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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
Feature

特集

映画が切りとった、自然と科学の物語

映画が切りとった、
自然と科学の物語

文/藤枝 あおい


Photo: First Man
Ⓒ2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

Blu-ray(ブルーレイ)やDVDによる高画質な映像や、気軽に楽しめる動画配信サービスの便利さ。スクリーンで楽しむのも格別な時間ですが、自宅でもますます映画を楽しめる時代になりました。いよいよ芸術の秋。自然や科学を題材にした作品を楽しんではいかがでしょうか。推薦の6作品をご紹介します。

茶と青だけが彩る未来

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

さあ、映画で自然と科学に触れる旅をしよう。

まず紹介するのは、人間離れしたバトル・アクションに引き込まれること間違いなしの「マッドマックス 怒りのデス・ロード」です。核戦争によって荒廃した近未来を舞台に、主人公・マックスの復讐劇が繰り広げられます。

第1作(1979年公開)では1973年に起こった石油危機*1 を背景に、水やガソリンといった資源の奪い合いが描かれました。このシリーズ第4作では、さらに「資源を有するものが世界の上位に立つ」という構図が強調されて、環境破壊が迫る現代社会の未来予想図としての意味を持つようになっています。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

本作において天気がほとんど変わることなく晴天が続いているのは、水資源が枯渇し、砂漠化した土地の状態を強調するのに有効だからでしょう。生活環境が汚染され、戦いの中にいる生存者たちも泥だらけ。一方で、揺らぐことのない空の青さは、乾いた土地に光をもたらしています。

この映画で描かれている色は、およそ茶色と青色のみという単調さです。これは「この先の地球が、戦いだけが単調に繰り返される世界に逆戻りしても良いのだろうか?」という問いかけにも受け取れます。

私たちも、晴れた日には空の青さを喜べる純粋な心とともに、多彩で豊かな自然の姿を保ち続けたいものです。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
2015年製作/120分/R15+/米国
原題:Mad Max: Fury Road
配給:ワーナー・ブラザース映画
ブルーレイ2,381+税/DVD:1,429 +税
(ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント)
http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/
2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

*1 石油危機(オイルショック)

1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争を背景にした原油価格の高騰と、それを引き金に起きた世界的なパニック(第一次石油危機)。トイレットペーパーや洗剤などの買い占め騒動が起きた。前年にスイス本部の民間シンクタンク「ローマクラブ」が発表した、天然資源の枯渇を予測したレポート「成長の限界」の影響を指摘する声もある。その後、イラン革命を機に第二次石油危機が1979年に起こった。


宇宙開発を支えた女性たち

「ドリーム」
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

空の青さに目を向けたならば、その先にある「月」の光を求め、人生をかけた先人たちがいることも忘れてはなりません。

「ドリーム」の舞台となる1961年当時、ソ連との間で激しい宇宙開発競争を繰り広げていた米国は、人類初の有人宇宙飛行を目指して、NASA(アメリカ航空宇宙局)によって「マーキュリー計画」*2 を推し進めていました。

本作は、主人公の黒人女性3人が、ロケットの打ち上げに欠かせない「計算」を担うエキスパート集団として、多くの壁を乗り越え、新しい道を切り開いていくストーリーです。

「ドリーム」
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

ラングレー研究所*3 にあった宇宙特別研究本部のような最先端の環境においても、肌の色の違いや女性であるということが少なからず障壁であったとわかる象徴的な場面があります。“非白人用”のトイレは職場から800mも離れた場所にしかなく、その間、自転車などは使えません。そのため、主人公の女性ひとりが「40分も席を外してどこに行っているんだ」と上司に怒られる場面があります。

しかし、事情を知った彼女たちの上司の行動は素早く、肌の色を指定して使用を限定していたトイレの看板やコーヒーポットのラベルを壊し、取り払います。そして「全員できるだけ近いものを使いなさい」と告げるのです。

チームをまとめる存在が既存のルールを改め、正しく舵取りをした出来事として描かれたシーンでした。小さな変化かもしれませんが、月面着陸とともに記された着実な一歩と言えるでしょう。

「ドリーム」
2016年製作/127分/G/米国
原題:Hidden Figures
配給:20世紀フォックス映画
監督:セオドア・メルフィ
ブルーレイ、DVD、配信サービス:詳細は下記サイトへ
http://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/
©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

*2 マーキュリー計画

1958年から1963年にかけてNASAが実施した、米国初の有人宇宙飛行計画。ミッションは、人間を地球周回軌道上に送り安全に帰還させること。前年にソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンが搭乗する「ボストーク1号」に先を越されたものの、1962年2月20日、ジョン・グレンが「マーキュリー・アトラス6号」で地球を3周し、アメリカ人として初の軌道周回飛行を成功させた。

