行う。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。
※この企画は、愛鳥家のきみちゃんとの雑談から生まれました。特記なき写真はすべてきみちゃんご提供。
ブログ:「たまごのなかみ」、Twitter:きみちゃん @mii_kimicyan