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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
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連載

宇宙構想会議 2050①後編

宇宙構想会議 2050 ①

ALE 岡島礼奈と描く青写真
 
ゲスト
舩橋 真俊さん(後編)

構成・文/神吉 弘邦
写真/猪飼 ひより(amana)

将来、人類の活動が他の惑星や深宇宙へと及ぶ時代、必要になる哲学やテクノロジーとは。ALE代表の岡島礼奈さんによるインタビュー新連載、第1回のテーマは他惑星への移住。前編の記事に続いて、ソニーコンピュータサイエンス研究所で「協生農法」を研究する舩橋真俊さんとの対話後編です。壊れゆく地球を救うための農業が、火星の改造(テラフォーミング)にどう役立つのでしょうか。

技術の前に思想ありき

岡島 あらためて、2010年からソニーコンピュータサイエンス研究所で舩橋さんが協生農法のプロジェクトを始められたときのことを伺っていいですか。

舩橋 最初は「思想」を作るんですよ。具体的には、マニフェストみたいなものです。「こういう方向で開発されたものをこう呼ぼう」という。

岡島 それが「協生農法」だった。そもそもマニフェストって、どれくらいの分量ですか。

舩橋 論文34本分くらいでしょうか。最初に課題解決にとって絶対に必要な全体性を含んだトップの思想を決め、それに沿って個々の要素となるシステムを作る感じです。宇宙探査機と同じで、どう転んでも目的にとって有益な副産物が出てくるように、そしてシステム自体が様々な環境変化の中でも生き延びられるように、人間が作る技術と自然生態系との繋げ方みたいなものを多面的に設計していきます。


舩橋 例えば、生態系機能を自然状態以上に発揮しようとするなら、その担い手となる生物多様性をどのレベルまで高めなければならないか。多様性をマネージするには情報通信技術が有用で、その要件として「世界中で格差なく使ってもらうにはオープンソースじゃなきゃダメだ」とか「理論と測定をインタラクティブに繋げるビッグデータは必要な構造になるぞ」とか。センサーやカメラなど機械で直接測れるものだけでなく、エコシステムの中にある植物種の構成とか、ミツバチなどの動物の行動もデータとして重要です。

岡島 そうですね。

舩橋 実際に運用するにはいろんなインターフェースがあり得るので、どれが必要かを考えないといけません。ソニーで言うと、例えばAR(オーグメンティッド・リアリティ)*1 が特徴的です。これを使うと生態系へ実際にものを置かずに、さまざまな情報を仮想空間に重畳して複雑な配置のまま共有できるし、過去のデータもどんどんAR上で遡れる。手を使わないウェアラブルなグラスを通して、世界各地の生態系のタイムマシンのような機能が作れる。自分が作った世界で一つの生態系をヴァーチャルな情報としてコピーアンドペーストだけで他の人に渡せるようになるし、派生形はいろいろ考えられますね。

YouTube「Sony – Stories」チャンネルより、協生農法を紹介している動画(5分46秒)

ARをインタフェースに用いた表示の例。多様な植生の上に各種情報をタグ付けできる (画像提供:舩橋真俊氏)
ARをインタフェースに用いた表示の例。多様な植生の上に各種情報をタグ付けできる (画像提供:舩橋真俊氏)

ARをインタフェースに用いた表示の例。多様な植生の上に各種情報をタグ付けできる
(画像提供:舩橋真俊氏)


岡島 あと、舩橋さんに聞いてみたかったのは、ALEの印象。

舩橋 すごくいい意味で変な会社だなと思っていて。民間のベンチャーが、たとえエンジェル投資家がいるにせよ、基礎科学をプロモートすることを優先順位の高いところに掲げるのはなかなかない。これは心意気がないとできないです。単純に基礎科学をやろうと思ったら大学に残るとかいろんな選択肢があるなかで、あえて民間のゴールドマン・サックスへ行った後に「基礎科学に貢献」って。その時は、正直「何を言っているんだ、この人?」という印象だったんですけど。

岡島 (笑)

子どもたちに「挑戦する姿」を届けたい、大人たちに「新しい挑戦は今からでも遅くない」と感じて欲しい…… こうしたALEの想いに共感するサポーターを、2019年6月12日まで、クラウドファンディングサイト CAMPFIRE(「世界初の人工流れ星チャレンジを、みんなの力で盛り上げたい!」))を通じて募集している ©ALE Co., Ltd.

