アメンボが水の上を
移動できる仕組み
『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ
©︎Yutaka Isayama/a.collectionRF /amanaimages
『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ
夏の気配が見えはじめ気温が上がってくると、身近な水辺は昆虫たちで賑やかになってきます。今回はその中でも観察しやすいアメンボの秘密を、NATURE & SCIENCE が手がける『PETiT PEDiA せかいの昆虫』(アマナイメージズ)の掲載記事から再構成してお届けします。
暖かい時期になると、公園の池や田んぼなどでアメンボの仲間を見かけるようになります。
あの細い体でどうやって浮かんでいるのだろう、と疑問に思ったことはありませんか?
アメンボは、カメムシ目アメンボ科の総称。水面に浮いて生活し、淡水環境に生息するものが多いが、海にすむ種類もいる
©︎yanagisawa makiyoshi/nature pro. /amanaimages
水辺にすむ昆虫たちのなかでも、水中で活動するものは少なくありませんが、水面を利用する昆虫はミズスマシやアメンボなどに限られています。
丸いミズスマシは、いかにも水に浮きそうな体つきですが、アメンボが細い脚先のみで浮いているのは不思議に思えますよね。しかしよく見ると、アメンボは「つま先立ち」をしているわけではなく、脚を水面に沿って折り曲げ、水に接する範囲を長くしているのです。
水の表面張力を利用しているアメンボ。
点ではなく、広い範囲で水に接していることがわかる
©︎SCIENCE PHOTO LIBRARY /amanaimages
アメンボの脚にはさらなる秘密が。
顕微鏡で見ると、細かい毛がびっしりと生えていて、これが表面積を大きくしています。水には表面張力があり、水に接する面積が大きいほど弾かれるため、軽いアメンボが体を浮かせるためには十分な浮力が得られるのです。
走査電子顕微鏡(SEM)によって観察されたアメンボ類の脚。細かい毛がびっしり!
©︎Gregory S. Paulson/Image Source RF /amanaimages
表面張力を利用しているため、アメンボの浮いている水面に洗剤などの界面活性剤を流すと、アメンボの脚は水を弾ききれずに沈んでしまいます。
アメンボはただ水面に浮かんでいるのではなく、脚から波の起伏を感じ取ることができます。獲物となる溺(おぼ)れた昆虫の場所を波紋によって察知し、近寄り体液を吸うのです。
そのため田んぼでも、稲からぽとりと落ちるウンカなどの害虫を捕食する益虫とされています。
獲物を探知するだけではなく、自らも目的を持って波紋を起こす
©︎Nature in Stock /amanaimages
さらには、波紋を受信するだけではなく、自ら水面を叩いて細かい波を起こし、仲間とコミュニケーションを取ることにも利用しています。
波紋の立て方を、求愛や縄張り争いなどで使い分けている種類も知られていて、微妙な違いを作り出し、感じ取れるというのは驚異的ですよね。
手で捕まえるとアメが焦げたような匂いがすることから「飴坊(アメンボ)」の名が付いたといわれている
©︎Nature Picture Library/Nature Production /amanaimages
これからの季節、とくに身近な川や水辺でその姿を見ることができると思います。その様子をじっくりと観察してみてはいかがでしょうか。
この記事の元になった本は……
プチペディアブック「にほんの昆虫」(アマナイメージズ)
昆虫の成長ステージである卵、幼虫、さなぎ、成虫の4つの章に分けて、さまざまな疑問に回答しています。取り上げた疑問は単なる雑学的なものではなく、昆虫の全体像を知るための近道となるものです。ぜひ、お子さんと一緒にコミュニケーションしながら読んでみてください。好奇心を育み、昆虫に興味を持つきっかけとなるはずです。
[企画・編集]ネイチャー&サイエンス
[監修]岡島秀治(東京農業大学教授)[文]丸山貴史(アードバーグ)
[判型]B6変
[ページ数]152ページ
本体価格 ¥1,400(+税)
編集者。1989年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。出版社で書籍編集担当、カメラマンとして勤務した後、フリーランスに。図鑑や実用書、Web媒体などの編集を行う。実家は横浜の鰻屋さん。「自ら波紋を起こすというのは驚きでした! 近くの公園でアメンボのコミュニケーションを観察するのが楽しみです」