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アマナとひらく「自然・科学」のトビラ
動物の驚くべき 身体能力にせまる!

動物の驚くべき
身体能力にせまる!

文/田中 いつき

©︎ YASUSHI TANIKADO/SEBUN PHOTO /amanaimages

いよいよスポーツの秋です。そこで、動物たちの運動・身体能力についてみてみましょう。今回はそれぞれ得意なことを伸ばし、生活をしている哺乳類たちが備えている驚きの能力についてご紹介します。

動物たちの中には人間では到底、かなわない能力を発揮するものがいます。どのような能力を使って、どのような暮らし方をしているのでしょうか?


時速100 kmを超える猛スピード!

短距離走のエキスパートといえば、チーターであることはご存知でしょう。陸上では、世界でもっとも速く走ることができる動物です。

チーター ネコ目ネコ科 アフリカから南アジアのサバンナや砂漠に生息するネコの仲間。ガゼルなど小型のウシの仲間を捕食する。狩りの成功率は高いが、ライオンやハイエナなど他の肉食動物に獲物を盗られてしまうことも多い ©︎ GYRO PHOTOGRAPHY/a.collectionRF /amanaimages

チーター ネコ目ネコ科
アフリカから南アジアのサバンナや砂漠に生息するネコの仲間。ガゼルなど小型のウシの仲間を捕食する。狩りの成功率は高いが、ライオンやハイエナなど他の肉食動物に獲物を盗られてしまうことも多い
©︎ GYRO PHOTOGRAPHY/a.collectionRF /amanaimages

よく訓練されたチーターに18 mの助走をつけて201 mを走らせたところ、6.9秒で走ったという記録があります。これは時速に換算すると105 ㎞。2番目に足が速い牛の仲間のプロンクボーンの速さは時速88 ㎞なので、チーターの速さは驚異的であるといえます。

©︎ Minden Pictures/Nature Production /amanaimages

©︎ Minden Pictures/Nature Production /amanaimages

そうはいっても、チーターは400 m以上走ると急激に速度を落とすので、単純に比較することはできません。一方で、獲物となるトムソンガゼルなどは時速に換算すると65 ㎞程でしか走ることができません。チーターが獲物の200 m以内に近づき、スタートダッシュを決めれば、5割近い確率で獲物を捕らえることができます。

©︎ YOSHIKAZU FUJII/SEBUN PHOTO /amanaimages

©︎ YOSHIKAZU FUJII/SEBUN PHOTO /amanaimages


暑い場所でのサバイバルに特化

速くはありませんが移動が得意なのは、暑い砂漠で荷物を載せて、人と共に長距離を旅してきたヒトコブラクダです。

ヒトコブラクダ クジラ偶蹄目ラクダ科 アフリカからアジアにかけての乾燥地帯に分布していたラクダの仲間。家畜として好まれた結果、野生のヒトコブラクダは狩りつくされ、本来の生息地においては絶滅。移入した個体がオーストラリアで野生化している ©︎ Minden Pictures /amanaimages

ヒトコブラクダ クジラ偶蹄目ラクダ科
アフリカからアジアにかけての乾燥地帯に分布していたラクダの仲間。家畜として好まれた結果、野生のヒトコブラクダは狩りつくされ、本来の生息地においては絶滅。移入した個体がオーストラリアで野生化している
©︎ Minden Pictures /amanaimages

ヒトコブラクダは全く水を飲まずに160 ㎞も移動できるほど渇きに強いことから、乾燥地帯で人間に利用されてきた動物です。

背中のこぶには35 kgの脂肪を蓄えることができます。これは食べ物が豊富にあるときに蓄えたもので、食べ物がない砂漠では背中の脂肪を消費することで活動しているのです。脂肪が分解されると、まず脂肪酸とグリセリンになります。さらに脂肪酸は二酸化炭素、水、酢酸になり、グリセリンはブドウ糖になるため、脂肪からエネルギーとともに、水分も摂取することができるのです。

ヒトコブラクダの体重は450 kg~650 kg程度。一度に体重の20 %以上の水を飲めるのは、特殊能力といえる ©︎ Steve Bloom/SteveBloom /amanaimages