子どもたちに「挑戦する姿」を届けたい、大人たちに「新しい挑戦は今からでも遅くない」と感じて欲しい…… こうしたALEの想いに共感するサポーターを、2019年6月12日まで、クラウドファンディングサイト CAMPFIRE(「世界初の人工流れ星チャレンジを、みんなの力で盛り上げたい!」))を通じて募集している
©ALE Co., Ltd.

舩橋 つまり、流れ星だけなら継続できそうにないと思ったんですが、背後に「宇宙を文化圏にする」という思想があると、流れ星をきっかけに広げられるんじゃないかと思って。学会や学問などの枠、いわばその軌道外に飛び出て、一度、岡島さんの宇宙を経由してスイングバイしてきたものが流星雨となって、また学問界やビジネス界に降り注ぐ、そういう世界は非常に見てみたい。

岡島 うまくまとめていただいた感じがします。

舩橋 どうも、既存のものの積み重ねの上でイノベーションがあるという成長曲線上の発想って、つまんないなと思っていて。ムーンショットみたいに何か、違う天体に一度行ってみちゃったっていうか、「出ちゃった、この人」みたいな人の方が、非連続的に次のパラダイムのようなものが見つかると思います。まあ、具体的には僕が地球の面倒はどうにかみるんで、火星を変えてください。

岡島 そのうち、私たちの人工衛星の中にも、舩橋さんがコーディネートした生態系を連れていきたいんですよ。

舩橋 ISS(国際宇宙ステーション)でも何かできるかもしれないですしね。

  現在、船橋さんが考えている「Satellite with Living Ecosystem」のスケッチ

 

現在、船橋さんが考えている「Satellite with Living Ecosystem」のスケッチ

*1 AR(オーグメンティッド・リアリティ)

人が知覚する現実の環境を、コンピュータによって拡張する技術。拡張現実。またデジタルデータと物理世界を融合させて体感する類似の技術に、仮想現実の「VR(ヴァーチャル・リアリティ)」と代替現実の「SR(サブスティテューショナル・リアリティ)」があり、これらを総称して「XR(クロス・リアリティ)」と呼ぶ動きがある。


社会を変えていく戦略

岡島 私が「太陽系外に人類が進出してほしい」と言っているのは、ただの好奇心からです。自分が純粋にその時代を見てみたいというのと、どうやるんだろうなって興味があるからなんですね。一方で、ここまでテラフォーミングをどうやったらできるかという話をしてきましたが、いろいろな実験を地球に当てはめて住みやすくするという意味では、今の地球の役にも立つと思っています。

舩橋 火星をテラフォームできるぐらいの技術力や社会力があったなら、地球のサスティナビリティ問題はほぼ解けると思うんです。ただ、地球のサスティナビリティ問題を解くということ自体が、火星に進出するための必要条件だと思っているんですよ。

岡島 というと?

舩橋 つまり、地球をサスティナブルで社会格差が少ない状況にしないと、そもそも宇宙開発ができません。今までみたいに「誰が最初に月に行くか」とか「どの国が軍事衛星をたくさん飛ばしているか」みたいな話では続かない。衛星技術って、今はまるで別の展開を見せているじゃないですか。ALEの人工流れ星も、あれで瀬戸内に人を集めるという話があるんですか。

岡島 はい。

舩橋 地域にとって「人工流れ星を見に来てみたら、人も自然もとても良いところだったので移住しちゃった」みたい例が増えてくると経済効果があるかもしれない。東京に比べて地方の暮らしの良さを訴えるよりも、宇宙を通った別のインセンティブがあると思うんですよね。

