夏に氷が降る不思議
「ひょう」ができるメカニズム
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「ひょう」ができるメカニズム
夏の夕立時。まぶしい稲光とともに、ものすごい音を立てて、空から大きな氷の粒が降ってくることがあります。これが、農作物にも大きな被害をもたらすことのある「ひょう」。気温の高い季節に、どうして冷たい氷が地表をおおう現象が起きるのでしょうか?
日本に降る雨の多くは、元は小さな氷の粒です。ほとんどの場合は地表面の気温が高いので、私たちの元に届くまでには溶けています。これが雨です。
しかし、溶けないで氷の粒のままで落ちてくることがあります。これがカラカラ、パラパラと雨とは違う音を立てて降ってくる「あられ」や「ひょう」です。
いずれも空から氷の粒が降ってくる現象ですが、2つの違いはどこにあるのでしょう?
気象用語では、空から降ってくる氷の粒の直径が2 mm~5 mmのものを「あられ」と呼び、直径5 mm以上のものを「ひょう」と呼んでいます。
また、俳句の世界では「ひょう」は夏の季語、「あられ」は冬の季語となっています。
小さい「あられ」のほうが、地表面の気温が低い冬に観測されることが多いのです。つい、逆だとイメージしてしまいますよね。
そこで、「ひょう」ができる自然のメカニズムに迫ってみます。
一般的に「ひょう」は5~6月に起きることが多いとされていますが、7~8月はもちろん、11月や3月に記録されたこともあります。
「ひょう」は、主に積乱雲の中で直径5 mm以上に発達します。大きなものでは直径が5 cm以上になることも。
積乱雲は、夏に多いソフトクリームのような高さのあるモクモクとした雲のことです。
地表面で暖められた空気には、海などから供給されるたくさんの水蒸気が含まれています。空気は暖められると軽くなるので、上空に昇っていきます。
一方で、上空へ行くにしたがい気温は下がります。すると、空気の中に含むことができる水蒸気の量が少なくなり、余った水蒸気は細かな水滴に戻り、雲になるのです。
さらに上昇すると、水滴は細かな氷である「あられ」になります。氷同士が衝突して大きくなったり、氷の表面についた水滴がさらに凍ったりして、積乱雲の中で「ひょう」になっていきます。
積乱雲から降ってくるので、「ひょう」は夏の季語なのですね。
上昇する気流に乗って成長した「ひょう」は、重力に負けた瞬間、急に地面に落ちてきて私たちを驚かせることになります。
空から時速100km以上のスピードで落下してくるので、人や家畜、農作物、自動車などに被害を与えます。葉に穴が開いてしまった野菜や、カーポートに穴が開いてしまった映像などがニュースに取り上げられることもあります。
また、氷同士の衝突が、雷の元となるエネルギーが生まれる原因の1つだとも言われており、雷とセットで発生することが多い「ひょう」。そのため、天気予報では「雷注意報」の中で、注意が呼びかけられています。
東京などの大都市では近年、「ヒートアイランド現象*1」と呼ばれる、街の気温が周囲より上がる現象が起きています。このため、短時間で積乱雲が急激に発達する報告も増えています。
局所的に激しい雨が降る、いわゆる “ゲリラ豪雨” と呼ばれるような大雨を経験された方も多いのではないでしょうか。
短い時間に激しく降るこのタイプの雨は、「ひょう」や雷をともなったり、街の排水機能が追いつかず、冠水してしまったりするなど、社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
こうした予報が出ている際には、安全のため、できるだけ丈夫な建物の屋内にいるようにしましょう。
*1 ヒートアイランド現象
都市部の気温が周囲より高くなる現象。気温の上昇を抑える緑地の減少のほか、道路(アスファルト)やビル壁面(コンクリート)の蓄熱効果、エアコンの排熱など、気温を上げる要素が多いため起きると考えられている。
参考文献など
気象庁 はれるんライブラリー
気象庁 雨・雪について
『気象予報士わぴちゃんのお天気観察図鑑 雲と空』岩槻秀明 著(いかだ社)
フリーランスライター。東京農業大学卒業後、自然体験活動に従事。2014年よりフリーランスライターに。ライフスタイル、エンタメ、レシピ作成記事などを執筆。ペーパー自然観察指導員(日本自然保護協会)。「積乱雲の中に氷が詰まっていると考えるととても不思議ですね。被害は心配なのですが、大きなひょうが降ってくるところを見てみたいという好奇心もチラリと沸いてしまうのです」