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私たちの星への想い④

私たちの星への想い④

篠原ともえさん、国立天文台に
小久保英一郎教授を訪ねる

構成・文/神吉 弘邦
写真/大竹 ひかる(amana)

惑星の成り立ちを研究する国立天文台の小久保英一郎教授を、篠原ともえさんが訪問。「4D2Uドームシアター」を鑑賞しながら交わされた対話をお届けします。第4回は、そもそも惑星がどう誕生するのかという最新シミュレーション映像を見せていただきました。(全6回)

どうやって惑星は生まれるか

(第3回 土星の環の神秘に迫る の続き)

小久保 海王星の外側にある天体を太陽系外縁天体と呼んでいて、今もう2,000個近く見つかっています。

篠原 そんなにも!

小久保 ですから、太陽系は水・金・地・火・木・土・天・海で終わっているのではなくて、もっと外側、少なくとも100天文単位*1くらいまでは天体があることが望遠鏡の観測で分かっています。例えば、エリスという準惑星*2が太陽からもっとも遠くにある天体の一つです。

準惑星の大きさ比較。左からケレス、冥王星、エリス ©Walter Myers/Stocktrek Images /amanaimages

準惑星の大きさ比較。左からケレス、冥王星、エリス
©Walter Myers/Stocktrek Images /amanaimages


篠原 そこまでは、以前の4D2Uで拝見させていただきましたね。

小久保 実は、そこで太陽系はまだ終わってなくて、1,000天文単位、1万天文単位までもっと続いています。その辺りが「オールトの雲*3」と呼ばれる場所です。

篠原 かわいい粒々が見えてきました。彗星ですね?

小久保 そうです。このほうき星1個1個は、ちゃんと太陽の周りを回っているんです。太陽とその周りを回っている天体の集まりが太陽系ですから、だいたい20万天文単位くらいまでが太陽系です。この外側に行くと、太陽系を離れて太陽と同じような恒星の世界です。

©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

©加藤恒彦(プログラム), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト


小久保 ここから長さを表す単位が「光年」に変わります。1光年は光が1年間に進む距離で、約9兆5千億km。光年で言うと、だいたい3光年くらいまでが太陽系だと思ってください。4光年くらいのところにあるのがアルファ・ケンタウリ。これは太陽と同じような恒星です。

ケンタウルス座アルファ星AB(中央)と同ベータ星(右)。プロキシマ・ケンタウリの明るさは肉眼で観測ができない ©Alamy Stock Photo/amanaimages

ケンタウルス座アルファ星AB(中央)と同ベータ星(右)。プロキシマ・ケンタウリの明るさは肉眼で観測ができない
©Alamy Stock Photo/amanaimages

小久保 アルファ・ケンタウリ、ベータ・ケンタウリ、プロキシマ・ケンタウリとあって三重連星になっています。実は、そこに惑星(プロキシマb*4)があるのが最近になって分かりました。

篠原 いつごろの発見ですか?

小久保 2年ほど前です。4D2Uの映像では、このような惑星が近くにある恒星にマークが付けられます。もうちょっと遠くを見渡してみると、マークが付いている星がいっぱいありますよね。

篠原 本当にたくさんのマークがあります。

小久保 これら太陽系外にある惑星を、系外惑星と言います。私たち太陽系の惑星と似ている惑星もあれば、似ていない惑星もあります。確実なもので3,500個くらい。候補を入れると、4,000個を超える惑星が観測によって次々に見つかっています。

*1 天文単位

記号は「au」。149,597,870,700mが「1天文単位」で、地球と太陽との平均距離に由来する。

*2 準惑星

国際天文学連合(IAU)が2006年8月に「惑星」の定義を見直した際、同時に定義された太陽系の天体の新分類。太陽の周囲を公転する惑星以外の天体のうち、それ自身の重力でほぼ球状になれる質量を有するものとされ、それまで太陽系第9惑星とされてきた冥王星が準惑星となった。2018年11月中旬現在、IAUが認定している準惑星は冥王星、エリス、ケレス、マケマケ、ハウメアの5個で、小惑星セドナなども候補になっている。

*3 オールトの雲

太陽系の外縁を取り巻く仮想的な天体群。太陽から数千〜10万auの間を球殻状に広がっているとされる。主成分は、水、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどの氷だと考えられている。1950年にオランダの天文学者ヤン・オールトにより、長周期彗星や非周期彗星が生まれる“ふるさと”として存在が提唱された。

*4 プロキシマb

2016年8月にプロキシマ・ケンタウリのハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内で発見された惑星。レーザー推進で光速の約20%にまで加速させた超小型宇宙船を送り込む「ブレークスルー・スターショット」計画の構想がスティーブン・ホーキングらによって発案された。


くっついて、大きくなる

小久保 私たちの研究の一つは、こうした惑星がどのように誕生するかを理論とシミュレーションを使って解き明かすことです。まだ篠原さんがご覧になっていない4D2Uの映像を見ていただきますね。

篠原 とっても楽しみです!