岡島 そうですね。

舩橋 先日、ルワンダで農村部がインターネット接続するための衛星が打ち上げられました。先端技術を教育や経済などの社会格差を埋めるために使う好例です。農村部が都市部と同じような情報レベルになれたら、その地域に居続ける非常に大きな理由になる。そういう地球上の格差を減らす方向に技術を使うときに、宇宙を介すると実現しやすいソリューションがあると思っていて、すごく可能性があると思うんです。

岡島 そう、宇宙を介して市場に還元していくみたいなことは、すごくやらなきゃいけないと思っていて。今後を考える上で非常に有益な話なので、私も何かのプロジェクトにできればなと思っています。

舩橋 サスティナビリティの問題というのは、もちろん自然破壊の問題ですが、それがどうして解決できず、むしろ助長されるかと言えば、やはり経済システムの問題があります。富が中央に集積して周縁部が貧しくなる構造をなんとか変えなきゃいけない。そのための技術として、僕は衛星に注目しているんです。


岡島 舩橋さんは、根底に格差のない社会みたいなものを思い描かれているじゃないですか。これを実現させるためには、どういう進め方が考えられますか。たぶん日本で「今これをやろうぜ」って言っても絶対ダメでしょう。

舩橋
 僕が具体的なプロセスで考えているのは、例えば、サブサハラ*2 などの地域に新しい経済圏を一つ作るといったことです。今農園を各地に作っていて、次の段階としてその中でフィンテック(金融分野のIT技術)が載せられるような情報通信技術の基盤を作ろうとしています。それが成功したら、農村部に散らばっていても瞬時に直接民主制で投票するためのトークンを入れるとか。グローバル経済とは全く別の、新しい宇宙時代を見据えた文明圏みたいなものを作る発想が必要だと考えています。

アフリカ・ブルキナファソでの協生農法の実践。上から2015年、2016年、2017年の様子。砂漠化し自然回復が不可能だった土地に150種の現地作物を用いた協生農法を導入。1年間で砂漠化を逆転させ、森林生態系の回復に成功、現在も実証実験を継続している Synecoculture pilot farm in Mahadaga, Burkina Faso ©︎AFIDRA
アフリカ・ブルキナファソでの協生農法の実践。上から2015年、2016年、2017年の様子。砂漠化し自然回復が不可能だった土地に150種の現地作物を用いた協生農法を導入。1年間で砂漠化を逆転させ、森林生態系の回復に成功、現在も実証実験を継続している Synecoculture pilot farm in Mahadaga, Burkina Faso ©︎AFIDRA
アフリカ・ブルキナファソでの協生農法の実践。上から2015年、2016年、2017年の様子。砂漠化し自然回復が不可能だった土地に150種の現地作物を用いた協生農法を導入。1年間で砂漠化を逆転させ、森林生態系の回復に成功、現在も実証実験を継続している Synecoculture pilot farm in Mahadaga, Burkina Faso ©︎AFIDRA

アフリカ・ブルキナファソでの協生農法の実践。上から2015年、2016年、2017年の様子。砂漠化し自然回復が不可能だった土地に150種の現地作物を用いた協生農法を導入。1年間で砂漠化を逆転させ、森林生態系の回復に成功、現在も実証実験を継続している
Synecoculture pilot farm in Mahadaga, Burkina Faso
©︎AFIDRA

岡島 なるほど、それは面白そうな話。今あるところよりも、新しく作ったほうが浸透しやすいみたいな話ですよね。スマートシティ*3 を作る理論とほぼ一緒ですか、おそらく。

舩橋 スマートシティも近いかもしれないですが、どちらかと言うと経済的に豊かなところがやっている感じがあるんですけどね。それよりはもっと直接的に人類のサバイバルがかかってくる話です。例えば、地球生態系の全体が非可逆的に崩壊すると警鐘が鳴らされている2045年までの世界では、これから政治が不安定化するなどいろんな動乱も想定されます。さまざまな局面で、人類史的にも相当大きな規模でスクラップ・アンド・ビルドせざるを得なくなる。そうした時期を経て、焦土から這い上がるときに次のモデルとしてこうした新しい文明圏を入れざるを得ない状況証拠を作れるといい。

