シロクマとペンギンが
出会うことはある?
動物の生息域と体の大きさ
© Gerard Lacz/ FLPA/MINDEN PICTURES /amanaimages
動物の生息域と体の大きさ
寒い地域に暮らす動物の可愛いイラストなどでは、セットで描かれることが多いシロクマとペンギン。実際に彼らは一緒の場所に住んでいるのでしょうか? 動物園や水族館では忘れてしまいがちな、動物の住む地域について考えてみましょう。
シロクマ(ホッキョクグマ)とペンギン。かわいらしいフォルムで人気のある2つの動物は、動物図鑑など以外では、雪上などをバックにセットで描かれる例も見かけます。氷山をバックにしたイラストは涼しげで良いですよね。
シロクマは、その毛皮の色から「白熊」と呼ばれることもありますが、正式にはホッキョクグマと呼びます。
名前の通り、北極地方に生息し、アザラシを主食とする肉食のクマであるホッキョクグマ。夏にベリー類などを食べることもありますが、基本的には肉食であり、雑食が多いクマ類の中では特殊な食事をしていると言えます。これには植物が生えにくい北極地方の過酷な環境が影響していそうです。
一方のペンギンも、写真やイラストで見ると、背景は氷の塊だったり、雪景色の中だったりします。
ところが、ほとんどのペンギンが住んでいるのは、実は南半球。最も北に住むガラパゴスペンギンでも、その名の通り、赤道付近の国であるエクアドルのガラパゴス諸島が生息地となります。
つまり、実際にはホッキョクグマとペンギンは、普通なら出会う機会が一生ないと言えます。また、仮にホッキョクグマとペンギンが出会っても、肉食獣のホッキョクグマのこと。ペンギンを食べてしまう可能性もありそうです。
という訳で、ホッキョクグマとペンギンが仲良くしている様子は、残念ながらイラストや漫画の中だけの表現と言えそうです。
南極大陸からガラパゴス諸島まで、南半島に広く分布するペンギン。氷山や海と共に暮らすイメージが強いのですが、ガラパゴスペンギンのように暖かいところで暮らすペンギンもいます。
暖かな南アフリカの沿岸に住むケープペンギンもそうです。
暖かな気候を好むため、日本の水族館でも多く飼育されているケープペンギン。鳴き声からジャッカス(=雄ロバ)ペンギンと呼ばれていたこともあったそうです。ぜひ水族館で鳴き声を聴いてみてくださいね。
温暖なニュージーランドにも多くのペンギンが生息していますが、フィヨルドランドペンギンは冬になると森へ向かいます。
警戒心の強いフィヨルドランドペンギンは天敵の少ない冬に、森で子育てを行うのです。もちろん食べ物は海で魚やイカなどを獲らなくてはいけないので、オスとメスは交代で、崖や岩の多い地形を海まで歩きます。
ホッキョクグマはクマ類で最大です。オスは体長3 mを超え、体重が800 kgになることもあります。
動物には同じ種類であれば、寒いところに住むものは体が大きくなり、暑いところに住むものは小さくなる傾向があります。発見者の名をとって「ベルクマンの法則」と呼ばれています。
大きな鍋に入ったお湯は冷めにくく、小さなカップに入ったお湯は冷めやすいということと同じ理屈と考えられています。寒いところに住む動物は大きくなることで暖かさを保ち、暑いところに住む動物は小さくなることで熱がこもらないように進化したのですね。
ちなみに、世界最小のクマはマレーグマ。体重は50 kg前後です。
その名の通り、東南アジアのマレー半島を中心に熱帯や亜熱帯の森に生息します。暑い気候に適応した体なのです。
ペンギンでも同じことが言えます。南極付近の寒いところには、体の大きなコウテイペンギンやキングペンギンが住んでいます。
コウテイペンギンが卵を産むのは秋にあたる3月から4月。オスは冬の間中、卵を温めます。その時に大きな体が役に立つのです。
一方でペンギン類最小のコガタペンギンは、温暖なニュージーランドからオーストラリアにかけて生息します。
コガタペンギンのサイズは40 cmほど。温暖な気候で暮らすには、小さな体の方が便利なことが多かったのでしょう。
図鑑や水族館、動物園で見かけた動物たちの体の大きさから「もともとは、どんな場所に住む動物なんだろう?」と推理してみてはいかがでしょうか。
フリーランスライター。東京農業大学卒業後、自然体験活動に従事。2014年よりフリーランスライターに。ライフスタイル、エンタメ、レシピ作成記事などを執筆。ペーパー自然観察指導員(日本自然保護協会)。「どちらも泳ぐのが得意なこの2つの動物。