国立天文台の4D2Uドームシアターでは、半球状のドーム型スクリーンに映し出された映像を、専用の3Dメガネで立体的に鑑賞。二人の目の前には惑星の素がフワフワと漂っているように見えています

国立天文台の4D2Uドームシアターでは、半球状のドーム型スクリーンに映し出された映像を、専用の3Dメガネで立体的に鑑賞。二人の目の前には惑星の素がフワフワと漂っているように見えています

小久保 これは惑星の形成の最初の段階です。まず、1千分の1ミリとか1万分の1ミリくらいの宇宙空間に浮かんでいる小さなダスト。それが、くっついて、くっついて、くっついて、くっついて……だんだん大きくなっていくんですね。

ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

ダストの衝突合体成長
©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

ダストの衝突合体成長(HD版)
©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

篠原 塵(ちり)から星ができるんですか。

小久保 ええ。大きな惑星も、最初は小さな塵だったのです。この氷の粒子1個が1万分の1ミリ。これが恒星を周りながら、コツっ、コツっとぶつかって、くっついて、大きくなっていくというシミュレーションです。ぶつかったときに速度が余って揺れているでしょう。

ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

ダストの衝突合体成長
©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

小久保 これまでは速い速度でぶつかると溶けて1個の丸になるんじゃないかと思っていたのですが、そうならなくて、フワフワのまま大きくなるんですね。

篠原 くっつく面も多くなっていくんですね。

小久保 ちぎれたりするのもあったり、もっと激しくぶつかる場合は散らばっていったり、シミュレーションで速くぶつけるとバラバラになってしまいます。

ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
ダストの衝突合体成長 ©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

ダストの衝突合体成長
©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化),国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト

篠原 このドームシアターで見ると、こちらに粒が飛んでくるのですごい迫力。なんだかテクノミュージックのPV映像みたいになっています!!

小久保 (笑)。氷の惑星が最初にできていく時はこのように大きくなりそうだとわかってきているのですが、地球のような岩石惑星の素になった石の粒々がどうやって大きくなっていくかは、正直いまだによく分からないのです。

篠原 同じように、岩が接着していくんですよね?

小久保 でも、岩ってくっつきそうにないですから。引力は小さくて弱いですし。これは、実は惑星形成の研究に残されている最大の問題の一つなんです。残念ながら、まだ誰も答えを持っていません。

篠原 私は残念ではないですよ。むしろ、宇宙のことについて想像する猶予を与えてくれているのがとても好きです。このドームシアターでは最前線の研究の結果を見られるだけでなく、こうして体感できるというのが本当にありがたいです。

小久保 うれしいですね。それでは最後に、今見られる銀河系の最も新しい姿を見てもらいますね。

>>第5回 太陽系から遠く離れて へ続く


ダストの衝突合体成長(3D VR版)
©和田浩二・陶山 徹・田中秀和(シミュレーション), 長谷川 鋭(可視化), 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト


「STaR☆PaRTY 星と宇宙のデザイン展 TeNQ」

篠原ともえさんによる初の宇宙をテーマにした特別展が、東京ドームシティで開催中です。本展のためにデザイン・制作したオリジナルドレスを始め、原画や星空写真など、これまでの作品約50点を展示。篠原さんデザインのアクセサリーやステーショナリーなども販売されます。

期間:2018年11月8日(木)~2019年3月3日(日)11:00~21:00(土日祝は10:00~21:00、最終入館は20:00まで)
会場:宇宙ミュージアム「TeNQ(テンキュー)」

住所:東京都文京区後楽1-3-61 黄色いビル6F(JR・東京メトロ・都営地下鉄「水道橋」駅すぐ)
https://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/event/exhibition-15.html
 
期間中、星や宇宙に関係するアイテムを身につけてくると当日入館券が200円引きになる「ドレスコード割引」を実施中です!(
TeNQチケットカウンターで当日券購入時のみ、他の割引サービスとの併用不可)

Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「少年時代を過ごした北海道の情景、20代に日本の離島を旅して得た感覚。そんな素朴な経験をこのサイトに盛り込みたいです」

Photographer
大竹 ひかる Hikaru Otake

amanaフォトグラファー。人やもののストーリーを考察し写真を撮る。
http://amana-photographers.jp/detail/hikaru_otake

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