*3 ラングレー研究所

1917年、NASAの前身であるNACA(アメリカ航空諮問委員会)によってバージニア州ハンプトン設立された研究施設。ヒューストンのジョンソン宇宙センターとともに、有人宇宙飛行計画の主要な研究所となった。


静寂と暗闇で描かれた心情

「ファースト・マン」
©︎2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

そして、宇宙開発競争のさなか、NASAの「アポロ計画」*4 の宇宙飛行士として人々の期待と夢を背負い、人類初の月面着陸を成功させたのがニール・アームストロングです。「ファースト・マン」は、偉業達成に至るまでの彼の人生を描いています。

本作を観れば、ニールが月面着陸を成功させるまでに、常に人の死や悲しみとともにあったのだと知ることになります。ニール自身、訓練の一環として行っていた実験中に事故に遭い、間一髪で逃げる場面がありますが、これは実際の出来事です。また、幼い娘(第二子の長女)を病で亡くしており、宇宙飛行士として、ともに厳しい訓練に励んできた同僚3人も、シミュレーション中の火災(「アポロ1号」火災事故)で亡くなります。

「ファースト・マン」
©︎2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

多大な犠牲を払った末、ついにアポロ11号の船長に選ばれたニールは、前人未到の挑戦を前に、家族に対して「帰って来られない場合の別れ」をしなければなりませんでした。

第91回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した本作。劇中で効果的に使用される無音状態の静寂によって恐怖と感動を両立させ、実際に宇宙や月で撮影されたのではないかと思わせる圧倒的な暗闇が、ニールの心情をも表しています。

「ファースト・マン」
2018年製作/141分/G/米国
原題:First Man
配給:東宝東和
監督:デイミアン・チャゼル
ブルーレイ+DVD3,990円+
NBCユニバーサル・エンターテイメント
https://firstman.jp/
©︎2018 Universal Studios and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

*4 アポロ計画

1961年から1972年にかけてNASAが実施された人類初となる月への有人宇宙飛行計画。サターンVまたはサターンIBロケットで打ち上げられた、司令・機械船と月着陸船からなる「アポロ宇宙船」が月への航海へ向かう。1969年7月21日 2時56分(UTC:協定世界時)、アポロ11号のルイ・アームストロング船長が、人類で初めて月面に足を踏み降ろした。アポロ計画では全6回(13号を除く、アポロ11号〜17号)の有人月面着陸に成功。


病、偏見、製薬業界と戦う

「BPM ビート・パー・ミニット」
©︎
Céline Nieszawer

未知の偉業への挑戦に向けて命を落とした人もいれば、未知の病に抗うことができず命を落とす人もいました。「BPM ビート・パー・ミニット」は、エイズやHIVへの理解が乏しく、まだ偏見を持つ人が多かった1980年代のパリが舞台です。

当時、薬価の値下げを求め、間違った報道をするマスコミや政府に対して抗議活動を展開する「ACT UP(アクト アップ)」*5 という国際団体が発足しました。このパリ支部に1990年ごろ加入していたロバン・カンピヨ監督が、自らの体験をもとに制作した作品です。

メンバー間でたびたび巻き起こる議論や意見のぶつかり合いは、ドキュメンタリー映像を観ているかのような臨場感があります。他では見せられない本心からの衝突が、当時のエイズに対する偏見や限られた医療に苦しみ、もがいていた人々を間近に想像させ、観る人を息苦しくするかもしれません。

「BPM ビート・パー・ミニット」
©︎
Céline Nieszawer

しかし、同志を求めて団体に参加し、薬学というサイエンスの知識が乏しいなかでも情報を収集して交換しあう姿は、彼らの必死に生きようとする力にあふれています。

次々にエイズを発症し、病魔に侵され、再び孤独にさいなまれていく様子は、つらく、寂しいものです。しかし、悲しみを携えながらも全身で人を愛し、愛されることを求めた登場人物たちの言葉は胸に響き、心に残ります。

「BPM ビート・パー・ミニット」
2017年製作/143分/R15+/フランス
原題:120 battements par minute
配給:ファントム・フィルム
監督:ロバン・カンピヨ
配信サービス:YouTubeムービー、Google Play(映画&テレビ)
©︎Céline Nieszawer

*5 ACT UP(AIDS Coalition to Unleash Power)

エイズのパンデミック(爆発的流行)を終わらせるため、1987年3月にニューヨークで発足した国際的な草の根政治グループ。エイズとともに生きる人々(People With AIDS:PWA)の人生の質的向上を図るべく、抗議活動や医療リサーチ、治療活動などを行っている。
https://actupny.com


試作と検証を重ねた創作

ノーマ、世界を変える料理」
©2015 DOCUMENTREE FILMS LTD

生きるために、食べる。どんな映画においても、食材の収穫や食事のシーンは“生”を表現する重要な場面だと言えます。しかし、完成された料理の一皿に生きた蟻を歩かせようなんて、誰が考えつくのでしょうか?