岡島 2045年と言ったら、あと25年ぐらいか。どこから何が起こるんですか、生態系だと特に。

舩橋 今一番危ないのはやっぱり乾燥地帯です。乾燥地域の農地の70%が、砂漠化の過程にあるんですね。今は砂漠化が局所的に起こっているだけですけど、もっと進むと今度は全球的に起こる可能性がある。日本も生物多様性がなぜかわからないけど減っているという状況がもう来ているかもしれません。実際、全球的に昆虫相が相当まずいことになっているって論文が出ていますし。

舩橋 それと海底の砂漠化も深刻です。僕はときどき海に潜るんですけど、魚とか海藻がいなくて、単一のウニだらけみたいなところをよく見かけます。ちょっと大きなブダイとかの魚がチラホラいるぐらいの沿岸が増えているんですよ。農業排水で富栄養化したものが入ってきて酸欠になって沿岸生物相が損なわれるサイクルがあるんです。あとは東南アジアの小国が気候変動でもろに洪水や干ばつの影響を受けたり、大規模化する農業についていけなかったりで、所得の格差が出るということがあります。

舩橋 あとは、コラプション(汚職、不正)の問題。つまり社会的体制の腐敗が、そういう国々にはものすごく多いんです。だから、自然要因と社会要因が両方合わさっている。いわゆる大規模モノカルチャーをやっていない国々から、どんどん厳しい状況に追い込まれていくんですね。でも、国連などで発言権を持っているのは大規模モノカルチャーをやっている国々なので、どうしても格差が増えてくるんですよ。本当に草の根のところから世界的な意思決定に参加できるという風にできないと、決して格差を是正する方向にはならないですよね。

*2 サブサハラ

サハラ砂漠以南の地域。北アフリカ以外のアフリカ大陸を指す。北縁をサハラ砂漠で限られ、東西南の三方で大西洋とインド洋に面している。

*3 スマートシティ

IoT(モノのインターネット)やAI、MaaS(サービスとしてのモビリティ)、スマートグリッド(次世代送電網)など複数の先端技術によって実現する、省資源で省電力、安全性と利便性の高い、人と環境に優しい近未来の都市のイメージ。Googleやマイクロソフト、アリババなどが大規模な投資をして整備中と言われる。


一度、宇宙に出てみたら?

岡島 この連載のタイトルでは「2050年」を謳っています。それまでにその新しい経済圏を作れればいいんですが。

舩橋 僕たちは同じ79年生まれだから、2050年といったら70歳ですね。

岡島 えっ、そうなんだ。私、てっきり50歳ぐらいの気分でいた(笑)

舩橋 僕も気分は十代な気がするんですけど、よほどのアンチエイジングテクノロジーができない限り、肉体年齢は相応になっているでしょう。

岡島 でも、2050年になったら、結構アンチエイジングはいけるんじゃないかなと思ってもいるんですけど。体の一部はサイボーグになっていたりとか。

舩橋 そう言えば今の農業って化石燃料を使いすぎていて、生産できる食べ物のカロリーより、投入している化石燃料のカロリーのほうが大きいんですね。

岡島 えーっ!

