夏の雨をつぶやく
©︎ Jiro Tateno/SEBUN PHOTO /amanaimages
湿度と熱を含んだ空気が重たく、憂鬱(ゆううつ)に感じることもある夏の雨の日。そんなときは、雨の名前をつぶやくと、雨の見え方が変わるかもしれません。雨が多い日本には、情緒的で細やかな表現の雨の呼び名がたくさんあります。日本人は雨をつぶさに見て、少しの違いを見分け、名づけてきたのです。
聞くからに、湿気をたっぷりと含んで体にまとわりつくような風を感じる “モンスーン”。モンスーンの語源はアラビア語の「季節」を意味する言葉といわれ、今は季節風や雨季をさす言葉となっています。
モンスーン気候下にある、アジアの広い地域 “モンスーンアジア”。その東端にある日本の降水量は世界平均の2倍相当。日本は「雨の国」なのです。
日本語の雨は、天から降る水の古語「天水(あまつみず)」がしだいに転じて「あめ」となったともいわれます。
あるときは天から賜る恵み、またあるときは、とめどもなく降り注ぐ災いのもとと、いいときもわるいときも、この自然の営みとともに暮らしてきた日本では、雨の呼び名が数多くあります。
何百とある雨の呼び名のなかから、いくつかご紹介します。
梅雨(つゆ) 語源は露(つゆ)からなど諸説あり。梅雨の当て字は中国から。中国でも梅雨(メイユー)と書き、梅の実が熟す頃だからとも。
五月雨(さみだれ) 陰暦5月の頃に降る長雨。梅雨。「みだれ」は天から水が垂れてくる意味という説もある。
卯の花腐し(うのはなくたし) 卯の花(ウツギ)の咲く頃に降り、花も腐るほどの長雨。梅雨。
白雨(はくう) 明るい空から降る白っぽく見える雨。にわか雨。夕立。
緑雨(りょくう) 新緑の季節に降る雨。翠雨(すいう)とも。
青時雨(あおしぐれ) 青く瑞々(みずみず)しい木の葉からの滴(したた)りを、冬の雨「時雨」に見立てたもの。
夜雨(よさめ) 夜に降る雨。
暁雨(ぎょうう) 明け方に降る雨。
夜来の雨(やらいのあめ) 昨夜から降る雨。
雨催い(あまもよい) 今にも雨が降り出しそうな空のさま。雨模様。
雨香(うこう) 雨が降る前の雨のにおい。花の香りを含んだような雨のにおい。
残雨(ざんう) 雨があがってからも、降り残っていたようにぱらっと降る雨。名残りの雨。
日照雨(そばえ) 日が照りながら雨が降ること。「そばえ」は戯(たわむ)れるという意味がある。狐(きつね)の嫁入り、天気雨。
私雨(わたくしあめ) かぎられた地域にだけ降るにわか雨。山の上に降りやすい。
黒風白雨(こくふうはくう) 激しい風と強い雨。暴風雨。
飛雨(ひう) 強風に飛ばされるくらいの激しい天気の雨。
叢雨(むらさめ) 群がるようにしてにわかに降る雨。雨足が強くなったり弱くなったりしながら降る。村雨。群雨。
零雨(れいう) 静かに降る雨。小雨(こさめ)。
漫ろ雨(そぞろあめ) 小降りのまま、いつまでも止まない雨。
小糠雨(こぬかあめ) 粒子の細かい霧のような雨。音もなく降る雨。霧雨(きりさめ)。
慈雨(じう) 日照りの際に降る恵みの雨。すべてのものを慈しみ育てる雨。
天水(てんすい) 天から降り注ぐ恵みの雨。
祈雨(きう) 雨降りを神仏に祈る。雨乞い。
遣らずの雨(やらずのあめ) 帰ろうとする人を引き止めるように降り出す雨。
天泣(てんきゅう) 空に雲がないのにぱらつく雨。天が泣いているようなさま。風に吹かれて流れてきた雨など。
高温多湿になる夏は、梅雨に夕立、にわか雨に雷雨と、特に雨の存在をより多く感じる季節です。せっかくなら、雨の名前を知り、夏の雨を楽しみませんか?
おもな参考・引用文献
『水のことのは』ネイチャー・プロ編集室 構成・文(幻冬舎)
『雨の名前』高橋順子 文、佐藤秀明 写真(小学館)
『雨のことば辞典』倉嶋 厚・原田 稔 編著(講談社)
『大辞林』松村 明 編(三省堂)
国土交通省HP「水害対策を考える」https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai.html
NATURE & SCIENCE 副編集長。「雨の日は、けっこうすきです。湿度と仄(ほの)暗さに心が落ち着きます。ふだん触らせてくれない野良ネコも、やる気がなくなるのか触らせてくれます。あとは雨の日に長靴をはくのも好きです。いつもとちがう、非日常的な感じがして。」