ヒトコブラクダの体重は450 kg~650 kg程度。一度に体重の20 %以上の水を飲めるのは、特殊能力といえる
©︎ Steve Bloom/SteveBloom /amanaimages

さらにラクダには、体内の水分を逃さないような仕組みが備わっています。

まず、なかなか汗をかきません。外気温に合わせて体温を34〜40 ℃の範囲で変動させ、40 ℃を超えると、ようやく汗をかくのです。尿量は最小限に抑え、血液の10倍まで濃縮されても大丈夫です。まさに暑さや乾燥に耐える機能を持っているのです。

そうはいっても、水を全く飲まなくても大丈夫なわけではありません。脂肪を使えばこぶは小さくなっていきます。そして、水場につけば一度に100 ℓもの水を飲みます。とにかく「ため込むこと」が得意な動物なのです。


まるでグライダーのように滑空

移動といえば、哺乳類の中でも変わった移動の仕方をするのがムササビです。

ムササビ ネズミ目リス科 山林に生息する日本で最大のリスの仲間。神社やお寺で「社寺林」と呼ばれて保護されている森の裏山に生息していることが多い。近縁のモモンガよりはるかに大きく、体長27 ~ 48 ㎝、体重700 ~ 1,300 gもある。その大きさから「空飛ぶ座布団」と呼ばれることも ©︎ matsuki hiroshi/Nature Production /amanaimages

ムササビ ネズミ目リス科
山林に生息する日本で最大のリスの仲間。神社やお寺で「社寺林」と呼ばれて保護されている森の裏山に生息していることが多い。近縁のモモンガよりはるかに大きく、体長27 ~ 48 ㎝、体重700 ~ 1,300 gもある。その大きさから「空飛ぶ座布団」と呼ばれることも
©︎ matsuki hiroshi/Nature Production /amanaimages

ムササビの移動方法は飛ぶのではなく、正しくは「滑空」です。コウモリのように羽ばたいて空中を自由に動き回る「飛翔」と違い、ムササビは前足と後ろ足の間の皮膚を広げて揚力を大きくし、高い木の上からジャンプ。少しずつ落下しながら前に進んでいます。2回目にジャンプするときは、着陸した木を少し登りなおして高さを維持します。

木の枝から、数10 m離れた隣の木へ滑空する ©︎ MITSUHARU YOSHIMI/SEBUN PHOTO /amanaimages

木の枝から、数10 m離れた隣の木へ滑空する
©︎ MITSUHARU YOSHIMI/SEBUN PHOTO /amanaimages

ムササビは、長い場合だと100 m ~ 200 mの距離を滑空します。木から木へ飛び移り、木の葉や実などを食べているのです。

ムササビのだぶついた皮膚は「皮膜」と呼ばれ、前足と後ろ足の間、後ろ足と尾の間、前足と首の間にあります。

さらに、前足の足首には「針状軟骨(しんじょうなんこつ)」という長い突起があり、これを左右に広げることにより、皮膜の面積も広がるという仕組みになっています。この針状軟骨は大きな尾とともに、進む方向をコントロールするのにも使われています。

脇に皮膜があるのがわかる。長い尻尾はかじ取りの役目を果たす ©︎ MITSUHARU YOSHIMI/SEBUN PHOTO /amanaimages

脇に皮膜があるのがわかる。長い尻尾はかじ取りの役目を果たす
©︎ MITSUHARU YOSHIMI/SEBUN PHOTO /amanaimages

それぞれの得意能力を生かし、暮らしている動物たち。秋の夜長に図鑑をめくり、動物たちの能力と人間の能力を比べてみるのも面白いのではないでしょうか?


Profile
Writer
田中 いつき Itsuki Tanaka

フリーランスライター。東京農業大学卒業後、自然体験活動に従事。2014年よりフリーランスライターに。ライフスタイル、エンタメ、レシピ作成記事などを執筆。ペーパー自然観察指導員(日本自然保護協会)。「早く走れないのでクルマをつくり、暑さに弱いのでエアコンをつくり、空を飛べないので飛行機をつくった人間。次はどんな生き物の能力を手に入れるのでしょうね」

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