舩橋 だから、僕らも完全にサイボーグ化して化石燃料を直接食べるほうが、実は効率がいい(笑)。そういう状況になっちゃっています。

岡島 舩橋さんは、やっぱり生命の捉え方が独特だなぁ。


舩橋 サイエンスって、技術のスケールがあると思うんです。だから、分子で見たほうがいい分野っていうのは当然あれば、個体レベルで運動量などを測ったほうがいいのもある。もしくは、社会レベルの指標で見たほうがいいというのもあり、それぞれ違う言語が成立していると思っていて。

岡島 なるほど。

舩橋 植物に関しては、鉢植えの1個のポットに入っている「個体」になったものが基本単位だとなぜか思う人が多いんですが、植物の1個体ってむしろ多細胞生物の1細胞みたいな中途半端な取り出し方なんじゃないか。そのくらい、他の個体と相互作用している状態が自然であって、生態系という共同体になっていないと生きていけない。

岡島 確かに、動物は個体ごとに分かりやすいけれども、植物や菌類などは根っこが繋がっていたり、1個の種類だけじゃなくて、他の種類で複雑に関連したりしているから。その複雑系を「系」ごと捉えるというのはすごく大事だなと思う。

舩橋 長い生物史的なスケールで見ると、植物はどんどん海から陸に進出して、テラフォーミングしてきたエージェントでした。集団的にお互い助け合いながら、動物相も利用して、今のこの土壌を作り、生態系ができた。それが植物の力です。僕たち動物というのは、実は植物の「しもべ」なんですよ。だって、栄養的には光合成ができる植物しか一次生産者がいないわけですから。人間も含め、栄養のカスケードで見たら植物の下流にいるわけです。


舩橋 植物は自分のちょっと末端を食べさせることで、逆に土壌を豊かにするとか、種子散布に使うとか、非常に賢いことをやっている。でも、その賢さを今までの限られた知見から解釈しようとしても、なかなか正しく捉えられていないのが現状です。人間の脳では生態系全体を理解するのにはバイアスがあるのかもしれません。

岡島 それができていないから、今地球の生態系がこんなに危ないとか、大規模農業のせいで砂漠化になっているみたいなところに気づかない。全体で見ている人がいないですもんね、そもそも。

舩橋 あと、そういう視点がないと「突き抜けられない」というのがあって。例えば、工場野菜が嫌いな人は「自然農法でやるのがいい」とか言いますよね。要は「開放系のほうがいい」と。でも、もっとスケールを広げて地球全体まで行くと、これは閉鎖系です。もちろん地球は太陽からエネルギーを得ていますし、宇宙空間への水の蒸発とか隕石なども多少はありますが、物質循環に関してはほとんど閉鎖系と言っていい。

岡島 うん。そうです。

閉鎖系システム(左)と開放系システム(右)を比較した概念図。開放系では大気中のみならず、土壌からの影響も取り入れる。開放系で温度、湿度、日照度などの環境情報を測定し、閉鎖系にフィードバックして同じ環境を作り出すことで、開放系に由来する外界とのインタラクションの影響が評価できるという (舩橋真俊氏の提供図版より作成)

閉鎖系システム(左)と開放系システム(右)を比較した概念図。開放系では大気中のみならず、土壌からの影響も取り入れる。開放系で温度、湿度、日照度などの環境情報を測定し、閉鎖系にフィードバックして同じ環境を作り出すことで、開放系に由来する外界とのインタラクションの影響が評価できるという
(舩橋真俊氏の提供図版より作成)

舩橋 その中に住んで区切られた土地で露地栽培をすれば、風や雨だけでなく種子や動物も周囲から出入りしますから管理者にとっては開放系になるし、それらをすべて遮断できる施設内に隔離して行う生物学の実験室は閉鎖系です。

従来のSF作品などでは大掛かりなテラフォーミングがイメージされてきた。例えば、火星のゲール・クレーター(直径154km)をドームですっぽり覆うという空想CG。中央にある丘は標高5,000mあるアイオリス山(シャープ山) Futuristic concept of Gale Crater enclosed in a protective dome to create an ecosphere. ©︎Steven Hobbs/Stocktrek Images /amanaimages

従来のSF作品などでは大掛かりなテラフォーミングがイメージされてきた。例えば、火星のゲール・クレーター(直径154km)をドームですっぽり覆うという空想CG。中央にある丘は標高5,000mあるアイオリス山(シャープ山)
Futuristic concept of Gale Crater enclosed in a protective dome to create an ecosphere.
©︎Steven Hobbs/Stocktrek Images /amanaimages