「ノーマ、世界を変える料理」は、デンマーク・コペンハーゲンにあるレストラン「noma(ノーマ)」*6 で世界一とも言われるシェフ、レネ・レゼピの仕事を追ったドキュメンタリー映画です。

「ノーマ、世界を変える料理」
Photo by Pierre Deschamps
©2015 DOCUMENTREE FILMS LTD

本作がドキュメンタリー作品として興味深いのは、レネの人生観や哲学に触れるだけでなく、ノーマで食事をした63名がノロウイルスに感染した事件(2013年2月)をあえて取り上げていることです。自然豊かな北欧の食材だけを使って新鮮さにこだわり、科学の実験を思わせるほどに何度も試作と検証を重ね、確信をもった料理にも、絶対はないのだと突きつけられます。

さらなる変革を求めるレネの料理を食べるために、今も世界中からコペンハーゲンに人が集まるのは、この事件を受けて店を一新し、もう一度、試作と検証を積み上げ、あざやかに復活を遂げたからでしょう。

花や昆虫までをふんだんに使用して、北欧の大自然を凝縮した一皿は、まさに世界を変える料理です。

「ノーマ、世界を変える料理」
2015年製作/99分/G/英国
原題:Noma: My Perfect Storm
配給:ロングライド
監督:ピエール・デュシャン
DVD:4,700円+KADOKAWA)
https://longride.jp/noma-movie/
©2015 DOCUMENTREE FILMS LTD

*5 noma(ノーマ)

2003年にデンマーク・コペンハーゲンで開店したレストラン。店名はデンマーク語の「nordisk」(北欧の)と「mad」(料理)を組み合わせた造語から。提供するのは北欧料理。生きた蟻が放つ酸を柑橘類の代替物として使うことがあるのは、北欧では温帯性の植物を栽培できないという理由から。2013年に起きた食中毒事件はスタッフの体調不良、洗い場の衛生状態などが原因と推定されている。英国の「The World’s 50 Best Restaurant(世界のベストレストラン50)」誌で、2010年、2011年、2012年、2014年の過去4度、世界1位に選出される。
https://noma.dk/


大自然の中で味わう孤独

「荒野にて」
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

自然は心を豊かにするけれど、自然の中をひとりで生きるのは、底知れぬ孤独があります。

「荒野にて」は、父親を亡くして身寄りのなくなったチャーリーが、まもなく殺処分されようとするピートと孤独を分け合い、居場所を求めて荒野を旅する物語です。

生活のために働かざるを得ない主人公の少年チャーリーは、老いで走ることができず、オーナーや騎手から見捨てられた競走馬ピートの世話をするうちに、次第に自分の境遇と重ね合わせていきます。

無垢な少年と心優しい馬が壮大な自然に溶けんでいく様子は、観ていて心が浄化されるようなシーンです。彼らが、大自然の中で終わりの見えない孤独に耐え、一日を必死にやり抜く姿をみると、人はただ青い空があるだけでは生きていけないのだと痛感するでしょう。

「荒野にて」
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017

私たちは、人生をともに歩む存在、誰よりも自分の理解者でいてくれる動物、そして、水や食材、植物や空といった色とりどりの自然によって生かされています。

本作は大スターの登場や、最新の映像技術を駆使した場面はありません。けれども、チャーリーとピートの歩みをしっかり見届けることで、秋の夜長にゆっくり一息つける満ち足りた映画になっています。

「荒野にて」
2017年製作/122分/G/英国
原題:Lean on Pete
配給:ギャガ
監督:アンドリュー・ヘイ
原作:ウィリー・ブローティン『荒野にて』(早川書房)
配信サービス:詳細は下記サイトへ
https://gaga.ne.jp/kouya/
©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2017


Profile
Writer
藤枝 あおい Aoi Fujieda

ライター。「今回紹介した映画をあらためて自然と科学という観点から見ると、より深く作品を楽しめた気がします。科学を存分に描いた映画だからこそ、自然や生きものを大切に収めていて、まっすぐなメッセージが響きました」

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