ホタルが光るのは
何のため?
『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ
©︎shinkai takashi/Nature Production /amanaimages
『プチペディア』で迫る、
昆虫・植物・動物のヒミツ
ホタルの光といえば、初夏の風物詩。夜の水辺を乱舞する姿は有名ですが、成虫以外も光ることをご存知でしたか? 意外と知らないホタルの生態を、NATURE & SCIENCE が手がける『PETiT PEDiA せかいの昆虫』(アマナイメージズ)の掲載記事から再構成してお届けします。
蒸し暑い初夏と言えば、儚(はかな)い光を放ってホタルが水辺を飛び交う季節です。
ゲンジボタルをはじめとしたホタルの成虫は、暗闇のなか、光でコミュニケーションを取り、交尾する相手を呼び合います。
卵を持つメスはあまり飛び回らず、飛ぶのは主に身軽なオスと言われています。そして互いの居場所を見つけると、オスはメスのそばにとまり、点滅間隔を変化させるのです。
しかしホタルの発光能力は、意外にも幼虫のときから備わっており、孵化(ふか)間近になると、なんと卵も光ります。
交尾する相手を見つけるため、ということがホタルの光る理由なら、幼虫も発光することは不思議に思えます。
幼虫が光るのは、捕食者を驚かせるため、あるいはホタルには有毒のものが多いため、そのことを警告しているのだとも考えられています。
実はホタルの成虫は明るいうちに活動する昼行性のものが多く、成虫になっても光るのは約2,000種いるホタルのうちの半数以下と言われています。
成虫が光でコミュニケーションをとる種というのは、幼虫時代の発光能力を流用していると言えるのかもしれません。
ホタルをあお向けにするとわかりますが、光っているのは、おしりの先端手前の節。
この部分には光の素となる「ルシフェリン」という発光基質*1 があり、酵素である「ルシフェラーゼ」、さらにATP*2 が反応し、発光体(オキシルシフェリン)が作り出されることで光っています。
発光は自分でコントロールできるらしく、休んでいるときなどはほとんど光りません。
*1 基質(きしつ)
酵素が触媒としてはたらく化学反応において、酵素と結びついて変化を受ける物質のこと。
*2 ATP
アデノシン三リン酸。生物の体内に広く存在し、エネルギーを貯蔵・放出するために用いられる化合物。
このルシフェリン−ルシフェラーゼ反応は、19世紀の終わりには早くも発見され、20世紀の中頃になると、さらにこの酵素反応の解明は進みました。
ホタルが発光する仕組みを解明する過程でわかってきたことは、有機化学や生化学などでの基礎研究から、イメージング(試料の画像化や視覚化)などの応用技術まで、さまざまな分野で役に立ってきました。
例えば、遺伝子操作によってがん細胞にルシフェラーゼを導入し、その発光現象を利用して、がんが転移するメカニズムを観察するという研究も進められているそうです。
生物の構造や仕組みを新しい技術開発に生かす、こういった取り組みは「バイオミメティクス」と呼ばれ、さまざまなアイデアの源泉となっています。
そしてどのような生き物が、これからの新技術や、重要な発見の源になるのかは予想ができません。
人類が自然から学び続けるためにも、環境を保全してより多くの生物と共存していくことが大切なのかもしれませんね。
この記事の元になった本は……
プチペディアブック「にほんの昆虫」(アマナイメージズ)
昆虫の成長ステージである卵、幼虫、さなぎ、成虫の4つの章に分けて、さまざまな疑問に回答しています。取り上げた疑問は単なる雑学的なものではなく、昆虫の全体像を知るための近道となるものです。ぜひ、お子さんと一緒にコミュニケーションしながら読んでみてください。好奇心を育み、昆虫に興味を持つきっかけとなるはずです。
[企画・編集]ネイチャー&サイエンス
[監修]岡島秀治(東京農業大学教授)[文]丸山貴史(アードバーグ)
[判型]B6変
[ページ数]152ページ
本体価格 ¥1,400(+税)
編集者。1989年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。出版社で書籍編集担当、カメラマンとして勤務した後、フリーランスに。図鑑や実用書、Web媒体などの編集を行う。実家は横浜の鰻屋さん。「光るのは成虫だけかと思っていました……幼虫や卵も光る理由の奥深さに驚きです」