舩橋 そういう閉鎖、開放、閉鎖……みたいな入れ子構造が地球にはあるにも関わらず、「俺は閉鎖系にソリューションを求める」とか「いや、開放系のほうがサスティナビリティにいいんです」みたいな地点に留まっているので「みんな一度、宇宙に行ってみたほうがいいんじゃないの?」とは思います。

岡島 そうですよね。それが一般の人たちにとって分かりやすい「宇宙の効果的な使い方」という気がします。

スイスのESTEEは、月や火星への進出時に人類の活動をサポートする居住・栽培用モジュール「SET(The Scorpius Extra-Terrestrial)」を実際に設計。混作栽培の閉鎖系システムは、協生農法の考え方にインスピレーションを受けたもの Prototyping of Synecoculture-inspired closed system polyculture for future mission to Mars at ESTEE, Lausanne, Switzerland ©EARTH SPACE TECHNICAL ECOSYSTEM ENTERPRISES SA

スイスのESTEEは、月や火星への進出時に人類の活動をサポートする居住・栽培用モジュール「SET(The Scorpius Extra-Terrestrial)」を実際に設計。混作栽培の閉鎖系システムは、協生農法の考え方にインスピレーションを受けたもの
Prototyping of Synecoculture-inspired closed system polyculture for future mission to Mars at ESTEE, Lausanne, Switzerland
©EARTH SPACE TECHNICAL ECOSYSTEM ENTERPRISES SA


この世界をもっと知りたい

岡島 私はやっぱり物理学が好きです。本を読んでいたら舩橋さんもそうだったんですが「小さい頃に一人で昆虫とかずっと見ていた」と。その後、「ある時に物理学にはまる」という流れが私と似ていたんです(笑)。「ああ、やっぱり物理だ」ってなるんですよ。自然物全部に興味を持つんだけれど、「じゃあ、どうやって自然を捉えればいいんだろう」って思ったとき、私は宇宙がすごいピタッとはまったっていう感じです。星がきれいなところで育ったのと、『ホーキング、宇宙を語る』*4 などを読んだこともあって。

岡島 舩橋さん、本で語っていたじゃないですか。「まだ、宇宙にある物質の5%しかわかっていない」って。それも本当に面白い話だなと思って。たまに物理学科の人とかに会うと、学生でも「現代の物理はやり尽くされている」みたいなこと言っちゃう人がいるんですよね。まだ95%もわかってないことがあるのに。

舩橋 それも宇宙論が前提なので、その100%という枠組みを決めているのも人間ですからね。

岡島 やっぱり、何かそこにあるのはロマンとかじゃなくって。なんていうか、もっと根底にあることをいろいろ知りたいです。自分たちを取り巻いているものは、実際、本当は何なのか。それがすごい気になるんですよ。だから、いろんな人に会いに行こうと思います。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました。

舩橋 こちらこそ、ありがとうございます。

*4 『ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで』

英国の理論物理学者、スティーブン・ホーキング(1942-2018)が1988年に出版。全世界で1,000万部以上のベストセラーを記録した。


Profile
Writer
神吉 弘邦 Hirokuni Kanki

NATURE & SCIENCE 編集長。コンピュータ誌、文芸誌、デザイン誌、カルチャー誌などを手がけてきた。「いよいよ始まった新連載。初回では、岡島さんの長い時間軸を見すえた視線と強い好奇心、舩橋さんの広い視野から生まれる思考と高い理想に触れました。読者のみなさんのご感想、SNS(FacebooktwitterInstagram)でお寄せください」

Photographer
猪飼 ひより Hiyori Ikai

amanaフォトグラファー。「“もし宇宙に行けたなら…” なんて思っていた時代はもう古く、自分の視野を宇宙にまで広げて考えてみると、もっと膨大な可能性があるのだとワクワクしました」
http://amana-photographers.jp/detail/hiyori_ikai

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