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ストームグラスの不思議に迫る!

ストームグラスの
不思議に迫る!

自作もできる、天気予測器

文/木村 悦子

インテリアとして人気のストームグラス。天気管、気象管とも呼ばれるとおり、天気を予想する道具としてイタリアで開発され、イギリスに紹介されたといわれています。見るほどに不思議で美しいストームグラスを作って、観察してみませんか。

ストームグラスは化学の香り

筆者は、アクアリウムやスノードーム、ハーバリウムなどの「ガラスに閉じ込められた透明な世界」を愛好しています。ストームグラスを初めて見たときは、繊細な結晶に目が釘づけに。

市販品のストームグラス「Tempo Drop(テンポドロップ)」 (写真提供:株式会社100percent)

市販品のストームグラス「Tempo Drop(テンポドロップ)
(写真提供:株式会社100percent

知人リケジョに聞くと、「何やら化学の香りがしますね」と興味津々。手を尽くして調べてくれましたが詳しい資料はなく、研究者もいない様子。

それでも頑張って探し続け、やっと訪ね当たったのが、東京理科大学大学院卒の講師数名で営む理科実験教室「にのラボ」です。過去に岡 茉由理(おか・まゆり)先生がストームグラスの教室を担当したことがあると聞き、にのラボを訪ねました。

岡 茉由理さんです

岡 茉由理さんです


きれいな結晶。正体は「溶け残り」!

ここは東京・赤羽。「にのラボ」は住宅街で、民家の軒先を借りて教室を小ぢんまりと運営中。部屋のあちこちに実験道具や謎の薬品がいっぱいで、怪しくも魅力的です。

岡先生は、たとえ話を交えながらストームグラスの実演をしてくれました。

「結晶ができる、できないについては、中学や高校の化学の内容で説明することができます。紅茶に砂糖を溶かすのをイメージしてください」

「紅茶の温度が下がると、砂糖の溶ける量は少なくなりますが、上がると多くの量を溶かすことができます」

「ストームグラスにできる結晶は、溶け残った砂糖のようなものです。水温が下がると、溶解量が減り、結晶となります」


作るのは簡単、現象は複雑!

ストームグラスを作るために用意するものと、作り方をまとめます。

【用意するもの】
・水…30g
・硝酸カリウム…3g 
・塩化アンモニウム…3g
・無水エタノール…40g
・樟脳(しょうのう)…14g
・溶液を作るための容器(作業用。あればビーカー)…2つ
・フタつきガラス容器(飾る用。容量50~100mlが目安)

【作り方】
1. 水(H2O)に、硝酸カリウム(KNO3)と塩化アンモニウム(NH4Cl)を溶かす <溶液A>
2. 無水エタノール(C2H5OH)に、樟脳(C10H16O)を溶かす <溶液B>
3. 溶液AとBを混ぜ、湯煎しながら透明になるまでかき混ぜる。
4. 湯煎から取り出し、中の液体をガラス容器に移す。
5. 液体が室温と同じになったら、適量の水(分量外)をスポイトで入れる。

*硝酸カリウムは、硝酸アンモニウム(NH₄NO₃)+塩化カリウム(KCl)の組み合わせでも代用できる。硝酸アンモニウム=瞬間冷却パックの中身、塩化カリウム=植物の肥料や食品添加物として市販されているものを使えばOK。

【豆知識】
溶液A:水に溶けやすく、エタノールに溶けにくい(硝酸カリウムと塩化アンモニウムの性質)
溶液B:水に溶けにくく、エタノールに溶けやすい(樟脳の性質)

→AとBの溶液を合わせても溶け合わず濁ってしまうが、温度を上げると混ざる。


さて、樟脳(しょうのう)とは?

樟脳は、葉や樹皮に特有の香りがあるクスノキ(樟、楠)の香り成分です。甘い香りのシナモン(肉桂=ニッケイ)もクスノキ科ニッケイ属で、同じ仲間となります。

クスノキ ©︎SOURCENEXT CORPORATION /amanaimages

クスノキ
©︎SOURCENEXT CORPORATION /amanaimages

また、現在の防虫剤はナフタリンや無臭タイプが主流となっていますが、昔の防虫剤といえば樟脳でした。

パッケージに魔除けの神様、鍾馗(しょうき)様が描かれています

パッケージに魔除けの神様、鍾馗(しょうき)様が描かれています


ストームグラスを作ってみます

筆者は、経過を観察しやすいシンプルな瓶と、おしゃれな香水瓶の2種を用意。作成スポイトで水を入れると、雪が舞うようにフワッと結晶が現れて、思わず声を上げてしまいました。

2つの溶液を混ぜ、室温まで冷ましたところに水を入れると雪のような結晶が!

瓶ごと氷水に漬けると、水温が下がり結晶の様子はどんどん変化。

香水瓶には、雲のような、真綿のような結晶が出現。

水をさらに加えると、スノードームのように変化。


結晶ができるメカニズムは謎だらけ

あらためてストームグラスの仕組みをシンプルに説明すると、「気温が下がると、液体に溶けきれなくなった成分が結晶化する」ということ。ただ、環境変化により塩化アンモニウム、硝酸カリウム、樟脳、アルコール、水の相互作用が変わってくるため、結晶のでき方もその都度変わります。

岡先生は、教室で使うスライドとしてこのような表を作成したそうです(ストームグラスの形や容量、環境などにより変わるので、参考程度にご覧ください)。

「温度変化による体積変化はアルコールのほうが大きいので、わずかな温度変化による結晶の変化は樟脳のほうが観察しやすいと思われます。結晶として現れるものは樟脳だけではなく、塩化アンモニウムと硝酸カリウムの結晶も析出*1 するようです」

(写真提供:株式会社100percent)

(写真提供:株式会社100percent

「細かい枝葉のような結晶ができることがありますが、これは塩化アンモニウムと硝酸カリウムによるもののようです。気温、湿度、気圧、大気電場*2 などさまざまな要因が複雑に絡み合うため、なかなかひと言で説明できません」

そんな予測不可能なところにも心惹かれますが、何より結晶が美しく、見飽きることがありません。船乗りが使うために発明されたものなので、天気が目まぐるしく変わる海上では、天気変化の予兆を敏感にキャッチし、陸上とは違う表情を見せるのかも。

謎とロマンに満ちたストームグラスで、化学の香りを感じてみませんか。お子様の自由研究のテーマにもぴったりです。

■取材協力=にのラボ
http://ninolab.mystrikingly.com/


*1 析出(せきしゅつ)

溶液の中から、溶質の成分が固体として生成してくる現象。

*2 電場(でんば)

電荷の分布によってできる電気力の働く空間。電界。雲の中だけでなく、晴天時の大気中にも存在する(大気電場)。

Profile
Writer
木村 悦子 Etsuko Kimura

出版社3社の勤務を経て、編集プロダクション「ミトシロ書房」を創業。雑誌・書籍・Webの編集・執筆を行う。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。「長年の謎だったストームグラスを作ったところ、謎が解け…るどころか深まるばかり。これもまた化学の楽しみかな」

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